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連載小説 星のクラフト 6章 #3

 0次元から21次元へと生まれ出たのだ。
 ランは自身の身体をゆるく抱きしめた。だとしたら、あの0次元の建物は子宮のようなものだ。へその緒としてのチューブは切り取られたが、それらは体内に取り込まれ、自家発電する生命を持つ船体として生まれ変わった。しかし、今のままでは、あの鍵を使ってどのように飛行しようとも、あのオブジェの中に戻ってしまう。
 ――どうすればいいか。
 ソファに寝転び、天井を見つめながらぼんやりと考え、突如として
「そうだ!」
 口に出して言い、飛び起きた。
 すぐにスマートフォンを取り出し、司令長官宛てにメッセージを送った。
《お願いがあります。オブジェをしばらくお貸しいただけませんか。》
 数分後
《どうして》
 と返信がある。
《0次元での出来事を思い出しながら、検証してみたいのです。》
《何を?》
《そのオブジェが表すものが一体なになのかを、です。》
 しばらく間を置き、
《わかった。今部屋に居る。取りに来ていい。》
 許可が下りた。

 オブジェを自室に持ち帰ったランは、テーブルの上に置いてまじまじと眺めた。
 ――これが「帰還」か。
 パッと見たところ、どうということもない家屋の模型に過ぎないが、「帰還」だとの認識の上でよくよく見てみると、当を得ていると思える。豪華すぎず、貧相すぎず、四面がしっかりと囲まれていて、暖かそうだ。すっぽりと保護される気がする。
 ――こんな場所、僕にはなかった。
  *
 ランは地球で生まれたが、地球探索要員として育てられた。
 他の星から訪れた地球探索要員は、時期がくればその記憶は消されて地球用の過去の記憶を装填される決まりになっているが、時々、その工程が失敗したまま、地球探索要員として育てられた過去を隠して生きている存在がいる。クラビスもそうだと言った。クラビスはインディ・チエムを介してそのようなことが可能となったらしいが、他にもなんらかの不手際、あるいは幸運でそうなった人々が地球内で連帯している。ランはその連帯組織の中で生まれたのだ。そして、育った。
 誰が正式な親なのかわからない。もはやわからなくていいと思っていた。だから自由なのだと考えることにした。定住すべき義務もなければ、愛情に縛られることもない。
 地球探索要員たちの教育は、結局のところ、地球探索要員になるべき教育でしかなかった。なので、真の地球人たちと交わって仕事をするのは困難で、主に地球探索要員たちの仕事を手伝っていたところ、宇宙飛行士の任務が舞い降りてきた。その職務につくはずだった存在が失踪してしまったので、その存在に成り済まし、何食わぬ顔で任務に就くようにと連帯組織から言われた。
 最初は専用の訓練も受けていないのに無理だろうと断ったが、誰だって専用の訓練など受けないのだと説得され、引き受けることにした。連帯組織が何人もの人を食わせるだけの財力を持っているわけではない。ランのように、連帯組織内で偶発的に生まれる「地球生まれの地球探索要員」は増える一方だったのだ。
  *
 しばらくオブジェを眺めた後、ランは一人でホテルの外に出た。森の小道を歩き、何か使えるものは落ちていないかと探した。
 司令長官に返すための、「本物とそっくりな偽オブジェ」を製作することにしたのだった。

つづく。
 

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