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手塚治虫の漫画に川崎球場が出ていた

手塚治虫『ふしぎな少年』(1961年~1962年)

 13才の少年三郎は、ある日工事中の地下道で「四次元空間」に迷い込み、四次元空間の住人である「おねえさん」から「時間を止める」事が出来るという特殊能力を授かる。そしてその能力で様々な事件を解決する。

 で、ある日アメリカの大統領がうっかり寝ぼけて日本に向けて核ミサイルを発射してしまう(笑)。日本の政府は飛んでくるミサイルを止める事を三郎に依頼。なんとかミサイルを川崎球場の上空(笑)で止める三郎だが、ミサイルを処理する方法がわからない。

 そこで四次元のおねえさんの力を借り、ミサイルの軌道に空間の裂け目を作る。その裂け目はアフリカの砂漠につながっており、ミサイルは無事砂漠で爆発(酷いな)。

 しかし川崎球場での大洋×巨人戦で長嶋のホームランボールが消え、観客数人も消えるという事件が発生。もちろん行先はアフリカの砂漠であり、逆にアフリカからラクダとかがこっちに来てしまう。

 手塚治虫が唯一手を出さなかったジャンルがスポーツと言われ、一瞬でもスポーツ、それもプロ野球の描写が続くのは非常に珍しいと思った。描かれた川崎球場は、スタンドが二層式(たぶん)だったり、左右非対称でなかったり、実物がほぼ無視されており、なぜ後楽園でなく川崎球場を選んだのかが個人的に凄く気になった。

 アニメの『侍ジャイアンツ』に出てきた川崎球場は結構実物に忠実に描かれていた気がするが、そこはやはりプロ野球漫画としての体裁だろう。ではこの漫画がわざわざ川崎球場を舞台にしながら実物を無視して描かれたのは別段スポーツ漫画でないからかと言うと、それは違う気がする。たぶん手塚治虫にとって実在の舞台が実物に忠実であるかどうかは物語の本質と関係ないという事だったのではないかと思う。こういう姿勢は「感じ」を出すためにはいくらでも不自然に舞台セットをデフォルメしたという黒澤明に似ているのかもしれない。

 「漫画に登場した野球場」ネタとしてはあまりにも意外でつい取り上げた次第。


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