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星のクラフト 4章(全体つなぎ・肉付け)最後尾にあらすじ掲載

第四章

 21次元地球は、誰もが思った以上に理想的な地球だった。これまでに見た自然以上に自然らしさを保った森や湖、小川、鳥や虫といった生き物たち。
 到着してから一週間経っても、司令長官からは仕事始めの召集がかからないので、ランとナツは毎日のようにホテル周辺の自然を散歩した。
「これが21次元と言えるのか。むしろ、古代に存在した理想的な地球じゃないか」
 ナツは手を伸ばして樹木の枝に触れている。光を拾った葉が煌めき、二人の眼を眩しくさせた。
「見た目は野性的だが、決して人間に襲い掛かってきたりしない。ちょうどよく調整された超自然ってとこですか」
 ランは眼を細めて輝かしい樹木の葉を見上げながら、鼻白む思いがしないでもなかった。
「どうやってこんなものを管理しているんだろうね。0次元の国立公園に似ていなくもないが、なんだかそこら中の生き物たちが警戒心も持たずに話しかけて来そうじゃないか」
 ナツはふわりと飛んでいる極彩色の蝶を捕まえようとしている。
「ここでは蝶とも心底分かり合えそうかな」
「なんだか、そんな気がするよ」
 無理して捕まえたりしなくても、ナツの手の甲に軽やかに止まって逃げもしない。
「司令長官から聞いた話では、ここにいる全ての生物は人工的な意識網で、完全に互いに接続されているらしい。人間の食用動物性たんぱく質は全て合成によって作られているから、もはや野生動物にとって人間は敵ではない。おもしろがって殺傷したり、捕まえて籠に入れたりさえしなければ、全ての生物が人類とは友達であるらしいよ。しかも生物の多様性が破壊されないように、意識網を使って観測して個体数を把握し、増加し過ぎないように、また減少し過ぎないように調整されているのだとか」
 足場も悪くはなかった。森の中には人工的過ぎない小道が自然に見えるように作られている。植物も多様性を極め、ひとつの種類だけがはびこることのないように管理されていた。
「実験的でもあるけれど」
 ナツはゆるやかに飛び立っていく蝶を仰いだ。
「もちろん実験だ。下位次元の地球を住みやすくするためのね」
 木漏れ日のチラチラと差す中を通り抜ける。風も心地いい。
「だけど、籠の中に生き物を閉じ込めたりしなければ、って、さっき言ったけど、ラン、あの籠の鳥を持ち込んだ奴はどうなった?」
「どうなったって?」
「21次元に上がり終えた時、籠の鳥がやたら騒いでいなかったか」
「そう言えば、そうだったな。いつもより元気だと言っていたけど。あの後、籠の鳥は見かけないね。もちろん、部屋で飼っているのだろうけど。彼自身はどうしているのか」
 ランは鳥を持ち込んだ人のことをすっかり忘れていた。「彼の名は確か、クラビス」
「クラビスとやらは、家族と一緒か?」
「さあ、どうだか。みんな疲れているだろうから僕の方では召集を掛けていないし、こうして次元間移動が完了してしまえば、司令長官の指示なしに動くのも難しいからね」
 今は自由時間だとされているが、長官の言う「新しい星」の創造時間には、既に入っていると考えられる。そうなれば、次元間移動が主要な任務であるランはもはや一隊員でしかなくなるはずだ。出しゃばったことをしてはいけない。
「仲間と顔を合わせて話をするくらいは許されるだろう。現に、俺たちは会って話をしているのだし」
 ナツは頭上を横切る鳥に口笛で挨拶をする。鳥も愛想よく囀り、樹木の内部に消えていった。
「まあ、そうだな。ホテルに戻って、籠の鳥はどうかと聞いてみるか」
 ランが青空を見上げると、理想的な白い雲がゆっくりと動いていた。

 ホテルに戻ると、ランは司令長官とルーム電話で連絡を取り、0次元地球から共に次元移動してきたパーツ製作員と話がしたい旨を伝えた。
「なんの話をするのだ」
 予想通り、簡単に認めたりはしない。
「鳥をこの次元に連れてきた製作員が居たので、鳥の様子を聞いてみたいと思いまして」
 正直に答えた。嘘をついたところで、司令長官には直ぐにばれるに違いないし、嘘をつく必要もない。
「鳥を連れてきた奴なんて居たかな」
「お忘れでしょうか。籠の鳥はこの次元に到着すると、驚くほど激しく囀っていました。製作員は『機嫌のいい時にこうなります』と説明していましたが」
「覚えがないな。でも、どうして鳥のことが気になったのか」
 細かく質問してくるのは相変わらず。ひとかけらの秘密も許さぬ調子だ。
「外の森林を歩いていましたら、たくさん鳥が居ました。野鳥なのに、まるで僕に懐いているかのように穏やかで、21次元になると生き物でさえ品格が変化するのかなと思いました。それで、0次元から来た鳥はどうだろうかと見てみたくなって」
 ランの方だって、必要がないのなら、ひとかけらの嘘も混入する気などない。
「飼い主の名前は?」
「クラビスだったと思います」
「少し待てよ――」
 司令長官は名簿を繰っているらしい。紙が擦れる音がしばらく続きた。
「ないな」
「は?」
 つい間の抜けた返答をしてしまった。
「クラビスとやらは、ない」
「そんなはずはありません。同行したナツも彼のことを知っていますから。この次元に来た瞬間も一緒にいました」
「しかし、ないものはないからな」
 司令長官はしばらく黙り込んだ。「名前を覚え間違えたのでは?」
「そんなはずは――」
 断言しようとしたが、それについては断言できない。覚え間違えたのではないにしても、正式な名称と呼び名では異なる場合もある。
「ホテル内放送をするか。あるいは、製作員たちに割り振った部屋をしらみつぶしに確かめるか」
「そんなことをしてもよろしいですか」
 それができるのなら、いずれ見つかるだろう。もしもクラビスがどこかへ行ってしまったりしていないのであれば。
「好きにしたまえ。ホテルのフロントにも部屋割りの名簿を預けてあるから取りに行くといい。私の方からも、ランが取りにくるから渡すようにと一報を入れておくよ」
 朗らかな調子のまま電話を切った。
 ランはフロントで名簿を受け取り、鳥を同行させた製作員は至急フロントに来るようにと放送することを頼んだ。それから三十分ほど待ったがクラビスが現れることはなく、結局、部屋のベルをひとつずつ鳴らして回ることになった。十部屋ほど確かめたところでナツに応援を頼み、根気よく探し続けた。
「いないな。どこかに逃亡したのでは?」
 ナツは手の甲で額の汗をぬぐった。
「どこへ? 到着したばかりで地図もないだろうに」
「まだ、返事をしなかった部屋が二部屋残っているし、そこは家族部屋じゃなく一人用居室だから、可能性は残っている」
 逃亡したのではないかと言ったのはナツ自身なのに、直ぐに楽観的な様子を見せる。
「そうだといいけどな」
「司令長官はクラビスを見なかったって?」
「そう言ってた」
「そんなわけないと思うが。ここに到着した時、あれだけ激しく鳥が鳴いていたのだから」
「僕もそう思う。でも、司令長官は上位指揮官だから、個々のことまで記憶していないのかも。これまでずっと、長官のことは恐ろしい記憶力を持っていると思ってきたが、今の状況はこれまでになかったことだから、少しは忘れていることもあるだろう」
「どうかな」
 ナツは鼻頭に皺を寄せて、疑わしそうに眼を細めた。
 ランとナツがホテルの薄暗い廊下の端に立って、クラビスの行方について話していると、向こうから少女が歩いて来るのが見えた。こちらに手を振っている。
「リオじゃないか」
「司令長官にでもこの話を聞いたのだろうか」
 二人は耳元で囁き合った。
「放送、聞いたわ」
 リオは目の前に立った。急ぎ足で来たのか、頬が紅潮している。「鳥籠を持っていた製作員を探しているそうね」
「司令長官に聞いたのか」
 ランが言うと、リオは否定した。
「放送を聞いた後、部屋の外を歩いていたら、あなたたちが彼を探しているらしいと聞いたから。製作員の部屋の扉を叩いて歩いたのでしょう?」
「そりゃそうか。あれだけしらみつぶしに探して歩けば噂にもなるね」
 ナツは口ひげをいじりながら何度も頷いた。
「実は私も彼を探していたの。そう言えば彼を見ないなって、ちょうど思っていたところだったから」
「リオさん、親しかったの?」
 装飾担当のリオは特別に中央司令本部から派遣されていた人だから、他の製作員とそれほど仲良くしていなかったはずだと、ランは勝手に思い込んでいた。
「鳥を何度か見せて貰った。私も鳥が好きだから」
「そう言えば、リオさんの失くした鍵にも鳥のレリーフが彫られていたのだったね」
「それは偶然だけど。それにしても、彼の名前がクラビスだったとは知らなかった。私はハルミと聞いていた」
「ハルミ? それが正式名称か」
 もしそうなら、名簿にその名があるはずだ。ランは手に持っていた名簿の中にその名がないか探し始めた。
「これかもしれない。エルミット。ハルミが愛称だとしたらエルミットはあり得る。でも、この部屋はさきほど扉を叩いても出てこなかった。それにしても、どうして僕にはクラビスと名乗ったのだろう」
「まだ、それがそうと決まったわけじゃないけど、クラビス、ハルミ、エルミット。どうしてそんなにたくさん名前を持っているのだ?」
 ナツは自慢の髭をずっと掌で撫でつけている。
「このエルミットが彼かどうかはまだわからないから、ひとまず、クラビスと呼ばせてもらうが、クラビスはどういう人間だった?」
 ラン自身はほとんど話をしたことがなかった。物静かで、周囲に迷惑をかけることのない、どちらかと言えば目立たない男だった。だからこそ、籠に入れた鳥を連れてきたいと言ったのを認めたのもある。
「優しい感じの人だった。私以外にはほとんど誰とも話をしていないように見えた」
「どんな鳥だったの」
 ランの言葉に軽く頷き、リオは記憶を辿るかのように天井を眺めた。
「クリーム色の羽根とルビー色の目を持った、しなやかな鳥よ。籠から出して、肩に乗せているのを見た事もある」
「逃げないのかい」
「逃げたりしない。彼と鳥は強い絆で結ばれているかのように見えた。むしろ、鳥の方が彼をつなぎとめていたように見えたくらいよ」
 懐かしそうに眼を細めて、口元だけで微笑みを作る。
「鳥の名は?」
「インディ・チエム」
 リオは誰もがよく知っている名を告げる時の、あの自信たっぷりな表情をした。
「リオも、インディ・チエムと仲良しだったの?」
「そうよ。私は他の製作員と話をすることはほとんどなかったけど、ハルミ、じゃなくて、クラビスと、インディ・チエムとは仲良しだった」
「クラビスはどんな話をしたのか教えてくれる?」
「インディ・チエムの親鳥を飼っていた時のことや、それが初めてクラビスの家にやってきた日のこと。そして、鳥たちがいかに優れた超能力の持ち主であるかとか、人間よりも心が美しいこと。要するに、鳥の話ばかりよ」
 リオはおかしそうに肩をすくめた。
「僕も聞いてみたいな」
「いくらでも話してくれると思う。その、名簿にエルミットと書いてあるのがハルミ、クラビスなのだとしたら、部屋の前で待っていたら、戻ってくるに違いないから、待ちましょうよ」
 リオの提案で、ナツとランはその部屋の前で待機することになった。

「なかなか戻ってこないわね」
 ランとリオはエルミットの部屋の前で一時間ほど待った。
 ナツはもうひとつ残っていた入居者不在の部屋に行き、それはクラビスではないことを突き止めてきた。
「じゃあ、どう考えても、このエルミットの部屋がハルミ、あるいはクラビスの部屋だと思うけど」
 ランはナツに頼んで、改めてエルミットの部屋にルーム電話を掛けて貰ったが出なかったらしい。
「今日はもうあきらめよう。きっと、森の散策にでも出掛けたのだよ。そのまま、森のコテージでも見つけて、バードウォッチングでもしているに違いない。鳥が好きなら、絶対にやりそうなことだし」
 ランの言葉に残りの二人は納得し、その日は解散となった。

 ところが、翌日になっても、翌々日になっても、エルミットとは連絡が着かないことがわかった。
「司令長官に話すしかないわ」
 リオが落胆した様子を見せた。
「そうだな」
 ナツも同意する。
「できれば、僕たちだけでどうにかしたいが」
「どうして?」
 リオが丸い目でランを見つめる。
 ランは司令長官が仲間の中に鳥籠を持った人が一人居たことを覚えていないと言ったのが気になっていた。嘘ではないかと勘ぐっていた。だとしたら、どうして嘘をついたのだろう。わからない。しかし、そんな風に疑問に思っていても、言葉にすることはできない。仲間であるリオやナツに対してであってもだ。立場が上になればなるほど、上官に対するわずかな背信も許されない。
「司令長官の手を煩わせたくないから」
 小さな嘘をついた。
「それもそうだな」
 ナツは横目でランを睨むように見る。長年の相棒らしく、言いにくいことがあるのを察知してくれたのだろうか。経験からすると、ナツのこの表情はそういう時の顔だ。
「俺がフロントで鍵を借りてきてやるよ」
 ナツが片目をつぶる。
「そんなことできる?」
 リオが丸い目をもっとまんまるに見開いた。
「簡単さ、お二人はロビーでくつろいでいるふりをして、こっそり俺を見てな」
 もう一度ウィンクをした。

 ナツはもっとも若そうなホテルマンがフロントに立ったのを見計らって、自分の鍵を握りしめて近付いた。
「さっき、別の方に鍵を出してもらったのだけど、間違っていたよ。危ないところだった。正しい鍵をくれよ」
 大声で言う。
「申し訳ありません」
 ホテルマンはおどおどし始めた。
「まあいいけどさ」
 少しトーンを下げた後、ホテルマンの方に顔を近付けてひそひそ言う。ホテルマンは「承知しました」と言い、後ろの棚から鍵を一本取り出した。
「サンキュ」
 ナツはにこやかな表情をフロントに向けた後、ランとリオの方を見もしないでエレベータの前に立った。急いで、ランとリオもエレベータ前に向かい、扉が開くと三人で乗り込んだ。
「うまいなあ」
 ランが言い掛けると、ナツは人差し指を立てて唇に当てた。確かにエレベータには確実にカメラが向けられているだろう。
 三人は沈黙したまま該当する階に止まるのを待ち、降りると、急いでエルミットの部屋に向かった。
「さてと、クラビスさんには悪いが開けてみますか。中で死んでいたりしなければいいけど」
 ナツがにやりとする。
「物騒な事言わないで」
 何食わぬ顔で鍵を開け、扉を開いた。
 明かりは点いていない。ナツが手を伸ばしてスイッチを入れ、三人とも中に足を踏み入れた。
 ランやリオの部屋のように広くはない。ナツも家族が居るからやや広い部屋が与えられているが、その部屋はこじんまりとしたシングルルームだった。ベッドがひとつあり、鏡台と椅子がある。
 一目見て、中はもぬけの殻だった。
 籠の鳥もいない。
「クラビスの部屋じゃないのか」
 ランは部屋の中央まで入り込んだ。
「あ、でも、羽根が落ちてる」
 リオが駆け込んで、絨毯から一本の羽根を拾い上げた。「クリーム色。確かに、これはインディ・チエムの羽根よ」
 愛おしそうに羽毛を撫でた。
「じゃあ、やっぱり、エルミットがハルミであり、それがクラビスだったのか。どうして僕にはクラビスだと名乗ったのか」
「パーツ製作はある程度は極秘作業だったし、名前はいろいろと変更可能だったからな。なるべく誰にも顔や名前を覚えられないことが大事だったのだから」
 ナツは製作中のことを振り返っているようだった。誰もが寡黙で、自身のことを詳しく話したがらなかった。悪行を働いているわけではなかったが、大ぴらに宣伝して歩くものでもなかった。次元間移動し、その移動先で使用するパーツを製作する仕事は、それほどありきたりなものではなかったからだ。
「それにしても、どこに行ったのかしら」
 リオは部屋の中をぐるぐると歩き回り始めた。
「エルミット、バスルームとかトイレに居るのでは?」
 ナツが言うと、リオがバスルームの扉を開け、電気を灯した。
「あ、何か書いてある」
 鏡に薄い葡萄色のリップスティックで文字が書いてあった。
《名前》
「名前って、どういうことだろう。僕たちがここに来ることを知っていたのか。名前についてあれこれと悩むことを知っていたのだろうか。ハルミはエルミットの愛称だとして、クラビスは——」
 どうしてランにだけはクラビスだと名乗ったのだろう。
「クラビス、を指していそうだな。ランにだけは話した名前。実際、彼が本格的に行方不明になれば、当然、隊長だったランが呼び出されることくらい、予測はできるだろうけど」
 ナツは鏡の文字に目を近付けた。「だとしたら、クラビスと書かなかったのは、むしろクラビスに注目してくれと言いたかったのではないか」
「それにしても、彼は鳥と一緒に逃亡したのか。それとも、しばらくしたら戻って来るのか」
 三人で何か手がかりになるものはないかと部屋中を探し回ったが、鳥の羽根一本と鏡に書かれた文字以外、何もなかった。
「クラビスがいなくなったことを長官に伝えた方がいいだろうか」
 伝えないわけにはいかないが、伝えにくいとランは思っていた。
「別に伝えなくてもいいんじゃないかな。もし聞かれたら、探したけれど、今のところ会えなかった、どこかで散歩でもしているのかもしれませんと答えておけばいいだろう」
 ナツはきっぱりと言う。
「私も長官に詳細を報告しなくてもいいとは思うけれど、さっきから二人はなんとなく秘密にしておきたいようね。どうして?」
 リオが二人の顔をじっと見つめた。
「さっきも言ったけど、忙しい司令長官の手を煩わせたくない」
 これで押し通す。
「本当のことを教えて」
 リオは大きな瞳でまっすぐにランを見る。
「本当だよ」
 怯むことなく見返した。
「ランは嘘をついていないさ」
 ナツが間に入った。「どうあれ、長官は彼のことを気にしていないし、話せば煩わせることになるのは間違いないのだから」
「ここで立ち話もなんだし、二人とも僕の部屋に来ないか。ルームサービスを取り、食事をしよう」
 ランは少し休みたかった。
 二人は同意し、一度解散してから、一時間後にランの部屋に集合した。

「部屋に戻って調べたのだけど、クラビスってラテン語で鍵という意味らしいわ」
 リオは三人が集まると、直ぐにその話を始めた。
 三人は既に届いている飲み物を口にし、オードブルをつまむ。
「そうか。クラビス、というか、エルミットはどうして僕にその名前を伝えたのだろう」
 ランは炭酸水をグラスに注ぎ、一気に飲み干した。喉が渇いているだけではなく、混乱した頭をすっきりさせたかった。
「まだ0次元に居た時、既にこの状態を想定していたのかしら」
 鏡に残された文字を思い出す。
「その可能性もあるな」
「私の鍵にも鳥のレリーフがあった。そもそも彼は私とだけ打ち解けて話をしているようだったけど、私の鍵が無くなったことと関係しているのかもしれない」
 リオはそう言うと、ドライフルーツを口に入れた。
「というのは?」
「具体的にうまく説明はできないけれど、彼の籠の鳥と私の鍵がどこかでリンクしている気がする」
「リンクって?」
 ナツはワインの栓を抜き、飲み始めた。
「説明はできないのよ。でも、私の鍵は確かに鞄に入れたはずなのに消え失せてしまったし、彼は籠の鳥と一緒にここに来たはずなのに、どこにもいない」
「そして、クラビスと仲が良かったのはリオだけだな。全員に聞いたわけでもないから、まだ、そうと決まったわけではないけれど」
 ランも、リオの鍵が失われたことと、クラビスがいなくなったことに何か繋がりがある気がしないでもない。
「いずれにしても、鏡に名前を書き残したということは、意図的に出て行ったんだろうな。連れ去られたとも考えられるが」
 ナツは既にワインを一杯飲み干し、瓶から自分でもう一杯をグラスに注ぎ始めた。
「連れ去られた?」
「そう考えれなくもない」
 ナツは旨そうにワインを一口飲む。
「確かにそうね」
「あの鏡に書いた文字はリップスティックだと思ったけど、リオ、彼は普段メイクをしていたかな」
 近頃では男性もメイクをするらしいが、まだそれほど一般的ではないと思っていた。
「そんな風に見えなかったけど、透明感のあるタイプだったから、唇を保護する為に塗っていたとも考えられるわ」
「色付きを?」
「それはそうね。物静かなエルミットが色付きのリップスティックを付けていたら、絶対に気が付くはずね。じゃあ、あれが彼のものじゃないとしたら——」
 リオは記憶を呼び起こそうと天井を見た。「だけど、もしも、リップスティックを使うような誰かに連れ去られたのだとしたら、いちいちメッセージらしきものを残すかしら」
 リオの言葉に、二人はそれもそうだとうなずいた。

 数日後、ランがホテルのカフェで朝食を取っていた時のこと。
「ラン、居たぜ」
 ナツが驚きを隠せないといった表情でテーブルまで走って来た。
「そんなに顔を赤くしてどうしたんだ」
「驚いたのさ。居たんだよ」
「もしかして――」
「そう、クラビスだよ。あるいはエルミット」
 ナツはランの耳元で囁いたが、吐き出す息の金属音で耳が痛くなりそうなほど興奮していた。
「どこに?」
「中庭さ」
「一人で? それとも鳥と?」
「いや、それが、二人だ。相手は女性」
「なるほど。確かあの時、連れて行きたい家族はいないが、鳥を連れて行きたいと言ったはずだが、考えてみれば、想定外に、誰しも置いて来た家族と再会することになったのだったな。司令長官が手配したのだった」
 すっかり忘れていた。「で、二人は何をしていた?」
「中庭でティを楽しんでいたよ。よく見ると、女性は鏡の文字に使ったと思われるリップスティックの色の唇をしていた」
「じゃあ、あの部屋で二人一緒に? シングルルームだと思ったが」
 ランはカップに残っていた珈琲を飲み干し、歩いているウェイターに手を上げて、自身の為に珈琲をもう一杯と、ナツの為にも一杯を持って来てほしいと頼んだ。
「確かにね。部屋を変更して貰ったのだろうか。それであの部屋にはいなかったのか」
 速やかに珈琲が届くと、
「これを持って、中庭でくつろいでいるふりをしながら、クラビスとその女性の居るところに近付いてみよう」
 ランは立ち上がった。
 ナツも「それはいいアイデアだ」と立ち上がった。

 クラビスと連れの女性は背の高い樹木の下にあるテーブルを陣取っていたので、ランとナツは樹木の後ろからそっと近づき、見えない位置に立って耳をそばだてた。すると二人は、小さな声ではあったが、はっきりとこう言った。
「ハルミ。いつまで居られる?」
「いつまでも居られるわよ」
「ならよかった。こんなことになるなんてね」
「クラビスにも想定外だったのね」
 それを聞いていたランとナツは顔を見合わせた。
「どういうこと?」
「女性がハルミで、クラビスが俺たちの知っているクラビス?」
 小声で言う。
「じゃあ、リオの知っている鳥籠を携えた人とはハルミか? でも、リオは彼って言っていたはずだが」
「後で聞いてみよう。それより、二人は立ち上がったぜ。そっと後を付けて行き、部屋を改めて確かめよう」
 ナツの提案に、ランは大きく頷いた。
 
 ハルミとクラビスは、前日にリオも含めた三人で侵入した部屋に入っていった。
「おい、結局、あの部屋に居たのか。この前はどう見てももぬけの殻だったが」
「荷物が何もなかっただけかもしれないし、今日、どこかから戻ってきたのかもしれない」
「でも、鳥は?」
「連れて行っていたのだろう」
「だけど、じゃあ、あの鏡にリップスティックで書いてあった《名前》ってなんのことだ。しかもリップスティックで書くなんて意味深じゃないか」
 ランとナツは部屋の前で混乱した。
「それより、何食わぬ顔をして、部屋の呼鈴を押してみるか、あるいは、ルーム電話で呼び出してみたらどうか」
 ナツがいい思い付きを得たとばかりににやける。
「なるほど。直接、呼鈴を押してみよう」
「それに、昨日、返すのを忘れていた鍵がここにあるからね」
 ナツは胸ポケットから鍵を取り出して見せた。「思い切って中に入ることもできる」
「もしも出て来なかったら、そうしよう。理由を話せば分かってもらえるだろう」
 ランは承諾した。
 ナツが呼鈴のボタンを一度押した。
 出てこない。
 もう一度押した。
 しばらくして、扉が開いた。
 顔を出したのはクラビスだった。
「これは、隊長」
 相変わらず穏やかな笑顔を見せる。「お久しぶりです。ホテルの部屋に割り振られてから、初めてお話しますね」
「見かけないから、心配したよ」
「私の方からは時々お見かけしましたよ」
 中から鳥の鳴く声が聞こえる。
「鳥、居るのか」
 ナツは意外そうに言った。
「ええ、ご覧になります? 今は部屋の中で放していますが」
 クラビスは室内に入るかと誘った。
「放し飼いなら、少し覗くだけにしとくよ」
 森ではあんなに自然を喜んでいるように見えたのに、どうやらナツは鳥が苦手らしい。室内で接近されても困ると思ったのか。
「じゃあ、少しだけ、どうぞ」
 覗くと、リオが言った通りの、柔らかそうなクリーム色の鳥が一羽、ベッド横のテーブルに止まっている。
「他に誰かいるのでは?」
「いいえ。私一人です」
 クラビスはにっこりと微笑む。
「本当に?」
「部屋を見渡してください。気になるのでしたら、クローゼットとかバスルームとかトイレもご覧になります?」
 ランとナツは顔を見合わせた。
「じゃあ、遠慮なく、僕だけ」
 ランは中に入り、あらゆる扉を開けて全てを確かめた。
「いない。誰もいないね。鳥だけだ」
「インディ・チェム、という名ですけど」
 クラビスは相変わらず穏やかだった。
「そうか。今は少し混乱しているから、俺たちは帰るけど――」
 ナツが言い掛けると
「今度ゆっくり話ましょう」
 クラビスが微笑む。「それより、返してください」
 手のひらを出す。
「何を?」
「何をって、昨日、書いておいたでしょう? 鏡に」
 クラビスは微笑んだまま、わずかに眉尻を下げた。
「ああっ」
 ナツは声を上げ、身体を硬直したまま、胸ポケットから鍵を指でつまんで取り出した。
「それです」
 静かに言い、ナツがクラビスの手のひらに鍵を置くと、
「勝手に入られては困ります」
 眉尻を下げつつもにっこりと微笑み、
「では後日、ゆっくりとお話しましょう」
 と言って、二人は廊下に追い出され、扉はぴったりと閉じられてしまった。

「驚いたね。どういうことだ」
 扉の前で、ナツは目を血走らせて見開いている。
「クラビスの方ではお見通し、ってことだな。まさかあのおとなしいクラビスにそんな能力があるとは思いもしなかったよ」
 ランも息が詰まるほどに驚いていた。
「リオにも早めにこの話をした方がいいね」
「それはそうだな。直ぐに呼び出そうか。ひとまず、森を散歩しないかと言ってみよう。先日の件で進展があったからってね」
 早速、ランはスマホにメッセージを入れた。

 まもなく、森に向かう歩道の入り口に三人は集合し、途中にある公園のベンチで話をすることにした。ほとんど毎日、暑くもなく、寒くもない、驚くほどに快適な気候が続いている。
「気温や天気もコントロールされているのだろうね」
 ナツは太陽を眩しそうに眺めた。
「21次元地球ってのは、0次元でリゾートのコマーシャルを作る時みたいな完璧さがある」
 ランも、しばらく暮らしてみて、ここはあまりに虚構的だと言えるけれど、ずっと誰もが心の中で夢見ていた地球の状態を再現し、常に保たれていることに感心せずにはいられなかった。
「ここまでコントロールされているからには、冒険がしたいと思えば、危険のない程度のサスペンスでさえ準備されていそうだわ」
 木材で作られたテーブルと椅子の設置されている場所に到着した。「整えられた自然ってのも、奇妙な言葉だけれど」
「そもそもの自然は、もしも人間が全く介入しなければ、食物連鎖や宇宙の寿命で栄枯盛衰があり、それはそれで完璧なんだろうけど、現代の人間には合わないね」
「つまり、この21次元地球の完璧さは、現代の人間の視点から見たもの、ってことだろうね。他の生き物から見たらどうかはわからないよ」
 ランも同意する。
 三人が椅子に座ると、
「それより、先日の件とはエルミットのことだと思うけど、何か新しいことがわかったの?」
 リオが話を切り出した。
「実はね――」
 ナツが先程、クラビスとの間に起きたことを説明した。
「じゃあ、そもそも、ハルミとクラビスの二人が居たってこと?」
「確かに俺たちはその二人をはっきりと見た。双子というほどでもないけど、似ていないこともない。あれで鳥籠を持っていれば、顔が似ていなくても、俺たちがそれぞれに同じ人物について話していると錯覚しても仕方がない。たぶんハルミは女性だけど、ショートカットだったから、リオがなんとなく男性だと思っていたとしても仕方がない」
「どちらかが別ルートで呼び出された家族ってことかしら。そう言えば、どんな風に残されていた家族をこちらに呼び出したかは、まだ司令長官から話されていないわね。それについては後で説明すると言って、まだ何も説明はなされていないわ。でも、0次元で私が出会った人はハルミと名乗り、ランが出会った人はクラビスと名乗ったのだから、やっぱり最初から二人存在したのかしら」
 リオは首を傾げた。
「ねえ、それより、見て、向こう。ハルミ、あるいはクラビスとインディ・チエムじゃない?」
 肩にクリーム色の鳥を乗せた人がこちらに近付いてくるのが見えた。
「そう言えば、彼はこの件については後で話すとさっき言っていた。ひょっとして、ここで種明かしをしてくれるのか」
 ランは思わず立ち上がった。
「話してくれるといいわね」
 リオも立ち上がり、向こうから来る人に満面の笑顔を見せて手を振った。

「お揃いで何よりです」
 クラビスは三人の前に立った。小麦色の肌にアッシュブラウンのロングヘア。いつもはひとつに束ねている髪を下ろしたままにしていた。
「インディ・チエムは急に飛んで逃げたりしないのか」
 ナツはやはり生き物が苦手なのか、気になっているようだ。ひょっとしたら、インディ・チエム自体を警戒しているのかもしれない。
「大丈夫ですよ。それに、もしもそんなことがあったら、それはインディ・チエムの願望だから、逃げたとは考えません」
 相変わらず静かなトーンで話す。
「座りましょう。この場所は誰にとっても気持ちがいい」
 肩に止まっていたインディ・チエムはテーブルの上を覆う樹木の枝に飛び移った。枝が揺れ、葉が揺れ、光と影が揺れた。「インディ・チエムも狭い部屋の中より、森の枝の方が好きでしょうから」
「あなたの名前は?」
 リオが待ちきれず切り出した。「私と話している時はハルミ、ランと話している時はクラビス。名簿にはエルミット。一体全体、どれが本当のあなたなの。全部あなたの名前?」
「今はクラビスと呼んでほしい。でも、全てが私の名前だと言ってもいい」
「じゃあ、クラビス。ハルミはどこに?」
 リオは畳みかけるように尋ねた。
 クラビスの長いグレーの髪を風が揺らし、それに惹かれたのか、インディ・チエムが枝からクラビスの肩に飛び移った。
「まあ、そう焦らずに」
 ナツはインディ・チエムの突然の動きにびくつきながらも、冷静にリオをなだめた。
「クラビス。あなたは0次元地球から共にこちらに移動した仲間だが、そもそも0次元地球の住人ではなかったのではないですか」
 ランはクラビスの瞳をまっすぐに見た。0次元に居る時から聞いてみたかったことだ。
 クラビスもランを素直に見返し、静かに微笑んだ。
「よく分かりですね。その通りです。ある星から地球探索要員として派遣されたグループの一人でした」
「ということは、地球人でもないってこと?」
 リオが声を上げる。
「そういうことになります。可能でしたら、他の人には仰らないでください」
 クラビスは顔色一つ変えずに言う。
「君が地球探索グループの一人であるなら、そのグループ員はたくさん居て、地球上を探索しているのだと?」
 ナツは疑わしそうだった。
「確かにそうですが、多くの地球探索要員は数年で過去の記憶を失います。過去の記憶とは、地球探索用に育成された記憶。それはある段階で消去されるように設定されていますから。消去された後は、もともと地球に居た人間であるかのような過去の記憶をインストールされる。そして、本人もその記憶に従い、地球探索要員だったことを忘れて、地球人として馴染み、順当に暮らすことができる」
「ところが、あなたは記憶が消去されなかった。それはなぜ?」
 ランは地球探索要員が地球に派遣されている事自体は聞いたことがあった。彼らは地球を乗っ取るつもりがなく、行動が無害なので許容されているらしい。
「インディ・チエムが居たから。なぜインディ・チエムが私のところに来たのかは定かではありませんが、そろそろ記憶が消去される時期に差し掛かった時、当時住んでいた家の庭の樹木にインディ・チエムが止まった。そして、意思疎通し、それまでに持っていた記憶をインディ・チエムの指示に従って保存したのです。
 ちなみにインディ・チエムは鳥ですが、普通の鳥ではありません。超能力鳥だと言えばいいのでしょうか—―。
 とにかく、記憶保全の方法は、一旦、インディ・チエムの脳内にある記憶装置にコピーし、私は一瞬、すっかり記憶喪失になりの記憶を埋め込まれたようでしたが、時を見計らってインディ・チエムが素早くもとの記憶を移し替えました。
 つまり、記憶喪失の最中に中央司令塔から電波で送られてくる地球用の過去を装填されたけれども、インディ・チエムの中に保存されていた記憶を上書きすることで、私は元通りの状態になったのです。
 おそらく中央司令塔はこのことを知りません。そこはインディ・チエムの誘導に従ってうまくやり過ごし、私は地球探索要員であったことを忘れたふりをして、0次元地球で隠者の如く暮らしていました。
 ある日、ラン隊長率いる次元移動プロジェクトのパーツ製作要員の募集を見つけたので、応募しました。インディ・チエムの指示に従って、新しい物語を作るための装置製作を担当することにしました。これなら、それほど物質を扱うことに慣れていない私にでも遂行できますので」
「どうしてこのプロジェクトに?」
「インディ・チエムが、このプロジェクトは地球外の星に渡るための中継地点を作ろうとしていると教えてくれたから」
「中継星の建設が行われることを最初から知っていたのですか。こちらに着いてから、司令長官が後で詳しくみんなに説明すると仰っていたが」
「知っていたと言いますか、インディ・チエムの予覚により、前もって告げられたとするのが適確です」
 再び、インディ・チエムはクラビスの肩を離れて樹木に飛び移った。
「クラビスさん、あなたが最初からこのプロジェクトの意図をご存知だったのはわかりましたが、参加する理由は?」
「ひとつにはインディ・チエムの希望でもありましたが、もうひとつには故郷の星に帰りたい希望があります。故郷とは地球探索要員として育成されたところですから、特によい思い出はありませんが、忘れ物があることを思い出しました。地球探索要員として送り出される時に、持ち出し禁止として没収されたものです」
「それはなに?」
 リオは好奇心に満ちた目をクラビスに向けた。
「育成所で親しくしていた人が地球探索要員として送り出される直前に、私に手渡した書物です。次世代の後輩に渡し続けるようにと言われました。でも、書かれている文字は誰にも読めない。いつかは読める人が現れるとの言い伝えと共に、引き継いでいくはずでした」
「没収されたのなら、もう焼かれたのでは?」
 ナツは憎々し気な表情を作ってみせていた。
「私はもともとは持ち出そうとしたのではなく、引き継ぐ後輩を見つけられずにいました。それで、仕方なく持ち出そうとしたところ、中央司令部に没収されたのです。でも、もしも焼かれたのであれば、あの星は消滅するはずです。言い伝えではそうだった。もちろん、初めから、こんな言い伝えを信じていたわけではありませんし、長い地球生活で忘れていさえいました。ご存知の通り、地球は思いの外、他の星と比べて住み心地のいい場所ですから。でも、インディ・チエムとの遭遇が私にあの本のことを思い出させてくれたのです。確か、表紙にはインディ・チエムと同じ鳥の図が描かれていた。その鳥を肩に乗せる人の絵と共に」
 クラビスはそこまで言うと、深く息を吸い、長い溜息のようにゆっくりと吐き出した。
「つまり、それは、クラビス、あなた自身ではないかと、思っているのですね」
 ランが言うと、インディ・チエムが枝から一度空高く飛び立ち、樹木の周りを一周して、ゆっくりとクラビスの肩に舞い降りた。
 インディ・チエムを肩に乗せたクラビスは頷いた。
「バカげているとお思いでしょうけれど」
 悟り切ったかのように静かな笑顔を浮かべる。
「バカげているとは思わないが、にわかには信じがたい」
 ナツが腕組みをして、上目遣いにクラビスを睨んでいた。
「クラビス。その故郷の星が破壊されていないことは確かなのか」
 ランの方はクラビスを全く疑っていなかった。むしろ、ラン自体も抱えている秘密を、クラビスとインディ・チエムが共有している可能性があると思い始めていた。
「はい、隊長。もちろん断言はできませんが、インディ・チエムとの交信においてはそのように理解しています」
「今回のプロジェクトは中継ポイントとなる新星を構築するのが目的だが、もしもその新星の建設に失敗した時、クラビスの故郷には戻れなくなるのだね」
「おそらく。他に中継ポイントがなければ、ですけれども」
 クラビスはインディ・チエムを左腕に乗せ換え、右手で背中を優しく撫でた。
「僕の知り得た情報では、現在の中継星である青実星は誤作動を起こしているらしい。地球に送り込む予定ではなかったものが送り込まれ、送り込む予定だったものが送り返されているのだとか。それで他に中継となる新星を建設するほかなくなったのです。誤作動の理由が、そのクラビスの言っている本と何か関係があるのだろうか」
 ランもその本を読みたいと思った。
「さあ、どうでしょう。新星を建設し、それから、私の故郷である星へと向かうことができるまでには長い年月がかかりそうです。そして、実際にその本を手に入れることができたとしても、やはり文字が読めないでしょう」
 クラビスは悔しそうではあったが、それでも、本を入手するまでは諦めない覚悟のようだった。
「その星に戻ったとして、その本は返してもらえるのかな」
 ランの言葉に、クラビスはしばらく沈黙した後、
「大丈夫です」
 静かに答えた。「本当は内緒にするつもりでしたが、打明けてしまうと、実は没収されたのは複製です。言い伝えでは、本を受け取った者はその星を出ることになるまでの間に、複製を一冊作ることが義務付けられていました。万が一、引き渡す後輩が見つからなかった場合、本体をとある場所に埋め、複製を持ち出すことが決まりでした。没収されたのはその複製の方」
「なるほど。では、複製は中央司令部に没収されて焼かれてしまったかもしれないのだな」
「そうかもしれません。他にも持ち出そうとして没収されたものがありましたから、それらと共に、複製は焼却処分となったのかもしれません。いずれにしても、文字は読めないのだし、中央司令部は誰も何も知らないはずです」
「あなたの故郷星の中央司令部は、あなたがこのプロジェクトに参加していることを知らないのか」
 そんなことがあり得るだろうかと疑っていた。
「わかりません。もしも彼らが私が存在しているかどうかについて、私に与えられた0次元地球の居場所周辺を探せば、どんなに探してもどこにもいないことはすぐにでもわかるでしょうから、探し回った挙句、そこにいないことがばれるかもしれませんし。でも、一度、地球探索要員が地球に根付いたら、後はそれほど探し回ったりしないのが通常です。何人もの先輩方が、いつの間にか昔の記憶を失くし、新しく装填された記憶にふさわしい生き方を始め、すっかり地球に根付いていくのを見送ってきました。地球に根付いたら、直ちにもう監視の外になっていました」
「それは、ひとつの自由だと考えていいのか」
 ナツは髭を撫でながら首を傾げた。
「どうでしょう。客観的には、故郷星で地球探索要員として育成された過去を抱いて生きるよりも、新しく装填された過去に従って生きる方が幸せに見えました。たいていは、消防士とか、災害対策委員とか、国立公園の植木職人等、即戦力としての人材になっていきました。どのように、それが地球上の人々に受け入れられたのかはわかりませんが、あたかも昔から存在した同僚のように、彼らは地球に根付いていきました」
「クラビス、あなたは地球では何になったことに?」
 ランはクラビスの履歴書を思い出せなかった。たとえ、中央司令部とやらから押し付けられ、気付かないふりをして受け入れたものであったとしても、なんらかの職業があったのだろうけれど。
「地下水道の整備です。ネジの緩みがないかとか、錆びて朽ちてしまいそうな箇所はないかを点検し、あれば新品に交換する」
「そうだったな」
 それを聞いて、ランは思い出した。パーツ製作に有用な人材だと思って採用したのだった。
「ね、それより、ハルミはどうなったの?」
 それまで黙っていたリオが口を挟んだ。「私が0次元地球の作業中に会っていたのはハルミよ。あなたじゃない」
「そうでしょうね。私もあなたに覚えがありません」
 クラビスは少し寂しそうに微笑んだ。
「二重人格?」
 リオの言葉に、
「そんなことはないだろう。俺はさっき、ランと一緒に、クラビスがハルミとやらと話しているのをはっきりと見たのだから」
 ナツが言う。
「ハルミはインディ・チエムです。インディ・チエムは様々なものに変化することができる」
「じゃあ、ハルミとインディ・チエムが一緒に居る時は?」
 リオは見逃さなかった。「私はそういう時を見た」
「その時は、――」
 クラビスは目を閉じる。「言いにくいけれど、私がインディ・チエムです。もちろん、かつてはそのことに気付いていなかったけれど」
「なんだそりゃ?」
「わけがわからないでしょう。私にもどうしてこのような現象が起きているのかわかりません。ただ、そのような現象が起きていることだけは把握できています。できれば、ハルミと私とインディ・チエムの三人、というか二人と一羽で会ってみたいものですけれど、それはできないのです」
 目を開き、インディ・チエムの頬と自身の頬を擦り合わせた。
「ところで、どうして、この話を僕たちにしてくれたのでしょう」
 ランは不思議だった。そんなに簡単に他者を信用していいのだろうか。
「インディ・チエムがそうしようと言ったから。この場所を選んだのもインディ・チエム。ここだけは盗聴網から外れているそうです。ホテルの中はどこもかしこも監視下にある。もちろん、司令長官やプロジェクトに携わっている人々が、我々を監視して奴隷のように扱おうとしているわけではないでしょう。むしろ安全の為に、監視ネットが張り巡らされているのです。ただ、この話はあまり聞かれたくないものですから。それに――」
 クラビスはナツの方を見た。
「それに?」
「あなたにとってほとんど家族と思える人の中に、あなたの注意が必要な方も居そうです。インディ・チエムの知覚においては」
 そこでインディ・チエムが甲高い声で鳴いた。空に響き渡る、激しい鳴き方だった。
「え? 誰?」
「あれじゃないか」
 ランが小さく小指を立てた。
「まさか」
 ナツは顔を紅潮する。
「たぶん、それでしょう。断言できるものではありませんが、慎重な行動が必要かと。それから、リオさん、あなたが失くしたと言っていた鍵ですが、実をいうとインディ・チエムが拾ってきました」
 クラビスはポケットから鍵を取り出して見せた。
「あ、ほんとだ!」
 リオは喜びの声を上げた。
「でも、今はお渡しすることはできません。インディ・チエムの言う事には、これは、司令長官の部屋にあったらしく、どうして? って思いませんか」
 クラビスは再びポケットに入れた。
「やだ、返してよ」
 クラビスに飛び掛かりそうになるリオをナツが押さえて、話を聞こうと諭した。
「インディ・チエムがこの鍵を嘴に挟んで持ち帰ってきた時、私はこれが誰のものだかわかりませんでした。わかったのは、ついさっきです。ハルミと私とで話をしていた時、ハルミがリオさんの話をしました。そして、リオさんが鍵を失くした話をしているのを聞いたと言うので――」
「ハルミさんに鍵について話したことはないのだけれど」
 リオは戸惑っていた。
「インディ・チエムがハルミとして、私を離れて単独で室外を飛行していた時に、リオさんが隊長やナツさんに鍵のことを話しているのを見たのでしょう。結果として、あの鍵はリオさんのものだ、と所有者情報が紐付いたのです」
「そんなことができるの!」
 リオは両手で口元を覆って驚き、ランとナツの顔を交互に見た。
「そのようだね」
 ランは不思議そうにしているリオに向かって静かに言う。「まるで三人寄れば文殊の知恵だ」
「まさしくだな」
 それを聞いたナツが闊達に笑う。
「だけど、どうして私の鍵は司令長官の部屋にあったのかしら」
「誰かがリオさんの落とした鍵を見つけて拾い、単に良心に基づいて長官に届けただけかもしれませんが、もっと他の思惑もあるかもしれない。インディ・チエムが鍵を嘴に挟んで持ち帰ってきたのは、こちらに到着した直後のことでしたから。インディ・チエムとの交信では、司令長官は右手に鍵を握りしめて自身の室内に入り、携帯電話に連絡が入ったので、一旦、チェストの上に鍵を置いたそうです。窓の外からその様子を見ていたインディ・チエムは、それがリオさんの鍵だと気付いたらしく、瞬間移動の技を使ってそれを持ち出した」
「瞬間移動?」
「壁やガラスも抜けられる。でも、万が一見つかって捕えられたり、行った先でエネルギーが消耗してしまい、戻りの為に必要となる媒体を抜ける力が無くなったりすることも考えられ、危険な技だそうです。大変、危険なのだとか。インディ・チエムはそう言っています。だから、滅多な事ではやらないはずです」
 クラビスは愛しそうにインディ・チエムの背中を撫でた。
「そんな危険を冒してまでも、鍵を持ち出してくれただなんて」
 リオはもはや嬉しくて泣き出しそうに見えた。
「さっきハルミに聞くまでは誰の持ち物なのかはわかりませんでしたが、それまでも、インディ・チエムがそこまでして持ち出して来たならば、きっと重要なものだろうと思っていました」
「だけど、司令長官は鍵が無くなったことに気付いてないわけ?」
 ナツは腕組みをしたまま顎を斜め上に突き出した。「そんなわけないだろうな」
「気付いていると思います。思うに、この、待ち時間って不思議じゃないですか。次の作業に入るまで、ホテルでゆっくりと休んでくれと仰いましたが、妙に長すぎると感じませんか」
 クラビスは一人一人の顔を確かめるように、ゆっくりと見た。
「どういう意味?」
 ナツがランとリオの顔を見る。
「ひょっとして、鍵を探している、とか?」
 リオの顔から完全に笑顔は消えた。
「まだ、そうと決まっているわけではありませんが」
「リオは新しい鍵を作ってもらう算段になっていたのでは?」
 ナツが横目でリオを見る。
「そのはずだけど、そんなに簡単に鍵が作れるとは思えないし、作ってくれると言っても、もう作ってくれないのではないかって疑っていたところよ」
「簡単に作れないとは?」
「あの鍵は、身体検査をし、DNAや血液などを調べて、それでやっと作るものなの。作った後は、それらのデータを消去するのが決まりだったから、かつて調べたものはもうないはず。だとしたら、改めて作るとなると、身体検査から始めるはず。でもその話はいくら待っていても来ないし、作る気はないのだと思う」
「そう言えば、この鍵で、ダウンサイズ化したパーツが入った箱を開けることができるのではなかったか」
 ランは到着した当初、全員が広間に集められて伝えられた時のことを思い出していた。
「その通りよ。その鍵さえあれば、ここに持ち込んだパーツを取り出すことができる」
「その箱はどこへ?」
「司令部の集合室じゃないかしら」
「でもどうする? リオの鍵、ここにあるとわかっても、どうやってそれが戻って来たのかを司令長官に説明するのは難しいな。もしも窓が開いている状態でインディ・チエムが室内に入って持ち出したのなら真実を告げることもできるが、瞬間移動して持ち出したと言っても、長官は信じないだろう」
 ナツは「難問だな」と言って、ゆっくりと足を組み替えた。
「到着した夜、僕とリオと司令長官の三人で祝杯を挙げたけど、その時、長官は鍵について何も言わなかったね」
 ランが言うと、
「二人と司令長官で祝杯を挙げたとは初耳だな」
 ナツが睨む。
「黙っていてすまない」
 ランは素直に謝る。「それはそうと、ひょっとして、司令部は我々が製作したパーツを、司令部だけでどこかに持ち運んでしまうつもりだったのではないか」
「実は、私もそう思います」
 クラビスはランの目を真直ぐに見た。「そもそもパーツ製作員の中にスパイが居て、リオさんの鍵を狙っていたのではないか。21次元に移動する時に、どこかのタイミングで盗まれ、司令長官の手に渡ったのではないでしょうか」
 ランは自身が船体室から持ち出した船体の鍵のことを考えていた。今はホテルの金庫に仕舞ってあるが、ついこの間、恐らくはその鍵の影響で司令長官の部屋にある建物のオブジェに身体ごと飛び込んだのだった。今ここで、そのことを言うかどうか迷ったが、ひとまず口をつぐんだ。まだ、打ち明けるのは早い気がする。
「もしも、リオさんの鍵を私が保管し続けていたら、あのパーツの入った箱は永遠に開かない。改めて製作すると司令長官は仰っていたが、そんなことができるかどうかもわかりません。あれは0次元地球の精密な素材を使ってこそ作れたものばかりだから」
 クラビスはまた鍵を取り出して見せた。「リオさんに返して差し上げたいけれど、それはそれで、リオさんに危険が及ぶ気もします」
 肩に乗せていたインディ・チエムが樹木の枝に飛び移り、あたかも同意したかのように、高らかに鳴く。
「今日は終わりにしましょう。また後日。この樹下で」
 クラビスは髪をなびかせて立ち上がった。
「頼むから、リオの鍵を持ったまま、またどこかに居なくならないでくれよ」
 ナツが釘を刺す。
「もちろんです」
 クラビスは枝から降りてきたインディ・チエムを腕で受けた後、慣れた手つきで肩に乗せた。インディ・チエムは羽根を数回震わせ、静かに閉じた。
「それとも、僕が預かりましょうか。リオが持っていることが危険だと言うのなら」
 ランが手のひらを差し出した。
「それも考えましたが、あなたは司令長官と近い距離にあります。私としては、まだあなたを完全に信頼しきれていないところもあります。あなたは全てを話していない」
 クラビスはランを、少しは疑っているらしかった。
 それを聞いて、ランとしては、不本意でもなかった。船体室から船体の鍵を持ち出してしまったことは誰にも話していないし、それ以外にも秘密にしていることはある。
「とにかく、持ったまま消えたりしないでください」
 最初にクラビスの部屋を探して時のもぬけの殻を思い出していた。あんな風になってしまったら困る。
「そんなことはしません。お約束します」
「それにしても、もしも司令部があのパーツを持って自分たちだけでどこかに向かおうとしているのだとしたら、それはどうしてかしら」
 リオは不安を隠さなかった。「私達を残して消えるつもり?」
「わかりません。ひとつの可能性について述べたまでですから。もう少し彼らの様子を観察していましょう」
 クラビスは宥めるように言う。「それから、ラン隊長」
「なんです?」
「私は、いつか、あなたと二人だけで話がしたいと思っています」
 クラビスの言葉に、誰もが一瞬黙った。
「俺とリオに聞かせたくないことでもあるのか」
 ナツは悔しそうに顔を顰めた。
「そういうわけでもありませんが、ラン隊長の方で――」
 クラビスが言い掛けたところで、
「いいですよ」
 ランは承諾した。「いつか、ここで会いましょう。僕は一人で来ます。そちらはインディ・チエムが一緒でも構いませんよ」
 クラビスの肩に止まっていたインディ・チエムが、興奮したかのように羽根を何度もはばたかせた。

4章了

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《四章のあらすじ》

 ランとナツは司令長官から仕事はじめの合図を貰うのを待ちながら、毎日のように森を散歩していた。21次元地球の森は快適にコントロールされている。
 そんなある日、二人は鳥籠を持ったパーツ製作員クラビスを最近見かけないことを思い出し、ホテルに戻って探すことに。司令長官はクラビスの存在そのものを忘れたと言い、二人は名簿を借りて探し、クラビスのものと思われる部屋を突き止める。
 部屋の前でクラビスを待っていると、リオがやってきて、リオは彼と親しかったことを打明け、リオの方では彼の名をクラビスではなくハルミと呼んだと言った。二つの名前を持つのか。鳥の名前はインディ・チエム。
 クラビス(あるいはハルミ)を待っても戻らないので、三人はホテルのフロントをうまく騙して鍵を借りて部屋に入った。もぬけの殻。しかし、バスルームの鏡に《名前》と葡萄色のリップスティックで書いてあった。クラビス(あるいはハルミ)が書いたのか? 後でリオが調べたところ、クラビスとはラテン語で「鍵」を表すことが分かった。
 その後、クラビスが女性と二人で居るところをナツが発見し、後をつけると、三人で侵入したあの部屋に入って行った。呼鈴を押すとクラビスが現れ、ランを部屋に招き入れた。鳥が居る。クラビスは「それより、返してください」と手のひらを出した。――「何をって、昨日、書いておいたでしょう? 鏡に」――と言い、鍵を返してくれと要求した。超能力ー予知能力のあることに驚かされる。
 後日、ラン、ナツ、リオの三人で森の樹下で話していると、クラビスも来た。そこで、クラビスは、鳥のインディ・チエムを介して、ハルミ、クラビス、インディ・チエムの存在が入れ替わることができることや、クラビスはかつて地球探索員であり、地球に根付かされる前にかつての記憶を消されるはずだったが、インディ・チエムが訪れたことにより記憶を消去されなかったと言った。消去されたふりをして地球人(地下水道の整備員)として暮らし、ランが募集したパーツ製作員のプロジェクトに応募したのだと言う。理由は、そのプロジェクトによって作られる中継地点の創造に携わり、故郷の星に戻り、置いて来た「本」を取りに行きたいからだった。
 また、クラビスはリオが失くしたと思っていた鍵を持っていた。インディ・チエムが壁抜けという危険な技を使ってまで、司令長官の部屋から取り戻してきたのだと言う。この鍵は製作員が作ったパーツを入れ、ダウンサイズ化した箱を開けることができるものでもあることから、クラビスは司令長官がこっそり盗み、自分たちだけでパーツを箱ごと持ち去り、自分たちだけで中継地点を作ろうとしたのではないかと勘ぐっている。実際、リオは司令部から鍵を新しく作ると約束されたが、細かな身体検査をしなければ作る事のできない鍵なのに、司令部から身体検査の予定も届かず、どうやら作る気はなさそうだと判断していた。クラビスはリオの身体に危険が及んではいけないから、鍵は預かっておくと言う。
 そして、クラビスはランといつか二人だけで話をしたいと言った。ランは承諾した。

《ここでの登場人物》
 ラン   21次元に移動する時の隊長
      桃色に髪を染めている
      0次元の船体の鍵を持って来てしまった

 ナツ   ランの相棒
      口髭あり
      家族(マヤ トキ モモ)
      愛人あり

 リオ   21次元に移動する時に司令部から派遣されたパーツ製作員
      鍵を失くした
      ハルミと仲良くしていた

 クラビス 鳥を籠に入れて21次元まで来た
      地球探索員の過去
      地球人になりすまして生きていた
      地球人としては地下水道整備
      鳥を介してハルミと入れ替わる

 インディ・チエム クラビスの鳥
          超能力を持つ
          知恵を持つ

      
      


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