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メタバース法デザインとモデル整理

はじめに 

 私の本業とWeb3・メタバース・NFTは直接関係しませんが、間接的に関わる案件や相談が増えつつあり、金融とこれらのビジネスがどう作用し社会的影響を与えるのかを真剣に考えるタイミングが近づいてきているのだと感じております。包括的な概念であるWeb3とそれを構成する要素としてのメタバース・NFTに関して過去の記事でビジネス視点で触れましたが今回は視点を変えてレギュレーションの観点で何が必要かを想像してみます。Web3ビジネスの大枠については下記記事を参照ください。

1. メタバース社会における法デザイン 

 新しい技術とその派生サービスが社会に広がる際、その仕組みや概念が特殊であるほどいかにして社会全体と整合を取るかが問題となります。直近の事例だと仮想通貨の誕生と普及が該当します。 

 ビットコインが顕著な例ですが仮想通貨は当初どのように扱うべきか定まっておりませんでした。法的位置付け・課税処理・会計処理・事業者の取扱ルールの全てが未知でした。規模が小さく社会的影響が軽微な時代は既存法の解釈で対応しておりましたが、段々と社会的な影響が大きくなるにつれ、既存法の解釈では整理が困難になり資金決済法や金商法に改正が入りました。今後、更に影響が大きくなり既存法に条文を追記する形では整理しきれなくなった際には独立した新法として整理される可能性もあろうかと思います。 

 メタバースにおける法整備も大枠としては仮想通貨が辿った道を歩むものと推察します。黎明期である現在は様々な議論がありつつも問題が生じた際には既存法の解釈で解決される段階に位置します。ビジネスの拡大に合わせて2~5年以内には既存法にメタバースに対応した条文が追加されることになるかと思います。将来的にはメタバース新法の可能性もゼロではありません。

 尚、新法として体系的な整理に関しては必ずしも普及度合だけでは測り切れません。広く社会に普及し大きな影響を与える技術・サービスであっても既存法体系との相性が良い場合には既存法の整理で間に合います。
 
 仮想通貨やメタバースが厄介なのは分散型というイデオロギーを背負っている点にあります。これは既存法と相性が悪く責任主体の定義が曖昧になりがちという問題が生じます。これまでは被害者・加害者、利用者・サービス提供者が明確な前提で法律は制定されておりました。DAOや分散型サービスが普及した場合、サービス提供者(運営者=管理者)が曖昧になり定義が困難になる怖れがあります。DeFi規制の論点と同様ですがこの場合、どのように不法行為を取り締まるのかが課題となります。
 
 別論点として法律のバーチャル化対応(アップデート)があります。日本の法律は大元を辿るとかなり昔に制定された法律が多々存在します。(特に基礎となる法律はそうです)法律はリアルな社会問題を解決する手段として制定されており、当然ながら大昔に制定された法律はバーチャルワールドでのトラブル・権利侵害を意識した設計にはなっておりません。今後メタバースがバズワードを超え本格的に普及し社会インフラの1つとして確立した場合には各種法律のバーチャル対応は必須となります。
 
 知的財産権・著作権・商標・意匠などの権利をどのようにメタバース時代にフィットさせるかは工夫が必要です。これらの法律が制定された当時はバーチャルワールドにおける権利の保護という概念は想定外だったかと思います。
 
本章のポイントは以下の2点です。
①発展段階に応じた適切な法規制アプローチの採用
②既存法のバーチャル化対応

2. メタバースの分類と規制の実効性担保の方法

 前章ではメタバースの発展段階に応じた法規制のデザインと各種法律のバーチャル化対応の必要性について整理しました。加えて分散型モデルによる責任主体の曖昧化によって生じる問題について指摘しました。二章ではメタバースの分類整理を通じて規制の実効性担保について整理します。

 メタバースにも様々なサービス形態がありますが法規制観点で問題となるパターンは以下の要素を備えたモデルとなります。

1.     分散型モデルを採用
2.     経済モデルとして仮想通貨を採用
3.     UGCの売買が可能

  ①~③の要素を満たすメタバースの法規制は非常に難易度が高いものとなります。①はDeFi規制にも通ずる責任主体の問題が付いてまわります。②はAML/CFTの問題が付いて回りサービス利用にKYCを求められるようになり気軽に利用しにくくなります。③は②と関連しますが所得の適切な補足の問題が発生します。

 特に①の分散型が厄介です。

 分散型ではない集権型のメタバースの場合は運営主体が明確であるため、トラブルが多い仮想通貨を採用する可能性は相対的に低いと推察されます。仮に自社のメタバースに仮想通貨をビルドインした場合でも責任主体が明確であるため、トラブル回避に向けた措置を講じリスクの低減を図りつつ当局から照会を受けた場合にも対応できるよう準備を進めるはずです。UGCの販売によるコンテンツエコノミーに関してもプラットフォーマーが仲介することで所得の可視化が実現し課税対応のハードルは下がります。

 分散型メタバースの事例としてDecentralandというサービスがあります。特徴としてDAO形態の運営が挙げられます。独自トークンとしてMANAというトークンが存在します。ユーザーがコンテンツを作成することも可能です。先程の①~③の要素を形式的には満たしています。DAO型運営サービスの歴史は浅くリスク要因の分析が不十分ですが前述のリスク要因の影響を受けるものと思われます。 

 集権型(箱庭型)メタバースの事例としてはMeta社のメタバースサービスが分かりやすいかと思います。集権型メタバースの特徴はプラットフォーマーとしての事業者がサービス全体のルールをデザインし責任を担っている点です。プラットフォーマー以外のプレイヤーとしてHMD等のデバイスサプライヤー、アプリ・コンテンツクリエイターがおりますが集権型メタバースにおける権力者=ルールメイカーはPF(プラットフォーマー)となります。Web3の文脈ではこの構造を捉えてWeb2.0的であると非難されることがあります。 

 近年の風潮として分散型モデルの評価・尊重と集権型モデルの批判・軽視を感じていますが分散型というイデオロギー自体には特別な価値はないと思います。分散型だからすごい!とかありえませんし、逆に集権型サービスだからダメ、ということもありえません。もしかしたら昨今の富の偏在問題等を背景に思想的に権力への反抗や社会構造への反発の表れとして分散型をプッシュしたい雰囲気が社会全体に存在しているのかもしれません。 

 管理者が存在しないメタバースか、明確な管理者が存在するメタバースかどちらが良いかは利用者それぞれの目的次第です。安定的なサービスを望む場合は運営管理者は必須ですし、法的保護よりも自由を優先する場合は管理者不在の分散型が適しています。 

 メタバースの利用目的が自身が楽しむことなのか、その中で経済活動(金稼ぎ)をしたいのかによっても仮想通貨の必要性やUGCの取扱いルールが変わってきます。純粋に趣味として余暇を楽しむのであればメタバースに仮想通貨は不要です。またクリエイターとしてメタバース空間上でアイテムを作成・販売する目的がなければUGCは意識する必要はありません。多くのユーザーはクリエイターではなく消費者としてサービスを利用することとなります。 

 逆にメタバース上で稼ぎたい方は仮想通貨を採用しているメタバースが適しています。類は友を呼ぶという言葉がありますが、そのようなメタバースには金儲けと詐欺を目的としたユーザーが集まる傾向にあるので純粋にコンテンツを楽しむユーザーは少なく、ビジネス目的のコニュニティという側面が強くなります。この場合、UGCは必須でいかにして経済を循環させ無から何かを生産し稼ぐかが勝負です。 

本章のポイントは以下の2点です。
①分散型メタバースは法規制の観点で実行線担保が困難
②分散型・集権型に優劣はなく利用者の目的で使い分けが必要

 3. メタバースを構成するプレイヤーとレイヤー構造

 メタバースは大きく分類すると3種類のプレイヤーによって構成され、3層のレイヤー構造となっております。前述の①プラットフォーマー、②デバイスサプライヤー、③コンテンツクリエイターです。①>②>③の順で影響力が大きい傾向にあります。 (③は重要だが個々のプレイヤーの影響力は軽微でPFには太刀打ちできない構造になっている)

①と②を同一の企業が提供する事例もあります。Metaの場合は2014年にオキュラスを買収しているのでプラットフォームとデバイスをセットで提供可能です。一般に日本は①・②が弱く③に強いと言われています。コンテンツ力は高いけどルールメイキングが弱いのでプラットフォームサービスで劣後する傾向にあります。デバイスは現状は海外製品が主流ですが製造能力自体はあるのでここはどちらにも転ぶ可能性があるかと思います。 

 ちなみに収益の観点で評価すると①>③>②となるはずです。②のデバイスは拡張ツールとして重要な役割を担いますがデバイス単体で評価した場合、大した収益にはならないと思います。不勉強なので正確に理解できておりませんが、デバイスに蓄積するデータを通じた派生ビジネスなどからの収益に関しては工夫次第で期待できるかもしれません。 

 ユーザーのメタバースでの活動を通じて、①プラットフォーマー、②デバイスサプライヤー、③コンテンツクリエイターは様々なユーザー情報を取得することになります。不勉強のため現時点で各プレイヤーがどのような情報を取得可能でどのように加工・分析することによってデータビジネスに応用し派生収益を獲得するか詳細を描くことはできませんが、今後はメタバースの拡大に伴い膨大に発生するユーザー情報の取扱いが論点になってくることが予測されます。 

 メタバースを3層のレイヤー構造と仮定するとビジネスとしては垂直統合と水平分業のどちらが主流となるか整理します。①~③を全て一社で提供するモデルが一番集権的で完全な垂直統合モデルと言えます。この場合は完全な箱庭で拡張性が低いので少し面白味に欠ける印象を受けます。Meta社の場合は③のコンテンツを外部クリエイターに開放する方針のようです。(自社PF+自社デバイス+自社コンテンツ+外部コンテンツのパターン) 

 Metaほどの資金力・技術力がない場合はどこか特定のレイヤーに注力することになります。PFとしてそれなりに普及しており、汎用的なシステム・エンジンを採用している場合は自然とデバイスメーカーがそのPFをサポートするようになります。またPFとデバイスメーカーが業務提携し優先的に対応するようなケースも考えられます。このようなケースの場合は自然と水平分業モデルが採用されそれぞれ最も得意とするレイヤーでの活動に注力することとなります。③に関しては少し特殊で各コンテンツはPFへの依存度が低く汎用的なシステムを採用していれば運営会社の差異を意識することなくクロスプラットフォームで展開可能です。

本章のポイントは以下の3点です。
①メタバースのプレイヤー・レイヤーは3層構造で整理可能
②序列はPF>デバイス>コンテンツになると思われる
③超大手は垂直統合を志向、それ以外は水平分業で住み分け

 ユーザー視点で評価した場合、分断が少なく意図した体験が得られやすい垂直統合と拡張性や独自の楽しみを追求できる水平分業と整理できます。現時点での優劣は見えませんが過去10年のビジネスモデルを踏襲するのであれば垂直統合型が主流になりそうですが、直近は分散型ビジネスが声高に叫ばれており、政策的なサポートも期待できるかもしれません。中庸ですがPFが全体を仕切りつつ、過度な締め付けをせず、外部ツール・アプリの拡張を認めるような緩い垂直統合モデルが使いやすいサービスに繋がるのではないかと感じています。

最後に一言。
 
 昨今のメタバースブームは必要性の検証という当たり前のことを隠してしまっています。多くはメタバースと呼ばれる空間を作ること自体が目的化してしまっています。何でも出来るメタバースは何も出来ない空間と同義かもしれません。(何でも出来るという建付けの汎用メタバースは特化したサービスの劣化版に過ぎずコアなファンの獲得には不向きな傾向にあります)ある目的において既存の手法と比較し機能・効率・コスト・ユーザビリティなどが優れているかどうかの検証は必要です。過去の記事で書きましたがメタバースには得意・不得意が存在しバーチャルでも付加価値を出せる領域にフォーカスすることが重要です。

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