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ALL ABOUT COFFEE

昼食に何処かに行こうと小屋を出ようとしたら、郵便配達がウイリアム・H・ユーカーズの『ALL ABOUT COFFEE -コーヒーのすべて』(角川ソフィア文庫 2017)を届けてくれた。この本は以前から読みたいと思っていたが入手困難とかで、なかなか実現しなかったのだ。忘れかけていた今頃になって届いた。早速、昼食が済んでから、市立図書館に持ち込んで読み始めた。ここは冷房が効いているので(小屋にはクーラーがない)、僕の「夏の避難場所」である。「僕の書斎」と呼んでいる(笑)。

『ALL ABOUT COFFEE 』は、初版が1922年、1935年に第二版が刊行されている。戦前の本だ。しかし、「コーヒーに関する膨大な数の書籍の中で「扱った領域の広さ、質、量、全てにおいて第一に挙げられる重要な著作」である。邦訳は主要部分だけだが、技術や用具、生産地情報などの解説は古臭いもののコーヒーの伝播や飲用普及などの歴史に関しては詳細かつ正確に書かれている。

なかでも、コーヒーがフランス領マルティニーク島に持ち込まれた経緯に、ガブリエル・ド・クリュー海軍将校(ここにも海軍将校)の涙ぐましい努力があったのを初めて知った。1723年、彼は大切なコーヒーの幼木を抱えてナント港から出航した。途中、海賊や嵐、そしてひどい凪に遭遇しながら、なんとか島にたどり着いた。「航海中、水が不足し、一ヶ月以上にわたって、割り当てられたわずかな水を、私の希望の源であったコーヒーの木と分かち合った」。そして、マルティニーク島に帰宅すると「特段の注意を払って植えつけた。」奪われる恐れもあるので目の届くところに植えて、「木が十分の大きさに育つまではイバラの灌木で囲み、番人をたてることにした。・・・この木は共に危機を乗り越えるたびに愛着が増し、どんなに気配りしても足りないと思えていた・・」とクリューは書いている。

その甲斐あって、コーヒーの木は順調に育ち、やがて西インド諸島からメキシコ湾岸に至る豊かな農園を育むもとになり、この地に膨大な富をもたらしたのである。先日(8日)、僕が投稿したコーヒーがブラジルに渡った際のエピソードなど、たった2行しか触れていなかった。

図書館から外に出たら、まだ、ひどく暑い。この酷暑の中でトレイルランニングの大会が開かれたという。広場はゴール地点にもなっていて、パラパラと出場者が戻ってきていた。何と、この暑さの中! ロングコースは75kmで、出発は今朝の午前5時である。優勝者は12時近くまでの7時間を走り続けたという。僕が、図書館を後にした午後2時過ぎでも、まだ9人しか戻っていなかった。ゴールでは、奥さんと子供がパパが戻るのをひたすら待っていた。
その姿を見て、涼しい部屋で読書していたのが申し訳ないような気がした。



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