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技術の来歴... 畑村洋太郎「失敗学実践講座」

さまざまな大事故の検証に立ち会い、「失敗学」を立ちあげた知の巨人で今も活躍中の畑村洋太郎「失敗学実践講座」を久しぶりに読み返しています。

有名なハインリッヒの法則(大事故1件の陰に、29件の軽微な事故と300件のヒヤリハットがある)をいまさら繰り返すまでもない話で、この法則がよく知られるようになったのは、畑村先生と失敗学の分析にあたった先人の活躍があってのことです。

この名著が書下ろされた2010年当時にすでに知られていた大事故が多くひも解かれています。自分の世代にはどれもリアルに思い出される、痛ましい、またはイタイ事例ばかりで、思い出すだけで心がざわつき、ひりつきます。

人は過ちを犯し、そして検証する努力をする人がいる一方で、その記憶は風化し、同じような過ちが繰り返されてしまいます。昔からある言葉でいえは「人は歴史から学ぶのか」、結果を見る限り、たぶん人は学ばないのではないのだろうか、少なくとも自分の人生でかかわる人々が過去や歴史に学ぶ人である、と期待してはいけないと思ってしまいます。
※ ある商社出身のエライ方の発言で「わが亡きあとに洪水よ来たれ」といったという話を聞かされたことがあります。後始末をしたその人物の後任、後輩関係者がみな出世の道を外れるようなひどい事案で、あきれ果てたことが、昨日のように思い出されます。どういう意味か、知りたい方はぜひ個人的にご連絡ください。あまり解説したくありませんが。

2004年3月26日の六本木ヒルズ回転ドア事故について、畑村先生をはじめとする勝手連的な原因調査委員が掘り起こした要因の一つが、「技術の来歴」が語り継がれなかったためである、と指摘されています。表面的な技術や製品だけでなく、設計思想やその来歴には膨大な知識の蓄積があるはずで、その蓄積が忘れ去られると、トンデモないことが起きる導火線になるという指摘です。回転ドアは、当初の設計思想では、どのような人にも安全で想定外のトラブルが起きても安全であるために、軽で大きな衝撃力を与える可能性を小さくする努力の一環として軽量化が図られていたそうです。そのため当初の設計思想ではアルミを主材料としていたところ、六本木の回転ドアでは、その技術思想、背景知識が抜け落ち、当初かかわった人材もノウハウも承継されず、大型化、重量増加してしまっていたことで、事故が重大化する結果を招いてしまったという指摘がありました。

残念!だがしかし、実にありがちで、また繰り返されそうな事案ですが、ここから、しかし何かを学ばなければ、死者は浮かばれません。

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引用 : いずれも 失敗学会Web 「失敗まんだら」とはhttp://www.shippai.org/fkd/inf/mandara.html

失敗知識のデータベース化のためのフレームワーク「失敗まんだら」は、今でも全く色あせることなく、今起きている失敗の分析に使えるものばかりです。原因・行動・結果を様々な要素に分解し、わかりやすいと感じますので、興味がある方はぜひ、「失敗まんだら」とその分析にぜひ触れてみていただきたいと思います。

やはりこの本は、時々手に取って読み返さなければいけない本だと感じました。

書誌情報 : ISBN978-4-06-276613-5
畑村洋太郎「失敗学実践講座 文庫増補版」、講談社文庫、2010.5 初版 ※ 単行本は2006.10初版で文庫本所収にあたり増補改訂 

そういえば、この本に先行する名著「失敗学のすすめ」をK君に貸したまま帰ってきていません... そんな余計なことも思い出しました。

畑村先生の近著 「新 失敗学 正解をつくる技術」も宣伝しておきます。


「決められた正解を素早く出す」ことが優秀な人とされた時代から「自ら正解をつくる」ことができる人の時代へ。
「自ら正解をつくり出す時代」の思考の技術。
近年の日本の地盤沈下の背景には、すでに世界が「正解がない時代」になってるにもかかわらず、いまだに日本では「決められた正解を素早く出すことが優秀な人の条件」とされていることにある。これらは変わらない偏差値信仰、近年の官僚・みずほ銀行などのエリート組織の躓きを見ても明らか。
「正解がない時代」とは「正解がいくつもある時代」のこと。そのためには自分たちで正解をつくっていく必要がある。そして自分たちで正解をつくるとは、仮説ー実行ー検証を回していくことにほかならない。
この過程で必ず付いてくるのが失敗。いままで避けがちだった失敗とどのように向き合い、どのように糧としてしゃぶりつくすのか、そこがこれからの時代の成否を分ける。
そのためのポイントを丁寧に解説、これから私たちが身につけるべき思考法を明らかにする。

第1章 正解がない時代の人材とは
第2章 すべては仮説から始まる
第3章 失敗を捉えなおす
第4章 仮説の基礎をつくる
第5章 仮説をつくる三つのポイント
第6章 仮説を実行する

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