旅に向けて(体癖を背景とした小説)

なぜ心理学サークルに入ったのか、いや、今でもやめないのか、自分でも不思議に思う。それはある時、2種に、
「なんでこのサークルに入ったの?」と聞かれたからだ。
「楽しそうだったから」と答えたような記憶がある。
スポーツばかりやっているのもなんだかなあと思ったのかもしれない。
それにおれにとって心理学といえば、意中の彼女をどうやってすばやくゲットできるか?などのHowto的なものだった。心理学サークルでのあらたな出会い……なんかも期待していなかったといったら嘘になる。でもみんなだってそんなものではないのか。
実際サークルに参加してみると、1種と2種がかなりの古書などを用意して、心理学以前の学問までテーマにしていて、聞いたことのないムズカシイ言葉がたくさん出てきたし、正直話の内容がよくわからないことが多かった。6種は6種で惹き込まれるような持論を展開していた。
おれはじっと座って本ばかり読んだり、話し合いをし続けるのは向いてないなあと思ったし、こういっちゃなんだがもっと得になるような話を期待していたから、スポーツやバイトやほかのいろんなことでサークルには行ったり行かなかったりの日々だった。
それでもメンバーはなんとなくそんなおれを受け入れてくれていた。

大人になってからも特に仲の良いメンバーで定期的に集まるのは変わらない。
もうあの頃のような自由な時間が少ないうえ、仕事で毎日忙しいし、スポーツも大事だし、やめてもいいのだけれど、ウマが合うというのか、なんなのか、不思議なものだ。
皆の仕事のことなどを考えると、いつ集まれなくなるかも不思議ではない。
だったら、いつかこのメンバーで何かビジネス的なことができないかなあ、とおれはひそかに思うのだった。
1種と2種は知性も豊富だし、6種はセンスがいい、みんなの良いところが集まれば、
なにか、明るくて楽しいことができるんじゃないか。

そんな時、2種がカメラを趣味にしていることもあり、みんなで旅行しようという話が持ち上がった。おれは久しぶりにこのメンバーで旅行できると思うと、わくわくした。

「ガイドブック持ってきたよー」
1,2種は何冊ものガイドブックと、書類のようなものをたくさん用意して来た。おれは正直、スマホで全部調べたほうが早くないか?と思った。
打ち合わせは必要だけど、役割分担を決めて、あとはメールでやりとりすれば時間を無駄にすることもないだろう。
「みんな忙しいから、1泊しかできないけど、楽しみだね」と1種が言った。
2種は居酒屋にまでカメラを持ってきて、ためつすがめつ眺めながら「6種、遅いね」と言った。
「あ、さっきメール来てて、あと30分くらい遅れるらしいよ」と1種。
「やっぱりねー」と2種が笑った。

まったく、なにやってんだよ。あいつは昔からそうだった。
どうも朝や午前中から動き出すのが苦手なようで、おれにとってはなぜか
ほうっておけないというか、なにか自分が6種を引っ張っていったほうがいいんじゃないか?というのか………ただ、あいつはおれがいないとだめなんじゃないか…?なんとなく、そんな気持ちにさせるだけだろう。

「あたしこのガイドブック持っていくんだー。写真が綺麗だから」
2種が楽しそうに言った。
「ぼくも何冊か持って行くつもり」
と言いながらふたりはガイドブックをめくっていた。
……スマホで十分だろう……とやっぱりおれは思ってしまうのだった。

「遅れてごめんね~」6種がやっと来た。これで全員そろった。
「メールで連絡してくれてたから大丈夫だよ」と1種が言った。
「ありがとう。このお店久しぶり~。何飲もう??みんなは注文したの?」

「まだだよな?おれがこの紙に書くよ」
「ぼくはウーロン茶で」と1種。
「あたしは梅サワー」2種。
6種はぼんやりとメニューを見続けている。ちょっと眠そうだった。
「おい、何にするんだよ」
おれはいつもの調子で聞いてみた。
「……あたし…昨日も飲み会だったんだよね……今日も飲みたいけど…ジンジャーエールにする…」
ウーロン茶、梅サワー、ジンジャーエール、コーラ
とおれはさっさと書いて、呼び出しボダンを押した。

「さて、飛行機のチケットとかは個人で用意するとして」
気が付くとおれはしゃべっていた。
「行く場所はもう決まっているんだろ?あとは集合場所と集合時間だな」

「えっ、行く場所決まっちゃったのぉ?なーんだ」6種が言い、
「今さら行先は変えられないよー」と2種が笑いながら言う。
笑っているけど、笑っているだけでもないような、ほんとは何を思っているのかいまいちわからない奥深さのような、おれは2種にそんな感じを受けることが今までもあった。
「ううん、べつにいいの、昨日も飲み会だったから……なんかまだボーっとしてるのかも」
6種がひとりごとのように言った。

「じゃあぼくが、場所と時間をいったん決めて、みんなにメールするよ」
と1種。
「ああ、それでいいんじゃねえ?」おれはそう言った。

それから飲んだり食べたりして、心理学やよくわからない昔のムズカシイ話や、旅行先で何をしたいかなど、ひとしきり盛り上がった。
おれもしゃべらなかったわけではないが、スマホをいじっている時間も長かった。

「そろそろお開きにしましょうか」1種が言った。
「そーだね~」と眠そうに6種が言った。
おいおい、大丈夫かよ、またおれが途中まで送っていくのかよ…。

「待って、帰る前に、みんなで写真撮ろうよ!今ここで!」
2種が言った。
まじか……どうせ旅行でたくさん撮るんだからここで撮らなくても……。

2種はすでにカメラ用の脚立を用意している。
みんながなんとなくカメラの前にならんだ。
おれはどんな顔をしているのだろう。

そして1種と2種が、ガイドブックと書類をひとりずつに手渡して、
特にここだけは読んでおいたほうがいい、みたいなことを言った。
あまり大きなバッグを持っていなかったおれは、とりあえず書類を半分に折った。

「写真も出来たら、みんなにあげるね!じゃあね!楽しみだね!」2種は楽しそうにそう言って、店から出たらさっさと帰ってしまった。

「ぼくも明日の仕事がけっこう大変なんで、もう帰るね」というが
さほど急いでいる感じでもないようには見えなかった。

6種とおれが残ってしまった。
やっぱりこうなったか。しょうがない。さっさと途中まで送っていこう。

歩きながら「ねえ~~、スマホばっか見てたよねぇ~~」と6種が
笑いながら言った。
「いいじゃねーかよ、べつに」
6種は歩きながらおれに寄り掛からんばかりで、おれは正直どうしていいかわからず足早になるばかりだった。さっさと帰りたい。

「じゃ、あたしこっちだから~。またね。書類、ちゃんと見ろよー」
と、また笑いながら言われた。

「はいはい、見ますよ、ちゃんと読みますよ~、じゃあな!」
あいつ、ちゃんと家まで帰れるんだろうか……
前に進んでいるというより、どことなく後ずさり感のある6種のうしろ姿をみながら思った。

歩きながら、1種と2種が作成してくれた書類を
街灯のあかりを頼りに、ざっと眺めてみる。

丁寧に読みやすく書かれていて、旅行がますます楽しみになってきた。

おれはこんな風に書けないな……。
スマホも持って行くけど、この書類とガイドブックも、ちゃんと持って行こう。

そして今日撮った写真ができたら、仕事場のデスク付近に飾ろうか。
なぜだかそう思った。

長く続く街灯に沿って、おれは家へと急いだ。

END

※この小説はフィクションです。おれ=5種です。

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