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連載小説 星のクラフト 6章 #9

「クラビス、そう言えば、工房では彼女と仲良しだったのでは? リオはあなたのことをハルミだと思っていましたが、ハルミは唯一リオとだけ仲良くしていたと言っていたけど」
 ランはひとまず冷静さを保ちたかった。
「ハルミがどうしていたかはわかりません。ハルミは今、インディ・チエムになっているところだろうけれど」
 クラビスは親指と人差し指で輪を作って唇に挟み、息を吹き出して音を鳴らしインディ・チエムを呼ぶ。クリーム色の鳥はから舞い戻ってクラビスの肩に止まった。「ねえ、どうだった、ハルミ」
 インディ・チエムにハルミと呼び掛けるクラビスを見ていると、さすがに地球人とは似ていないと思えた。
「クラビス自身はリオと仲良くした記憶はないのか」
「ありません。装飾担当だったそうだけれど、パーツに装飾なんかしていましたか?」
「それはそうだな」
「実際、居たかどうかもわからない」
 クラビスは落ち葉を蹴飛ばしながら歩いている。
「0次元の工房に?」
「ハルミを知っているのだから0次元には居たのでしょう。でもそれはきっと、工房の外だ。工房を出ると、私はハルミと入れ替わってインディ・チエムになった。だから、彼女が私をハルミだと思っていたのなら、接触は工房の外に違いない」
 ランは0次元工房におけるリオのことを思い出せなかった。上部から派遣されている人がいるのはわかっていたが、その辺りの記憶がぼんやりとしている。
 ――だけど。
「どんな風に、リオを疑っているの?」
 最初に樹木の下で泣いていたリオを思い出すと、全てが演技だったとは思いたくない。
「単純です。上部から0次元に派遣され、21次元に移動する時に、パーツダウンサイジング化して箱に入れ持ち出す。そして、自身の鍵を使って施錠し、鍵と共に司令長官に渡す。それが彼女の任務だったと考えているだけです」
「だけど、鍵を失くした。そうでしたね」
 ランはクラビスの横顔を見た。
「そういうことになっています」
「どういう意味?」
「先日お話した、インディ・チエムが瞬間移動をして司令長官から鍵を盗んだ話は嘘です。インディ・チエムが瞬間移動をして入り込んだのは、リオのリュックの中。つまり、21次元に移動した直後、インディ・チエムは彼女のリュックから鍵を引き出してきました。インディ・チエムはガラスを通り抜けることができるくらいだから、リュックから引っ張り出すことくらい簡単なのです。嘘を伝えてすみません。でも、リオさんには仰らないでください。泥棒だと叱られますから」
 柔らかい風が吹いた。どこで咲いているのか、くちなしの花の香りがする。
「それは、リオがパーツをダウンサイジング化して箱に入れ、鍵を掛けて持ち出したのをインディ・チエムが知っていたから?」
 そう言うと、クラビスはランを横目で見て小さくうなずいた。
「私が先程の0次元装置に降りて行った時、パーツ類はものの見事になくなっていました。私が作った三つの構造物以外は」
「三つの構造物?」
「スケルトン構造で作られたピラミッド型のオブジェ、同じく球体、そして、透明な柔らかい棒状の物体が絡み合う形のオブジェ。設計書通りに作りましたが、あれはダウンサイジング化することはできなかったのでしょう。素材は地球のもので作りましたが、作ったのは私ですから。インディ・チエムが壊れないように上から思念でコーティングを掛けている。上部組織からすると想定外だったのかもしれません。地球に地球外から来た存在が過去の記憶を持ったままで生息していることは、です。用済みの地球探索要員は全て過去の記憶を消して、地球用の過去を装着して生きていると思い込んでいるから、パーツ製作員の中に地球外の存在がいるとは思っていなかったのでしょう」
「インディ・チエムはどうやってダウンサイジングできないようにコーティングしたのだろう」
「それはわからない。リオがどうやって、他の物をダウンサイジングしたのかもわかりませんけどね」
 皮肉めいた言い方をした。

つづく。

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