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連載小説 星のクラフト 2章 #13

 大広間には、ラン、ナツ、リオ、パーツ製作員たち、そしてその家族たちが集められた。
 司令長官と、そのアシスタントらしき女性が壇上に立ち、それぞれがマイクで、ここへ来るまでのねぎらいの言葉と、これからも協力し合って任務を成し遂げるようにとの念押しをした。
「これからの任務について話す前に、ひとつ残念なことをお伝えしなくてはならない」
 司令長官は壇上で深々と頭を下げた。「もうわかっていると思うが、これまで作って来たパーツのことだ」
 そこまで言うと、聴衆がざわめいた。
「静かに。そう、おそらくお察しだと思うが、パーツはこちらに持ち込めなかった。すなわち、絵画の中に閉じ込められている」
 壇上に置いてあったらしい絵画を高く掲げた。アシスタントに指示をして、プロジェクターでスクリーンに絵画を映し出した。
「まさか、建物がこうなるとは思っていなかったからね」
 光を放つポインターでスクリーンを指す。
「作っていたパーツで何を作ろうとしていたか、まだ知らされていなかったと思うが、今、ここで話そう」
 聴衆をゆっくりと見渡した。「実は、あれで、新しい星を作ろうとしていた」
 再び、聴衆がざわめいた。
「どうか、お静かに。どうしてパーツが失われたか、装飾担当として派遣されていたリオから話がある」
 さきほどまでランの横に立っていたリオは、気付くと壇の傍まで行き、アシスタントからマイクを受け取ろうとしているところだった。

「鍵のことかな」
 ナツがランの耳元で囁く。
「そうかもね」
 ランは小さくうなずいた。

「パーツ製作員のみなさん、ここへ来るまで、共にパーツ作りをしてくださってどうもありがとうございました。私はこれまで、みなさんから完成品をお預かりし、その完成品に装飾をほどこす作業を担当していました。みなさまには装飾をほどこした後のものをまだお見せしたことがありません」
 リオは涙ぐんでいるのか、言葉を詰まらせた。「こちらに来て、組み立てる段階でお見せしようと考えていたのです。そして、装飾ができたものは、中央司令部から預かっていた保管箱の中に入れていました。全ての作業が終わった後、蓋を閉め、次元間移動のタイミングで同期を取る布を掛け、最終段階に入る前にダウンサイズ化し、鍵を掛けました」
 リオは両手で持ち上げることができる大きさの箱を大きく掲げた。
 さらに、アシスタントがスクリーンに映し出す。

「あるじゃないか」
 ナツがランに耳打ちする。
「たぶん、鍵が開けられなくなったんじゃないかな」
 ランが言うと、
「なるほどね」
 ナツは腕組みをしてうなずいた。

「ところが、その鍵が見当たらない。この箱に掛けた鍵を、次元間移動の途中で無くししまったのです。だから、リサイズすることもできない」
 深々と頭を下げた。
 そこで司令長官が前に出て、
「誰か、リオさんの鍵を知らないか」
 聴衆に向かって言った。「鍵は、こういうものだ」
 アシスタントに指示をして、写真をスクリーンに映し出した。星型に鳥と植物のレリーフがあり、中央に青い石が嵌め込んである。

「ほお、写真、見つかったのか」
 ランはつぶやく。
「なにか知ってるの?」
「昨日、司令長官と三人で探した時には、写真もパソコン上から消えていたはずだったが」
「長官が中央司令部から取り寄せたのだろう。あそこにはなんだって、ファイリングしてあるからね」
 ナツはいかがわしいものだと言わんばかりに舌なめずりをした。

「もしも、この鍵の行方を知っているものが居たら、私のところに持って来てくれ」
 司令長官は聴衆を見渡した。「そして、この鍵が無くても、どうにかしてあの箱を解錠し、リサイズして、パーツを組み立て、新しい星の製作に入りたいと考えてはいる。もしもそれが不可能だとわかった場合、申し訳ないが、改めて作り直すことになる。
「司令長官!」
 会場に居た一人が手を挙げた。アシスタントからマイクを受け取り、話始めた。
「新しい星とはどういう意味でしょう。ここが21次元地球だと仰いましたが、新しい星は地球ではないのでしょうか」
「21次元地球は最終地球という意味だ。すなわち、新しい星は地球ではない」
「火星ですか?」
「火星でも木星でも金星でもない。全く新しい星だ。地球人が住めるように作る。そして、そこから時空間を飛行して火星とか木星にも行けるようにする。他の星では、そこを歩くことができるスーツを着てね」
「中継のための星、ということですか」
「そうだ。各星との距離を縮めるための操作を行うプラットフォームだ。実は、すでにひとつ似たような星はある。青実星と呼ばれていて、そこでしか成ることのない青い実があるため、そのような名前で呼ばれている。そして、それは我々の祖先が中継ポイント用に製作した星であることがわかっている。しかし、近頃、古くなってきたのか、そこから地球に派遣された者が行方不明になったり、長く従順に地球探索をしていた者が反乱を起こしたりするようになった。だから、新しく、中継ポイントとなる星を作らなければならなくなったのだ」
「よくわかりました。でも、作ってきた部品を入れた箱を開けることができなくなってしまったと、そういうことですね」
 質問者は納得したようだ。
「その通り。ついでに言ってしまうと、我々の任務は、その中継ポイント用の新星を製作することだ。パーツを入れた箱を開けることができないか、もうしばらく待って欲しい。この辺りは21次元とは言え、湖や森があり、地球のもっとも美しい場所が踏襲されている。ご家族と共に、散策などして楽しみながら待っていてほしい。食べ物や衣類は要望書を出せば、全てその通りに支給される。もちろん、レストランも使える。何か問題や質問があれば、ホテルのフロントを通して、私の方に伝達するように。次に私が招集をかけるまで、君たちは自由だ。ただし、このホテルの中で、ということになるが、プール付きのジムもあるし、ゲームセンター、図書室など、なんでもある。ヘアサロン、マッサージルーム、なんでもだ。どうか、旅の疲れを癒し、次の指示があるまで、楽しんで過ごすように。私からは以上だ」
 司令長官は言い終わると、マイクをアシスタントに渡し、前方の扉から出て行ってしまった。

つづく。


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