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連載小説 星のクラフト 6章 #7

 ガラスの板を完全に覆ってしまうと、クラビスはさらに林の奥へと黙って歩き始めた。インディ・チエムは枝から枝へと飛び移りながら、その少し先を行く。道案内しているのだろう。
「どこへ?」
「さっきの地下の建物の屋根の先に当たる場所へ」
「確か、そこにあるスイッチを押すとガラス天井が開くのだったね」
「今回、スイッチを押すつもりはありませんが、場所を教えておきましょう」
 先を急ぐように飛ぶインディ・チエムを追いかけながら、クラビスはランを振り返り、微笑んだ。
 似たような樹木が植えられた林の中を小走りに進んでいると、方角は全くわからなくなる。
「これでは、インディ・チエムがいないと絶対に迷子になる」
 ランは背中に流れる汗を感じていた。
「そう思われるでしょう。でも大丈夫です。樹木の上方に印があります。五メートルごとに青いリボンが結んである。私が結んだのではありません。初めからそうなっていた。つまり、この装置はもう知られているものなのでしょう」
 クラビスは高く伸びる樹木の上を指した。木立の間から降り注ぐ太陽の光が眩しい。
 しばらく行くと、インディ・チエムが樹木に止まり、動かなくなった。
「あの下です。あの、二重に青いリボンが結んである樹木の下」
 クラビスが立ち止まり、額の汗をぬぐって、指さした。「あの下の落ち葉と土を、さきほどと同じように掃いのけてしまえば、工房となっている建物の屋根の位置となる」
「それにしても、樹木が植えられているのに、この地下に建物があるなんて信じられない。根が屋根にしがみついているわけでもないだろうに」
 ランは樹木の根元を見つめた。
「かつて私達が居た建物とつながっているのは、ガラスの天井と、この下にある屋根のスイッチだけです。さっきのガラス板の地点から下に降りてみればすぐにわかりますが、あの建物はそのまま0次元地球につながっています。そして、向こうからはこちら側は見えない。信じられないかもしれませんが、あの建物に降り立ち、二階のガラス窓や一階の窓から見える風景は私達が0次元に居た時と同じものが見える」
「まさか」
 にわかには想像できなかった。
「わかります。私もすぐには信じられなかった。でも、それは本当です。建物の扉から外に出ると、そのまま、かつて居たあの町に出られ、カレンダーや時計があれば、あの町の常識としての時間が今でも流れていることも確認できます」
「じゃあ、どうしてあの時、建物は崩壊したかのように見えたのか!」
 ランはつい声を大きくしてしまう。
「断定できませんが、おそらく映像でしょう」
 クラビスは冷静だった。
「映像?」
「そうです。上部が私達に、もうあの0次元の世界はないのだと信じ込ませるための装置」
「なんのために?」
 ランはとてもそのように落ち着いてはいられなかった。
「わかりません。次の職務に没頭させるためかもしれないし、なんらかの実験かもしれません。私が地球探索要員として育てられ、地球に送り込まれた存在であることは既にお伝えしましたが、悪意ではないものの、地球を探索するために、あるいはもっと住みやすいところへと改変するために、様々な実験が行われているのは事実です」
 クラビスはインディ・チエムに向かって口笛を吹き、腕を差し出して止まるようにと促した。インディ・チエムは従い、甘えるように鳴いた後、腕に止まり、横歩きをして肩まで上った。
「そこまで話してくれていいのか」
 ランはクラビスが包み隠さずにいろいろと話してくれるのが不思議だった。
「あなたも地球人ではないでしょう?」
 クラビスが目をまっすぐに見つめてくる。「あなたは私の仲間だ」
「どうして、それを?」
「いつか話してくれるおつもりだったのでは?」
「それはそうだったが、どうして先に知っているのか」
「見るとわかります。でも、何がどうと教えられるものではありません。地球探索要員としての訓練を受けた時に、見分ける訓練をしました。でも、あなたは地球人ではないにも関わらず、それを見分けることができてはいない。ですから、地球で生まれた異星人だろうと、私の方では判断しています」
 クラビスの瞳が鋭く光を放った。

つづく。

 


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