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RE+Designing 公的年金制度_02

1. はじめに 

 本マガジンは日本の社会制度のリ・デザイニングについて考察するシリーズです。制度の各所に綻びが見える日本の社会制度を未来に向けてどのように改善すべきかについて私論を展開いたします。 

 世の中には様々な立場の方がおり、所属する組織や立場によって異なる利害を有している方が存在するため、誰かにとっての正解は別の誰かにとっての不正解になる場合が存在します。

 “万人にとってベストな政策は存在しない”という前提のもと少しでも課題の改善に繋げる考察を心掛けます。本稿の前編にあたるRE+Designing 公的年金制度_01は下記を参考ください。

2. 実は美味しい国民年金

 RE+Designing 公的年金制度_01では賦課方式から積立方式への抜本改革案とその財源確保策を提示しました。本稿では抜本改革が政治的に難しく既存のフレームワークの修正に留まらざるを得ない場合の修正案を検討します。 

 ネットでは“年金はポンジ”という表現がしばしば見られます。これは一部で正しく一部では誤りです。制度設計としては完全に崩壊しており、持続可能性が著しく低いという観点からはポンジです。 

 一方で今後も受給条件は改悪されつつも制度としては残ることは確実です。年金はいくつかの種類に分かれます。

 1階部分が国民年金で国民全員です。2階部分は厚生年金で会社員や公務員が対象です。3階部分は私的年金で401kやiDeCoです。 

 誰もが加入しなければいけない(義務)である国民年金は実は美味しい年金制度であることはあまり知られておりません。逆にメディアでは有利と言われる厚生年金が一番不合理で条件が悪い年金です。

 401kやiDeCoは賦課方式ではなく積立方式であり運用に自身の判断を含めることができる点が魅力であり税制的にも有利な制度です。 

 現在、国民年金の支払いは月額16,590円です。これは自身の収入によって変化しません。月収が10万円でも100万円でも同額です。国民年金の支給額は月額64,816円です。

 これが何を示しているかというと“国民年金はコスパがいい年金制度である”ということです。 

 国民年金の維持は保険料だけでは足らず相当額が公費で穴埋めされている制度です。本来は月額16,590円の支払いで生涯、月額64,816円の支給は困難です。財政を加味して需給バランスを調整するなら月額3万円超にしないとバランスが取れないはずです。 

 よって国民年金は現時点においてコスパが良く美味しい年金制度と言えます。(単純に拠出額が少ないので支給額が少ないように見えるだけで、支払いと受給を比率で数値化すると有利な制度であることが分かります) 

よって“国民年金は不利・厚生年金は有利”と叫んでいる人を見かけたら“何も分かっていないひとだなぁ”と生暖かく見守ってあげましょう。 

3. 強制搾取の厚生年金

 国民年金は建前上、20歳以上の全ての国民が支払う必要がありますが、実際は結構な数の未納者が存在します。自らの意思で支払う義務がある年金を支払っていない層です。

 しかしながら厚生年金加入者はそうはいきません。会社が源泉徴収として社会保険料を含め天引きします。サラリーマンは自身の意思で未納を選択することができません。厚生年金は強制源泉徴収されるシステムであること、まずはこれを理解します。

 次に厚生年金の仕組みです。

 給与明細の詳細を確認すると分かりますが、最初に支給額がありそこから以下の項目が差し引かれます。(健康保険料・介護保険料・厚生年金・雇用保険料・マッチング拠出)介護保険料は40歳から、マッチング拠出は401kの制度利用者のみ。 

 これらの合算を支給額から差し引き、課税所得が算出されそこに所得税と前年の年収に応じた住民税が差し引かれます。会社員の手取りが異常に少ないと感じるのはこれらの負担が大きいことが原因です。気付くと3割くらいが税金+社会保険料という名の税金で徴収されています。 

 給与明細の厚生年金●万円は自身が支払っている金額を示しており、納付額全額ではありません。会社も同額を別途支払っているので本来は●*2の金額を納めていることになります。

 月額等級が上限の方は毎月59,475円の厚生年金を支払っており、企業負担分を含め実質は118,950円の支払いとなります。これは国民年金の月額16,590円と比較し約7.16倍を拠出していることになります。 

厚生年金の計算式は以下となります。 
老齢厚生年金の年金額=平均標準報酬額×0.005769×被保険者期間の月数

 期間中常に上限額を納付した場合の理論値は月額で30万3,000円です。

 おかしくありませんか?国民年金は月額16,590円で月額64,816円の支給です。厚生年金は月額118,950円で30万3,000円です。国民年金と同様の係数で計算するならば月額46万円程度は支給されないと釣り合いません。 

 月額118,950円を40年間納付すると約5,700万となります。月額30万で割ると元本だけで計算し15年以上受給出来ないと払い損になります。仮に118,950円を毎月積立し年利4%で複利運用した場合、40年後には約1.4億円になります。

 月額30万の支給の場合、38年分相当になります。65歳から38年の場合、100歳を超えます。年率4%での複利運用という想定は過度なリターンではなく妥当であり、長期運用では大きなリスクに晒すことなく期待できるリターン水準です。

 厚生年金を毎月満額納付している方は本来、1.4億円・38年の支給を期待しても良いはずです。

 しかしながら現在の厚生年金はそのようにはなっていません。明らかに国民年金と比較して不利な制度であり、死亡年齢次第では払い損濃厚な制度です。

 広く分散された株式インデックスに投資した際に期待できる平均リターンを複利で運用した際に得られる金額と比較して支給される金額が低い年金です。 

 100歳以上まで生きる方にとっては元が取れるかもしれませんが、多くの方にとっては納付額と運用益の税を免除してもらう方が遥かにメリットがあります。

 なぜ厚生年金が少ないのか、それは「0.005769」という数値に起因します。この係数が低いために払った額と比較して支給される金額が少なくなります。 

 ではなぜ計算式の係数が低いのか?それは厚生年金の資金が国民年金の不足分に流用されているからです。これは重要な事実ですが一般にはあまり知られていません。厚生年金は国民年金の犠牲になっている制度なのです。 

 このような経緯があるので前回の投稿ではまず厚生年金を賦課方式から積立方式に分離することを提案しました。厚生年金が積立方式になれば不足分の流用は阻止できるからです。

 厚生年金からチューチューすることが出来なくなった国民年金の選択肢は2つです。 1つめは納付額を増額し支給額を減額しつつ支給年齢を繰り下げ(要するに条件改悪)し現行制度を維持する方法です。

 2つめは賦課方式を諦め積立方式に移行する方法です。個人的には案2が好ましいと思いますが、国民年金が自己完結するのであれば案1でも最悪は構いません。 

 一番の問題は問題先送りで現行制度が延命されることです。これは後回しにすればする程、悪化する問題です。このような不合理なシステムである厚生年金のマイナスを最小にする方法は最低の月額等級となるよう年収を調整することが一案として挙げられます。 

 日本は低所得者優遇社会です。よって一番美味しいポジションは「低所得の資産家」です。具体的には年収300~500万程度で各種控除を活用し課税所得を押さえ、所得税・住民税を圧縮し、金融資産で数億円の資産を有し源泉徴収有りの特定口座で処理を完結させるようなイメージです。

 このような場合、本人の年収が低いので社会保険料は安く所得税も殆どかかりません。また所得制限にも該当しないので各種手当の対象にも該当します。更に所得を下げれば住民税非課税世帯となり、各種免除・優遇も受けられます。 

 健康保険料や住民税は所得に応じて金額が変動しますが、受けられるサービス・本人負担額は最低年収でも変わりません。社会制度や行政サービスをハックしようと考えるならば、労働からの所得は最低水準に留めつつ、金融資産から一定の所得を得つつ分離課税で処理するのが一番良いです。 

 一歩進めるのであればプライベートカンパニーを設立し、自身の最低給与を資産管理会社から支給しつつ、様々な費用を経費に計上するのが好ましいです。これによって更なる課税所得の圧縮が可能となります。 

 標準等級に関しては以下の表を参照ください

https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/ryogaku/ryogakuhyo/20200825.files/01.pdf

4. ある意味フェアな私的年金

 国民年金は有利・厚生年金は不利と評価しましたが、401kやiDeCoは判断と結果が自身の選択に依存することからフェアな制度と言えます。制度の継続性に不安もなく個人的には一番マシな制度だと考えています。 

 国は余計なことをせず、公的な仕組みとして年金にかかる積立金と運用益を非課税にするだけで良いと考えます。まさにシンプルイズベストです。国民年金・厚生年金も401k同様の仕組みを採用し、毎月の積立額と運用先をある程度自身で選べるようにしつつ非課税扱いにしてくれるだけで充分です。 

 401kやiDeCoは歴史が浅くまだ多くの人に浸透している制度とは言い難いです。結果として評価が高まっていませんが、普通に考えるとぼったくりの厚生年金より100倍マシな制度です。 

 とはいえ欠点がないわけではありません。60歳過ぎまで引き出しが不可能な点です。本当に例外的な場合には引き出し可能ですが、現状は要件がかなり厳しく実質引き出し困難です。ここはもう少し柔軟に変更すべきであり、本人が重い病気にかかってしまった場合などは解約可能とすべきです。 

 仮に若くして余命僅かと診断された方の401kは現行制度では無駄になります。原則引き出し不可能でも解約条件に関してはもう少し間口を広げる議論が必要でしょう。なにせ死後に金は持ち運べないのですから。 

 401kやiDeCoの良い点としてサービス提供者が複数存在することで競争が促進され、より良いサービスが提供される点にあります。特にiDeCoは証券会社・銀行が力を入れて営業しており、長期の資産形成に適した良い商品が選ばれる傾向にあります。これが民間に任せる利点です。 

 国民年金も厚生年金も制度に競争を持ち込むことで腐ったサービスが改善されるのではないかと思います。そのためにも賦課方式から積立方式に変更し、運用の選択肢を増やすべきです。

 厚生労働省に任せても何も良い方向には進まないでしょうから、選挙におけるイシューに取り上げて改正して欲しいところです。 

 401kやiDeCoは後発であり自主的な選択が可能である点も含め総じて優秀です。課題は月額上限が5.5万円という点です。厚生年金を廃止して11.8万円を401kやiDeCoの枠に上乗せした方が現行制度より遥かにマシになります。 

 現行制度に従いつつハックするのであれば自身が経営する会社で厚生年金は最低限に留め、401kやiDeCoは制度上限まで利用するという形になります。そして所得の補助は分離課税で得られる金融収益で補います。

 これによって最低限の社会負担で年金・医療等の各種サービスを享受でき、大した額ではありませんが将来の年金も期待できます。 

 制度を調べると分かりますが日本には理解不能な補助金や控除が無数に存在します。普通に生活していると見落としがちですが、利用できるものを利用することで実質的な可処分所得(率)を大幅にアップさせることが可能です。 

 一種の社会制度ハックになりますが、賢明な投資家としての有限な時間のアロケーションを考えると、やたらに労働時間を増やし給与所得を増やすよりもバランスが取れた生活を過ごせるかもしれません。

 どのような人生を過ごしたいかを前提にどのような制度が利用できるかを調べてみることも必要かもしれません。

 

 


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