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連載小説 星のクラフト 4章 #5

「クラビスがいなくなったことを長官に伝えた方がいいだろうか」
 伝えないわけにはいかないが、伝えにくいとランは思っていた。
「伝えなくてもいいんじゃないか。もし聞かれたら、探したけれど、今のところ会えなかった、どこかで散歩でもしているのかもしれませんと答えておけばいいだろう」
 ナツはきっぱりと言う。
「もちろん長官に詳細を報告しなくてもいいとは思うけれど、さっきから二人はなんとなく秘密にしておきたいようね。どうして?」
 リオが二人の顔を交互に眺める。
「さっきも言ったけど、忙しい司令長官の手を煩わせたくない」
 これで押し通す。
「本当のことを教えて」
 リオは大きな瞳でまっすぐにランを見る。
「本当だよ」
 怯むことなく見返した。
「ランは嘘をついていないさ」
 ナツが間に入った。「どうあれ、長官はクラビスのことを気にしていないし、話せば煩わせることになるのは間違いないのだから」
「ここで立ち話もなんだし、二人とも僕の部屋に来ないか。ルームサービスを取り、食事をしよう」
 ランは少し休みたかった。
 二人は同意し、一度解散してから、一時間後にランの部屋に集合した。

「部屋に戻って調べたのだけど、クラビスってラテン語で鍵という意味らしいわ」
 リオは三人が集まると、直ぐにその話を始めた。
 三人は既に届いている飲み物を口にし、オードブルをつまむ。
「そうか。クラビス、というか、エルミットはどうして僕にその名前を伝えたのだろう」
 ランは炭酸水をグラスに一杯飲み干した。喉が渇いているだけではなく、混乱した頭をすっきりさせたかった。
「まだ0次元に居た時、既にこの状態を想定していたのかしら」
 鏡に残された文字を思い出す。
「その可能性もあるな」
「私の鍵にも鳥のレリーフがあった。そもそも彼は私とだけ打ち解けて話をしているようだったけど、私の鍵が無くなったことと関係しているのかもしれない」
 リオはそう言うと、ドライフルーツを口に入れた。
「というのは?」
「具体的に説明はできないけれど、彼の籠の鳥と私の鍵がどこかでリンクしている」
「リンクって?」
 ナツはワインの栓を抜き、飲み始めた。
「説明はできないのよ。でも、私の鍵は確かに鞄に入れたはずなのに消え失せてしまったし、彼は籠の鳥と一緒にここに来たはずなのに、どこにもいない」
「そして、エルミットと仲が良かったのはリオだけだな。全員に聞いたわけでもないから、まだ、そうと決まったわけではないけれど」
 ランも何か繋がりがある気がしないでもない。
「いずれにしても、鏡に名前を書き残したということは、意図的に出て行ったんだろうな。連れ去られたとも考えられるが」
 ナツは既にワインを一杯飲み干し、もう一杯をグラスに注ぎ始めた。
「連れ去られた?」
「そう考えれなくもない」
 ナツは旨そうにワインを一口飲む。
「確かにそうね」
「あの鏡に書いた文字はリップスティックだと思ったけど、リオ、彼は普段メイクをしていたかな」
 近頃では男性もメイクをするらしいが、まだそれほど一般的ではないと思っていた。
「そんな風に見えなかったけど、透明感のあるタイプだったから、唇を保護する為に塗っていたとも考えられるわ」
「色付きを?」
「それはそうね。物静かなエルミットが色付きのリップスティックを付けていたら、絶対に気が付くはずね」
 リオは記憶を呼び起こそうと天井を見た。「だけど、もしも、リップスティックを使うような誰かに連れ去られたのだとしたら、いちいちメッセージらしきものを残すかしら」
 リオの言葉に、二人はそれもそうだとうなずいた。

つづく。
 


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