大船 【横浜と湘南と鎌倉のあいだ】

読者の方は「大船」という街にどういうイメージをお持ちだろうか。

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路線がたくさん乗り入れる乗換駅、観音がある、湘南に近い、実は鎌倉市にある。老舗の駅弁屋があってサンドウィッチが有名。系列施設で唯一京急資本が入った「ルミネウィング」なる駅ビルがある。

首都圏の街をしらみつぶしに歩くようになって暫く経つが、実は大船の街をちゃんと歩いたことがなかった。戸塚、藤沢、鎌倉とこのあたりの主だった街はだいたい歩いてきたのだが、大船でちゃんと降りたことがなかった。まずは県内19市それぞれの中心市街地を、それが終わったら各市の中心ではないにせよ昔からある宿場町みたいなところを先に歩こうと思っていたのもあるし、大船に対しても商店街や西友の存在は知ってはいたものの、なんというか駅が大きい以上のイメージを持てずになんとなく後回しにしてしまっていたというのもあった。

神奈川県に引っ越して1年半弱、ようやく大船の地を踏むに至ったのは6月に入ってからのことである。

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最初から逆光で恐縮だが、フレームに入りきらない巨体・大船駅。駅も大きいが左側の駅ビル「ルミネウィング」がデカい。

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反対側の歩道から縦構図で撮るのが精一杯のルミネウィング。大船駅前の再開発事業のなかで建てられた駅ビルで、冒頭でも言及したが京急系の資本が参加した駅ビル。ルミネという名の通りファッションビルだが、生活雑貨店や食料品が充実しており、地下に「ザ・ガーデン自由が丘」を入れておきながら1階に「成城石井」がある。。あまり見たことがない豪華贅沢仕様。

さて、大船駅は8つの乗り場を備えたデカい駅であり、駅ナカは「アトレ」、駅ビルにはこの豪華仕様の「ルミネ」があり、コンコースも改装されたいそう大きく整った駅であるが、その駅前を抜ける県道の反対側は対照的な街並みが広がっている。

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大船駅のメインの入口、東口は低層建ての雑居ビルがひしめく活気ある繁華街という様相。

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昭和み溢れる街路灯が両脇に並び、2階建てのビルからは競い合うように看板が道に出っ張っている。道の狭さと人の多さから目に入る情報量がとても多く、えらい密度の景観だなと圧倒される。

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各地で駅前再開発が進行してこの手の商店街も(特に首都圏では)数を減らしてくる中、大船の街は近隣商業地としてかなり大きい規模で賑わいを残す。川越のクレアモールに似てなくもないがもう少し「近所」感が強めな感じ(?)。

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商業地の北側には巨大な西友も鎮座。買い物環境はバッチリですね

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大船駅東口の賑わいは、駅の東側を南北に抜ける全長およそ500m弱の「仲通り」を軸に広がる。駅から一番近くはチェーン店のファストフードやドラッグストア、少し離れるとチェーンの居酒屋などが渾然一体に連なる。

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月並みな表現をあえてすれば「味のある」街並み。少し路地に入れば、あるいは少し駅から離れれば年季の入りまくった個人店も多く目にすることができる。

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そしてもう少し進んでみると、ローカル系(非チェーン店)の生鮮品店が増えてきて、生活密着型の商店街の性格を見せ始める。

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2枚めの「大船市場」は激安を謳っているが実際その通りで、とちおとめが150円とかそういう値付が平気で行われているのを目にした私は、ここから自宅まで電車で乗換込1時間はかかるにも関わらず野菜を買ってしまった。

「商店街の八百屋で買い物」という概念はスーパーマーケットに取って代わられてしまいほぼフィクション同然になってしまった地域も少なくない。

徒歩圏に小規模な住宅が密集し周辺人口が過密であるがゆえ、購買力が落ちにくくかつ再開発によるスクラップ&ビルドも利害関係者の多さから難航しがちなことから、昔ながらの商店街が生き残りやすいというのは都心周辺部(大田区や世田谷区、練馬区など東京都心からちょっと離れたようなところを想像していただきたい、横浜なら洪福寺松原商店街や横浜橋でも可)によくある話だが、ここ大船も交通利便性や関係人口の多さから近隣商業が発達し、さらに再開発の計画もあるがこれがなかなか進まず、結果的に昭和からの街並みが継承されている。

再開発が計画されている地域というのは、大規模な建物の再建築が認められていないか相当面倒な許可が必要だかで(細かい法令は調べていただきたい)、大船駅目の前の商店街の建物が軒並み2階建てなのはその絡みもあるようだ。

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ちなみにこれは大船駅東口、ルミネウィングの南側。写真中央の県道より線路側は再開発実施済。冒頭の巨艦・ルミネウィングやバスターミナルの整備が終わっており、ちょっと別の駅を見ているようですらある。

大船の二面性。東海道線や横須賀線、湘南新宿ラインなどの幹線を束ねる県内有数のターミナル駅。藤沢や鎌倉など湘南/三浦地域の、大きな駅ビルと交通広場を備えた玄関口でありつつ、道を一本挟んだ東側には「近所」の延長のような庶民的な商店街の顔もある。

さて、大船。駅前を南北にその商店街ゾーンが広がっているが、それをさらに越えるとまた様相が少し異なってくる。

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大船駅を出て「仲通り」を越えて更に東側へ進む。道幅が少し広くなり、「芸術館通り」という名前がつくようになる。

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鎌倉市芸術館へ続くこの通り、電柱地中化など街路の美装化が行われている。

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道沿いには新しくしゃれた装いの飲食店や雑貨店もちらほら。書店やカフェの進出も近年いくつかある。

ところで、戸塚や藤沢のような近世の宿場町などではなかった大船の地の歴史は、明治時代の鉄道開業に端を発する形。それ以降に街が徐々にできはじめ、1936年には松竹の撮影所が進出。大船は映画の撮影所を抱える文化発信の地でもあった。松竹の撮影所は後に撤退してしまったが、跡地には「松竹大船ショッピングセンター」ができたり、その目の前の交差点の名前は「松竹前」を名乗り続けているなど名残はわかりやすい。

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ちなみに松竹SCにはイトーヨーカドーがある。ここのヨーカドーは塔屋のセブン&アイマークが遠慮がちでかわいい。

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乗換駅として首都圏ではかなり名前が知られている「大船」。駅を出ると、駅ナカと駅ビルの大きさとは対照的な、密度の濃く人通りの活発な商店街が広がっており、更にその奥には撮影所の名残か、はたまた「湘南」「鎌倉」の地域性が出ているのか落ち着いてちょっと上質な個店が点在する静かな住宅街が広がる。

湘南・鎌倉一帯の雰囲気ありつつ、当の鎌倉ように街のイメージと名前が一直線に一致する街でないからこそ下駄履きで行ける商店街のような要素も取り入れる多面性。商業機能にしても、軒先で話しながら買い物できる店だけでなくちゃんと「ルミネ」のような施設もある。背伸びしすぎた街は疲れてしまうけど、まったく背伸びしない街もそれはそれで満足できない、そういう人に大船はマッチしているのではないだろうか。

横浜市と鎌倉市の市境に挟まれ、戸塚と藤沢と(北)鎌倉というキャラの濃い街に挟まれ。戸塚は戸塚区、藤沢は藤沢市、鎌倉は鎌倉市をレペゼンする街であるが、その間の「大船」という個性はまた、なかなか独特でもある。

とりあえず、私は大船に住みたくなりました、ということです。

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