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2022年の変化と2023年の展望

1. はじめに 

 今年は世界中の国にとって変化の年でした。グローバルではロシア・ウクライナ戦争の勃発、台湾問題の加速、米中対立の先鋭化、インフレの加速、金融緩和の終了、サプライチェーンの分断などが挙げられます。 

 日本国内では相次ぐ増税、社会保障費問題、歴史的な円安、日銀の政策転換、安倍元首相の殺害などが挙げられます。投資関連では仮想通貨の暴落、Web3・メタバース・NFTバブルの発生、過剰流動性の終了と逆回転の加速、株式市場の混乱などが挙げられます。 

 2023年も引き続き予断を許さない状況が続くことになります。本稿では大局的に社会・政治・経済・ビジネスがどのような方向に進もうとしているかを整理いたします。 

2. 国際秩序と資本主義の転換

 ロシアによるウクライナへの侵攻は世界に大きな衝撃を与えました。中国の台湾侵攻(統一?)の動きもあり、国際秩序の前提は崩れました。紛争の結果、コモディティの価格は高騰しインフレは加速し脱炭素社会は後退しました。 

 イデオロギー対立と超大国のパワーバランスの変化によって米中の対立が様々な分野に波及し、サプライチェーンの分断・グローバル化の逆回転へと繋がっています。過去30年、グローバル化の加速により地球規模での最適化(合理化)が推し進められ、製造業は製造コストが安価な中国やアジア諸国に拠を移しその規模を拡大し続けました。

 結果として世界は安価に高品質な製品を生産できる体制が構築されました。これは主義主張の異なる国家が「経済」という目的で互いに妥協した結果です。 

 資本主義は構造上、格差を内包する仕組みです。それは自明であり国家も国民も理解しているはずですが、昨今では「格差」が政治の論点となり、ポピュリズムが拡大し異なる階層の市民が分断され、排他的な保護主義が台頭しつつあります。 

 ビルゲイツ・ザッカーバーグ・ジェフベゾスなどの超富裕層が存在する一方で、日々の生活に困窮する層も世界には存在しています。歴史を振り返るといつの時代にも・どこの国においても貧困層は存在し、現代の貧困層と300年前の貧困層を比較すれば現代の方が遥かに環境が改善されています。 

 客観的にはいつの時代にも格差は存在するし、歴史を俯瞰すると人類の生活は確実に良い方向に進んでいることは間違いありませんが、客観的な「ファクト」と目の前に存在する感情論は別であり、資本主義は破裂寸前の状態にあります。 

 資本主義は「r>g」に従い富が生み出されることは周知であり、効率的な資本の投下無しには安定的な富の獲得は困難です。これまでは原理原則に従いゲームをプレイし富を集めたプレイヤーが勝者であり王様でした。 

 しかしながら、これからはゲームのルールが変わるかもしれません。トランプには「大貧民」というゲームがあります。革命が起きると強いカードと弱いカードが入れ替わるゲームです。

 遠くない未来、世界は大貧民のような革命に直面するかもしれません。99%の貧民と1%の富者という構図に、何らかのきっかけが組み合わさることでこれまでとは異なる秩序が新たに誕生するかもしれません。 

 1600年の東インド会社の設立以降400年が経ちます。資本主義と株式会社は分散主義とDAOによって置換されるのでしょうか?可能性ゼロではありませんが、そのシナリオは限りなくゼロに低いと考えます。資本主義も株式会社も不完全かもしれませんが他よりマシと言われ続けてきました。 

 近年は資本主義に「新自由主義」というラベルを付けることで区別し槍玉にあげることで、これまでの経済の枠組みを否定するような動きが見みます。客観的に見れば日本はこれまでも新自由主義ではなかったし、「新しい資本主義」は「反資本主義」なのではないかと本気で疑ってしまいます。 

 日本は実際のところ「マイルドな社会主義」であり「社会資本主義」とも評されています。これは正しくもあり、誤りでもあり、捉え方次第です。政治家は日本は資本主義だと言うだろうが、富裕層は社会主義に近いと答えるのではないでしょうか?新しい資本主義は実は「新しい社会主義」なのかもしれません。 

 経済成長が実現しないまま企業に分配を強要するのは社会全体として「共同貧困」へと突き進むことになるかもしれません。確かに米国では起業家として成功した超富裕層が存在し少数で社会全体の富の一定割合を有していますが、日本ではそのような超富裕層はほぼ存在しないのが現実であり、日本では問題視されているほど格差は拡大していないのが実態です。 

 社会全体として出過ぎた杭が打たれることがあるのは理解できなくもありませんが、日本の場合には一番低い杭を基準に少しでもはみ出たら打たれる状況が課題と言えます。底辺層を基準に下方同調圧力が強まり社会全体が競争力を失っているようにも見えます。そしてそれを支援しているのが政府です。 

 マクロな視点で捉えると国際秩序は転換期にあり、ミクロな視点で国内を眺めると資本主義の混乱によって緩やかな社会主義化と非効率が病のように浸透しているように感じます。 

3. 金融緩和の終焉と資産バブルの行方

 2022年は金融緩和の終焉と資産バブルの崩壊という金融市場のターニングポイントとなる年でした。世界の金融緩和はリーマンショックからの回復を目的に2010年代を通じて継続されました。この時期は歴史的にも各国ともに低金利が続いており、日本など一部の国ではマイナス金利が導入されました。 

 このような中央銀行による金融緩和は次のバブルの芽を育てることになりました。緩和マネーは世界中を駆け巡り、株式市場を力強く押し上げ、ベンチャー市場(PE)に安価な資金を供給し、仮想通貨という投機市場を成長させ、不動産価格を押し上げ、様々な資産価格を高騰させる方向に導きました。 

 2021年まで続いた緩和マネーが2022年、ついに逆回転を始めました。2010年代以降、絶好調だった米国株市場は2022年に大きく下落しました。緩和マネーがジャブついていたVC業界は一気に潮目が変化し、ソフトバンクのビジョンファンドは兆円単位の損失を叩き出しました。仮想通貨は2021年の高値から半値以下に暴落し、一部コインはほぼ無価値な水準まで下落しました。不動産は中国のバブル崩壊がいつ崩壊するか不安定な状況が続いています。 

 大きな市場だけでなく小さな市場にも変化は押し寄せており、スニーカー・ワイン・腕時計といった本来は実用品も一部で投機の対象となっていましたが、市場が小さくプレイヤーが少ないことから潮目が変わると一気に価格が下落します。近年暴騰が続いていたロレックスの価格も今年は下落傾向にあります。 

 これは中国の富裕層が離れていった、など諸説あるようですが、大きな視点でみると資金の逆回転が始まったことにより質への逃避(現金・国債)が加速したことで、定価の数倍となっていたロレックスのような実物資産に対して裁定取引が働いたものと考えます。(割高なロレックスを売って、割安な●●を買うという取引によって資産バランスが調整される) 

 2022年はカンフル剤の効果が切れ世界中の投資家は「潮が引いて初めて誰が裸で泳いでいたのかが分かる」状態に陥りました。これはバフェットの発言でありリスクコントロールの重要性を示した名言でもあります。2022年はまさに裸で泳いでいた投機家がその代償を支払った年であり、改めてリスク管理の重要性を認識させられた年でもありました。 

 マーケット観点では「歴史的なインフレ・急速な利上げ・金融緩和の終了」というイベントが一気に押し寄せた年でした。どれか1つでも大きな影響を与えるイベントが連鎖的に発生した結果、ターニングポイントとして作用し急速な逆回転へと繋がったように感じます。 

 中央銀行による資産買い入れが終了し、量的引き締め(QT)へと舵を切り、間髪入れずインフレ抑止のために急速な利上げを断行した結果、2022年は株式市場・債券市場共に下落し、為替市場は大きく変動することになりました。 

 長期的には現在の下落も景気サイクルの1つのプロセスに過ぎず、いずれ反転することは明らかですが、懸念が無いわけでもありません。冒頭で示した資本主義自体の在り方の見直しがグローバルで加速することで資本市場のルールがこれまでと異なったものとなるリスクが存在します。 

 可能性は限りなく低いが、これまでの資本主義とルールが異なる資本主義や資本主義ではない別の何かが登場した場合、中長期では株式は4-7%程度のリターンが期待できる、という過去の統計は意味をなさない恐れがあります。(テールリスク)これは社会の分断と1% VS 99%の対立の結果次第であり、百年スパンで変化する社会統治モデルの変化に繋がるかもしれません。 

 戦後秩序は覇権国家である米国の軍事力を背景に成し遂げられましたが、パックスアメリカーナに中国が挑戦しつつある現在、近いうちに転換点が訪れる可能性は低くありません。もし国際秩序の転換が生じた場合、経済の在り方(資本主義の在り方)も間違いなく影響を受け変化を余儀なくされます。 

 GDP予測で言うと近いうちに米国が中国に抜かれ、いずれ中国がインドに抜かれる、という予測もあります。インドの人口が中国を上回るのはもうすぐであり、インドが日本をGDPで上回るのもそう遠くない未来となりそうです。経済力を背景とした国際社会の秩序が見直されるタイミングはそう遠くないかもしれません。 

 その際は米中対決が表面化することで大きな影響を世界中に及ぼすことが予測されます。好ましくはありませんが人民元が基軸通貨になる可能性もゼロではありません。その場合にはかなりの期間を要することになるかと思います。

 また西側諸国=米ドル、それ以外の地域=人民元というような地域分割が生じるかもしれません。中国が推進している一帯一路の状況次第かもしれませんが開発援助と引き換えの経済支配による人民元の強要は考えられるシナリオです。 

 仮に米中の対立が激化した場合には逃避資産として一時的に金(ゴールド)の需要が高まります。この場合、仮想通貨であるBTC(デジタルゴールド)ではなくリアルゴールドである金需要が高騰する可能性が高いです。

 国際社会が不安定になると原油などの他のコモディティも価格の高騰が想定されることから、しばらくの間は「国際秩序」という観点でコモディティのマクロ需要が大きく変動することが予測されます。 

 コモディティは金利や配当が存在せず、株式と異なる長期保有による複利効果も得られないことから、需給のトレンドを見極め短期的にポジションを構築するスタイルが適した資産に分類されます。しばらくはロシア・ウクライナ戦線の動向に注目しつつ長期的にはサプライチェーンの再構築に伴う変化に注目したいです。 

 Appleは調達先を中国から分散する方針を示しているし、欧米はロシアからのエネルギーの輸入を控え新たなサプライチェーンの構築を模索しています。これからは各国のイデオロギーを無視し経済合理性を追求した最適化の時代は終焉し、多少の非効率を許容する新しい経済圏の再構築が始まるかもしれません。 (各国の国民がその負担を許容できるのであれば)

4. リアルからバーチャルへ

 テックビジネスに着目すると2022年は「Web3バブルが拡大し続けた一年」と評することが出来ます。Web3バブルはメタバース・NFTといった周辺分野を巻き込みつつ投資マネーを集めています。ベンチャー界隈ではリスクマネーがシュリンクしつつあるなかWeb3だけは別格で投機マネーをかき集めている状況です。 

 私が仮想通貨に可能性を感じた2014年当時、仮想通貨には無数のシナリオが存在していました。当時はどのような用途での利用が主流となるかも予測出来ませんでした。ビジネス的には黎明期であり可能性が満ち溢れていました。それから8年が経ち仮想通貨に残された選択肢は少なくなりました。 

 当時期待されていた「決済分野」での利用は今後も期待できそうになりません。決済分野の本命は各国のCBDCといずれ実現されるグローバルステーブルコイン(かつてリブラが失敗した通貨バスケット型)であり、有象無象の草コインではありません。 

 現状、時価総額の大きなコインも取引所取引か業界関係者(身内)の取引でしか移転しておらず、一般層との大きな断絶が存在します。一般市民が生活するうえで仮想通貨は全く必要性がなく、仮に何らかの機能を有するコインであっても別の何かで代替可能であることが殆どだからです。 

 これが伝統的な有価証券やコモディティと異なる仮想通貨の実態です。有価証券は価値の裏付けが存在し、コモディティには社会の維持に必要なリアルな実需が存在します。仮想通貨にも需要は存在しますが、それは値上がり期待に基づく投機需要に過ぎず、小麦・原油・金などと異なり実需と結び付きません。 

 仮に特定のサービスと紐づくコインの場合、特定のサービスでしか利用できないコインよりも汎用的な価値交換手段の方が好まれるのは当然であり、将来的に何万もの無価値なコインが散乱する状況は自然淘汰されることになります。 

 イデオロギー的には分散型で管理者がいないサービスに多くの人が憧れを持ちますがサービスとして冷静に評価した場合、利便性に問題はないでしょうか?

 Web3のラベルが貼られているサービスの多くは使い勝手が悪く、他のサービスで代替可能なものが殆どです。これは技術進化の過程で数年後には既存プロダクトを上回るという類のものではなく、出発点が間違っている可能性が高いです。 

 理由は「手段の目的化」に尽きます。今のWeb3・メタバース・NFTはそれ自体を目的化しゴールに定めてしまい、解決すべき課題・付加価値にフォーカスしているサービスが殆ど存在しません。

 Web3というラベルに拘るあまり、サービスの利便性が自分たちが非難しているweb2のプラットフォーマーと比較し劣化しているという現状を認識する必要があります。 

 NFTなどは手段の目的化が分かりやすい事例です。会員権的な用途を持たせたNFTがありますが●●会員権の機能は別にNFTでなければ提供出来ない付加価値ではありません。

 同様の価値・機能を提供する手段は他にもありますし、一般ユーザーへのリーチを考えるとNFTという手段を用いることは悪手に他なりません。これはNFTであることが目的化してしまい、ユーザーの利便性や市場規模を限定的なものに押しとどめてしまう事例です。 

 他にも●●の権利をNFTに実装しました、という類のものがありますが法的な権利をしっかりと確保できているNFTは稀です。加えてNFTは国境を跨ぎ取引されますが、各国によって著作権の扱い、デジタルコンテンツの取扱い基準が異なります。また法的に安全性が確保された仕組みであっても、それをNFTで実装する意味がないことが殆どです。 

 分かりやすい事例として不動産NFTを整理すると、NFTとリアルアセットである不動産を法制度に則り権利関係をリンクさせることは容易ではありません。登記制度はNFTと何ら関係ない仕組みです。

 何を目的としているかに拠りますが、居住目的であれば現物不動産をローンや現金で購入すれば良いし、投資目的でキャッシュフローが欲しければREITや匿名組合を利用すればよく、あえてNFTという不安定な設計にするインセンティブが存在しません。強いて言えば、NFTバブルのプレミアムが付くかどうかです。 

 これはメタバース上のコンテンツ(実態は単なるデータに過ぎない)やプロダクトが存在しないWeb3プロジェクトに共通する事象であり、手段の目的化という安易な方向へと進まないよう戒めとして認識する必要があります。 

 一方で全てのバーチャルな活動が無意味・無価値かと言うとそうではありません。玉石混交であることは間違いなく、9割は石ですが丁寧に探せば玉も見つかります。大局的視点で社会の発展に不可欠なサービスを見つけることが重要です。 

 注意点として技術とプロダクトは切り分けて別々に評価する必要があります。事例として「ブロックチェーン」は技術としては今後の発展性・応用が期待できますが、この技術に依拠して生まれたサービス(アプリケーション)としての仮想通貨(草コイン)には特段価値がありません。(実用性・本質的価値が存在せず、投機価値のみが存在する)このように根っこは同じでも技術価値とプロダクト価値は別々に評価する必要があります。

 技術が優れている=サービスも優れている、わけではありません。この点を誤解している方は多く、特に手段の目的化に陥っている方はその傾向が強く、ブロックチェーン技術は優れているのでその技術を活用しているWeb3やNFTもまた優れていると誤解しています。

 これは冷静に考えれば分かることですが、メディアが煽り・自称専門家が壮大なビジョンを語ることで誤解が真実であるかのように世論が形成されます。 

 エンジニア経営者であれば実態を見抜くことは出来ますが、日本の経営者の多くはピューターサイエンスを学んでおりませんので技術とビジネスの境を区別することなく誤認し、評価を誤ることがしばしばあります。昨今のWeb3に関しては政治も巻き込み壮大な誤解が形成されているように思えます。 

5. 2023年の注目観点

 個人的に2023年の変化として注目している点は「国際秩序の再構築」「次世代ビジネスリーダーの登場」「高度人材の動向」です。 

 ウクライナ戦争・米中対立・台湾問題など国際秩序の危機と呼べるイベントが控えており、これらと連動してサプライチェーンの分断・再構築が進んでおり、これまでのような安価な資本主義の果実を得ることが難しくなりました。大局的視点で捉えると戦後のパックスアメリカーナが緩やかに崩れるかどうか、という節目なのかもしれません。 

 2010年代はGAFAを代表するビッグテックの時代でした。プラットフォームビジネスが全盛期で時価総額を大きく伸ばし世界トップに君臨していました。今後もしばらくは継続しますが、緩やかな世代交代が迫っているように感じます。

 ただしWeb3・メタバース・NFTと異なりweb2プラットフォーマーは現実社会にとって不可欠なサービスやインフラを提供しているので相対的に影響力が弱まることはあっても無価値になることはありません。 

 近年はAIの進化により高度人材の募集基準が一層と引き上げられつつあります。ホワイトカラー労働者は中スキル人材を中心に徐々にAIによって代替されつつあり、本当に高度な人材の価値は益々高まる傾向にあります。

 コロナの結果、リモートが常態化したことで高度人材の働き方は多様化しました。結果として国に縛られることなく働くことが容易になり、日本に住みながら米国企業で働く、インドに住みながら米国企業で働くといった形も増えつつあります。

 高度人材=国力に直結します。米国やシンガポールはこのことを強く理解し社会制度として受入体制・インセンティブをしっかりと設計しています。日本は高度人材の流出が進んでおり、数十年後には少子高齢化だけでなく人材の空洞化も加速し競争力の低下が懸念されます。

年内最後の投稿になるかと思います。
今年も一年お疲れ様でした!

 

 

 

 

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