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連載小説 星のクラフト 7章 #3

「ローラン、樹木の中に居る鳥が光ってる」
 ローモンドは再び鼻先を硝子窓に押し付けて外を見ていた。
「蛍光灯みたいね」
 樹木の中に寝るための巣があるわけではないのだろうか。むしろこちらに存在を主張するかのように光っている。
「あの鳥は、地球の鳥ではないわね」
 ローモンドがそう言葉を発すると、硝子窓が息で白く曇った。
「ひょっとして、青い実の成る星でも、あの鳥を見たとことがあるの?」
「そうじゃないけど、懐かしい気持ちがする」
 ローモンドは両掌を硝子に押し当てた。
「どこかで知っているような?」
「そうね、会ったことがあるような感じ」
「やっぱり、青い実の成る星の湖で一緒に遊んでいた鳥なんじゃないの」
「そうかも。地球ではクリーム色に光っているけど」
 そうやって見ていると、鳥は樹木の天辺まで飛び立ち、やがて夜空に消えていった。
「ああ、いなくなっちゃった」
 残念そうに、ローモンドは私の顔を見た。
「きっと、行く先々でも会えるわよ」
「本当に?」
「そんな気がする」
「だといいな」
 ローモンドは安心したのか、目を細めて微笑んだ。
 私たちはシャワーを浴び、パジャマに着替えてから、明日どうするかを話し始めた。もしも一日中車を走らせれば、お嬢様が探している村に到達するかもしれない。少なくとも、その周辺までは接近することができるだろう。
「意外と、近くにあったんだね」
 ローモンドは車から持ち込んでおいた地図を見ながら言う。
「お嬢様から送られてきた資料をもとにある程度場所は特定してある。そもそも、だいたい、この辺りだろうと地図に目星を付けてあるし」
「およその位置まで辿り着いても、それから探索するのが難しそう」
「その通りなの。辺りに私達専用のホテルは一軒しかないから、そこにしばらく泊まって、ピンポイントとなる場所を探すしかない。まずは建物が崩落しているところ探す。崩落している建物であれば、わかりやすいからね」
「すぐに見つかりそうでもあるし、何年かかっても見つからなさそうでもある」
 ローモンドは気難しそうに眉を寄せる。「一日で辿り着くべきかどうかは、明日、目が覚めてから決めない?」
 ローモンドの提案に、私もそれがいいと思った。
「もう眠いの?」
「車の中で眠り過ぎたからむしろ眠くない」
 決然として言い、ローモンドは急に立ち上がる。
「どうしたの」
「さっき、食堂から帰って来る時、廊下に本棚があるのを見つけたの。本がたくさんあった」
「読みたい?」
 乳母から字を習ったと言ったが、地球の文字を楽々と読めるのだろうか。
「私、おばあちゃまから文字を教わったから、地球の文字はほとんど読めないのだけど、本棚をちらっと見た時、背表紙に書いてあるタイトルが分かる本が一冊だけあった。あれは、おまあちゃまが教えてくれた文字のうちのひとつ。いくつか習ったのよ。あれは他の星の文字だった」
「それは気になるわね」
 私も立ち上がる。すぐにでも本棚を見て見たい。
「気になるでしょう? もしも明日出発することになってもいいように、今のうちにその本をここに持ってきたいの」
「ここに持ってくる? 今夜中に読むのではなく?」
「かなり分厚かった。一晩では読めない」
「じゃあ、借りて持って行くってこと?」
 私が言うと、ローモンドはうなずいた。
「黙って持って行っても叱られはしないと思う。本はたくさんあったから見つからないだろうし、さっきのシェフは私達の味方だから、きっと大丈夫。私のことはともかく、少なくともローランの味方に違いないから」
「私もそうは思うけれど――」
「大丈夫よ。私、もしもその本が読めて、書いてある内容をローランに伝えることができたら、すごく役に立てる気がする」
 ローモンドの表情は輝いていた。

つづく。

#星のクラフト
#SF小説

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