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45【最後の晩餐】


6月28日入院前日

長かったー
ここまで本当に長かったー
45話もあったなんて
読んでる人も長かったよね、笑

4月15日から始まって2ヶ月半
気持ちも身体も
あっち行ったりこっち行ったり

ずいぶんと長いこと
使ってなかった紫色の
海外旅行用とトランクを出して

おっきいクッションやら
パジャマやらタオルやら
ムウのAPPLE姉妹やら

読めるかどうかわからない本やら
そんなものを不安と共に
カバンに詰めて準備完了

夕方、
最後の晩餐にと

ルウと二人
びっくりドンキーに向かう

遡ること
31年前の1991年の10月5日
ルウとムウは出会った


その日は仕事中だったので
次の日に門真の運転免許試験場に
ルウの初めての免許更新に
連れて行く約束をしてその日は別れた

10月6日の朝、8時ごろ
ムウの家に電話がかかってくる

おはよー 行くよー


ルウからだ

出会ってすぐだったその約束が
守られるかどうか半信半疑だった
ムウは朝からのその電話のベルに
ほんの少し身体が浮いた気がした

おはよー、OK
今から向かうね。


シンプルなこのやりとりだけど
ムウはとってもドキドキしながら
急いでお出かけの準備をして
ルウの家に向かう

茨木市のムウの家から
東住吉のルウの家まで
高速で飛ばしても
まぁ1時間近くはかかる

3階建の細長いマンション
階段を駆け登って奥から3つ目のドア

ピンポーン

と呼び鈴を鳴らし

はーい

と出てきたルウを見て

ムウは衝撃を受けた


すでにあの電話から
1時間以上経ってる

なのになのに
彼女は

パジャマだった


あ、どうぞー
今、洗濯してるから
上がって待っててー

なんということでしょう

この無防備?

ただ単に何にも考えてないのか。。
ひょっとして作戦か。。。

ムムムム、今まで
全く受けたことのないこの感じ

ここまでオオカミかもしれない
ムウを信じちゃってる感じ

こんなに無防備に
ムウを受け入れちゃっていいの?


普通は、バッチリ準備して
待ってると思うよね

多少は薄ーく壁を立てながら
お互いに少しずつ
その壁を越えて行くっていうか
外して行くっていうか
なんていうか


おいおいおいおい

あ、
そうか、そうなのか
恋の予感を期待してるのはムウだけで

実は彼女にとって
ムウはただのアッシーか

車を出してくれるだけの
便利なお兄さんなのか?

そうかそうなのか、
ムウは異性として
なんの魅力もないやーつなのか?

とかなんとか考えながら

飾らないその姿勢

鼻歌を歌いながら洗濯物を干す
その姿になぜかわからないけど
ガツンとやられた

ガツンとやられてしまったのだ

ムウは変にドギマギしながら
部屋についていた有線放送を
ガチャガチャと回し
音楽を全く聞いてないけど
聞いてるふりをしていた


なにゆえこんな話が始まったかというと

その日、ムウがルウの免許更新に
連れて行ったお礼として

びっくりドンキーに
ルウが連れて行ってくれたから


この時代の男子たるもの
女子に奢ってもらうなんて以ての外
何がなんでもどんなビンボーでも
男が絶対、奢るんだっていう
ヤンキーのカッコつけ文化で育ってるムウは
それまで女性にご飯をご馳走になったことはない

だけど
がんとして

ここは絶対、私が出す


と言って聞かない彼女の迫力に
押されて、渋々、行列に並んだ
(当時のびっくりドンキーはほんとに
 すんごい行列で平気で1時間以上待ってた)

行列と渋滞が何より嫌いなムウ だけど
それはもう恋の花咲くネズミーランド状態
いくらでも待ちましょうよという感じ待ってみたら

これがもう衝撃的に美味しくて
それまで食べてたハンバーグとは
全くもって違う味で
(いやきっと多分、恋の味が混ざってるんだけど)

そしてテーブルの上には

いちごミルク

二つのストローが刺さったいちごミルク

もうね、本当ーーーーに
めちゃくちゃ美味しかったのよ

そこからムウとルウの物語が
始まって30年と半年、
ずっとずっとびっくりドンキーは
ムウたちと共にあった


二人でいるときも
子供ができたとわかった時も
生まれて少しずつ成長した時も
家族が増えて大きくなってきた時も

ずっとずっと
チーズバーグディッシュ&いちごミルク

途中、ルウが牛乳アレルギーで
飲めない時期を乗り越えながらも
また飲めるようになったいちごミルク

それをこの日の
最後の晩餐に選んだ

そしてまず運ばれてきた
いちごミルクを一口飲んで


あー美味しいなぁ

ほんまに
あのとき、ルウが奢ってくれた
いちごミルクは最高やったなぁ

あれはあの時まで、生きてきた中で
多分、1番美味しい飲み物やったと思う

いろんな意味で嬉しかったなぁ

今もほんまにそう思うなぁ


というと

なんでそんなこと言うのよ


となぜかルウがちょっと

怒り気味


なんでそうやって
イチイチ、詩的な感じで言うのよ

そんなしみじみしないでよ


と涙をいっぱい溜めた目で
ムウに言った

いやいやいやいや
そんなつもりはないよ


これで最後とか思ってないから

ね、

いやだからルウの方が
考え過ぎやって


もう、ほんとにイチイチ
詩的にするのやめてよ


とブツブツ言いながら
運ばれてきたチーズバークディッシュを

涙をポロポロこぼしながら

食べたのでした

いろんなことを
多分、いっぱい溜めてたんやね

ごめんね 
そんな気持ちにさせちゃって
ごめんね

と思いながら
何にも言えずにアタシも黙って
チーズバーグディシュを食べたのでした


あ、なんか
また惚気話になってごめん

だけどね
やっぱり命に関わることってね

もう最後かもしれないって
思いながらこうして
一瞬、一瞬を過ごすってことよね


生きてるからには
いつ死ぬかなんてわからないけど

ほんとにね
そんなこと考えずに

なーーんにも考えずに
のーーーてんきに生きられたらいいのにね

でもね
イチイチ詩的って
思われるようなドラマが
生きてる中には流れてるってことよね

明日、ムウは一人で病院に向かう


ルウや家族を置いて
一人で病院に向かうよ

またいつかきっと
びっくりドンキーで
ハンバーグといちごミルクを飲める日を
夢に見て

言い訳するわけじゃないけど
ほんとにムウは詩的になった
つもりはないねんよー 笑

教訓
:味覚の記憶ってマジですごい
:この日のいちごミルクは氷が無くっていて
 コップも変わっていたけど味は変わってなかった
:お願いだからずっと変わらないでいてね



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