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ファンサービス考

 ファンがコミュニティを形成すると、その中から無意識に「ファン」の立場から逸脱する人が現れる、という原則がある。

 例えば「ファンサービス」について語るとする。特に「どんなサービスをすべきか」という話になるとそれが顕著になる。
 まず、コミュニティを形成するのは皆「ファン」だという前提がある。ファンだから当然サービスを享受する立場だ。だからこういう場では率直に、自分がして欲しいと思うサービスを各々が思い々々に挙げていけば、共感を得られる案が一つや二つは出てくるだろう。

 つまり我々はファンだから、ファンの立場で考える。そういうシンプルな姿勢で良いと思うのだが、なぜか、かなりの確率で「球団の営業とか広報とか企画の人」になりきってしまう人が出てくる。たぶん、無意識にだろう。「それでは女性や子供は喜ばない」「そんな予算はない」云々。

 女性や子供がどうすれば喜ぶかは女性や子供しか知らない事だし、予算云々は予算を把握している人にしか言えない事だ。

 ファンが暴走した時、球団の立場に立ってブレーキをかけようとするのは意識的なものだと思う。しかしそれを無意識に行う人には、普段から「自分を別格っぽく」見せたそうな振る舞いがある。その帰結として「不特定多数のファン」を離れ「球団の人」になりきってしまうのだと思う。要は他の人たちに対して「マウント」を取りたいのだ。

 もし本物の球団関係の人が話題に加わると、それはそれで良い舵取りの役目になりそうだが、「球団関係の人になりきった人」が出てくると厄介だ。コミュニティを「マウントを取り合う場」と勘違いした人が紛れ込んでしまった顛末についてはその辺のコミュニティに色々とサンプルがあるので詳しくは述べない。

 で、私が考えるファンサービスだが。

 やっぱり、勝つことが一番嬉しい。他の事がパッとしなくても、勝てばすべてが許せてしまう。そういう、勝つ事が一番のサービスと考える古くてシンプルなファンはまだまだ沢山いる。

 しかし、誰もがそうではないし、そもそもその考えだと勝てなかった日はサービスをしなかった事になる。しかも今は、誤解を恐れずに言えば勝つことよりもチームを存続する事が大事とさえ言える時勢だと思う。

 そういう前提をふまえて、自分が球団にして欲しい事は何だろう、と考えた時に即思いついたのが、「顔の見える情報公開」という事だった。具体的には球団のトップが、2ヶ月に一度くらいファンを招いて懇談会みたいな事をやって欲しいと。

 ここで言う球団のトップとは、球団代表や社長の事だ。オーナーでは恐縮するし、監督では目的が違う。実際に球団の実務を取り仕切る代表や社長である事が大事なのだ。

 ファンはいつも球団に対し微妙な不安を抱えているものだと思う。球団は決してファンを置き去りにしているつもりはないと思うが、ファンがそう感じたらそうなのだ。球団の偉い人に直接聞きたい事、言いたい事は皆多かれ少なかれ持っていると。また不安でなくとも、このチームをどうしたいのか、そのビジョンを聞きたいと思っている。

 スタイルは質疑応答形式でも何でも良いが、忌憚なく話せる雰囲気がある程度必要だ。ファンが球団のトップと直接言葉を交わす機会が増えれば、ファンの球団に対する信頼感みたいなものは増すし、球団にとってもファンの文字通り生の声を聞く事は無駄ではない筈だ。

 ただでさえメディアの無責任な報道に普段からファンは翻弄されている。そこから上がる疑問や疑念の声に答える事ができるのは当事者しかいない。

 例えば、今の西武なら、「最大の弱点である攻撃力をどうするか」についてファンはやきもきしている。そして仮にめぼしい補強はないまま来年の開幕を迎え、同じような展開になればさすがに「ファン離れ」が起きるだろう。こういうケースでファンが本当に不満に思うのは、補強がない事以上に、「どうするのか」というビジョンが示されない事なのだ。例えば「補強はほどほどに、選手よりコーチを入れ替えて現有戦力を鍛える」という明確な宣言があれば、補強がなくともファンはそれを信じて応援する事はできる。それを現場ではなくフロントの口から聞きたいのだ。

 もちろん経営上の機密に関わるような事、つまり言えない事までは言わなくて良い。しかし言える事に関しては直接ファンに言う機会を持って欲しい。参加できるファンは抽選で決める事になるが、黙っていても参加者は結果や印象について他のファンにフィードバックしてくれるだろう。WEB上のやりとりではなく、直接話す事が大事だ。

「なぜ球団がファンに対していちいちそんな事をしなくてはいけないんだ」と思った人もいると思う。

「サービス」には2通りの意味があって、ひとつはサービス自体が商品である場合。もうひとつは通常の商行為とは別に何かを「サービス」する場合。勝つことは前者で、それは常に提供できる保証はないから、後者の部分を強化する必要はあると思うのだ。

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