星(体癖を背景とした小説)

「わあ、かわいい!!みてみて、かわいい~!買っちゃおうかな!」
友人Rが私の肩を軽くゆさぶりながらそう言うので見てみると、
キラキラしたビーズがちりばめられている小さな家の形をした小物入れがあった。
屋根の色は水色、外壁や窓は白、ピンク。たぶん屋根の部分があくようになっているのだろう。
確かにかわいくて綺麗だと思った。店のオレンジっぽい照明があたると、
どこか寓話的な、魔術めいた輝きを放っているように思えた。

「どうしよう…、このお店にあるもの、全部かわいい、全部ほしい…」
Rはうつむきがちにぽつりとつぶやいた。

ふと向こうがわに目をやると、こちらとは全くちがう色合いをしたものが置いてあるのが見えた。
「あたしちょっとあっちも見てくるね」
そう言いながら足早に向かった。
さっきの少女趣味っぽいものとはまったく違う、メンズ系のような紺や黒を基調としたバッグやリュックなどが
木製のラックにならべられている。そのうちのひとつのショルダーバッグに一瞬で目をうばわれてしまった。
紺色と薄いグレーと白がいいバランスで、大きさもちょうどよく、使いやすそうだった。
ちょうどバッグを買おうと思っていたところだったし、どうしよう。買っちゃおうかな。
それともリュックのほうがいいだろうか。
心のどこかで、もうショルダーバッグを買うことに決まっているような気がしたが、
もうちょっといろいろ見てみようと思った。

「ねえ、これもかわいい!どう思うー??買ったほうがいいかな?!」
いつのまにかRが隣に来ていた。集中していたから気づかなかった。びっくりした。
片手にはさっきの家の形をした小物入れ、もう片方の手には、ガラスのコップの中に、テディベアが入っている雑貨を持っていた。やはりビーズがいたるところにちりばめられ、キラキラ光っている。落として割れたらいやだな、と思い、
「ねえ、カゴってあるのかな?カゴに入れたほうがよくない?」
そう言いながらわたしはカゴを探しはじめた。
レジで男性の店員が座って何か作業をしているのが見えた。
「あ、そうだね、ちゃんとカゴに入れたほうがいいよね!」
Rもそう言って周りを見わたしている。
「あ、あったよ!」そう言うと同時にRはカゴのほうへ小走りで向かった。
………わたしがカゴのことを先に言ったのに、Rのほうがカゴを見つけるのが早いのがちょっとくやしくもあり、
可笑しくもあった。

「あたし、もう1回さっきの小物入れとか見たい」
「え、そうなの?!Nちゃんあまりそういうのに興味ないと思ったのに!でもなんかうれしい!」
わたしもRもさっきの売り場へもどった。

「やっぱりこのお店、すごくかわいいものばっかりだよ!あっちにはカッコイイものもあったし!
せまいけど、いいものがたくさん置いてあるって感じだね!」
Rは今度はリボンの形をした小物入れを眺めている。
やはりビーズがたくさん付いていて、ピンクのような、紫のような、紺のような……なんともいえない輝きがあった。
一体このビーズは何個くらい、どうやって貼り付けられているのだろう……店の照明であんな風に光るのなら、買って、家に持ち帰った場合、どんな風に光るのだろう…
ほかにも額縁やペン立て、ペンケース、ブックエンドなども売られている。
「あ、ブックエンド買おうかな」
白を基調としたシンプルなデザインだが、小さく凝った模様がステンドグラスのように少しだけ光っていた。
このブックエンドを部屋に置くのを想像すると、わくわくして、右足で貧乏ゆすりをしそうになってしまう。
「あたしさっきのショルダーバッグと、このブックエンド買う。決めた。」
「ええ、決まっちゃったの?!なんか焦る~。どうしよ、あたしも早く決めなきゃ!」
「いやいや、ゆっくり決めなよ」
とは言うものの、けっこう時間がかかるかもしれないと思った。
「いいの!?ごめんね!なるべく早く決めるね!」
Rは焦りながらもさっきより必死な様子で商品を眺めはじめた。
その時だった。
Rのバッグが商品の一部に当たり、商品が床に落ちてしまった。
「落ちちゃった!どうしよう!」
そう言い終わったときにはもう友人は商品を床から拾い上げていた。
「すみません……壊れてはいないと思うけど、どうしよう」
レジのほうを見ると、店員も気が付いた様子で
「えっ…いや、あの、いいですよ…壊れていないなら、大丈夫です、もどしておいてください」
立ち上がって前のめりになったせいなのか、首が細長く、やわらかく見えた。
言い方や表情も優しげでわたしは少しホッとした。
「……でも…これもかわいいので、買います!」
Rが言った。
それは鍵付きのメイク道具入れで、あけると鏡がついているものだった。
全体が白と薄いピンクで、鏡はハート型、やっぱりキラキラと光っていて、Rにとても似合っていた。
肌が白くてふわふわなRがこれでメイクをしている姿を思い浮かべると、すごく可愛いなと思った。

レジで会計をするとき、Rは「ほんとうにすみません!なんか、このお店にあるものって全部かわいくて、選ぶのが大変でした!………また来てもいいですか?」店員は、冷静に、でも優しい言い方で「なんだか買っていただいちゃって、すいません。気に入っていただけたなら、嬉しいです。ええ、ぜひまた来てください」と言った。
わたしも小声で「すみませんでした、また来ます」と言った。

「はぁ~、ごめんね、なんで落としちゃったんだろー!!もうやになっちゃう。ほんと、ごめんね。なんか疲れたね~、カフェでも行こうか!」
「いいよ、そんなに気にしてないよ~、あたしだってああいう時あるもん。そうだねー!なんか飲みたい」
店を出て少し歩くと、落ち着いた雰囲気の、それほど混んでいないカフェがあった。
「ここにしよう!」Rがどこかてきぱきと決めてくれた。
「うん」

「ホットストレートティーと、苺パフェください」
Rはメニューを見てすぐに決めた。
「うーん、何にしよう……迷うなぁ。ミルクティーにしようかな…
うーん……やっぱりホットカフェラテにします」
わたしはすこし迷ってしまった。
「お願いしまーす」と言いながらRがメニューを店員に渡した。

店の落ち着いた雰囲気がとても心地よかった。
わたしもRも席に座ると自然と言葉がすくなくなった。
わたしは、家に帰ったら何をしたいかかんがえはじめていた。あの映画観たいな、いやでも、あの本も読みかけだし……
ひとりで音楽に没頭するのもいいなぁ…。

「お待たせしました。ホットカフェラテです」

ふんわりと湯気がたっているカップを両手で持つと、飲む前にまず手をあたためた。
Rは手鏡でメイクをチェックしている様子だった。
「一生懸命買うもの選んだり、落としちゃったり、謝ったりしてたらお腹すいちゃったー」
Rは笑いながら手鏡を閉じてバッグにしまった。
「でもさあ、かえってあの店員さんと顔見知りになれたっていうか、なんかいいなぁ、って思うよ」
わたしは言い終えて、カフェラテをひとくち飲んだ。

「お待たせしました。苺パフェとホットストレートティーです」
「わーい」
Rもまずはストレートティーのカップを両手で持った。

わたしは相変わらず、家に買ったら何をしようかかんがえていた。やっぱり、本を読んでから、
映画を観ることにして、眠る前に音楽を聴くのがいいかも……。

Rは苺パフェのスポンジとクリームをおいしそうにうれしそうに食べはじめた。
「おいしい~。でもまたダイエットがんばらなくちゃ、あたし何やっても続かないんだよね~。」
わたしはやっとちょうど良くなった温度のカフェラテを、またひとくち飲んだ。
なんとなくボーっとして、Rになんて言葉を返していいかわからない。

「Nちゃんは、けっこう何でも続くほうだよね。いいなー!」
「そんなことないよ、続かない時だってあるよ」
「………あはは、Nちゃん、なんか棒読み」
Rは笑いながらそう言ったが、どこか悲しそうでもあった。
そしてパフェをばくばく食べだした。
「Nちゃんといると、あたし別にいなくてもいいのかなって時々思う…」
「え、そうかなぁ…そんなわけないじゃん」
「だよね。ごめん。ひとりごと。前もそうだったからさ!彼氏のことで悩んでたとき!
Nちゃんがさみしそうなのはもう見たくないよー」
どきっとした。
Rは最後のパフェのひとくちを思いっきりほおばり、ものすごくよく噛んだ。
そして言った。
「友達もだいじだからね。あーお腹いっぱい!おいしかった~!……そろそろ帰ろっか」
「うん」
ホットカフェラテを飲んだせいか体がすごくあたたまり、外の空気にふれたいような気分だった。

友人とわたしは速くもなく、遅くもなく、なんとなく歩調を合わせて歩いた。
風が髪をなびかせて、頬にあたる。髪を、指で軽くととのえる。

「Nちゃん、あたしね………、じゃあまたねって、次に会う約束したのに、
会えなくなっちゃった人がいるの」
「…………」
「それで、今度Nちゃんと一緒に行きたい場所があるの。ごめんね急にこんな話して」
「………ううん、話してくれてありがとう」
「じゃあ、今日はこのへんで。またね!」
「うん、またあのお店も行こうね。いつにする?」
「そのうち連絡する。絶対行こうね!」
それから手をふって別れた。

ふりかえってみると、Rのうしろ姿はきっぱりと前進していた。
ウェーブのやわらかい髪がゆれている。

家に帰って、部屋の電気をつけると、少しだけ寒かったので、暖房をつけた。
なんだか今日は、Rのペースにいつのまにか合わせていたのかもしれない。
さっきまでかんがえていた、本を読んだり、映画を観たりすることは、すぐには出来なかった。
ココアでも飲もうかな。
ブックエンド、どこに置こう。

窓をあけたら、すっかり暗くなっている。

Rはわたしの知らないところでさみしい思いをしていたのだろうか……
なんで急にあんなこと言ったのかな……
前、わたしが悩んでいたとき、すごく親身になってくれて、お互いの夢の話もしたよね…

Rの夢が、叶いますように……
また絶対に会おうね。

星が、風にふかれているようにゆらゆらと輝いてみえた。

#体癖 #2種 #3種 #9種 #小説

※体癖小説を書いてみました。Nちゃんが9種体癖、Rちゃんが9種体癖、店員さんが2種体癖という設定です。
少しでも体癖に興味を持っていただいたり、楽しく読んでもらえたらうれしいです。
この小説はフィクションです。

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