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連載小説 星のクラフト 3

 一階の工房に降りると、想像していた以上に、パーツ製作員たちは落ち着いていた。工房の部屋の隅に一人が持ち込んだ鳥籠があり、中にいる桃色の鳥が「リーヤン リーウヤン」と繰り返していた。
「申し訳ありません。私の鳥が騒ぎ立てまして」
 飼い主がランのところに駆け寄り、頭を下げた。「精神不安定で」
「何も知らない鳥にしたら、いきなりで驚いただろうから」
 ランは気にするなと笑顔を向け、「それより、談話室に来るようにとみんなに伝えてほしい。十五分後。ぴったりに。誰も遅れないように」

 ぴったり十五分後に談話室に集合したパーツ製作員がたちを円陣を組むように床に座らせ、ランは一人、彼らの中央に立った。

「以前、告知しておいた通り、今回は建物ごと出発した。意外ではあったが、誰も離脱を要望しなかった。みんなも驚いているかもしれないが、この建物が、こうした機能を持っていることは私も知らなかった。中央司令部から聞かされた時、まさか冗談かと思ったが、今現在、大地を離れて建物ごと空間を進行している。相棒であるナツはまだ二階に居て、家族と遭遇したところだ。彼に関しては、彼の妻と二人の子供も同行することになった。彼は今日、たった今そのことを知った。諸事情あり、建物ごと出奔することになったのを彼が知ったのも、たった今なのだが、それぞれの面接時に、ナツには内緒にしておくようにとの約束を守ってくれたことを深く感謝する。
 ここにいる全員、プロフェッショナルだから動揺することなく対応してくれたが、初めての航海となる人も多い。生活に関して心配なこともあるだろうが、安心してほしい。軌道に入った後、定期的にステーションに停泊し、いわゆるホテルのような施設で食事や風呂、着替え等、生活に関して必要なものは豊富に提供される。中央司令部にそれぞれが必要とするものを書いた書類を提出してあるから、そうだ、ちょうどマラソンランナーが途中で水を受け取ることができるように、全員、間違いなく受け取ることができる。
 この度、どうしてこのような、建物ごとの出奔になったのかについては、今のところ開示されていない。おそらく、旅の途中で受け取る日報などから、徐々にわかるだろう。実のところ、毎回そうなのだ。船で少人数で行く場合にも、出掛けるまでは、はじめ目的はわからず、少しずつ開示されるのだ。わかっているのは、いつでも必ず成功してきたこと。そして、今回も成功する。ということだけ。
 後で二階のガラス張りの部屋にお招きする。もうほとんど大地からは離れてしまったが、星々の中を進む状況は見ることができる。軌道に入ると、もう地球に近い星も見えなくなる。だから今夜が勝負だ。
 その前に、部屋割を記した紙を配るから、工房の奥にあるベッドルームにそれぞれの荷物を運び入れておくように。五人で一部屋。十室ある。小鳥は工房に置くことにしているが、小鳥と同室でもよい人が居れば、部屋を入れ替わったりして調整するように。
 入室作業が終わった人から順に、二階のテーブルルームまで来てください。では、後で」
 ランが言い終わると、なぜか拍手が沸き起こった。
 拍手? どうして?
 違和感があったが、円陣を組むパーツ製作員の全てを見渡すように微笑んで見せ、小鳥を持ち込んだ一人に部屋割を決めた紙を渡すと、円陣の隙間を通って部屋を出た。

 つづく。

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