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次世代金融の設計者

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金融ビジネスの将来像を様々な角度から整理・分析し、未来の金融サービスをデザインするシリーズです。
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記事一覧

収入と余暇のトレードオフを乗り越える:最適なバランスの探求

1. はじめに  社会人であれば誰しもが、より多くの収入とより多くの余暇時間を望んでいることでしょう。しかしながら収入と余暇時間は大抵の場合、トレードオフの関係にあります。頑張って働くことで収入を高めることは出来ますが、代わりに余暇時間を失い、精神的に疲弊します。本稿では収入と余暇時間の最適化をテーマに、自身が望む趣味や余暇を楽しむのに必要十分な資金を出来る限り短い労働時間で稼ぐかを考察します。 2. 収入の最適化と足るを知る心の持ち方 社会人として働いていると仕事の価

ゴールベース資産管理シリーズ第一弾: 新潮流の探索

1. はじめに  野村證券の社員の方が執筆され日経から出版された「金融サービスの新潮流‐ゴールベース資産管理」という書籍が骨太の内容で本質的な点を的確に指摘する良書でありましたので紹介します。証券業に携わる方は一読することをお勧めします。 2. 野村證券に見るゴールベース資産管理 野村證券というと対面主体のゴリ押し営業でノルマが厳しくて体育会系の会社、というイメージをお持ちの方が多いかと思います。一昔前は回転売買やはめ込みの印象が強く、近寄りがたい印象でしたが、本書を通

AI時代のファイナンシャルアドバイス: Vanguardの先見性とAdvisor's Alphaの役割通じて

1. はじめに  バンガードは日本人投資家には低コストETFのブランドとして認知されていますが、ロボアド(VPAS)や401kの受託など様々なサービスを提供しています。本記事では単なるローコストETFブランドを超えたバンガードについて「Vanguard Advisor's Alpha」を教材に理解を深めます。 以下はバンガード社のAdvisor's Alphaの概要ページです。 2. AIの進化と心の琴線に触れる行動コーチングの力 ファイナンシャルアドバイザーはクライ

労働市場の新潮流:サラリーマン債権とサブスクリプション契約の革新

1. はじめに  一般に資本は「金融資本・人的資本・社会資本」に分類されます。本ブログでは主に金融資本に関して様々な角度から考察していますが、今回は「人的資本」に関して整理いたします。 2. サラリーマン債権:労働者の権利と価値の再定義 ピケティの「21世紀の資本」でr>gが示されて以降、多くの方がr収益を得るために人的資本から得た収益を金融資産に変換するゲームに勤しんでいます。これが一般人が資本主義ゲームで生き残る唯一の手段だからです。  本稿では金融資本のベース

金融の未来地図:手段から価値への進化

1. はじめに  本稿は主に金融関係者向けの記事となります。金融産業がどのような性質を持ち、他の産業とどのような共通点・相違点を有しているか、今後の業界の展望などについて私の分析を示します。(金融業界以外の方は業界勉強の感覚でお付き合いください。) 2. 金融のジレンマ:手段としての価値と限界 最近はインフレの影響で様々な財・サービスが値上がりしています。本章ではインフレと金融ビジネスの関係性について整理します。  インフレによって食料品やサービスの値上げが顕著です

STO市場の現状整理と発展に向けた検討

1. はじめに  2020年からスタートしたSTO(Security Token Offering)も4年目を迎え(実質的な営業開始からは3年)色々と見えてきたことを整理したいと思う。  筆者はSTOの立上げに際し、業界団体の立上げ・証券会社でのST事業立上げのコアメンバーとして関わっており、制度設立の経緯や発展の事情も踏まえ、現在の当事者から少し外れた立場から客観的に評価したい。 2. STOの本質 ST(Security Token)はデジタルな形式で発行・管理さ

次世代金融 ChatGPTと転換点を迎える金融サービス(1)

1. はじめに  2022年11月末にChatGPTが公開され、圧倒的な性能からAIの実用化が急速に加速しています。これまでAIのビジネス活用は限定的で様々な前提条件が設けられており、実用的とは言い難い状況でした。  しかしながらChaTGPTの登場によって状況は一変し、企業・個人はビジネスにおけるAI活用を真剣かつ早期に検討せざる得ない状況となりました。  本稿ではAIのビジネス活用の転機となったChatGPTを題材にLLM(Large Language Model)

サブスクリプションサービスの未来

はじめに  サブスクリプションサービスの拡大が続いている。2010年代はサブスクリプションサービスが拡大し、音楽・動画・書籍、服・バック・時計などデジタル・非デジタル問わずサービスの幅が広がりました。本記事ではこれまでのサブスクリプションを整理し、これからのサブスクリプションを予測しながら対比させ、どのような変化が生じるかについて考察いたします。  サブスクリプションには一定の規則・性質があり、多くのサービスはその枠に従ってデザインされているように見えます。今後登場するサ

有価証券の歴史とSTO②

はじめに  前編では「トークン化された金融」として有価証券の変遷・STO誕生の契機・問題点について整理いたしました。後編ではビジネス観点からSTOを分析し、よくある誤解についての整理・STOビジネスのグランドデザイン・STOの意義・個人的に期待することを整理します。STOの大枠理解は前編を参照ください。 1. よくある誤解前編は概論でしたので今回はポイントを絞りつつ深堀していきたいと思います。STOのメリット・特徴として一般的なメディアでは以下のような説明が見られます。

有価証券の歴史とSTO①

はじめに  前回記事では「DeFiの本質価値」として概要整理・伝統的金融との対比・規制の考え方・今後の展望・課題解決・市場価値について整理しました。前回の「分散化された金融」と関連し今回は「トークン化された金融」としてSTO(Security Token Offering)について有価証券の歴史と関連させ、その意義を整理いたします。前半は有価証券の変遷・STO誕生の契機・問題点について整理し、後半でビジネス論点を深堀をいたします。 1. 有価証券の歴史 最近投資を始めた方は

DeFiの本質価値②

はじめに  前回の投稿では「DeFiの本質価値①」として「DeFiの概要・伝統的金融との対比・規制の考え方」について整理いたしました。今回は「DeFiの展望・課題解決に向けたアプローチ・相場と投資価値」に関して考察していきたいと思います。前回投稿は下記を参照ください。 DeFiと金融の未来予測 前回の投稿では少しネガティブな見解も示しましたが、DeFiは一過性のブームではなく金融サービスの1つのモデルとして生き残る可能性が高いのではないか?と感じております。ただし伝統的金融

DeFiの本質価値①

はじめに  本記事ではDeFi(Decentralized Finance)、日本では「分散型金融」と呼ばれる新しい形態の金融サービスについて、「伝統的金融との比較・規制の方向性・投機/バブルの可能性・将来性」について整理することでDeFiの本質価値を明らかにします。メディアやSNS等で一般に主張される内容とは異なった視点を示すことで、次世代金融サービス設計の一助になれば幸いです。 DeFi概要 DeFiと呼ばれる各種サービスは2019年頃から広がりをみせ、2020年には

自律型金融の未来と変化する生活②

はじめに 前回の投稿では「自律型金融の未来と変化する生活①」と称して、「自律型金融」とは何かを自動運転レベル5・a16zのブログ等を事例として紹介しつつ説明し、後段で私なりの自律型金融の理解を示しました。今回は自律型金融の普及で生活にどのような変化が訪れるか・実現に向けた課題としてどのような懸念が存在するか考察していきたいと思います。前回投稿は下記を参照ください。 自律型金融に至る道筋と課題 自律型金融が目指す方向性について前回の投稿で説明いたしましたが、当然ながら一足飛び

自律型金融の未来と変化する生活①

はじめに 本記事では「自律型金融の未来と変化する生活」と称して、「自律型金融」とは何かを解説し、自律型金融サービスが普及した未来における金融サービスと変化する生活について整理いたします。流れとしては「自律型金融とは何か」を前段で整理し、後段で「自律型金融の普及で変化する生活」について考察いたします。今回は「自律型金融」というあまり聞き慣れないテーマに関する考察であり、現時点において用語の定義も充分に定まっていない状態であることから必ずしも記載した通りの未来が訪れるわけではない