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連載小説 星のクラフト 7
「もしもマヤさんの体調がよければ、みんなを連れて船体室へ来ないか。あとしばらくは星屑の間を飛行するのがガラス越しに見える」
ランはナツにそう言うと、一人船体室へと戻った。
まだガラスの向こうは星屑に包まれ、それほど遅くないスピードでひとつの方向へと建物が移動しているのがわかった。
「綺麗だ」
「神秘的」
「もうしばらく見ていたい」
パーツ製作員たちは口々に景色を褒めたたえていた。
「キム、ありがとう。彼らはすっかり不安など忘れて、ガラスの向こうの景色に見惚れているようだが。きっとキムが彼らにうまく話してくれたのだろうね」
ランは部屋の角で黙って外を見ているキムの肩に触れた。
「ラン隊長。特に何もしていません。ただ、少し音楽を鳴らしてみました」
言われるまでは気付かなかったが、そう言われてみるとようやく聞こえてくるほどの小さな音で音楽が流れている。
「いい音楽だ。船体室にオーディオセットがあったのを忘れていたよ。なんのためにあるのかと思っていたが、今日のためにあったようなものだね」
優しい旋律が耳に届くと、心も安らいでいく。
「音楽に頼ってばかりもいられませんが、人数が多く、ひとりでも不安でパニックになってしまったら、次々に伝染して集団ヒステリーを起こしそうな場合には、実に頼りがいのあるツールです」
「さすが、経験豊富なキム。これからもよろしく」
心強かった。
しばらくはナツの家族も含めて、みんなで外を眺めていたが、疲れの出はじめた人々もいたので、それぞれ部屋に戻り、室内に置いてあるパンや果物などで食事をとることにした。
ランだけは一人船体室に残り、軌道に接続する瞬間を待つ。これまでは船体内にある羅針盤とレーダーを見ながらこちらから接近したが、中央司令部の説明によると、今回は接続点が磁力を発して建物に接続することになっているらしい。
十五分ほどが過ぎた頃――。
船体室は真っ暗になった。
「うわっ」
思わず声を上げ、ランはガラスの床に転がった。「なにも見えない」
船体室を出たいが扉の方向もわからない。
――どうすればいいんだ!
さすがのランの心臓も大きな音を立て始めた。
その時、ガラス一面が眩しく光った。
「ラン、久しぶりだね」
そう声を掛けられたが、今度は眩しすぎて何も見えない。
「中央司令部だ」
少しずつ目が慣れてくると、ガラスに司令部のデスクが映し出されているのが見えた。
「なんだ、これは」
「このガラス、通信画面にもなっている」
見たことのある痩せた男の顔が映っていた。華奢な体に、やや高めの声。司令長官だ。司令長官に似合わない風貌だが、これまでに遭遇したどんなトラブルにも冷静に対応してきた。ランですら一目置いている。
「こんな風になっていることを先に教えてほしかったです」
ランの鼓動はまだ通常よりも早いままだった。
「すまない。悪かった。当初はランのPC画面でやりとりする予定だったが、そちらも人数が増えたようだし、このガラスを使うことになった。大画面でどうぞってことで」
頬にえくぼにも見える皺を寄せて笑った。
「ところで、いつ軌道に接続するのでしょう」
「もうすぐだ。後数分。ガラスの天井に接続ポイントがドッキングする。ポイントと言っても、直径2メートルほどの輪で、それがガラスにくっついて接続する。自ずとガラスの部分が開き、こちらから梯子を下ろす。その梯子を上ってくればステーションだ。ステーション自体は見た事があるだろう? 」
司令長官の言葉にランは頷いた。
「ステーションにはいつも通り、一応、宿泊所がある。そちらの建物内で寝るのもいいが、朝食は宿泊所内で提供されることになっているので、できるだけこちらに入ってもらうことをお勧めする。風呂もあるし、全員分の着替え、事前調査に記載されていた常備薬などの配布も行う」
「そのことですが、実は――」
ランは司令長官にマヤの妊娠のことを話した。叱られるだろうと予測していた。しかし、予測に反して
「それはめでたい」
司令長官は再び頬に皺を深くして、満面の笑みを浮かべた。「初めてのことだ。宇宙飛行中に出産することになるだろう」
「叱られなくてほっとしていますが、出産することになるだろうということは、今回は、あと十か月ほどは戻れないのですね」
ランが言うと、司令長官は笑みを浮かべたまま、
「もちろんだ。もっと長旅になるだろう」
きっぱりと言った。
つづく。
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