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連載小説 星のクラフト 10

「なので、キムさんの声をはっきりと耳にした私が次に行きましょう。そして、先ほどと同じように、もう一人が後ろからぴったりとくっついて上るようにする。私があの穴に入った後、なんらかの構造上の問題があって戻れない場合でも、キムさんのように何か声を出す。それは『素晴らしい』ではないかもしれない。『続け』かもしれないし、『来るな』かもしれない」
 キムに着いて上った男が言った。
「それはいいアイデアだな。いっそ、残りの四人が並んで階段を上ってもいいが」
 ランが提案すると
「最終的にはそうしましょう。でも、まずは、後ろから着いて来た人が、先に穴に入った人の言葉を聞いて、一応、それをここに持ち帰ってみんなに伝え、それから次の人が行く方がいい気がします」
 男が答えた。
「わかった。そうしよう」
 ランはひとまず男の提案に従うことにした。「では、次に後ろから着いていく係を担当してもよい人はいるか」
 残りの三人の顔を見た。三人はそれぞれの顔を見て、乗り気ではなさそうに「どうぞお先に」を互いに言い合った。
「みんな行きたくないのか。ホテルで休めるはずなのに」
「キムさんが最後に『素晴らしい』との言葉を残したからと言って、今、キムさんが生存していることにはなりません」
 一人が言った。
「厳密にはそうだが、危険がないことはわかっている」
 ランは根拠がないものの、経験的に断言していいと思っていた。
「でも、今回は構造の体裁が異なるのでしょう? 前は船体から階段を下ろしたが、今回は建物内に階段が下りてきたのだと、さっき隊長は仰いました」
「それはそうだが、少し前に司令長官と話をした。当然危険はないはずだ」
 ランが言うと、三人はしばらく黙り、そのうちの一人が
「じゃあ、僕が、行きましょう」
 静かに名乗り出た。
「よし。ではすぐに、二人で階段を上ってくれ」
 ランはほっとした。部屋の外にまだたくさん人がいる。あまり長く時間を取っていると、ホテルで休む暇がなくなってしまう。
 二人は順番に並んで、階段を上り始めた。あまり間を空けずに、ぴったりと並んで一歩ずつ神妙に上って行った。
 一人目の男が穴の中に入って行くと、後ろの男はしばらく穴を見上げていたが、ゆっくりと階段を下りてきた。全員の前に無表情のままで立った。
「どうだった、彼はなんと言った? キムのように『素晴らしい』と言ったか?」
 ランが言うと、男は「いいえ」と言った。
「じゃあ、なんと?」
「『うわあ』と言って、その後、笑い声が聞こえました」
「笑い声? どんな笑い声だ。笑い声と言っても、悪魔のようなものもあれば、友情に満ち溢れたものもあるだろう」
「どちらかというと、好意的な笑い声でした」
 男が言うと、残りの二人はほっとした表情を見せた。
「それなら、穴の向こうはやはり安全だろう。経験的にも、いいホテルだったから」
 ランはこれで絶対に大丈夫だと確信した。
 次は今階段を下りてきた男が穴に入る番で、その後を上って行く番は、残りの二人がじゃんけんをして決めた。
「『うわあ』とか笑い声じゃなくて、キムさんのように、ちゃんといいところなのかどうかを言ってくださいよ」
 後続の人が念押しをして、二人は昇って行った。
 戻ってきた後続は
「結局、キムさんみたいに明確なことは言いませんでした。『なんと、まあ』と言って、それだけでした。ただ、声の調子は明るかった」
 不安そうにしながらも、事実として前向きなことを述べた。
 
 そのようにして、先発隊の五人はどうにか階段を上り切り、穴の向こうへと入っていった。
 
 つづく。
 


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