投資家と税制と選択
1. はじめに
最近、日本と諸外国との税制の違い・税制の潮流・投資家目線の税制について考える機会が増えてきましたので、現状認識を備忘代わりに投稿します。子供のころは税金といっても消費税くらいしか意識しませんが、大人となり働き始めると本当にたくさんの税金が存在し、私たちの所得・資産を蝕んでいることを認識します。
税金は国が社会を維持していくのに不可欠であり、日本は天然資源に恵まれているわけでもないので各種税金は仕方ありませんが、平成から現在に至るまでの短い期間を眺めても税金(実質的税金である社会保障費も含む)は確実に増加しており減少の兆しが見えません。本稿では投資家として私有財産をいかに守るかについても考察します。
※記載内容は税理士等の専門家のレビューを受けたものではなく、一般投資家が自身の知識・理解の範囲で整理した内容を纏めたものであり、細かな点について理解が誤っている場合もあるかもしれません。万一誤りがありましたらご指摘ください。
2. 国内税制の俯瞰
I. 日本国内の税金一覧
最初に日本国内における税制について俯瞰します。財務省のサイトに国税・地方税の一覧が掲載されておりました。統計データと知りたいときには各省庁のサイトは役立ちますね。
一般市民が日々の生活の中で意識している税金以外にも様々な税金が存在することが分かります。「とん税」・「狩猟税」なんて単語は初耳でした。図表の構成を見ると税制は大きく「国税と地方税」に分かれます。次に種別として「所得課税・資産課税・消費課税」に分類されます。
所得課税の代表は所得税・住民税・法人税で、資産課税の代表は相続・贈与税・固定資産税あたりでしょうか、消費課税の代表はもちろん消費税です。グラフと見る限り所得課税の割合が50%超を占めており、次いで消費課税、資産課税という割合です。
II. 日本国内の所得区分と納税方法
所得税の課税方式は「総合課税」と「分離課税」に二分されます。給与や事業所得は総合課税(累進)で、金融所得は分離課税です。一覧は表の通りです。
総合課税なのか分離課税なのかは歴史的経緯・所得の性質、グローバル税制との比較などの要因によって決定されているため素人目には相当入り組んでおり、なぜ現在のような制度設計になっているか正確には理解できません。
III. 課税方式と平等・公平
税金の課税方式は大きく「累進課税・比例課税・人頭税」に分類されます。現代国家では累進課税と比例課税のハイブリッドでデザインされております。過去の歴史を振り返ると人頭税方式での徴収が主流であった時代もあります。
累進課税は所得税が代表例で所得が増えるほど税率も増える(最大45%)仕組みで、富裕層の節税・海外移住を促進する税制です。比例課税は消費税(10%)や住民税(10%)が代表例で%が固定されている税制です。人頭税は一人当たり●円という固定金額の税制です。
立場が異なれば主張は異なるもので、国・役人(徴税側)、法人・起業家(ビジネス側)、資産家(富裕層)、労働者(大多数の一般市民)、それぞれが好ましいと思う課税方式は異なります。
大原則として税金は少なければ少ないほど良く、最小限の税金を最効率で消費することで国家運営に必要な財源を賄うことが理想です。しかしながら最小限・最効率で運営出来ている国家は存在しません。徴税権=権力であり、国家(政府)は決してその権利を手放そうとしませんし、権力は自然と増大を目指すものです。結果として、税負担は年々高まることとなります。
個人的には比例課税を中心に据え、一部の所得には累進課税、一部のサービスには人頭税が妥当と考えます。平等性を考えると累進課税は最も不平等で根拠が薄い税制と感じます。(一般的に累進課税が平等性を担保する、と言われていることは認識したうえでの私見です)
応能負担とは要するに、強奪(とれる)ところ盗ってやろう、という思想に過ぎません。逆の発想が応益負担であり、受益者負担論的な構成をとり、能力ではなく納税義務者が公共サービスなどから得た利益に応じて納税義務を負うという考え方です。
感覚的には累進課税は社会主義的な平等を目指し、比例課税・人頭税は資本主義の原理に沿った公平性の担保を目指す税制のように感じます。累進課税は突き詰めると「結果平等」であり、国民全てを経済的に同質化させる政策であり、競争による社会の発展を阻害するようにも感じます。
私は過度な累進性には反対の立場です。多少の累進(傾斜)は多様な属性の国民が存在する以上は致し方ないと考えますが、所得税や相続税の累進度合は行き過ぎにも感じます。(過去の90%は狂気の沙汰です)
比例課税(%課税)であっても実際のところは富裕層の方が金額的には多く課税されております。年間1億円の消費と500万円の消費では消費税額には20倍の差が生じます。この場合、年間1億円消費する納税者は500万円消費する納税者と比較して国庫に対して20倍貢献したことになります。
消費税のような比例課税の議論では逆進性の話が持ち出されますが、逆進性の議論は根拠に乏しい誤解だと感じています。所得税や法人税は節税の工夫次第で相当額を合法的に圧縮することが出来ますが、消費税だけは誤魔化しようがなく、節税の余地がなく金持ちも貧乏人も等しく徴収される仕組みです。単に、低所得者の場合には消費に占める生活必需品の割合が多いというだけに過ぎません。
様々な角度から分析せずステレオタイプに”消費税は逆進性が問題”と騒ぐメディアを見ると知性を疑います。消費税が%ではなく、消費金額に関係なく年間10万円というように固定額の場合には逆進性が強く、社会全体にマイナスの影響を及ぼすことから是正が必要ですが、比例課税(%)でごちゃごちゃ文句を言うのは頭が弱いのではないかと感じます。
課税方式を大雑把に評価すると以下の認識です。
・累進課税=低所得者優遇・高所得者冷遇
・比例課税=平等
・人頭税=低所得者冷遇・高所得者優遇
現状、人頭税の仕組みはほとんどありませんので社会全体としては低所得者優遇でバランスを取ろうとしています。(社会全体の安定・底上げを重視)本来、税金というのは国家からのサービスと「対」になるべき概念です。国民は税を支払う代わりに、警察や消防などの機能(治安維持)、各種行政サービス、道路や公共施設の利用、というサービスを享受しています。
これは権利と義務の関係であり、納税という義務と国家によるサービスは本来「=」で釣り合うことが理想です。しかしながら現実には高所得層は負担に見合うサービスを享受出来ておりません。高所得者は多くの住民税を納めますが、区役所でのサービスを優遇されることはありませんし、公共施設での優遇利用も存在しません。負担は高額・サービスは一律という不平等が現実です。
応益負担の発想で考えると住民税は固定額が妥当ですが、政策的に困難なので比例課税に落ち着いているのだと考えます。行政サービスは住民税の多寡に影響を受けず一律であることを考えると固定額ではない理由を探す方が本来は困難でしょう。現実として固定額になっていないのは政策的な配慮の結果に過ぎません。(一部、均等割という仕組みがあります)
昨今議論になっている防衛増税に関しても日本で生活する全ての国民が等しくその恩恵を享受するはずなので、応益負担の発想で一人当たり●円という固定額が原理原則的には正しいと感じます。防衛税を多く支払おうと有事の際に優先して保護されたり、核シェルターに入れるわけではないでしょう、であれば納税額が一律ではない根拠がありません。
応能・応益負担の議論は尽きず、税制に正解はありませんが世界には様々な税制の国家が存在することから投資家は自身の主義・思想に合致する国への納税(居住)を推進するのが良さそうです。
3. 二重課税・三重課税/負担と給付
前提として日本は二重課税を認めている国家であるため、絶対に二重課税を拒否したい方は非居住者になる必要があります。所得税-相続税、法人税-配当税、消費税-ガソリン税などです。特殊なケースとして特定同族会社の内部留保金課税という制度もありますが、資本金1億円以下の場合は該当しないので資産管理目的のマイクロ法人は回避できそうです。
これらのうち身近なものは消費税とたばこ税・ガソリン税・酒税などで生じる二重課税です。日常生活の中で発生する二重課税の事例です。二重課税は好ましくない仕組みであることは間違いありませんが、国が問題ないと判断している以上、どうしようもありません。反対の意思を示したい方は選挙での政権交代か国外移住を検討する必要があります。
相続税に関してはそもそも制度が存在しない国もあるわけで、どうしても必要な税制ではありません。税収に占める割合も低いので富裕層に対する懲罰的な嫌がらせに過ぎません。端的に言うと私有財産権の侵害です。
米国の場合、相続税はありますが日本と異なり基礎控除額が1,000万ドル超(インフレ考慮で毎年額が調整される)あり2022年であれば日本円換算で15億円程度は控除されます。大金持ちからは相続税を徴収するけれど、個人の私有財産に一定の配慮が見られます。日本の場合3,000万+600*法定相続人であり歴然の差です。
社会全体のバランスを考え出過ぎた杭は打たれることがあるかもしれませんが、日本のように少しでもはみ出したら懲罰的に叩かれる制度は問題です。相続税の原資は生前に稼いだ所得であり、既に所得税徴収後の所得です。所得税の最高税率は45%(別途住民税10%)で相続税の最高税率は55%です。生前・死後を合算すると表面税率は100%です。(住民税を含めると110%)です。実際は55%課税された後に55%の課税なので80%程度ですが80%も徴税される根拠は不明です。
これも応能負担が背景にあり、強奪(とれる)ところ盗ってやろう、という発想に起因します。応能負担を完全に否定する気はありませんが、全てはバランスの上に成り立つと考えます。義務負担が大きい場合には比例して権利が増えてしかるべきです。
感情を排して言うと「納税額=国家への貢献度」です。本来は貢献度に応じて権利の大きさが決定されるべきです。これが権利と義務の正しい関係です。巡り巡って高額納税の恩恵が自身に還ってくるのであれば、高負担もある程度許容できるのではないでしょうか?この場合には金銭的に還元させると意味がないので、非金銭的な形で差を設ける必要があります。
例えば、行政手続きを優先的に対応してもらえる、特別に24/365対応してもらえる、図書館が優先的に利用できる・書籍が無制限に借りられる、公園等の施設を優先的に利用できる、救急車を優先利用できる、刑務所での待遇が優遇される、選挙権が●倍付与される、など様々な形での優遇(還元)が考えられます。
高額納税者に対しては飴と鞭を上手く使い分ける必要がありますが、日本には鞭しか見当たりません。これでは富裕層は愛想をつかし節税に励むか海外に移住するかどちらかです。
尚、応益負担の場合には「利益」をどのように測定するかが困難です。この場合は最低下のベース課税、一律●円と都度課金の組み合わせが応益負担を実現するのに相応しいと思います。(オペレーションコスト的に見合わない可能性があり検証が必要です)
公共サービスに対する対価を住民税とすると、現状の比例課税(%)ではなく一人当たり一律●円+各種行政サービス利用時の都度課金のハイブリッド型とすることで明確に数値換算が困難な基礎的な受益部分を固定徴税で賄い、+αのサービスを享受した際にサービス受益者に課金する形が公平性の観点からは相応しいと考えられます。この場合、行政サービスを多用するものは多くの税を支払い、利用しないものは少額のみ支払う形が実現します。
4. 国家戦略と税制
グローバル化が加速し、国境の距離が縮まった現代において税制は国家の長期戦略と切っても切り離せません。日本は島国で独自の言語を持ち単一民族であるため日本人の海外移住ハードルが高いのは事実です。諸外国ではEU経済圏のように移動が自由な地域もあります。EUでなくても国境が地続きの場合には越境は容易です。
シンガポールはそもそもタックスヘイブンの立ち位置ですが、シンガポールのように優秀な人材を選別する国は人頭税(固定課税)・比例課税方式の比重が高まり、日本のような国は累進課税比重が高まると予測されます。
国民それぞれが優秀で過度な再配分に頼らずに自立的に生活できる国家にはそもそも過度な累進課税は必要ありません。累進課税は社会主義的な思想に加え、負担と給付が釣り合わない多数の給付難民によって社会的な必要性から生み出された仕組みだと考えます。
国家の税戦略としては、①優秀な市民のみで構成し税収を低く抑える、②多様な国民と貧富の差を許容する、③累進課税により貧富の差を許容しない、の3パターンに分かれる気がします。①はシンガポールで②は米国で③は日本です。今後どの税務戦略が支持を集めるか興味が湧きます。個人的には①>②>③の順番です。
①は社会を構成する人員を最初から選別することで低コストで構成員全員が満足する負担と給付を実現できます。言ってしまうと上澄み(上級市民)で構成されており、周りに広がる汚泥を見て見ぬふりをすることで成り立つ世界です。
②は現実を直視し格差を認め積極的には是正せず、最低限のサポートに留めるスタイルです。機会の平等は出来る限り担保しつつ、結果の平等には責任を負わないスタイルです。③は結果平等を目的に各人の努力や才能を無視した共産主義的な再分配アプローチです。
富裕層や優秀な人材の海外移住は確実に進んでいます。日本という国家の社会制度が大きく見直されることがなければ、今後も人材・資本の流出は避けられません。投資家は長期目線で資産保全の観点から税と国家サービスを天秤にかけ居住地を選択する必要があります。
最近、税金や海外移住ネタの投稿割合が増えてますが、投資家として自身のライフマネジメントの一環として数十年先までのライフプランを考えていると、どうしても「日本」という国家がボトルネックになる、という結論に辿り着きます。
何か解決方法は無いか、そもそも何が問題なのかを調べると主に「政治・社会保障制度(年金含む)・少子高齢化(広義では移民も含めた人口問題)・経済停滞・税制」に辿り着きます。現状これらの癌にもなりうる課題に対して日本は過去数十年に渡り有効なアプローチが出来ていません。
今後、これらの課題が適切に対応され解決されると考えるのは楽観が過ぎる、というものでしょう。よって投資家は国家や社会の仕組みが将来、自身にとって都合の良い方向に変更されるという妄想を捨て、最悪を想像しながらまずは日本で生き残るすべを、加えて日本からの脱出という選択肢も視野に入れる必要があります。
日本は経済成長が停滞し人口問題を抱えているため、今後は他先進国と同様のアプローチで乗り切ることは非常に困難です。投資家は国家に依存しない生存戦略を確立する必要があります。気が付くと「ゆでガエル」になっているかもしれませんので、政治や社会構造の変化に注意を向けアンテナを高くする必要があります。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?