見出し画像

同舟|瀧羽麻子/乗りかかった船

「同舟」

新卒で入ったメーカーは、
営業部門と技術部門が
互いにライバル意識を燃やしていました。
営業に頭を下げるものかと
技術は斬新な商品を期日通りに発売し、
技術の予想を超えてやろうと
営業は売りまくりました。
意地の張り合いは両者を切磋琢磨させ、
会社を大きく躍進させる推進力でした。
けれど会社の中には
いつもどこかしらで対立があり、
時々悪い方向に弾けることもありました。

「私たちは同じ船に乗り合わせた仲間だ。」

技術部門のトップは、
プレゼンをそのチャートで締めくくると
決めていたようです。

「どんなに意見をぶつけ合ってもいい。
 激しくやり合うのも構わない。
 でも私たちは運命共同体であり、
 同じ方向へ進む者同士だということを
 忘れないでいたい。」

最後のチャートにはいつも、
縦書き・毛筆フォントで、
ただ「同舟」とだけ記されていました。

激しいぶつかり合いを厭わない

今でもその言葉が僕の胸にあります。
だからか僕にとっての「同舟」は、
単なる和を重んじることではありません。
激しいぶつかり合いを前提としたものです。

それぞれの役割を果たす者として自負を持ち、
言いたい事はきちんと主張し、
譲れない部分はその理由を述べる。
部門どころか先輩後輩も役職もなく、
議論に議論を重ねたうえで
行き着くところの「同舟」なのです。

雰囲気のいい会社

この物語の舞台は中堅の造船会社です。
700名の社員を抱え、
タンカー・貨物船・フェリーを手掛ける、
ちょっとした規模の企業です。
僕がいた会社と違い、
営業・設計開発・工場・事務部門など、
部門間の緊張関係は薄いようです。
むしろ穏やかな社風で
人間関係が良いことがウリになっています。
けれど妥協は感じさせません。
それぞれの部門に、
自らの役割と仕事に自負を持つ
プロを感じさせます。

プロだからといって
迷いが無いわけではありません。
むしろプロだからこそ
迷うということもあります。
ジョブ・ローテーションがあれば、
まったく違う仕事に取り組む
必要もあります。
求められる役割を
即座に果たさなくてはいけません。
時には自分の意に添わない仕事に
就く場合もあります。
嫌だと投げ出すわけにはいきません。
どこかにその答えを見い出そうとします。

そうしたそれぞれの日々を、
行いをきちんと見守る人がいます。
会社の事情をにらみながら、
それぞれの良さを活かし適材適所に苦心します。
良い会社だと思います。
彼らは確かに同じ船に乗っていると感じさます。

すべては緩やかに繋がっている

同じ船で起きる様々なこと、
人事異動や仕事・人は、
時に緩やかに時にはっきりと繋がっています。
この小説が面白いのは、後に行くほど、
時間的には以前のことを描いていることです。
ああこの人がこの決断をしたから、
さっきの話につながるんだなとか、
なるほどこの前任者だから後任は彼女が選ばれたのか。
といった風に、後ろに行くにつれ、
前の話の理解度が深まっていきます。
考えてみれば実際の人生もそうかもしれません。
後から振り返り、
あそこがターニングポイントだったと
感じることは多いです。
「今」の価値を決めるのは、
「今後」だということかもしれません。

ふと思います。
僕は今いる会社で、同じ船に乗れているだろうか。
この物語に倣えば、その答えは
「今後」にしかありません。
「今」出来ることは、目の前のことを
ただやり抜くことだけです。
マイペースで続けていきたいです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?