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連載小説 星のクラフト 8

 ガラスに映し出されていた司令長官の姿は消え、船体室は再び暗闇に戻った。ランは一瞬ドキリとしたが、次の瞬間にはガラスの天井に司令長官の言った輪が貼り付くのを見た。
 ――なるほど。あの空間からステーションへと向かうのか。
 ランは船体室を後にし、まずはナツが家族たちと過ごしている部屋の扉を開けた。
「ナツ、軌道に接続した」
 それだけを言えば通じる。長年、任務を共に行ってきた相棒だから。
「よし。何をすればいい?」
 ナツは立ち上がり、マヤたちにここで待機するようにと伝え、ランと共に船体室へと向かう。
「これまでは船体が接続ポイントに接近して着陸するのが定番だったが、今回はちょっと変わっているよ」
 ランは船体室の扉を開きながら、ナツに状況を説明した。「向こうから触手を伸ばしてきたようだ」
 船体室に入り、
「見てごらん、あれを」
 ランは天井に空いた穴を指した。「あの穴から向こうに行けば、軌道のステーションになっている。司令長官の説明によるとね」
「なんだあれは、奇妙だな」
 ナツは信じられないといった目で穴を見た。
 そうしていると、穴から細い階段が差し込まれてきた。
「あれを上るというのだな」
「慣れ親しんだ任務だと思ってきたが、建物ごと出奔したのも初めてのことだし、あんな階段を見たのも初めてだ」
 二人があまりの奇妙な状況に身を固くしていると、再びガラスに司令長官の姿が映し出された。
「ナツ、久しぶりだな」
「長官。お久しぶりです。お元気でしたか」
 ナツは持ち前のそつのない社交性を発揮した。
「もちろん元気だよ。君も元気そうで何より。さて、今回の特殊事情はある程度ランから既に聞いていると思うが、実際には、今回のミッションはこれまでとはまるで違う。建物ごと出奔というのもそうだが、それだけではなくもっと本質的にこれまでとは異なっている。それは徐々に話すとして、ひとまず、他の参加者をこの部屋に連れてきて、この階段を上るように言ってほしい。まずはそれがミッションだ」
「ミッションと言うほどのこともないですよ、長官」
 ナツは野太い声で言い、自信満々の笑顔を見せた。「ここの人々はみんな速やかに動くことができる人ばかりですから」
「そうかな」
 司令長官はえくぼを深くした笑顔を見せた。「意外と抵抗すると思うが」
「とりあえず、みんなを呼んできましょう」
 ランが言うと、司令官が短く「頼む」とだけ言い、ガラスに映った映像は消えた。
「誰でもすぐに上ると思うがな」
 ナツはランに同意を求めた。
「僕もそう思うけど、しかし、考えてみれば、彼らは一度も外に飛び出したことがない人たちばかりだからね」
 ランは彼らが船体室に入っただけでも、空気や水は大丈夫かと不安を打明け始めたことを思い出していた。
「大丈夫だよ。ステーションに行きさえすれば、飯も食えるし、風呂にも入れる。必要な物資を受け取ることもできるのだから」
 ナツは楽観的だった。
「どうかな。ひとまず、全員をここに集めよう」
 ランはナツと共に船体室を後にした。

 つづく。

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