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連載小説 星のクラフト 2章 #11

「結局、リオの鍵は見つかったのか」
 ナツはソファの上で胡坐をかいた。
「いや。司令長官の部屋でオブジェにX線を当ててみたが、オブジェは暗闇で何も映らなかった」
 この話は伝えてもいいだろう。
「ブラックホールか」
「勘がいいね。司令長官とリオもそう言ってた。まだ断定はできないけど。つまり、リオの鍵はブラックホールの中に消え去ったのではないかと」
「どうしてそんなことが? もしも次元間移動の為に通常よりも強めの電磁波を当てた場合、ブラックホールが生まれるとでもいうのか」
「僕もそう考えている」
「でも、じゃあ、どうして、リオの鍵だけ消え去ったの。他のものだって、吸い込まれてもよかっただろうに」
「鋭いね」
 ランもそれは気になっていた。
「ひょっとしたら、鍵を回収するためのものなんじゃないか。リオはこちらから派遣させていた装飾担当員で、他の人とは違う。リオが持っていた鍵とやらはもう不要になったので、そのブラックホールが吸い取ってしまう」
 ナツは顎髭を親指と人差し指でなんどもつまんだ。
「リオは混乱していたけどね」
「意図的ではないにしろ、次元間移動を通過した鍵が誤作動する可能性もないとは言えないから、システムとして回収するのかもしれない」
 ナツはいろいろと推理を始めた。
「そういうシステムなのだったら、最初からそう教えてやればいいのに。リオはあんなに困っていたのに」
「彼女、どうして、そんなに困っていたのかな」
 今度はリオを疑い始めた。ナツは女性問題に関しては迂闊に何人とも交際をしたりするが、他のことに関しては徹底的に可能性を洗い出して検討するところがある。
「鍵を使って飛行して、行きたいところでもあったのでは?」
「新しい鍵を作って貰えばいいじゃないか」
「司令長官は早急に中央司令部に依頼して、リオの新しい鍵を作ると言ってたよ」
「じゃあ、問題解決?」
「どうかな」
 ランはリオの蒼ざめた表情を思い出していた。「新しい鍵を作ればリオはまた飛行できる。ただ、もしも、古い鍵を拾った人間が居たとしたら、困ったことになる、と思ったのではないか」
「実際、困ったことになるのかね」
「わからない」
 リオの鍵についてああでもないこうでもないとの推理は、すっかり太陽が昇って外が明るくなるまで続いた。
「さてと、一旦戻るよ。妻と子供たちがナツとうさんがいないと寂しがるからね」
 自慢げに言う。
「それがいいよ。おとうさま」
 慇懃に嫌味を言ってやった。
「それにしても、船体の鍵はどうなったかな。あれもブラックホールに消えたのかな」
 ナツはやはり侮れない。
「さあね」
 ランはごまかした。
 ナツはランに顔を近付け
「なにか嘘ついてないだろうな」
 顔を隅から隅まで眺め尽くす。「嘘ついてるのでは?」
「さあね」
 ランは精一杯の作り笑いをした。

つづく。


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