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炊事班長 ①


邱 力萍チュウ リーピン

              2009年発行 ランチュウ作品集より


1.
 
 王さんが運転しているトラクターは、白煙をはきながら、敷地の正門を出て、右に曲がると、車道とまっすぐに走った。私と母さんの乗った荷台には、エンジンからの大きな振動が伝わってくる。
 正門まで追いかけてきて見送る兄ちゃんに、母さんはずっと手を振っていた。
「…、…」
 兄ちゃんは何かを言おうと何回も口を開くが、言葉は出てこない。
 私なら、せめて「母さん」と叫ぶのに。
 兄ちゃんのことは、いつもよく分からない。
「もう帰って学校に行きなさい。母さんは週末に帰るから」
 ピンとつま先たっている兄ちゃんの姿はだんだん小さくなり、見えなくなった。母さんの手はまだ宙に挙げたままだ。
「母さん、兄ちゃんもういないよ」
 私は母さんの手を引っ張った。
 母さんは私の髪の毛を撫でてから手を下ろし、小さな嘆息をもらした。
「お兄ちゃん、何を言おうとしたのかな……」
「きのうだってそうだったよ。ウジウジして結局何もなかったじゃない。兄ちゃんはもう五年生だし。父さんもいるから大丈夫だよ!」
 母さんがこのところいつも言っていたことを、今度は私が言い聞かせた。
 私は何と言っても、これからのことが楽しみだ。
 車も運転できる王さんは、研究院で何十年も勤めてきたベデランだ。トラクターは彼の手にかかると、おもちゃのように簡単に動く。
 カッコイイな~!
 
 しばらく走ると、道が細くなってきて車も人の影も少なくなってきた。
 二月の風は冷たく、車道の両側の畑には緑が見えない。
 畑を耕すのは三月になってからと母さんが言う。
 それなのに、お正月が過ぎたばかりの今、母さんは生活用品をびっしり詰めた大荷物を持って、急いで田舎に行かなくちゃならない。
 私たちは母さんが働いていた研究院の敷地から遠く離れた地方に行って、果樹を育てることになったのだ。
 母さんは果樹の技術研究者。これまでは一か月に一度ほど農村に行っていたが、今回新しい品種改良のために、半年間そこに住み込むことになった。   これは今各研究室が行う噋点という仕事のスタイルだ。
 出張の度に、母さんは桃の花やら枝やらよく持って帰って来た。そして楽しけに、父さんにいろんな人の話をする。
「田舎って、何があるの?」
 そんなことを聞いた私に、母さんはただ笑って
「何もないよ」と答える。
 今あたりを見渡してみて、それは本当のことだったと思った。
 レンガを積み上げた家らしきものが、畑の際に建てられている。壁が白く塗られて、その上に「提高警惕、報衛祖国」のスローガンが、赤く大きな文字で書かれていた。
 家の前には土で盛り上げた半球状のものがいくつもあって、母さんがそれはお墓だと教えてくれた。
 家が見えなくなると、人の影もほとんど見えなくなった。
 道の両際に、修理しても使えないパンクしたタイヤや、穴のあいた笊があっちこっち捨てられている。風といっしょに、牛の糞のような臭い匂いまで運ばれてきた。
 私たちが乗っていたトラクターは、車もめったに走らない車道を戦車のように暴走している。
「兄ちゃんも連れて来られたらよかったのにね」
 母さんはエンジンの音に負けないように大声を出して叫んだ。
「何で連れて来ないの?」
 私は聞いた。口とはうらはらに、本当は兄ちゃんに来て欲しくないのに。
「兄ちゃんは学校があるでしょう。母さんは仕事だし、子供を全部連れてきたら、仕事が出来なくなる。研究室でのイメージも悪くなるのよ」
 みんなと同じ給料をもらって同じように働けないのは、ほかの人に迷惑をかける。
 母さんがいつもそう言っているが、私には関係ないことだ。
 どうでもいい!私は母さんについて来られたら、それで十分!
「母さん。もう、どれくらい走った?」
「また四十分もたってないよ」
「後どれくらい?」
「一時間はかかるでしょう。王さん、そうよね?」
 荷台には、洋服やら小さな鍋やら、魔法瓶やら、荷物がいっぱい。空いたところに足をつっこんだ母さんは、小さな箱の上に座り、膝から落ちそうな大きな布団を抱え直した。
「一時間?それは無理だよ。早くても、一時間半はかかる」
 王さんは頭を斜めに傾げて叫んだ。声は低くて、太かった。
「え~!そんなに!」
 目の前の痩せた畑には、人影どころか豚すら見えない。道路沿いには、お店はもちろん、建物もない。
「お腹が空いた!お店がないの?何か買って!」
 いくら走っても何も変わらない風景。お腹が「グーグー」と鳴り始めた。
「こんなところで、何を言っているの。文句言わないなら連れていってあげると約束したでしょう?まったく!」
 母さんが私の頭を軽く叩いた。
「あっちに着いたら、ちょうとお昼の時間になるわ。李班長がご飯を用意してくれたはずよ。もう少し我慢しなさい」
「李班長って誰?」
「ご飯を作ってくれる人。私たちが泊まるところの向かいに住んでいるの」
「え、いつも作ってくれるの?」
すごい。ご飯を作ってくれる人がいるなんて!
「……あまり近づかないほうがいいかも」
「何で?」
 仕事の邪魔になるとか?
「ちょっと変な人だから」
「どういうふうに?」
 私はその李班長のことがすごく気になった
「怖いの?」
「怖くないけど。まぁ、あなたに言うことじゃないわね。会ったら分かるわ」
 母さんは何かを隠していたように、苦笑いを浮かべた。
「グーグー」
 お腹がまた鳴った。
 お昼御飯を食べたいな~
「王さん、早く走って!」
 私は王さんの背中に向って、エンジンより大声を出した。
「はいよ!」
 王さんは馬に鞭を入れるように、アクセルをグンと踏む。
 黒煙がどんどん出て来て、風も一層強くなった。
 
 
2.
 
 トラクターは私たちを小さな町に連れて来た。
 町と言っても、今まで見た風景より少しい人が多く見えただけ。
 また、瓦がついた家が並ぶようになった。
 しかし、どう探しても、店が一つしかないようだ。しかも、量り売り用の醤油、お酢、お酒の樽しか置いてない小さな店だった。電気もついてないし、とても暗い。
 それは「共消社」という農村の店だと、母さんが教えてくれた。
 いいものを置いても買える人がすくないため、生活に必要な最小限のものしか置いてない。 
 飴とか、ビスケットとかも、置いてないのかな。
 私たちが泊まる人民公社が店のすぐ近くにあった。
 人民公社は農村の市役所のようなところだ。母さんが出張の時に、いつもここに先に来るという。
 コの字になった平屋に、いくつの弁公部屋が並んでいた。私たちが泊まるところはその一番奥の部屋らしい。
 母さんは布団を抱え下ろした。王さんは、私たちが持ってきた洗面用の桶やら、魔法瓶やら運んでくれた。
「書記弁公室」「放送室」など文字がついた札がドアのすみにかかっている。
 秘書の小劉が私たちの声に気付き、書記弁公室から出て来た。
「ずっと待っていましたよ」
と母さんの手から布団を受け取って、奥へと案内してくれた。
 小劉と呼ばれたのは若いせいなのか。口あたりの薄い髭は、まだ柔らかい。
 真ん中の大きな石畳みの通路を踏んで母さん達についていたら、右側の部屋から、炊き上がったご飯の匂いがした。
 匂いで分かる。その辺が食堂だ。
 ご飯の匂いに、私のお腹は恥ずかしくもなく「グーッ」と鳴った。
 あの、変なおじさんは…
 お母さんが苦笑いで話したあの李班長のことを思い出した。どんな人なの?私は目の前の扉の開いた部屋を覗き込んだ。
 誰もいない。
 土のままで床になっているこの部屋が食堂だろうか。床に箒で掃いた跡が残っている。
 二人掛けの長い木の椅子が半分食卓から降ろされていた。
 李班長は今どこにいるかな?
「李班長。お元気ですか」
 母さんの声を追うと、一つ先の部屋の前、二段の石段の上に、背の小さいお爺ちゃんがしゃがんでいた。手に持っていた細長い筒に、タバコの葉を押し込んでいる。
 この人だ。
 みんなまだ冬物を着っているのに、李班長が着ているのは古くなった紺色の「中三装」だけだった。
 中三装とうのは中国の建国の父孫文が愛用した洋服のことだ。
 ボダンを閉めていない襟首から、赤いランニングが見える。
「ふうー」
 母さんが挨拶しても、李班長はたばこを入れる手を止めようともしなかった。
 やっぱり変だな。だって、母さんはどこに行っても、みんな喜んでくれると母さんが教えてくれたのに。
 劉さんが言った。
「何回か使ったことがあると思いますが、都会のようにおかずが豊富じゃありません。でもお腹を空かせることはないと思いますよ。一日、使うお湯もここで貰えます。近くて、便利ですよ」
 申し訳なさそうな顔をして母さんに話していた劉さんは、とてもいい人に見える。
 劉さんは母さんの顔を見て、話を続けた。
「林先生は、我々公社の桃の品種改良のために半年ここに住み込んでくれます。我々は感謝の意を表すために、書記が李班長と相談して、今日は特別に肉料理を用意しました」
「肉?」
 生活必要品は、一人あたり買える量が決められている。お肉はひと月に、250グラムしかない。
 250グラムは、どれくらいの大きさか分からないけれど、私の拳ぐらいしかないと母さんがいつも教えてくれた。
 それではとても足りないので、母さんはいつも闇市で高額を出して、農民からお肉を買ってくるという。
 私は嬉しくなった。
 母さんってすごい!母さんが来たから、お肉を用意してもらえるんだ。
「ねぇ、李さん。今日の特別メニューは何?」
「…、…」
 話しかけられているのに何も言わず、李さんは白目でこっちをちらちらっと見た。
 本当に白目だ。片方の目は薄黄色に混沌としていて、目玉も真っ黒ではなかった。
 映画によく出てきた悪い人の顔つきだ。
「買ったよね。肉を」
 話の噛み合わない李さんにいらだち、劉さんはもう一度声を上げた。
 李さんは一口深くたばこを吸いこんで、ようやく声が聞こえたかのように
「ない!」
と返事した。
「ない?昨日何回も言ったじゃないか!林先生は私たちを助けに来てくれたんだから、ちゃんと肉を買ってくるようにと!」
「上から人はしょっちゅう来る。来るたびに肉を買うって?ほかの職員は、毎月食べられる肉の量が決まってるんだ。いつも上の人に特別なことをしてたら、他の人の食うものがなくなっちまう」
とういうことは、肉がない?
 だったら、初めからそんなこと言わなきゃいいのに!
 私は母さんの顔を覗き込む。
 母さんの顔がぱっと赤くなった。
「いえ、いいです。私たちは農業を手伝うために来たのですから、皆さんと同じ食事で結構です」
「いや!お肉くらいは!李さんは悪い人じゃないだけど、今日はどうしたんだろう!」
 劉さんは首を横に振って、すっかり困った顔。
「李班長、書記が決めたことを従わないと、怒られるのはあなただけじゃない。私も巻き添えを食うんだよ」
「お前は心配しても、俺は気にしない。そんなことまでやらなきゃいけないなら、炊事班長なんてやめてやるよ!」
 李班長は「ウッヘン」と咳をし、劉さんから顔をそ向ける。
「李さん、その性格を直さないと、いつか痛い目にあうぞ」
「お前には言われたくないよ。髭もろくに生えていない若造に何か分かる」
 劉さんの一言に怒りが爆発したように、李班長は片目を使って睨んだ。
「もういいです。それよりも、私は今回こどもを連れて来ました」
 母さんは私の名前を呼び、劉さんに挨拶をさせた。
「心臓が悪いので、どこにも預けられなくて……連れてきました。みんなさんにご迷惑をかけますが……」
 心臓が悪いと言われても、私は全然そのような感じがしない。生まれつきの心臓病だから、私はもう慣れたわと母さんがいつも言ってくれた。
 後一年、しっかりと栄養を付けて、七歳になったら手術をするって母さんが言った。じゃないと、二十歳まで生きていけないそうだ。
 手術は、麻酔をかけたら痛くないと母さんが教えてくれた。
 それよりも、この心臓病のおかげで、今母さんと一緒にいられることが嬉しい。
「大丈夫、大丈夫。桃の栽培を研究地として農業研究院は我が公社を選び、力を入れてくれることに感謝します。それで、生産力がぐんと伸びたら、公社社員たちの生活も少し改善されるでしょう。それを望んでいます」
 肉が用意できなかった代わりなのか、劉さんは言葉にありったけ思いを込めているようだ。お母さんは劉さんに手を差し出した。
「一緒に頑張りましょう。私一人の力じゃ、何もできないので、みんなさんのお力を貸してください」
 握手が終わっても話が続く。
 その間、李班長は何でもなかったかのように厨房に戻り、火種を貰ってきて、火の消えたパイプの先に付け直した。
 李班長の片足はとても細く、ズボンの中で棒のように見える。そして、李班長は動くたびに、その足を引きずっている。
 片目、引きずる足。
 映画の中によく出てくる悪者にぴったり。
私はまた母さんの背中に隠れ、母さんの上着の裾をギュッと握った。
 
 
3.
 
 初日だけ、母さんが一緒にいてくれた。
 布団を片付けたり、洋服の置く場所を考えたり……建物をグルッと一周回って、母さんは私の気になるところを案内してくれた。
 トイレは、平屋の入口を出たところにある。座るような便座がなくて、ただ一本の溝のようなものが地面に掘ってあるだけだった。
 母さんは何回も私の手を持って、しゃがみ方を教えてくれた。
「くれぐれも落ちないよう気を付けて。それと、トイレに来る時に必ずトイレペーパを持ってきてね」
 落ちても死ぬことはないが、流す水がない。一日一回お掃除する人が来るまで、ウンチはずっと溜まっている。
 もういやだ。
 私は家に帰りたくなった。
 兄ちゃんはいいな。こんなところに来なくていいから!
 トイレにいる間、私はなるべく息をつめて呼吸数を減らしていた。
 
「ここは放送室」
 やっとトイレから出てきて公社の敷地に戻ると、母さんは手前のドアにかかっていた白い札を指差した。
 ノックすると、中から三つ編みの女の人が出てきた。
「林先生!また来てくれたのね!今度は長くいられるんだったよねー」
 女の人は母さんの手を握って、とても喜んでいた。
「これが例の夕雨ちゃん?かわいい!林先生にそっくり」
 女の人は私の手を握り、しゃがみこんで私の顔を見上げた。
「何歳?」
 私は急に恥ずかしくなった。母さんの後ろに回って、じっと彼女の赤いセーターを見る。
「私は趙小宇というの。趙姉ちゃんと呼んでもいいよ」
 私はどうがんばっても、小さな声しか出せなかった。
 でも、趙姉ちゃんが好きだ。だって、彼女は母さんのことが好きだもの。
 みんないい人なのに、あの李班長だけどうして悪い人なの?私たちがここに来たのを、みんなが歓迎してくれる。あの人だけそうじゃないみたい!
「ここは電話の交換室でもあるから、邪魔をしに来ちゃだめよ。でも、どうしても母さんに会いたい時には、お姉ちゃんに頼んで電話をかけてもらっていいから」
 母さんは趙姉ちゃんの肩を叩いて言った。
「ごめんね。私は昼間にいないから、この子は一人になるの。学校に行ける年でもないのよね。どうしたらいいか考えなきゃ」
「林先生、大丈夫。私、仕事は忙しくないから、夕雨ちゃんを見てあげるよ」
 趙姉ちゃんは部屋から一つの飴を持ってきた。
 パイナップルの絵柄のついた包装紙だった。
 ずいぶん古いかも。包装紙に埃がつもっているようだった。
 それでも飴だ。
 ここに来て、家にあったのと同じものを初めて見た。
「寂しかったら、いつでも来て!でも、言うことは聞かなきゃだめよ」
 趙姉ちゃんは私の頭をなでた。
 私もお姉ちゃんのように、長い三つ編みにしたいな。
 私の肩にかかったこの二本の三つ編みは、ウサギのしっぽのように短い。
 
 書記室ではほとんどあいさつをしただけ。
 公社社長室でも同じだった。
 最後に行ったのは、やっぱり厨房だった。
 お昼だけ集まってくる人達が、仕事の時間になると、みんなあっちこっち出かけて行った。
 誰もいない食堂は、椅子がひっくりかえされて、テーブルに片付けられている。
 地面に落ちたご飯粒も野菜くずも、すっかり消えていた。
 おかずの匂いだけが空気中に漂っている。
 お昼は、白菜と春雨の煮込みだった。ミンチ見たいな肉は僅かに野菜の間に挟まれているだけ。
「李炊事班長!」
 母さんは李さんと呼ばなかった。
「何で炊事班長って言うの?」
 私は母さんの手を握った。あの変な人に会いたくない!
「彼はね、以前軍隊に居たの。その時から炊事班長だったんだって。だから、みんな炊事班長と呼んでいるのね」
 李班長はいなかった。
 どこにもいなかった。私はほっとした。
 
 母さんと部屋に戻って、たった一つの電気をつけた。
 太い丸太の木が天井に渡っていて、あたりの壁は土で塗られている。
「母さん。この壁、雨が降ったらとけっちゃうの?」
 私は手を伸ばして、土の壁から一本の細い藁を引っ張りだした。
「そんな簡単に溶けないよ。ほら、外の壁はちゃんと石で固めてあるから、大丈夫!」
 
「あのー」
 部屋に入れば嫌な人と合わずに済むと思ったのだが、李班長はやってきた。
「ここでは、電気はすべて公社のものだ。勝手に電気を引いて、ストーブを使っちゃいかん」
 李班長は入口の隅に置いた小さな電気ストーブを指して、どうも注意しに来たようだ。
「はい」
 母さんは素直にそう返事をしたが、明かに気分を害したようだ。
「それと、子供の分の糧票は大人の半分でいいから、きちんと出すように」
 糧票はお米を買う権利を証明するチケットだ。
「ひとつ聞いていいですか?」
 母さんは今の話題を早く変えたかったのだろう。李班長の話を途中でさえ切った。
「牛乳を買いたいのですが、どこで買えるのか、ご存じですか」
 牛乳は私が毎朝欠かさず飲む栄養食品だ。今回ここに来る時に、牛乳はどうやって手に入れようかというのが一番の悩みだった。
 食料品の買い物はすべて李班長一人で行く。彼はよく知っているはずだった。
「牛乳?あなたたち知識分子は、あんな外国人が飲むようなものを飲むのか。俺は知らん。ここに来たら、みんなと同じものを食べ、同じことを考えなきゃいかん!」
 訳もなく、李班長に説教された。
 李班長が帰った後、母さんはドアをしっかり閉めてベッドにどすんと座り、長い溜息を吐きだした。
「しようがないなぁ。一所懸命やっているつもりなのに、知識分子ってだけで、誤解されるんだもの」
「あの人、絶対いい人に見えないもん。片目だし、足も変だったよ」
 私は母さんの隣に座り、母さんの腕をギュッと掴んだ。
「私がやっつけてあげるね」
 
 

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