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連載小説 星のクラフト 4章 #7

「驚いたね。どういうことだ」
 ナツは目を見開いている。
「お見通し、ってことだな。まさかあのおとなしいクラビスにそんな能力があるとは思いもしなかったよ」
 ランも驚いていた。
「リオにも早めにこの話をした方がいいね」
「それはそうだな。直ぐに呼び出そうか。ひとまず、森を散歩しないかと言ってみよう。先日の件で進展があったからってね」
 早速、ランはスマホにメッセージを入れた。

 まもなく、森に向かう歩道の入り口に三人は集合し、途中にある公園のベンチで話をすることにした。ほとんど毎日、暑くもなく、寒くもない、驚くほどに快適な気候が続いている。
「気温や天気もコントロールされているのだろうね」
 ナツは太陽を眩しそうに眺めた。
「21次元地球ってのは、0次元でリゾートのコマーシャルを作る時みたいな完璧さがある」
 ランも、しばらく暮らしてみて、あまりに虚構的だと言えるけれど、ずっと誰もが夢見ていた地球の状態に保たれていることに感心せずにはいられなかった。
「ここまでコントロールされているからには、冒険がしたいと思えば、危険のない程度のサスペンスでさえ準備されていそうだわ」
 木材で作られたテーブルと椅子の設置されている場所に到着した。「整えられた自然ってのも、奇妙な言葉だけれど」
「そもそもの自然は、もしも人間が全く介入しなければ、食物連鎖や宇宙の寿命で栄枯盛衰があり、それはそれで完璧なんだろうけど」
「つまり、21次元地球の完璧さは、人間の視点から見たもの、ってことだろうね」
 ランも同意する。
「それより、先日の件とはエルミットのことだと思うけど、何か新しいことがわかったの?」
 三人が椅子に座ると、リオが話を切り出した。
「実はね――」
 ナツが先程起きたことを説明した。
「じゃあ、そもそも、ハルミとクラビスの二人が居たってこと?」
「確かに俺たちはその二人をはっきりと見た。双子というほどでもないけど、似ていないこともない。あれで鳥籠を持っていれば、顔が似ていなくても、俺たちがそれぞれに同じ人物について話していると錯覚しても仕方がない。たぶんハルミは女性だけど、ショートカットだったから、リオが男性だと思っても仕方がない」
「どちらかが別ルートで呼び出された家族ってことかしら。そう言えば、どんな風に残されていた家族をこちらに呼び出したかは、まだ司令長官から話されていないわね。でも、0次元で作業中に私が出会った人はハルミと言い、ランが出会った人はクラビスと名乗ったのだから、やっぱり最初から二人居たのかしら」
 リオは首を傾げた。
「僕が思うに、あのインディ・チエムがキーとなっているのだと思う」
 ランは思っていることを正直に打ち明けた。
「どういうこと?」
「ハルミとクラビスはインディ・チエムを介して、都度入れ替わっているのではないか」
「はあ?」
 ナツが間の抜けた声を出す。
「ある時はハルミとインディ・チエム、また別の時はクラビスとインディ・チエム、そして、またある時はハルミとクラビス、というようにね」
 ランが言うと、
「次元上昇した状況における理屈としては考えられなくもない」
 リオが同意した。
「そんなこと、できるわけないだろう」
 ナツは信じがたいようだった。
「0次元の人間には無理さ。つまり、そもそも、クラビス、あるいはハルミは別次元からこのイベントに呼ばれて来た人だったのかもしれない」
「それなら、多少は納得できなくもないが」
 ナツは依然として不満そうに髭をいじっている。
「ねえ、見て、向こう。ハルミ、あるいはクラビスとインディ・チエムじゃない?」
 肩にクリーム色の鳥を乗せた人がこちらに近付いてくるのが見えた。
「そう言えば、彼はこの件については後で話すとさっき言っていた。ひょっとして、ここで種明かしをしてくれるのか」
 ランは思わず立ち上がった。
「話してくれるといいわね」
 リオも立ち上がり、向こうから来る人に満面の笑顔を見せて手を振った。

つづく。

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