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次世代金融 ChatGPTと転換点を迎える金融サービス(1)

1. はじめに 

 2022年11月末にChatGPTが公開され、圧倒的な性能からAIの実用化が急速に加速しています。これまでAIのビジネス活用は限定的で様々な前提条件が設けられており、実用的とは言い難い状況でした。 

 しかしながらChaTGPTの登場によって状況は一変し、企業・個人はビジネスにおけるAI活用を真剣かつ早期に検討せざる得ない状況となりました。

 本稿ではAIのビジネス活用の転機となったChatGPTを題材にLLM(Large Language Model)の普及がもたらす近未来の金融サービスについて整理します。 

 昨年、次世代金融として自動運転レベル5のような「自律型金融」を紹介いたしましたが、ChatGPTのようなAIの活用によってそのような未来がより現実味を帯びてきました。次世代金融の概要は以下を参考ください。

 ChatGPTは公開から3か月程度ですが、既に様々な変化が生じています。AI分野における進化はかつてないほど加速しており、2024年は今とは異なる景色となっているはずです。 

2. 臨界点を超えたAI技術の普及

 AI技術の活用はこれまでも散々議論されてきましたが、多くは実用化に至りませんでした。理由は単純で実務に耐えられる水準(レベル)ではなかったことが原因です。しかしながらChatGPTの登場によってそのような考えも見直されつつあります。 

 もちろんChaTGPTが誤った回答をする可能性があることは周知であり、正確性が求められる金融の世界では使えないという考え方もありますが、指摘の多くは今後の性能向上と業界向けのチューニングで対応可能です。 

 実用的なAIの登場によって企業・個人のビジネス環境がどのように変化するかを整理します。AI革命の影響は全業種に及ぶため金融も例外ではありません。むしろ金融は「モノ」ではなく「データ」という情報を扱う産業であるためAIとの親和性が高い業種です。 

 注意点として金融は規制業種であり、業務における「誤りの許容値」が低い産業であるため信頼性が高いシステムが求められるという点です。その点を考慮すると金融サービスにおけるAIの導入は他産業と比べ遅いかもしれませんが、一旦閾値を超えると以降は加速度的に導入が進むものと考えられます。 

 我々金融事業者は近い未来に訪れるAI社会における金融サービス像を真剣に考える必要があります。AI社会はハラリが著書「ホモ・デウス」で示したように大量の「無用者階級」を生み出す可能性があります。 

 実験的に議論されているベーシックインカム(BI)が本当に実現するかもしれません。それほど社会に大きなインパクトを持った技術革新と言えます。過去の産業革命・インターネットの登場と同様に私たちの生活を一変させる可能性を秘めています。 

 AIの本格的な普及に伴い、金融サービスの在り方も自然と変化します。現在のサービスとは抜本的に異なる金融サービスとなる可能性も高いです。AIの普及で中間スキルの労働者の業務が奪われると言われますが、実際のところ中間スキルだけでなく影響は上下にも及びます。 

 下級スキルの労働に関してはAIの普及が加速し、安価なAIの登場によって損益分岐点を超えた以降は加速します。当然、人間労働者の割合はゼロにはなりませんが、その割合は1割・2割程度まで縮小する可能性が高いと考えられます。(業務の主はAIで人間はサポート的位置付け)一般にコモン(汎用)に位置付けられる業務が該当します。 

 上級スキルの労働に関しても最初に専門スキル(知識)に依存する職業(弁護士などの士業)がAIに浸食され、専門家はAIをアシスタントとして上手く活用し、アウトプット(成果物・付加価値)にレバレッジを掛けることが強く求められるようになり、専門家の淘汰が加速します。 

 もちろん業法・規制によって一時的に競争から守られる業種もあるかと思いますが、全産業において不可逆な流れである以上、どこかのタイミングで競争圧力が押し寄せます。これはAIによるスペシャル(専門家)への浸食です。 

 次にクリエイティブ層・マネジメント層にもAIの影響が派生します。クリエイティブ・マネジメント層は比較的影響が少ないと考えられますが無影響ではありません。

 特にデジタル領域におけるクリエイティブ業務は大きな影響を受けます。クリエイティブ層はジャンルによって影響度合いがマチマチであることから自身のビジネスとAIの親和性を見極めることが重要です。 

 マネジメント層(経営層)に関してはAIが自身の業務を侵食する度合いは他の業種と比較し軽微ですが、活用次第でビジネスの結果(売上・利益)が大きく変化することから他のクラスとは異なったAIに対する先見性が要求されます。 (AI労働者と人間労働者の最適化問題など)

 コモン・スペシャル・クリエイティブ・マネジメント、いずれの職種においてもAIの影響を回避することは出来ません。各クラスによってAIの与える影響は異なりますが、全労働者は自身の労働を見つめ直す転機となるかもしれません。 

 社会の大部分の方はコモンクラスの業務に従事しています。コモンを汎用と表現していますが、一般的なホワイトカラーの多くがコモンに分類されることに注意が必要です。経営者や芸術家・スポーツ選手・弁護士・税理士など一部の職種を除いた大部分の方は実質的にコモンに分類されます。 

 例えばエンジニアの場合、俗に言うスーパーエンジニアの場合はスペシャルですが、そこそこ優秀なエンジニアの場合はコモンです。同様に企業に多数存在する管理職も大部分がコモンに分類されます。実質的に経営目線で動いている一部の上級管理職のみがマネジメントクラスに該当します。 

 どのクラスにおいてもAIの影響を回避することは不可能ですが、唯一「投資家」だけは直接的な影響を受けません。もちろん投資家も労働者の側面からはAI革命の影響を受けますが、投資家は労働収益ではなく資本収益に比重をおいているため恩恵を享受する割合が高いです。 

 AI時代におけるリスク回避は投資家へのジョブチェンジかもしれません。労働環境の前提が大きく変化することから短期間で人的資本の価値が大きく低下する可能性が存在します。昨日まで希少性を有していたスキルやノウハウが無価値になる世界が訪れる可能性も否定できません。 

 そのような場合、自身の人的資本の価値は一気に低下します。今後も終身雇用制度が残り続けるか分かりませんが、不安定な環境に晒される人的資本のヘッジは金融資本による不労所得となります。労働者×投資家のダブル属性の重要性が益々高まることになります。 

3. 普及における視点

 ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)を採用したAIは計算処理に膨大なリソースを要求しますが、ChatGPTの一般公開から数か月で早くも「軽量かつ高性能なLLM」というアプローチが登場しつつあります。

 Metaの発表した「LLaMA」や「FlexGen」などはChatGPTと比較すると軽量でありハードウェアやリソース問題に対するアプローチとして評価できます。

 LLMには「スケール則」が存在し、直近のLLMのパラメーター数は指数関数的に伸びており、それに伴い開発費も膨らみ、結果的に資本力と技術力を有するビッグテックによる独占状態に陥っています。

 意外なことにChatGPTはオープンソースではありません。ソースコードは公開されておらずブラックボックスとなっています。

 OpenAIは非営利法人の親会社のOpenAI Inc.と営利法人の子会社のOpenAI LPに分かれており、マイクロソフトが出資しているのは子会社の営利法人です。ChatGPTなどの商用サービスはOpenAI LPが開発しています。

 営利と非営利のハイブリッドのように見えますが直近の動きを見る限り、営利側に天秤が傾いているように見えます。この業界ではソースコードの公開がデフォルトであり、公開しない方が例外です。今後、ChatGPT(OpenAI LP)がソースコードを公開するかが注目されます。

 既にChatGPT類似のオープンソースのLLMが公表されており、本分野は急速な進化を遂げている領域と言えます。2023年末までには更なる進化によって、APIの拡充・サードパーティーアプリの拡充に留まらない幅広い生態系が構築される可能性があります。

 ChatGPTのような基盤は現代のアカシックレコードのようなものであり、特定企業がブラックボックスで抱え込むのではなく、オープンソースとして人類全体の共有財産として維持・管理していくのが望ましいのではないか?という考え方もあります。

 汎用LLM基盤の維持・管理に特化した非営利の国際団体を立上げ、企業・個人はライセンスに従って利用する形が望ましいのかもしれません。

 ビジネスで実用性を高めるため、汎用LLM基盤+業種別LLMの組み合わせが実務の主流になるのではないか?という考え方もあります。

 NTTデータでは金融版BERTの開発を2020年から進めており、このような特化型+汎用型が組み合わさることで、目的に沿ったより精度が高いAIが実現できると考えられます。

 イメージとしてベースとなるChatGPTのような汎用LLM基盤の機能を拡張する、中規模のカテゴリLLM基盤の使い分けです。高度な専門性を要する特定業務に対応する汎用LLM基盤は現状、非現実的です。

 人類の共有財産として維持・管理するLLM基盤は汎用性を重視し、各目的に沿った+αの学習には業界別LLMを用いるという役割分担です。これによってベースとなる汎用LLMの維持・管理の負担が大きく軽減されます。

 ChatGPTのような汎用LLMは何の分野でも90点が取れる優等生であり、91点以上を求める場合は上記の+αを組み合わせる発想です。とはいえ多くの場面では90点の汎用AIで事足りることになるのではないかと思います。

 尚、ChatGPT自体はLLMの応用の一例に過ぎず、Chatという形式以外のアウトプット(サービス)も様々考えられます。LLMというアカシックレコードに材料(プロンプト)をぶち込みアウトプットの形式を指定すればそれに応じたフォーマットの成果物が手に入るのが次世代の生成系AIです。

 現状はChatという汎用性の高いインターフェースを用いてLLMの英知に触れているに過ぎません。今後AIの活用が進む中で、より目的に沿った形にカスタマイズされることになります。

※文字数が多くなりそうでしたので複数回に分割して投稿する形を予定しております。

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