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連載小説 星のクラフト 4

 二階ではナツと家族がテーブルに着いていた。ランが姿を見せると、ナツは席を立って駆け寄ってきた。
「家族も一緒に行くだなんて、承諾していない」
 今にも怒り出しそうな形相でランの右腕を掴む。
「相談しないで、勝手に決めて悪かった」
 ランは考えて置いた通り、言い訳もしないで謝った。
「ひとこと言ってほしかったのに」
「そうするべきだったね」
 これも決めておいた返答だった。
 前もってどう説明しようと、ナツは納得しないだろうとは予測がついていた。それでも、ナツの家族を連れて行きたかった。もちろん今回の任務は長期間かかりそうだと感じたからではあるが、それだけではなかった。
 ――ひょっとしたら、ひとたび出奔したら、もう地球に戻れないのではないか。
 中央司令部から「今回は建物ごと飛び出す」との通達があった時、ランはそう予感した。自身でも理由はわからない。司令部はこちらには明確に伝達してこないものの、実はもう二度と戻らないとの設定になっているのではないかとも思ったし、また、地球そのものがもうすぐ大幅に変化してしまうことが計測上明らかなのではないかとも思った。
 ランが言い訳らしい説明を何もしないので、ナツは諦めたのか、それとも、何かを察したのか、おとなしく家族の座っているテーブルに戻った。
「君も座れよ」
 ナツがランをテーブルに呼ぶ。ランは素直に従った。
「ナツとマヤさんたちはみんなで同じ部屋を使ってもらう。二階の奥にある広いリビングだ」
「ランはどうするの?」
「部屋は要らない。あの船体で寝るから。風呂や食事は軌道の途中のステーションだからね。それはいつも通り」
「任務期間中、船体でランと哲学談義をするのが楽しみだったのだがね」
 ナツはあごひげを神経質に引っ張っている。
「いつでもどうぞ。エリアに着くまでにやるべきことは、都度、司令部から通達されるだろうし。仕事はやってもらわなくてはいけない」
 ランが言うと
「それならよかった。ずっと家族サービスしながら目的地まで行くとのは、ちょっとね――」
 家族を目の前にしているのに、平気でそんなことを言った。
 それでも、マヤも子どもたちもにこにこしている。慣れたものなのだろう。
「心配ない。仕事は山盛りあるよ」
 一階から、パーツ製作員が二階へと上がってくる気配がした。
「まず手始めに、彼らに、ガラス張りの部屋を案内する仕事だ。この建物が正式に軌道に接続するまでの間に、星の間を飛行するのを見せてやりたいんだ。ナツ、そしてマヤさんたちもどうぞ。あと数時間だけ見られるはず」

 つづく。

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