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長編小説 コルヌコピア 8

三章 形象の実在する場所 

1 島へ

 鳥の嘴は象や犀の角にも似ている。
 チェルナはあとひとつ作れば十個目となるところで、作品を全て共有アトリエに持ち込み、テーブルに並べて眺めた。
 十個目は乾くと透明な琥珀色になる素材で象って干してある。他の九つは木材を彫ったものや紙風船の素材で仕立てて膨らましたもの、薄い銅板を工具で叩いて象ったものなど、それぞれに素材が違う。どれひとつとして同じ素材を用いなかったのは、このアーティスト養成プログラムが始まる前にオリエンテーションでリーダーとなる男が言った言葉が気になり続けていたからだ。

 ――なんらかのイメージが物質化して表現され、それが鑑賞者の脳内にまたなんらかのイメージを構築する。脳内のイメージは製作者にとっても鑑賞者にとっても電気信号のようなものかもしれませんが、作品自体は物質化しているので、地球上にあるなんらかの素材を加工して目の前に表すのです。脳内のイメージに合う素材とは何か。たとえば、ここに立体化した海を表現しようというときに、脳内にあるその海は深海なのか、砂浜のある浜辺なのか、それとも火星にでもある架空の海なのかによって、選ぶべき素材は異なります。――

 成果物を創り出す素材。目前に表したい作品の為の素材とはなにか。チェルナは頭の中で考えてもわからなかった。そもそも創り出そうとしている鳥の嘴とは、子供の頃に見た記憶内のものであり、博物館の倉庫で輝いていた箱の中のものだ。どちらにしてもおぼろげだった。しかも博物館員のレクチャーの間に消え失せてしまった箱と嘴。箱の方は石材という明確な素材のイメージがあるものの、中に入っていた嘴についてはぼんやりとした記憶しかない。
 そこで、とにかくありとあらゆる素材を試すことで、記憶の中にある嘴へと接近することにしたのだった。
 ひとつ創り出すたびに、これは違う、こうではなかったと思う。
 そして、気付いたら十個目の制作に入っていたのだ。

「たくさん、できましたね」
 テーブルの上の作品を眺めていると、背後から声がした。ふり向くと、キュレータのアユラだった。「あれから、こんなに?」
「ここでは、やることといえば、これしかないですから」
 実際、宿舎にはテレビもラジオもなく、少なくとも音楽のかかっているアトリエに来て制作をしているのでなければ気が滅入りそうでもある。
「全部で九つ。これで終わり?」
「あとひとつ、既に作って乾かしているものが部屋にあります。乾いた後、それに絵を描くか、それとも彫刻するか、といったところですね」
「モチーフとなるものは? 参考にする図鑑とか、剥製とか」
 アユラは中腰で作品に目を近付け、その中のひとつをじっと見つめている。
「モチーフはありません。私の中では実在するとわかっているけれど、これと定義できるものではないし、他の人からすれば想像上のものですから」
「見たことがあるけれど、その鳥は見つからない、ってこと?」
 アユラが顔を上げ、チェルナを見た。チェルナは、少し迷ってから、そうです、と頷く。
「プログラムのオプションとして、一週間後にみんなで島に渡って制作する計画があるのよ。チェルナさんは来た方がいいかも。モチーフそのものが存在しなくても、島全体からインスピレーションを得ることができるそうだから」
 希望者を募って近くの島に渡り、そこで早朝に農作業を手伝う仕事をした後、散策や制作をするらしい。このアトリエ付き宿舎と何が変わるのかは行ってみないとわからないが、今の煮詰まってきた気分に変化をもたらしそうだ。
「よさそうですね。必ず行きます」
 チェルナは心の中でも即決していた。

 *

 島に渡る朝、チェルナは珍しく寝坊した。厚い雲が垂れ込めた日で、起きた時には一瞬、もう午後になっているのではないかと慌てた。
 時計を見ると九時前で、集合場所まで四十分ほどしかない。それでも荷物は旅行鞄に詰めてあるし、顔を洗って着替え、すぐに部屋を飛び出せば間に合う。寝ぼけている暇もなく急いで支度を始めた。

 どうにか集合場所の港に着いた時、待ち合わせの時刻を五分だけ過ぎていた。船が出航するのはその二十分後のはずだから、もしも全員が遅刻しているのでなければ誰かがいるはずなのに、発着場の待合室にはベンチが並んでいるだけで誰もいなかった。チケット売り場もシャッターが下り、切符切りもいない。
 チェルナは日付を間違えたのだろうかと思って、案内書とスマホの表面に出てくる日付を照らし合わせたが間違ってはいなかった。宿舎に電話を入れてみたが、参加予定の人はみんなもう出発したはずと言う。万が一の連絡用に知らされていたアユラのLINEにメッセージを送ってみたが、既読にはならなかった。
 途方に暮れてベンチに座っていると、後ろから声を掛けられた。
「今日はこの港から出航する船はないですよ」
 振り向くと、長髪を後ろに束ねた男が立っていた。褐色に日焼けした肌は艶やかだが、黒髪にはところどころに白髪が混じっている。
「でも、今日、島へ向かう集まりがあり、ここから船が出るはずで――」
 チェルナは手に持っていた案内書を男に渡した。
「これは、この港じゃないですね」
「この町には他にも港が?」
「知らなかったのですか。この地図の場所はここから五キロほど先にある新設の港のことですよ」
 男は案内書をチェルナに戻し、気の毒そうに見つめた。
「五キロも先ですか」
 タクシーを捕まえることができればぎりぎり間に合うが、おそらく歩いては無理だろう。バスも一日に数回しかなく、ちょうどよい時刻のものがあるとは思えない。「諦めるしかないかしら」
「島自体はすぐ近くですけれどね」
 男はチェルナが見ている案内書を指さす。「船で三十分もかからない」
「残念です」
「僕が送って行きましょうか」
「送ってって、どうやって?」
「どうせ、今から島に戻るところですから。この港の中に個人のボートを停泊させる場所があって、僕はそこにボートを置いて、この町と島を行ったり来たりしてます。島で主に工芸品用の箱を作る仕事をしています。よくあるでしょう? 立派な工芸品が入っている、ぴったりと蓋の閉まる木の箱」
 男はスマホを取り出して、自身の創った箱の写真と、それを納品しているところの写真を見せた。作務衣を着た作家らしき人が箱を受け取っている。「もちろん、こういった箱ばっかり作るわけではないけれど」はにかむように微笑んだ。
「ありがたいですけれど、率直に言って、ここで会ったばかりの方に、船で島へ送り届けて頂くというのもあまりに冒険が過ぎませんか」
 チェルナが言うと、男は一瞬黙り、それから声を出して笑った。
「そりゃそうだ。僕なんかテキトーな生き方をしているから、そんなこと平気だと思っていたけれど。道路でヒッチハイクするのとは違って、これは海ですしね。途中で危ないやつだと気付いても、海に飛び込んで泳いで逃げるわけにもいかないでしょう」
 半分笑い、半分泣きそうな顔をして頭を掻いている。「じゃあ、諦めて、そこの喫茶店でモーニングでも食べて、家に帰ってください」
 男はそう言うと、チケット売り場横の通路に入って行った。
 姿が消えてしまうと、待合室は再びしんとする。
 チェルナはどうしようもない気持ちになり、男の入って行った通路をそっと覗いた。通路先には間違いなく個人ボートの停泊所があるらしく、いくつかのボートがつながれたまま波に揺られているのが見えた。
 もう少し歩を進めて行くと、さきほどの男は停泊しているボートのうちのひとつの前に立って、港とボートをつないでいるロープを確認しているのが見えた。背負っているリュックをボートに放り込んでから乗り込んでいる。しばらくしてモーターエンジンの音が鳴り始めた。再び、ボートと港をつないでいるロープを外そうと上がってきたところで、男はチェルナに気付いた。
「あれ? 喫茶店、行かなかったの? やっぱり、乗ってく?」
 男が親指を後ろに返して自身のボートの方を指す。
 チェルナは迷った。もちろん、乗るつもりはないはずだった。それでも、エンジン音と、男の着ているウインドブレーカーが海風にはためいているのを見ているうちに、
「そうね」
 と言ってしまった。
「じゃあ、荷物を先に放り込んで」
 そう言われると、男に旅行鞄を渡した。

 ボートの床を踏むとゆらりとした。穏やかながらも波があり、船体は揺れている。
「島はすぐそこですけれど、慣れない人は酔うから、船底に寝そべって目を閉じているか、窓から遠くの方を見るかして」
 男はチェルナが乗り込んだのを確認すると操縦席に入った。
 すぐにボートはエンジン音と共に海を削るように進み始め、チェルナはベンチに座って窓外を見た。
 船に慣れていないことはない。博物館で働いていた頃、あらゆる島の調査に同行したことはあり、やはりボートに乗ったが全て観光用の中型船だった。それに引き換え、この男の船はエンジンボートとは言え個人用でかなりコンパクト。窓のすぐ外には海面があり、まるで小回りの利く小型のナイフのようだ。波の影響もダイレクトに受けるので、船酔いしないとも限らず油断はできない。
 港から離れてしばらくすると、LINEにアユラから返信があった。

《今、島の住人だと仰る方に出会って、ボートで送り届けてもらっています。》
《お名前は?》
《箱を作る人。》
《それが名前?》
《聞くの忘れた。でも、もうボートの中。》
《大丈夫?》
《たぶん。》

 チェルナは海と船内を撮影し、添付してアユラに送った。

《冒険家ね。》
《そうですか。酔うと困るので、もうこれで。島に着いたらまた連絡します。》
 
 LINEを閉じて、再び海を見た。鴎が飛び交い、小型船もいる。名前も知らない男のボートに乗っている事態は人生初の大冒険なのかもしれないが、コバルトブルーに輝く海と白波、穏やかに浮かぶ雲を見ていると、やっと望んでいた場所に来たのだと思えた。
 長い間、博物館の中で貴重品に囲まれて仕事をし、博物館員の講義を成功させるためにきめ細やかなお膳立てをする日々だった。そして、急かされるように退職してアーティスト養成プログラムに参加し、見失った鳥の嘴の制作をやり始めたところだが、それでもほんのついさっきまで、自身が一体どこに向かっているのかわからないまま鬱々としていた。
 それがこの海の青を見ると、この瞬間の為にあらゆる今回の脱出劇があったのではないかとさえ思える。見知らぬ男を信じていいものかはわからない。でも、このたった今見ている海は心に描いていた通りの色だ。

 ――なんだかせいせいする。

 やがて周辺に漂っていた小型船はいなくなり、チェルナの乗っているボートだけが真っ青に広がっている海の真ん中に居た。エンジン音が風音も波音もかき消して突き進み、時々鴎が空と海の間を飛ぶのが見えるだけだ。
 そうなると、さすがにチェルナも少しは不安になった。これで本当によかったのか。男の名前も知らない。かと言って、今更、操縦席に入り込んで名前を聞いたところで、それがどんな安心感を与えるというのか。
 チェルナは諦めて船底に横になり、音量を増すエンジンの振動を身体で受け止めていた。この上なく寄る辺ない状況のはずなのに。急に抗えないほどの眠気が襲い、そのうち深い眠りに落ちてしまった。

「着きましたよ」
 男の声で目が覚めた。チェルナは一瞬、自分がどこにいるのかわからなかったが、ゆっくりと身体を起こした。次第に意識が戻り、見知らぬ男のボートの中にいることを思い出して、窓外を見ると崖のある海岸だった。もう既にエンジンも止まり、ボートは穏やかな波に身を任せている。
「眠ってしまって」
「度胸がありますね」
 男はチェルナの荷物を持ち、ボートの外に出た。「さあ、行きますよ」
 チェルナは慌ててボートから這い出し、男の後を追う。
 眠っている間に作業をしたらしく、既にボートはポールにロープで縛り付けてあり、細かな石と砂の混じり合った浜の中だった。
「靴は少し濡れるかもしれない」
 男は振り向きもせず言い、岸辺に降り立った。チェルナは恐る恐る足を踏み入れた。やはりスニーカーに海水が沁み込んでくる。男の靴も濡れていたが、そんなことなど気にもせず、ざくざくと歩いて行く男の姿を見ていると、なぜかチェルナ自身も気にならなくなった。
 今朝、宿舎で見た厚い雲は消え去り、空は青く晴れ渡っている。
「ここが港?」
 崖と松の木が続くばかりで何もない。
「ここは僕のプライベートビーチ。一般客が来るのは逆側の入江にある港です。すぐそばに僕の車を停めてあるから、それで港まで送りましょう」
 しばらく行くと松の木が密集して生えたエリアがあり、そこに停めてあった艶やかな黒いジープに乗り込んだ。
「それにしても、どうしてこのミヤデ島に?」
 ジープには速やかにエンジンが掛けられ、ゆっくりと動き始める。
「養成プログラムの主催者が決めたことです」
 チェルナは車窓に見える島の風景が密林ばかりなので身の縮まる思いがしていた。これはまさしく美しき殺風景。
「そんなに多くの人が宿泊できる施設はないと思うけど」
 全開にした車窓からは潮風が容赦なく入り込んだ。
 チェルナは鞄から案内書を取り出し、改めて全体を眺めた。
 行先は間違いなくミヤデ島。
 
 ――ん? ミヤデ島? 

 ――これ、インクが滲んでるけど、もしかして、よく見るとミヤブ島じゃない?

「あの、ひょっとして、この近くにミヤブ島ってあります?」
 チェルナは恐る恐る尋ねた。
「ありますよ。すぐ隣」
「本当に? だとしたら、もしかして、私の行先はミヤブ島だったかも」
「それはないと思いますよ。僕が案内を見せて貰った時、ちゃんとミヤデ島と書いていたから」
「でも、よく見るとインクが滲んでいるのかも」
「そうかな。でも、あの島は漢字表記ですから、地図なのにわざわざ片仮名表記はしないはず」
 そう話していると、アユラからLINEが入った。

《もうみんなは島に着いて民宿に向かったよ。》
《どこの民宿?》
《農家民宿。港に着いたら連絡して。》
《もうプライベートビーチに着いたので、これから港に向かいます。》
《そう、よかった。じゃあ、そこで農家民宿の場所を聞いてちょうだい。すぐそばだから。》
《わかりました。ところで、この島の名前はミヤデ島でいいんですよね。》
《ミヤブよ。》
《ほんとに? じゃあ、私、隣の島に来てしまったかも。》
《えーっ マジ? 漢字が標準じゃなくて簡単に打ち出せなくて、片仮名にしたから、アユラさん間違えた?》
《そうかも。》
《どうしよう。。》
《後で改めて連絡します。》

「困ったわ。やっぱり、本当の行先はミヤブ島だったみたい」
「そうか。じゃあ、これからお連れする港から船で渡ればいい。遠回りさせたね。わるかった」
「そんな、わるかっただなんて、こんなに親切にしていただいて――」
 それからはチェルナはすっかり黙り込み、ジープが港に着くのを待った。
 辿り着いた港は、男のプライベートビーチの方が大きいのではないかと思えるほど、小さなバス停ほどのものでしかなかった。チケット売り場のカーテンも閉まっている。
「まさか、今日は休みか?」
 男は待合室の周辺をぐるぐると歩き、誰もいないことに気付くと、発着案内板を見た。
「ああ、今日は船が出ないな。なんと、隔週じゃないか! 僕は公の交通機関を使わないので、こんなに不便とは知らなかった。ごめん」
 しんとした待合室に響き渡る声で言う。「どうする?」
「どうしましょう」
 荷物を持つ腕が急にどしんと重く感じられる。
「隣島には一時停車場を契約していないから、僕のボートで直接渡ることはできないはず。一度、今朝会った港に戻り、そこから新港に行ってもらって、正しい目的地に行くことになるけど――」
 男はチェルナの顔を覗き込んだ。「今日はもう疲れたから、ここの先にある宿泊所に泊まってもらって、明日、町の港に送ろうか」
「そうね。そうするしか、ないかな」
 チェルナは気が遠くなりそうだった。
「あるいは、うちに泊まる? 単なるアトリエだから大したものはないけど、女がもう一人住んでいるし、それほど警戒心が強くなければそういう方法もある」
 男は真顔だった。
「そんなことさせてもらっていいのかしら」
「そちらがよければ。僕が島の名前を早とちりして連れてきてしまったのだし」
 チェルナはあまりの例外的出来事の連続に、頭がぼおっとしていた。ボートの中では眠っていたものの、エンジンの振動がまだ体に残ってもいる。
「お言葉に甘えて、そうさせてもらうわ」
 もうここまでくれば冒険も何もない。
「私の名前は月尾チェルナ。あなたは?」
「ヤン」
「ヤン? それだけ?」
「そう、ヤン。名前と言えば、それだけ」

2 コルヌコピア 

 ヤンのアトリエはプライベートビーチのすぐそばにあった。
 ヤンが言った通り、一見、その家には何もないように見えるが、だだっ広さの為だろう。最初に通されたのは大きなテーブルと数脚の椅子がある広間で、広い窓とテーブルの上に置かれた花瓶以外には何もなかった。窓から向こうには密林が見える。窓を開け放しているせいで、海と樹木の香りが部屋の中にも充満していた。
「プライベートビーチからこの家と中庭、玄関前の庭の全てが僕のアトリエ」
 チェルナはヤンに勧められて椅子に座り、グラスに注がれた水を飲んだ。
「中庭って?」
「その林のこと」
 ヤンは窓の向こうに見える密林を指した。
「あれが、庭?」
 チェルナがつい声を大きくすると、ヤンは愉快そうに笑い、
「全く手入れしていないけど、入って行くと天然の泉もあるし、小さな洞窟もある。アトリエとして最高」
「私有地?」
 驚きを隠せない。
「そういうことになるね。譲り受けたものの、もう税金を支払うのが大変。こんなものを所有したのは僕のせいじゃないのに」
 やるせなさそうに笑うと目尻に深い皺ができた。
「後で、中庭を見せてもらってもいいのかしら」
「もちろん。きっとハルが居るよ」
「ハル?」
「一緒に住んで居る女が居ると言ったでしょう。彼女はだいたい中庭に居て、料理をしている。あ、ほら、出てきた」
 ヤンが指さす窓の向こうを見ると、髪の長い大柄な女が籠に草花をたくさん入れて密林から出てくるのが見えた。藍染のシャツと緩めのズボン姿で、長靴を履いている。ヤンが立ち上がって窓を開け、
「ハル、お客さんだよ」
 と呼び掛けると、チェルナの方を見て、首を斜めに傾げるようにお辞儀をした。
「ハルはほとんど僕たちとは話をしないんだ」
 ヤンが振り返ってチェルナを見る。
「生まれつきの何か――?」
 チェルナが言いかけると
「どうかわからないけれど、問題があるわけではなく、僕が思うには、たぶん意図的に話をしないだけ」
 ヤンはきっぱりとした調子で言った。それ以上の詮索を受け付けるつもりはないのだろう。それから部屋の中に入ってきたハルに向かって
「ハル、お客さんの名前はチェルナ。どこでもいいからお部屋に連れて行ってあげて。そして、僕たちと同じものでいいから、何か食べるものを届けて」
 と言い、「お部屋で少し休んだ後、中庭を案内してもらうといい」と今度はチェルナの方を向いて言った。
 ハルは籠の中に入っている草花をテーブルの上にある花瓶にざっくりと活けると、チェルナを見て小さくうなずき、親指を返して後ろを指し、着いてくるようにと促した。
 通されたのは建物の一番奥にある部屋で、ベッドとコーヒーテーブル、一人掛けのソファ、小さなチェストがあった。小さな窓からは中庭の樹木が見える。ドアには内側から閉める鍵もある。ホテルのようだと思ったが、言葉を発しないハルに通常の使用目的を確認することは難しそうだった。
 荷物を降ろして、ソファに座っていると、一度出て行ったハルが戻って来て、野菜のたっぷり入ったスープとパン、数種類のハムとチーズ、グラノーラ、珈琲、ミルクが届けられた。これがお昼ご飯らしい。
「どうもありがとう」
 返事がないことを承知の上でチェルナが言うと、ハルは少し微笑んで、また首を傾げたまま小さく頷いた。確かに、どこかに問題があるとか、はにかんでいるとかではなく、それ以上何が必要かと思わせるほど自然な仕草だった。
 食事を終え、ベッドで休んでいると、ドアをノックする音がした。ハルが食器類を片付けてくれるらしい。ドアの向こうでヤンが「中庭に招待しますよ」と呼ぶ声がして、チェルナがハルの顔を見ると、ハルは微笑み、先ほどと同じように返した親指でドアを指して外に行くようにと誘った。
「中庭? ヤンと?」
 チェルナが言うと、小さくうなずく。
 ハルの後を着いて広間に行くと、ヤンがチェルナ用の長靴を用意しているところだった。大窓から中庭に向かうらしい。
「これを履いて」
 ヤン自身は既に黒い長靴を履いて窓の外に立っていた。「ハル。ハルも一緒に行こう」部屋を覗いて大声で言う。

 林の入り口にはモッコウバラのアーチがあり、黄色の小さな花を咲かせていた。ヤンは降り注ぐように咲く花の蔓に頭が触れないようにかがんで中に入って行った。チェルナも後に続く。アーチの先もずっと続くモッコウバラのトンネルになっていて、真昼でも鬱蒼として薄暗い。蜜蜂が飛び交い、ヤンの髪にまとわりついていたが、ヤンは気にもしないようだった。しばらく歩くとトンネルを出て、小さな噴水場に辿り着いた。黒い鉄で作られた優雅なベンチもある。
「自然に湧き出す泉を使って噴水にしているんだ」
 ヤンは弱く流れ出している水に触れ、「この水は飲める」手に着いた水を唇に塗った。
 チェルナも真似をして水に触れ、少し舐めてみる。
「甘い」
 ほんのりと花の香りがする。
「たくさん飲まないで。自然に咲いている花や果物が溶け込んで薬のようになっているから。綺麗な水だけど、作用が強すぎることもある」
 泉の先には獣道らしきものがあるものの、あまり手入れされていない林が続いた。見上げると枝や葉の間から射し込む光が風で揺れ、白い蝶が数頭飛んでいた。肥沃な土と新芽、枯れ草や枯れ葉の匂いがチェルナの身体を満たしていった。
 しばらく行くと、前からハルが歩いてきた。別のルートを通ってきたのだろうか。手に持った籠には野草があふれている。
「モッコウバラのアーチ以外にも、もうひとつ入り口があるからね。ハルはそこから入ったんだよ」
 ヤンはチェルナに振り返って微笑む。「ハル、これから洞窟に行くから、着いてきて」
 ハルは頬にまとわりつく髪を耳に掛けながら、小さくうなずいた。
「チェルナさんはアーティスト養成プログラムに参加しているのでしょう? だとしたら、隣の島よりむしろ、この中庭での制作もいいかもしれませんよ。別に、いつまで居て貰ってもかまわないし」
 ヤンは歩きながら言う。
「そんな図々しいことはできません」
 チェルナは一瞬、帰れなくなるのではないかと不安にもなった。
「もちろん、無理にお引止めしません。チェルナさんが帰りたいと思ったら、いつでも送ります。でも、隣の島は玉葱やじゃが芋ばかり植えていて、後は小さな公園と海と砂浜しかない」
「プログラムでは農家で作業を手伝いながら制作するそうです」
 チェルナが言うと、ヤンは「ほおらやっぱり」と言って立ち止まり、チェルナをまっすぐに見た。
「農作業は楽しいですよ。ハルが畑を作っているから手伝ったことがあるけど、土が作物を創り出すのを見ていると、我々の芸術なんてとてもかなわないと思った。むしろ僕は美術制作のやる気をなくす」
「私は農作業をやったことないからわからないけど」
「体験した方がいいけれど、数日間はここに居て、この樹木林と泉と洞窟で遊んでいく方がいい」
「どうして? 親切すぎると思うけど」
 率直に言った。
「だってね、ハルが、笑った」
 ヤンは籠を持って立っているハルをちらっと見た。
「どういう意味?」
「ハルがお客さんに向かって微笑んだのを今までに見たことがない。実際、客のみんなが、彼女はにこりともしないねと言って帰って行く。それが、チェルナさんには微笑んだ。だからチェルナさんがしばらく居てくれると、それもいいなと思ったのもある。もちろん、ここはアトリエとしてもおすすめだから。それにチェルナさんの、僕のような知らない男のボートに乗って海を渡り、海の上で昼寝する度胸も気に入ったし。いいアーティストになったら、作品を入れる箱を作る仕事を回してくれるかもしれないしね」
 お茶目な笑顔を見せる。見ると、ハルも微笑んでいる。二人の笑顔を見ていると、チェルナは抗えない幸福感に包まれ、
「そうしてもいいです」
 と答えてしまった。
「よし。じゃあ、このアトリエの最高の宝物である洞窟をお見せしよう」
 ヤンは速足で歩き始めた。

 しばらく行くと獣道は二つの方向に分かれていた。左側を行くとボートの停めてあるビーチに出るという。三人は洞窟へと向かう右側の道を歩き始めた。
 まもなく、海岸で見上げた崖から地続きになっている小高い丘が現れ、その丘の傾斜が始まる手前に洞窟の入り口があった。小さな祠があり、水とお酒と花が備えてある。空はからりと晴れているにも関わらず、辺りは地面から立ち上る湿気のせいで陰の気が立ち込めていた。
「まずはお祈りをしよう」
 ヤンは祠に向かって手を合わせ頭を下げた。ハルも同じようにする。チェルナも慌てて真似をした。
「洞窟は自然の造形物だから、自然に対して感謝し、汚さないように入る」
「信仰ですか?」
 チェルナが言うと、
「どうかな。ひとつの神に祈っているわけではなく、僕たちを包んでいる自然に対して感謝をしているだけだからね。自然信仰と名付ける人もいるけれど、呼び方なんてなんでもいいんだ。僕に布教する義務も意志もない」
 ヤンはハルの持っている野草を一本採り、祠の花瓶に差し入れた。
「これを腕に巻いて」
 チェルナは珊瑚の腕輪を渡された。ヤンもハルも右腕にしている。「守護だから、この洞窟に入る時には忘れないで。洞窟の中にも珊瑚のものと思われる化石があって、昔は海だったことがわかる。だから、珊瑚を身に着けていると、洞窟の中のものからすると敵ではないとわかるのだよ」
 博物館で働いていた時の調査業務を思い出す。調査でも島の中に入る時には、島にふさわしい服装に着替えたものだった。
 チェルナは渡されたものを腕にはめた。
 ヤンが最初に足を踏み入れ、腰に巻いていた懐中電灯を手に持ち、辺りを照らしながら歩き始めた。チェルナが後に続き、次にハルが続く。しばらくは人が一人ずつしか通れない細道が続いた。足元の岩石はしっとりと濡れている。洞窟の奥に湧き水があり、それがわずかな傾斜のある窟内の通路を湿らせながら流れているのだという。林の中の泉となり、また、海にも流れ込んでいる。
 やがて、三人が並んで立つことのできるほどの大きさの場所に出た。蜂蜜とクチナシの混ざった香りが立ち込めている。
「不思議な香り」
 チェルナは深呼吸をする。
「洞窟内の岩の成分です」
「乳香かしら」
「少し持ち帰ったものがアトリエにあるから後でお見せしましょう。それから、これを見て」
 ヤンは壁に近付き、壁伝いに張り巡らされているものに触れた。「樹木の根です。この上に、樹齢千年と言われる巨木があります。あるというか、あると言われているというか」
「実際にはない、とでも?」
 チェルナはぞくっとする。
「ないはずはない。この根は生きていて、水を吸っていることはわかっている。でも、どうやってもその巨木のある場所に辿り着けない。ヘリコプターで上空から撮影してもわらかない。地図を書いて計測してもね。たぶん、横に大きく広がっているのではないかな。結局今までに地上の幹に触れた人はいない」
「林の中を全部歩いて調査することはできないの?」
「やろうとした人はいるけど、行ったっきりで帰って来た人はいません。ここから先は入ってはいけないとの言い伝えのある場所がある。そこを越えると帰ってこれない」
 ヤンの言葉に、ハルも小さくうなずく。嘘ではないだろう。やはり博物館の調査業務の時にも、現地の人からはこれと近い謎めいた話をよく聞いた。現地の人の忠告には従うのが決まりだった。
「この先、また一人ずつしか入れない道に出るけど、ここよりももっと狭いし、道が分かれている。それで、帰り道に出られなくなる人もいるから気を付けて。これから先は特に、絶対に一人では入らないで」
 ヤンはチェルナの眼を射抜くようにしっかりと見た。チェルナは蒼ざめた感覚を覚えながらもどこからか興奮が湧き起こるのを感じながら、大きくうなずいた。
 そこから先の道は、ヤンの言った通り、より一層狭くなっていた。背の高いヤンは少し頭を低くして前を歩き、横幅も手を広げると左右の壁面に触れることができそうなほど狭い。
「足元に気を付けて。奥に行くほど水分が多くなって滑りやすくなっているから」
 ヤンが立ち止まって足元の岩を照らす。柿色の岩の上に湧き水が流れて艶々と光っていた。
「虫一匹いないのね」
 懐中電灯の明かりに集まってくる気配はなかった。
「自然も最奥に到達すると、地上の生物は見当たらないね」
「ここは最奥?」
「そうだと言えないかな」
 ヤンは慎重に満遍なく照らしながら前進する。
「何度も洞窟を調査したことはあるけど、深い洞窟はたくさん存在するものよ。もちろん、ここも劣らず奥まっているけど」
「仕事?」
「博物館の研究所で働いていたから」
 チェルナが言うと、ヤンはしばらく黙った。
「辞めたの?」
「アーティスト養成プログラムに参加する直前に辞めた。ケースの中の貴重品に飽きてしまって」
 チェルナの正直な告白に、ヤンは「プログラムに参加するのだってケースの中のようなものじゃないか」と笑った。
「僕がここが最奥だと思うのにはいくつかの理由がある。まず、入り組んでいて複雑だ。下手すると帰れなくなるほどだから。深さや遠さだけではなく、奥まっているというのは、そういうことだろう?」
 ヤンは通路の天井も照らす。ありがたいことに蝙蝠がぶら下がっている様子はない。
 チェルナは歩きながら、博物館で見た石の箱と鳥の嘴について話した。子供の頃にもそれを見て、すっかり忘れていたけれど、どこか心の奥で探し続けてたものを見つけたのに、再び見失ったので、いてもたってもいられなくなって仕事を辞めたのだ、そして、とにかく養成プログラムに申し込んだのだと。
「そういうことか。じっとしているよりは、プログラムに参加する方がよかったね。そのおかげで、こうして最奥の洞窟の中にいるのだから」
 ヤンの声が響く。ハルは黙って後ろから着いてきていた。
「さあ、もうすぐだ」
 ヤンが軽く二人の方に振り返って告げ、それから数分も歩くと開けた場所に出た。やはり三人が立てる程度の大きさだったが、天井がよほど高いのか、眼で確認することすらできない。
「ハロー」
 ヤンが天井に向かって叫ぶと、ハローとこだまする。
「さあ、壁を見て」
 ヤンが高い位置から懐中電灯をゆっくりとずらしながら照らすと、徐々に鮮やかな青で描かれた絵が浮かび上がった。
「なにこれ」
 チェルナは目を見張った。
「壁画。ラスコーみたいでしょう。そして――」
 床を照らしてから、再び舐めるように別の壁を照らすと今度は見たことのない記号が散りばめられている。「まだ解読されていません」
「もしかして、ここは広く知られている洞窟なの?」
「特別な学者たちにのみ知られている。芳香にしても、この青色を創り出している鉱物にしても、ここにしかなく稀少だからあまり多くの人に知られると採りにくる輩が増える。幾度もそういうことがあって、ほらここ――」
 確かに削り取られた跡がある。「もちろん、撮影済だから絵画や記号についてはファイリングされているけれど、この部分の現物はなくなってしまった。伝え聞くところによると、私営の博物館に保管されているらしいけど、極秘で持ち去ったから博物館の場所は特定できない。はっきりとわかっているのは盗んだ輩はそれぞれ不思議な亡くなり方をしたというだけ」
「もっと全体を明るくする照明を持ってくればよかったわ」
 チェルナは部分的にしか照らし出すことのできない懐中電灯にもどかしさを感じた。
「今度はそうしよう。僕としても、いきなり初めて会った人をここまで案内するのは初めてだから。というか、普通は途中で帰りたいと言う人がほとんどだよ。チェルナさんは博物館員をしていたから洞窟に慣れていたのだね」
 ヤンはチェルナの頭部あたりに光を当てた。
「中を撮影した写真があれば見せて貰えるかしら」
「もちろん。もしも知識があるのなら、記号の解読も手伝ってほしいくらいだ」
 壁面のあちこちを照らして眺め、それから今度はハルが懐中電灯持って先頭に立ち、もと来た道を帰り始めた。歩く途中で後ろを振り返ると複数の分岐点があってぞっとする。確かに一人で迷い込めば確実に帰れなくなっただろう。ハルが要所で道しるべとして積んだ野草を置いていたらしく、それを拾っては帰路を辿って帰った。

 アトリエに戻ると、チェルナはこれまでに味わったことのない疲労感を覚えたが、すぐにでも洞窟内の壁画に関する記録を見たくてたまらず、早々にヤンが書棚から持ち出した記録を見ることには一も二もなく賛成した。ハルの淹れた野草茶が身体に行き渡っていくに従って徐々に疲労感も霧散していった。
「よく撮影できたわね」
 暗い窟内でこれだけ鮮明に撮影するのは難しいはずだ。公的な博物館の研究所が機材を整えて洞窟に入った時でも、真っ暗なところで撮影したものが完璧な状態で映る方が稀な事だった。
「雰囲気のある写真を撮りたいわけではないからね。それに、私有地で何度も入ることができるから鮮明に映し出すための光源を試すことができる。真実の色や雰囲気がわかるように撮るという考え方自体、あの場所にいると意味を成さないことがわかってくる。ずっと闇の中にあるわけで、太陽のもとに晒されたこともないものだから、描いた人がどの光源で見えたのを真として着色したのかがはっきりとはしない。だけど、どんなものでもそうだ。色の波長は場所のもつ色によって変化するものだから、真実の色は画材が物質として持つ成分以外には固定的なものはないから」
 ヤンの言う通り、特に洞窟では描いた人が想定した色調は確定できない。持ち込む明かりの光量や色によって毎回変化する。
「光がないのに、どうやって描いたのかしら」
「チェルナさんはそれが専門なのではないの?」
「専門というほどではないの。通常の調査では強く熱の出る光を持ち込むことはできないし。私は補佐として着いて行くだけだったから断定はできないけれど、ほとんどの場合は洞窟の管理者が公開しているものはほんの一部だけらしい。さっき見せて貰ったものほどの鮮やかな壁画はこれまでには知らないわ」
 ハルが淹れ直してくれた新しい野草茶を口に含む。やわらかな花の香りがした。広間には心地よい風が渡り、窓の外で小鳥が鳴く声が室内にまで響いている。
「僕自身は、先祖の残した私有地を引き継いだら、自動的にあの壁画が着いてきた境遇だから、あれがどれほどのものかはさっぱりわからないけれど」
 ヤンも大きな手で小さなカップを持ち、花茶を飲んだ。
 記録を一枚ずつ捲っていると、壁に彫られた記号を掲載したページになった。動物の絵の横を起点として、そこから順番に撮影したのものに番号を振り当て並べてある。
「楔型文字かしら」
「僕が調べた範囲では、同じ種類の文字が世界中の文献に並んでいるのを見たことはない。楔を使って彫ったのだとしても、ある学者の言う事には、これはでたらめらしいよ」
「でたらめ?」
「もちろん全ての学者がそう言ったわけじゃない。ひどいことを言う奴もいるという話さ。やっぱりなんらかの意味はあるだろうけれど、少なくとも、現在、解読されている範囲の楔形文字と同類のものではないのは確かだ」
 チェルナが見てもこれまでに見たことのない記号だった。
「同系列のものがなかったとしても、明らかに文字だとは思う」
 ページの写真に目を凝らした。
「どうしてわかるの?」
「同じ記号が何度も出てくるから。全くでたらめで、ランダムなものだったら、一度しか出てこない記号がたくさんあるはずじゃない」
 楔で彫った記号以外に、罫線らしき薄い線がある。「罫線もあるし」
「文字には罫線があるものなの?」
「ない場合もあるけれど、こうして写真を見ていたら、罫線の存在は見逃せない気がした」
 チェルナが言うと、ヤンは指先で唇に触れて、考え込む表情を見せた後、
「チェルナさん、やっぱり隣の島で農作業をするのを止めて、ここでしばらく洞窟壁画の調査をしながら、作品作りをするというのはどうかな。ここには畑も湧き水もあって、それほど贅沢を望まなければ食料もあるし。洞窟に関する文献なら書庫にたくさんある」
 まっすぐにチェルナの眼を見つめた。チェルナは少し考えるふりをした後、
「ヤンとハルが嫌でなければ、そうさせて貰えると、正直、私としても嬉しい」
 悩むことなく答えた。
「じゃあ、そうして」
 ヤンの表情がパッと明るくなる。
「早めにプログラムのコンダクターに連絡を入れておかなければ。それに、少し眠くなったから、お部屋で休ませてもらうわ」
 チェルナは立ち上がり、新たに温かい野草茶を淹れたカップを手に持った。
 それから部屋に戻り、アユラに《しばらくこの島にいる》との連絡を入れてからベッドにもぐりこむと、あっという間に深い眠りに落ちていった。

(三章 了)

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