灯り(体癖小説)

 消灯の時間が近づくと、まわりの音が減ってゆく。わたしもベッドの灯りをつけて、もう少し本でも読もうか。完全な暗闇でもなければ、完全な静寂でもない。
 
 最初のショックから、何日経ったんだっけ……?まさかわたしが病室に運ばれて、手術を受け、こうしてベッドに寝かされているなんて。……長く生きていればこういうこともあるのかと、ようやく思えるようになった。なによりわたしの身体が教えてくれたのかもしれない。
……というか、そう言い聞かせているのかも。
……退院したら、絶対にあの公園に行こう……。……あのこはどうしてるかな。
急にわたしがこんなことになって、困ってないかな。
ちゃんと誰かが助けてあげているだろうか……。……人の心配をしている場合じゃないけど……。

 ……きっと先輩が、なんとかしているにちがいない。いつもわたしはこう。結局、先輩に頼りっぱなし。……でもわたしだって無理がたたってこうなってしまったのかもしれないんだから、自分を責めてもしかたがない。
公園の緑も先輩の笑顔も、ここで思い浮かべると、妙になつかしく、遠く感じる。
……これからを考えると、今までのようにはいかないのではと、動悸が速くなる。……でも、こういう状況になると、自分の人生にとって何がたいせつなのかシンプルにみえてきたりもする。
それとも病気になったことがどこか悔しいから、負け惜しみなのかな……。
でも、やっぱり……。自分の人生にたいする見方が変わるのは確かかもしれない……。
目を瞑るといろいろなかんがえが、どこからともなく浮かんで来る。……ほんとうの暗闇ってなんだろう。
……やっと落ち着いてきた。ベッドサイドの灯りを消す。ぐっすり眠って、はやく元気になりたい。

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