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なつ

最近は本当に暑すぎる。
でも私は夏が大好き。
蝉が鳴き始めると嬉しくなるし、子供みたいに木にとまった蝉を見つける遊びを1人でやっている。
割と見つけるのが早い。

「夏か冬どっちが好きか」
このテーマは良く会話に上がるが、思ったより冬派が多いのでいつも驚いてしまう。

「夏は暑くても服装に限界があるけど冬は着込めばいい」
「クリスマスやお正月、楽しい行事がある」
「冬の方がいろんな着こなしが楽しめる」

確かに冬も素敵だと思う。
だけど私はかなりの寒がりだし、素足で過ごせるほうが良いし、夏だって楽しい行事がたくさんある。


私は夏の雰囲気が大好きなのだ。
その雰囲気は私の故郷での思い出が大半を占めていて、
夏が来ると幼い頃の記憶が鮮明によみがえり生まれ育った場所に帰りたくなる。


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私の故郷はかなりの田舎で、バスは30分に一本。
まず最寄りのバス停まで自宅からかなり歩く。

コンビニどころか商店は一件も無く、信号も無い。
田畑がほとんどの景色を占める。
車道の真ん中をおばあちゃんか野良猫か野生の亀がゆったりと歩き、
家の玄関は開けっぱなしで近所の人が野菜をお裾分けしに普通に入ってくる。
近所の犬がソロ散歩をしている。
全員が顔見知り。名を名乗れば家が分かる。


私はそんな田舎でのびのび育った。
そして田舎の夏はいいぞ。

夏休み、暑さと蝉の声で目を覚ますとジワジワした空気が外から伝わってくる。
田舎の朝は本当に静かで、蝉と風になびく深緑の木々たちの音が心地良い。
雑音が無くて太陽のじりじりという音も聞こえてきそうだ。


祖父の育てた朝顔が綺麗に咲いている。
家を出ると丘にあがる坂道があり、丘にある大きなクスノキの緑と真っ青な空、まっしろな雲のコントラストがとっても美しい。
大人になってそれを見ると「ジブリの世界なのか、、、?」なんて思う。

午前中は畳の部屋で夏休みの宿題をやり、
夏のお昼ごはんはつめたい素麺か蕎麦かうどんのルーティンになる。




昼ごはんが終わると我が家はみんな思い思いの場所で昼寝をするのが夏のお決まりだ。

昼下がりの暑い時間は寝る。
昼に畑仕事をしている人がいると「あいつはアホなんか」と言われてた。

蝉の声だけが聞こえるお昼寝タイム。
畳の上にい草のゴザを敷いて眠る祖父の横でごろごろするのが好きだった。
今なら喜んで爆睡するが、当時は寝れなくてごそごそして母に寝ろと叱られた。
今なら静かに寝かせてほしい母の気持ちが分かる。
ごめんなさい。

昼寝が終わると桃かスイカかアイスを食べる。
子供の私はアイスが1番嬉しかった。
皆知ってるだろうか、メロン型の容器に入ったアイスクリーム。
あれが大好きだった。

近くの川へ行き、冷たい水に足をつける。
川の石をひっくり返すとサワガニがいて、父と捕まえて飼うために持って帰った。
何を思ったか祖母がサワガニの甲羅を歯ブラシで掃除して弱らせてしまった。
今思い出してもあれはカニを磨く強さではなかった。
なぜあんなに磨いたのか。
飼っていたイシガメも同じ目に遭った。
彼は平気そうだったが。


私が特に好きなのは夏の夕方。
日が傾き始めて少し暑さが和らぎ、大人しめの蝉の声が聞こえ始める。
リリリリリと鳴く虫の声が聞こえる。
庭にあった植木や苔たちに、祖母が水やりをする。
水を触りたいがために祖母についてまわる。

皆が順番にお風呂に入り、祖父や父がパンツ一丁で庭に出て夕涼みをするのが恒例だった。
近所は数軒しか無かったのでパンツ一丁でも平気だ。
近所の人もパンツ一丁で軒先に座ってた。
今よりもっと涼しくて心地よい、夏の柔らかい夕焼けの雰囲気が素敵なのだ。

そして蚊に刺されたと父が文句を言う。
パンツ一丁で言う文句ではない。



夏になると毎日台所の窓にヤモリがはりつき、蛾を狙っている。
それを眺めながら夏休みの宿題をした。

20時頃になると、丘の上にある蜜の出る木に集まるカブトムシを捕まえに行った。
外が真っ暗になってから懐中電灯を手に父と歩くのは子供の私にとってはドキドキワクワクスリル満点。
虫の声だけ聞こえる暗闇は少し怖かったので、しっかり父の手を握ってた。

こんな田舎っ子だが、カブトムシを捕まえた後、夜だけつけられるクーラーの効いた冷たい空気の部屋に入る瞬間がやっぱり1番最高だったなあ。


ーー今でも書く手が止まらないほど私の「夏」が思い出せる。

今はもう朝顔を育て、ゴザの主だった祖父は亡くなり、
サワガニを捕まえた川は危険だから勝手に入れなくなり、
歳をとった父はパンツ一丁で夕涼みをしなくなり、
カブトムシの木は人に知れ渡り手をつけられて蜜が出なくなり、
暑すぎて一日中クーラーをつけることになり、
私だってずいぶん大人になってしまった。


だけど深緑の木も青い空も蝉の声も、その下で過ごした時間も鮮明に思い出せる。
騒がしい都会に住み、涼しいマンションで一日中過ごすのが当たり前になっても、
私にとって夏といえばこれなのだ。
これが私の夏なのだ。

ゆったり時間の流れる夏の雰囲気。
そろそろ味わいに実家に帰ろうか。
帰って祖父のゴザを引っ張り出して大人しく昼寝しよう。
蝉の大合唱を聞きながらアイスを食べよう。
お風呂上がりは父とクーラーの効いた部屋でのんびりしよう。
今はもう外で涼むなんてとんでもないなあ、て話しながら。

あの時みたいに暇と体力を持て余す素敵な長い夏休み、もらえないかなあ。

皆さん、それぞれの良い夏を過ごしてください。

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