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連載小説 星のクラフト 5章 #8
夕食の後、私はお嬢様と連絡をとった。地球探索員として育てられた過去を記録し、それを私の脳内に記憶させたことを説明すると、お嬢様はほっとしたらしく、これでどうにか、私は電池切れにならないだろうと言った。
「新しい任務はいつから始まりますか」
この星のどこかで、村ひとつ分の人間がいなくなった件だ。その村の場所を特定する。
「すぐにでも取り掛かってほしいわ。記憶装置が破壊されたことで、ローランのように地球に派遣されている者たちに不具合が出始めているのよ。新しい記憶を装着することができた人は順に地球に降ろしているけれど、既に連絡がとれなくなっている者もいる」
「通信が途絶えた、ということ?」
「そうね。通信が途絶えたというよりも、監視カメラが作動しなくなったし、電話に出てもすぐに切れてしまう」
やはり監視カメラは作動しなくなったのだ。
「どれくらいの数でしょう」
「少なくとも、50」
「そんなに?」
地球に送り込まれて、まだ地球に降りていない探索要員の数は全部で100人程度と聞いていた。そして、常に地球人として根付いているらしいから、そのうちの50人と連絡が取れないのは、相当な数だと言っていいだろう。
「援助隊を派遣しても、すでにいなくなっていることがほとんど」
「それこそが、村ひとつ分の人間がいなくなった状況に似ていませんか」
私達こそ、どこかに連れ去られようとしているのだろうか。
「私もそう思う」
お嬢様は珍しく気弱な表情を見せた。
「その人たちのことはどうします?」
「それは、別の組織に捜索させる。ローラン、あなたにはとにかく、急に人間がいなくなった村を探す仕事をしてもらいたいのよ。というのは、あなたは車の運転ができる」
それはそうだ。地球に派遣される前に運転を覚えた。でも、地球で乗ったことはない。
「私が運転をするなんてできるかしら」
「こちらから届ける車にはナビが付いていて、最新の自動運転装置が付いているのよ。免許証は今持っているものを地球用に転向したものを用意するわ。必要な物資が受け取れる場所や、私達が専用で使っている宿が記載された地図も渡します。最新の太陽電池を搭載しているから、ありとあらゆる燃料には困らない」
「旅に出るのでしょうか、私」
なんだか不安になった。
「それはそうよ。その村の情報が記載されているファイルも送るので、村を探すのよ。家にじっと居て、その村が探せるはずはないのよ」
「ネット上で特定できるのでは?」
「それはもう試したのよ。ネット上のどこにもない。だけど、レーダーの中にその状況は現れている。おおよその位置も特定できている。海の向こうではない。そこから車で行ける範囲のはず」
お嬢様はまったくスピードをゆるめるつもりはなく、本案件を進めていきたいらしい。
「わかりました。では、必要なものを送り届けてください。準備ができ次第、村探しに出ます」
「たのもしいわ、ローラン。ところで地球人と遭遇した時には自分の経歴をどう伝えるつもり?」
「遭遇しないでしょう」
私は言い切った。ローモンドと二人で旅に出て、お嬢様たちが用意したホテルや物資供給所だけを点々としていれば、地球人と仲良くなることはない。
「そうね。でも、もしも遭遇した場合に備えて、何か、いい経歴を考えておいて」
「わかりました、お嬢様」
私はテレビ電話を切断し、ほっと溜息をついた。
つづく。
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