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連載小説 星のクラフト 5章 #11

 出発の朝、ローモンドは円盤の前に立った。よく晴れて、円盤の上に朝日が当たり、銀色に煌めいていた。
「行ってくるからね」
 輝いている円盤に向かって言っている。
「いつ戻って来れるかしら」
 私もローモンドの横に立ち、まだそれほど埃をかぶっていない円盤を眺めた。地下鉄の駅で泣いていたローモンドを見つけた日から、もう長い年月が経ったかのように思える。
「鍵は持っていく」
 ローモンドは買ったばかりのポシェットから鍵を取り出して見せた。
「もう失くさないで」
 二人で石段を上っている途中でローモンドが消えてしまった時、この鍵だけが落ちていたのだった。
「そう言えば、ローランが持っている方の鍵は?」
 ローモンドが持っているものは、私が脳内にイメージを描いて作り出し、私の心の部屋にローモンドが入り込んでいるところで物質化したものだ。
「もちろん、私も持っている」
 鞄から取り出して見せた。最初に石段の途中で拾ったもの。並べてみると、本当にそっくりだ。
「今度戻ってきたら、私も乗ってみようかな」
「それはダメ。円盤は一人ずつ、自分のものじゃなくてはいけないはず」
「残念だわ。私も円盤で自由に次元間移動してみたいけど」
 ローモンドは鼻を膨らませて得意気に微笑んでいた。
「さあ、出発よ」
 私は荷物を車に放り込んだ。渡された地図上には食事の提供される場所が記されていて、考えていたよりも多くの場所で可能となっている。
「食事の心配はないし、着替えさえあれば大丈夫」
 私たちはとても身軽だった。
 ローモンドが助手席に、私は運転席に座った。
 エンジンを掛け、車のナビには最初に泊まることになるホテルを入力する。
 スタートボタンを押すと、ハンドルを握らなくとも、勝手に方向を変え、じりじりと動き始めた。
「全自動、ね!」
 ローモンドが嬉しそうに叫んだ。
「そのようね。安全確認さえしていれば、私は何もしなくていいらしい」
 山の細い道を下り、町の車道に出た。赤信号では正しく停車し、右折も対向車の距離と速度を計算して成し遂げた。
 やがて車は高速道路に乗り、ETCが搭載されているため、自動的に通り抜けることができた。車窓には植林が続き、ローモンドは時々うとうとと眠っているようだった。
 さすがに私は眠ることはできない。全自動とは言え、安全確認をしなければいけなかったし、道を覚えておきたかった。お嬢様たちのいる中央司令部をそれほど信頼しているわけでもない。何かあれば戻れるように、ホテルの看板や遠くに見える観覧車の姿を目に焼き付けていった。

つづく。


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