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2021.7.8 the pillows RETURN TO THIRD MOVEMENT!Vol.3@名古屋ダイヤモンドホール ライブレポ

“ネタバレ”に対する風当たりは強い。例えば映画について何か語るときには、冒頭に「ネタバレあり!」と書くか、核心に触れる前に広めのスペースを取るなりの“配慮”が求められる。それはライブについても同様で、まだライブを観ていない人にセトリを明かすことは決してしてはいけない行為とされる。確かにそれには一理あって、「次の曲は何だろう?」というドキドキから、爪弾かれるイントロの一音に興奮することはしばしばあるし、サプライズで珍しい曲を聴けたときは嬉しい。

けれど、そうしたドキドキやサプライズだけがライブの楽しみかと言えば、決してそんなことはない。曲目を知っていてもライブは楽しめる。いやむしろ知っていた方がいいこともあるかもしれない。あらかじめCD音源などを聴いておいて、盛り上がりどころや決めフレーズなどを知っておけば、ライブの爆音で、しかも生の音でそれを聴いた時の興奮は大きい。それにライブならではのアレンジも、元の音源を聴きこんでいた方が楽しめる。そういう訳でこうした再現ライブは、“曲をじっくり聴く”というためには、すごくいいものだと思う。

改めて、今回再現される2枚のアルバムについて個人的雑感を記しておく。まず「Smile」は2001年に発売された8枚目のアルバム。「この世の果てまで」はthe pillowsのキャリア全体でみても屈指の名曲だ。私も大好きな曲で、ライブで聴くたびにテンションが上がる。「日々のうた」もキャッチーなメロディと無邪気で少し寂しさを感じさせる歌詞が好きだ。ただ、アルバム全体を通して見ると、ややとっつきにくい曲が多い印象で、正直言うとそんなに通しで聴くことは多くない。

「Thank you,my twilight」は2002年に発売された9枚目のアルバム。「バビロン天使の詩」については以前ここでも記事を書いた。

https://note.com/rapid_sazanami/n/n017046097c00

こちらはうって変わってキャッチ―な曲が多くて、聴いていて楽しくなる曲も多い。the pillowsにしては珍しく、電子音などといったバンドサウンド以外が多用されていることも特徴で、そのあたりをどのようにライブでアレンジするかも見所の一つだ。

東京公演は当たらなかったので、名古屋まで遠征をした。会場は名古屋ダイヤモンドホール。フロアには座席が並べてあって指定席制となっていた。18時を少し過ぎたところで会場が暗転。RETURNシリーズではおなじみとなった、旧SE、Salpn Musicの「Stompin’ Wheel」が爆音で流れる。メンバーが入場し、山中の「アウイェ!」という掛け声。そして「Good morning good news」というタイトルコールとともに歌い始める。

“君は気づいてるの? 絶望に揺れる舟が
少しずつ滑り出して 起死回生の海へ”
“僕は気づいたんだ 絶望の暗闇じゃ
針の穴の希望が 太陽に見える”

こうした状況なだけに、こういった歌詞が耳に留まってしまう。山中が「アウイェー!」と歌い切ったところからのギターソロもかっこいい。それから間髪を入れずドラム、そしてベースが響き「WAITING AT THE BUSSTOP」、そこからMCもはさみつつ「Smile」の楽曲が披露される。キャッチ―さにはやや欠ける気がするが、こうして改めてライブで聴くと、ベースラインやドラムのフィルのかっこよさに気が付く。

山中が「なんでこんなパフォーマンスをするようになったのかよくわからない」などと言いながら、メンバー同士がアイコンタクトをとる。山中・真鍋・そして有江がギターとベースを縦に掲げながら「Calvero」を演奏する。そこまでロックな曲が続いていたので、カントリー風で軽快なリズムが良いアクセントだった。最後の一音とともに、3人が掲げていたギターとベースを元の状態に戻す。ビシッと揃った動きがかっこよかった。
続いて「日々のうた」。シンプルなギターのバッキングに歌うようなベースが絡まる。

“夢じゃない どれも全て
二度とない 日々のうた”

何年か前、長めの旅行から帰路につくとき、この曲を聴いて少し感傷的な気分になったことを思い出した。旅先で過ごした非日常も、これから続いていくであろう日常も、かけがえのない日々であることには変わりないのだと、この曲を聴きながら感じたのだった。

表題曲の「Smile」。この曲名に「クタバレニンゲンドモ!」という詞をのせるのが痛快。穏やかな笑顔の裏に潜む狂気を感じさせる曲だ。そして山中の「連れってやる!」というセリフとともに、満を持して「この世の果てまで」。とにかく熱くてかっこいい。普段ならクライマックスに演る曲だが、今日はまだ中盤。いつもと違う立ち位置を楽しめるのも、こうした再現ライブならではだろう。

「ここからは『Thank you,my twilight』」という言葉とともに、山中がやや歪んだギターをかき鳴らし、なだれ込むようにドラムの音が加わり「RAIN BRAIN」。「ビスケットハンマー」「Rooie Jet」と軽快なロック曲が続いて「My Beautiful Sun(Irena)」。山中は「今回のライブで久しぶりにやったけど、こんなに盛り上がるとは思わなかった」と言っていたが、キャッチ―なメロディと四つ打ちのドラムに明るい電子音も加わって、盛り上がらないわけがない。「Come on Ghost」はアクセントの効いたベースとそれに絡まるギター、そしてハンドマイクで身体をくねらせながら歌う山中が良い。

ゆるく笑いも交えたメンバー紹介をはさんで山中が、アルペジオを主体とした少し感傷的な気分にさせるようなフレーズを弾く。タイトルコールとともに「白い夏と緑の自転車 赤い髪と黒いギター」が披露される。最初は感情を抑えめ、2番のサビから押さえていた気持ちが解き放たれるような感じになる。その熱量のままギターソロ、そして最後のサビを歌い切る。アウトロで掻き鳴らされるギターが名残惜しに響く。

「バビロン天使の詩」はリフもいいし、最後の大サビに至るところが最高に気分が上がる。表題曲の「Thank you,my twilight」。坦々としたリズムに歪ませた重たいギターサウンド、ゆったりとした歌メロ、そして優しい電子音が絡まり、改めていい曲だと感じた。

本編の締めは「Ritalin 202」。the pillowsのアルバムは、最後が2分程度の軽快な曲で締まることが多い。山中が以前どこかの媒体で「映画の本編が感動的なエンディングで締まったあとに、エンドロールで軽快なナンバーがかかる感じが好き」という旨の発言をしていた。このライブもそうした山中の美学が反映されたのかもしれない。

アンコールの手拍子に、メンバーがステージに戻ってくる。「見ろ」と言わんばかりに山中が掲げるギターは、いつもの白黒サイクロンではなくメイプル柄のギター。たぶんこれだと思う。
https://twitter.com/sawaoband/status/1387313901679693826

そんないつもと違うギターを持って披露されたのは「そんな風にすごしたい」。ゆったりとしたレゲエ風のナンバーはthe pillows楽曲の中では異色だ。ダブルアンコールでは、いつも通りメンバーが缶ビールを持って再登場。ステージ上で乾杯した後、いつもならグダグダとしゃべりが続いてなかなか演奏に入らないところが、今回は「時間が無いから」と言ってそそくさとスタンバイ。山中がアンコールのときと同じギターであの印象的なコード音を響かせながら「Can you feel?」と問いかける。「ハイブリッドレインボウ」は何度聴いてもライブで飽きるなんてことはなく熱くなれる。オクターブをかき鳴らすだけのシンプルなギターソロと、そこからの大サビが大好きだ。

声を出すのが憚られる状況だったりで、いつもと違うようなところもあったが、ステージ上のthe pillowsのメンバーはいつもと変わらないままだった。彼らのターニングポイントとなった「ストレンジカメレオン」から25年。今日披露されたアルバムから20年。自虐的に「こんなおっさんの風貌になってしまった」と口にすることもしばしばあるが、歌詞の世界観や世の中と対峙する姿勢は、おそらく昔から変わらないように思う。

ここに来ればまた彼らの演奏する姿を見ることができる。どんなに時代が変わっても、変わらない音楽を鳴らし続ける彼らを、これからも見ていきたいと改めて思ったのだった。

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