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連載小説 星のクラフト 4章 #3

 ランとナツがホテルの薄暗い廊下の端に立って、クラビスの行方について話していると、向こうから少女が歩いて来るのが見えた。こちらに手を振っている。
「リオじゃないか」
「司令長官にでもこの話を聞いたのだろうか」
 二人は耳元で囁き合った。
「放送、聞いたわ」
 リオは目の前にまで到着した。
「クラビスのことか」
「鳥籠を持っていた製作員を探しているそうね」
「司令長官に聞いたのか」
 ランが言うと、リオは否定した。
「放送を聞いた後、部屋の外を歩いていたら、あなたたちが彼を探しているらしいと聞いたから。製作員の部屋の扉を叩いて周ったのでしょう?」
「そりゃそうか。あれだけしらみつぶしに探して歩けば噂にもなるね」
 ナツは何度も頷いた。
「実は私も彼を探していたの。そう言えば彼を見ないなって、ちょうど思っていたところだったから」
「リオさん、親しかったの?」
 装飾担当のリオは特別に中央司令本部から派遣されていた人だから、他の製作員とそれほど仲良くしていなかったはずと、勝手に思い込んでいた。
「鳥を何度か見せて貰った。私も鳥が好きだから」
「そう言えば、リオさんの失くした鍵にも鳥のレリーフが彫られていたのだったね」
「それは偶然だけど。それにしても、彼の名前がクラビスだったとは知らなかった。私はハルミと聞いていた」
「ハルミ? それが正式名称か」
 もしそうなら、名簿にその名があるはずだ。ランは手に持っていた名簿の中にその名がないか探し始めた。
「これかもしれない。エルミット。この部屋はさきほど扉を叩いても出てこなかった。それにしても、どうして僕にはクラビスと名乗ったのだろう」
「まだ、それがそうと決まったわけじゃないぜ。クラビス、ハルミ、エルミット。どうしてそんなにたくさん名前を持っているのだ?」
 ナツは自慢の髭を指で撫でつけている。
「このエルミットが彼かどうかはまだわからないから、ひとまず、クラビスと呼ばせてもらうが、クラビスはどういう人間だった?」
 ランはほとんど話をしたことがなかった。物静かで、周囲に迷惑をかけることのない、どちらかと言えば目立たない男だった。だからこそ、籠に入れた鳥を連れてきたいと言ったのを認めたのもある。
「優しい感じの人だった。私以外にはほとんど誰とも話をしていないように見えた」
「どんな鳥だったの」
 ランの言葉にリオは大きく頷いた。
「クリーム色の羽根とルビー色の目を持った、しなやかな鳥よ。籠から出して、肩に乗せているのを見た事もある」
「逃げないのかい」
「逃げたりしない。彼と鳥は強い絆で結ばれているかのように見えた。むしろ、鳥の方が彼をつなぎとめていたように見えたくらいよ」
 懐かしそうに眼を細めて、口元だけで微笑みを作る。
「鳥の名は?」
「インディ・チエム」
 リオは人々が誰かよく知っている名を告げる時の、自信たっぷりな表情をした。
「リオも、インディ・チエムと仲良しだったの?」
「そうよ。他の製作員と話をすることはほとんどなかったけど、ハルミ、じゃなくて、クラビスと、インディ・チエムとは仲良しだった」
「クラビスはどんな話をしたのか教えてくれる?」
「インディ・チエムの親鳥を飼っていた時のことや、それが初めてクラビスの家にやってきた日のこと。そして、鳥たちがいかに優れた超能力の持ち主であるかとか、人間よりも心が美しいこと。要するに、鳥の話ばかりよ」
 リオはおかしそうに肩をすくめた。
「僕も聞いてみたいな」
「いくらでも話してくれると思う。その、名簿にエルミットと書いてあるのがハルミ、クラビスなのだとしたら、部屋の前で待っていたら、戻ってくるに違いないから」
 リオの提案で、ナツとランはその部屋の前で待機することになった。

つづく。

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