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プレッジ・ターン・プレステージ

〜はじめに〜(ここはネタバレなし)

ノーランてめえやってくれたな!

 ざっと言うとこの映画の感想はこれです。大体のノーラン映画はこうなりますが、これは何よりもノーランてめえ!って感じです。
 アンジャー(ヒュー・ジャックマン)とボーデン(クリスチャン・ベール)の2人が奇術師としての偉業ープレステージーを奪い合い、足を引っ張り合う血で血を洗うような確執を描いた物語。すっっっっごく分かりやすく言うと鬱なグレイテストショーマンです。
 ノーランお得意の時系列ぐちゃぐちゃ、回想で物語が繋がっていく構図。でもちゃんと起承転結の古典的な規範に収まるから、観終わってからスッキリ理解できます。
 

これ以降はネタバレも含んだことを書きます

お気をつけて。
長くなりますがお付き合いいただければ幸いです。


コールドロウ卿とボーデン/アンジャーとファロン・またはシルクハットとゴムボール

 作中では人物とそのモチーフの対照性の表現が鮮やかで見事でした。常にシルクハットと綺麗に仕立てられた服を身につける中〜上流階級のアンジャーと、廃れた布のような服装の労働者階級のボーデン。また、彼らが奇術を披露するときに使うものも、アンジャーがシルクハットであることに比べ、ボーデンの赤いゴムボールは地味さが際立ちます。
 
 『プレステージ』について書いてある論文を読んでおぉ、と思ったのが、アンジャーの替え玉役者を使った「新人間瞬間移動」に乱入したボーデンが、ステージ中央に替え玉を吊し上げた後にアンジャーのシルクハットを奪い、そして客席に放り投げたシーンについて。アンジャーのモチーフであるシルクハットは、恐らく「権威」などの象徴的な意味の含まれるもの。それを奪い、客席に投げる。その後の展開を如実に表している非常に象徴的なシーンです。

このように対照性ははっきりしていますが、そのぶんアンジャーはコールドロウ卿が「家名に傷をつけない」ように奇術師をするために生まれた人格で、ファロンはボーデンがトリックを守り抜くために作られた人物、という2人の(厳密には3人の)数少ない共通項が浮き出って見えます。

帽子が散乱しているシーン

最初と最後に挟まれるこのシーン。最初は、「同じだが別々の個体の帽子が転がっている」としか思いませんが、最後は「全く同じで複製された帽子」という見方に変わる恐ろしさ。また、帽子がアンジャーのモチーフと考えれば、彼の「プレステージ」の没落を暗示しているとも読み取れます。もしくは、地面にいらない物として捨てられていることから、複製されたアンジャーが皆溺死させられている暗示とも...。どちらにせよ恐ろしいシーンですね。勘の鋭い人は最初のシーンからトリックをすぐに見抜けるんでしょうか....(私は無理でした)


カナリヤ

〜実はこいつが最大級のネタバレ〜

作中にちょくちょく出てくるカナリヤ。籠の中で潰されたり、ボーデンに飼われてると思いきやアンジャーに作業場を荒らされたりとついてない役回りです。
が、序盤に出たマジックの「籠の中のカナリヤを潰して、もう一匹別のカナリヤを『プレステージ』として出す」というトリックは最後にアンジャーが行き着く「人間瞬間移動」のトリックの伏線になっているらしいです。こっっっっわ。
あと、ボーデンを象徴するものがカナリヤとの解釈も...。たしかに、籠の中のカナリヤ=奇術のために囚われているボーデン/牢屋に入れられ、死刑執行される(潰される)ボーデン、「プレステージ」で出てくるもう一匹のカナリヤ=ファロンとして出現し、最後にアンジャーを銃で撃つボーデン
と考えれば納得がいきます。どこまででも伏線が綿密にはられている作品です。深読み始めたら本当にキリがない...。
ノーランまじ何考えてんの.....。

おわりに

複雑ながらも、プレッジ(確認)・ターン(展開)・プレステージ(偉業)の奇術の構造にしっかり則って作られた物語の構成でした。2人の奇術師のこの3構成の激しいやり取りが観られるラストはまばたきできないぐらい!彼らのプレステージへの執念も目を見張るものがありましたね.....。もう少し解釈を進めたいところはありますが、長くなってしまったのでこの辺りで!ここまで読んでくださってありがとうございました!!

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