2022年12月3日 新文芸坐×アニメスタイルSPECIAL アバンギャルドアニメの最先端 「劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト」 トークショーメモ (登壇者:古川知宏監督、小黒祐一郎さん(アニメスタイル))

はじめに

2022年12月3日 新文芸坐「劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト」古川知宏監督、小黒祐一郎さん(アニメスタイル)によるトークショーの内容を、手書きしたメモから起こしました。
もちろん劇場版本編のネタバレありです。また、雑なメモから起こしたので文脈がつながっていなかったり、ニュアンス・解釈の違いなど多々あるかと思いますが、何卒ご容赦下さい。

<概要>
2022年12月3日 新文芸坐×アニメスタイルSPECIAL アバンギャルドアニメの最先端 「劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト」トークショー付き上映
登壇:古川知宏監督、小黒祐一郎さん(アニメスタイル)

トークパート

小:まずはこの映写・音響設備が一新された新文芸坐で劇場版スタァライトが上映されたことについて、監督から一言お願いします。
古:なんか楽屋で待っている時に劇場版の地鳴りのような音がしたけど、小黒さんから「パチンコ屋の上だから大丈夫」と聞いて、なるほどと(笑)。劇場版は自分でも暴力的な音響の作品だと思っている。
公開から1年半経っても上映してくれている劇場があり、まだ現役感がある。TV版よりも多くの人に観てもらえたと思う。
TV版は(舞台、アニメの二層展開という)複合コンテンツの一つ。
対して劇場版は「ワケのわからないもの」を作った。
劇場版は「みんなが気絶するような映画を」。何を見せられているんだ、という、フシギ映画として作った。
例えば、デコトラは「やってやろう」感の塊。「お前ら、こんなのが好きなんだろ!」というのを詰め込んだ。
劇場版は、「TV版で物語が一旦完結したのに、劇場版で一体何やるの?」というのを考えるところからスタートした。ブシロードさんからのオーダーは特になかった。プロデューサーの武次茜さん(Production I.G出身)や、キネマシトラスの小笠原社長には守って(やりたいようにやらせて)もらえた。
劇場版の初号試写のとき、みんな「なんか思ってたのと違う」となった。
劇場版では、技術的なこと、やりたかったこと、というのは、実は全然できていない。元々は新国立に行って、エルドラドを観て帰ってくるって話だったのに、全然違う話になった。
ただ、リズム感は大事にしていた。カットごとの映像と音楽の狙いは明確にある。

古:劇場版をやるなら、愛城華恋というキャラクターを大事にしたかった。彼女にスカッとしてほしかった。
本当はインターステラーのラストシーンのように、謎の中途半端な歩きカットで終わらようともしていたけど、人のお金で作らせてもらっている、ファンのおかげで劇場版を作らせてもらえたから、エヴァのラストみたいにはしたくなかった。キャラを大事に描きたかった。

小:この作品に、自分の作風や、心象風景を反映していますか?
古:反映していないといえば嘘になる。作品を作る過程で絶対に自分の要素が入ってくる。
「アタシ再生産」というキーワードがスタァライトの根幹。演者とは?舞台とは?何度も生まれ変わって、生まれ直して、次の舞台へ進んでいく。
劇場版も何回も再生産(再上映)して、お客さんに楽しんで観てもらいたい。

古:自分は、監督になりたくてアニメ業界に入った。押井さんや庵野さん、幾原さんのような、監督と作品が結びついて覚えられるような人になりたかった。
アニメは分業制だから、アニメ作りの技術はアウトソースできる。監督は自分の作家性さえ守れたら、他ができなくてもいいと思っている。

古:余談だが、自分は「旧劇エヴァを映画館で観た!」って、年下のスタッフにマウントを取っている。
劇場版スタァライトも、映画館で観てもらうために狙って作っているので、皆さんも「劇場版スタァライトを映画館で観た!」ってどんどんマウントを取っていってほしい。配信だと劇場版をせいぜい3割くらいしか観たことにはならないのは、ご覧いただいた皆さんなら分かるでしょう。(笑)

古:劇場版を観た周りの反応としては、自分と同世代のメーカーのプロデューサーさん達からの反響が多かった。「古川さんみたいな作品、どうやったら作れるの?」と言われる。
前は原作もののオファーが来ていたが、スタァライトをやってから来なくなった。
小:古川さんみたいな、アニメ会社と紐付いていない監督は、実はけっこう少ないです。
古:新作のオリジナルアニメを1から作らせてもらえるのは、10年で2作くらい。
50歳を越えても、これが俺のオリジナルの作品だ!といえるものを作りたい。「予想は裏切るが、期待には応える」みたいなのをやりたい。
60歳を越えたらもう余生だから、またこの劇場版スタァライトみたいなのを作ってもいいかな。(笑)

古:自己採点で、劇場版スタァライトは45〜50点。カット単位では狙ったことができているが、全体としてはTV版の第1話の方が、よっぽど思っていた通りのものになった。

古:劇場版は自分ではアバンギャルドだとは思っていないけど、あえて言うなら「令和初の、商業アバンギャルドエンタメ作品」。
今のアニメは「わかりやすい事」を評価されるが、わからせ方には色んな手段があると思っている。劇場版でも、「画面で起きていることは分からないけど、キャラとキャラがなんかスカッとしたのが分かった」 なら、それでいいと思う。

古:TV版スタァライトの初期の企画では、謎の敵が出てくる予定だったが、敵を出すよりキャラ同士の戦いにしたくて、路線変更を申し出た。
すると、キャラに軍服を着せてほしいと言われ、そんなの何やったってウテナって言われるから、それならフィルムの強度を上げようと思った。
頂いた企画と、予算と、やれることで、自分の全力を尽くす。プライドより作品の質を選ぶ。
劇場版に繰り返し出てくる「列車」については、鉄のカタマリを出したくて出した。「ピンドラ」って絶対言われるが、ピンドラのマネではない。キャラクターのを次の舞台へ届ける装置として見せている。
この劇場版でも、キャストやスタッフを次の駅へ届けられて良かったです。

以上

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