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連載小説 星のクラフト 2章 #3

 ランは、ナツとその家族、鍵を失くしたと訴えたリオ、そして共に移動してきたパーツ製作員たちを引き連れて、ホテルのロビーへと向かった。
「大きなホテルだなあ」
 ナツはそびえ立つ建物を仰いだ。
 これまでの接続ポイントでは民宿風のロッジか、カプセルホテル程度のものばかりだった。それなのに、今回と言えば、巨大なラグジュアリーホテルさながらの建前を堂々と披露している。
「噴水と彫刻まである」
 噴水のある池の周囲には花壇があり、薔薇や芍薬、ヒイラギなどが植えられていた。
 玄関先には制服を着た数人の番人が背筋を伸ばして立ち、ランが真っ先に到着すると恭しく敬礼をした。ランはこういった場合、どうすればいいかをよく知らなくて戸惑い、とりあえず軽くお辞儀をしてやり過ごした。
「早くこのオブジェの解析をしてほしい」
 リオは絵画とオブジェを抱えてランの横を歩き、失くした鍵のことを絶えず考えているようだった。
「今晩休む部屋に、ここにいる全員が入ることができたら、すぐにでもX線検査を頼んでみよう。リオにはホテルで待っている家族や、離れたくない人はいる?」
 ランにしてみると、中身は大人でも見た目は小柄な少女でしかないリオがたった一人で歩いているのが不思議だった。
「いません。そもそも、私は司令塔から派遣された者だから」
「そういう場合は家族はいないの?」
 ナツが肩をすくめる。
「いません。でも、次元移動を援助するように育てられた人々全員が家族だともいえる」
 鍵を失くしたことに気付いた直後は落ち込んで感情のある様子を見せていたが、今では理性的な目をしていた。次元移動では何が起こるかわからない。だから感情を剥き出しにしないように訓練されているのだろう。
「僕は地球で育ったけれど、立場としてはリオと同じだから、わかりますよ」
 ランにも個人的な家族はなかった。同じ仕事をする同志が家族のようなものだ。いや、本当の家族を知らないから、実際にはそれが家族と呼べるのかもわからない。
 ロビーには司令塔から来た世話人が居て、ツアーコンダクターのように声を張り上げていた。
「おあつまりください」
 赤い三角の旗を振っている。
 全員が揃うと、今夜はオリエンテーションなど行わず、それぞれに割り振られた部屋に入り、好きな時間にレストランに行って食事を取るようにと伝えている。「翌朝、改めて大広間に集合することになるが、その詳細は各部屋にあるネット機器に送られるはずなので確認しておくように」
 その後、集まった人は順番に身分証と顔などを確認され、決められた部屋へと入っていった。
「これなら、アレと鉢合わせる心配はなさそうだ。たぶん、だけど」
 ナツがランの横に忍び寄ってひそやかに言い、小指を立てる。
「知らないよ」
 ランはつくづく呆れてしまった。「それについては関わり合いたくない。とはいえ、問題が起きない方がいいのは確かだ」
 ナツが家族と共に割り当ての部屋に向かってしまうと、ランとリオが最後に残された。
「派遣されてきたリオもこちらの人々と同じように、ホテルの部屋に入るのかな」
「そのようですね」
 リオはまだ絵画とオブジェをひしと抱えている。
「僕も一人だから、よかったら、夕食の時、レストランには一緒に行きましょうか」
 ランは鍵についてもう少し聞いてみたいこともあった。
 リオは頷き、
「この絵とオブジェも持って出ます。それから、鍵の写真もリュックの中から探して、お見せします」
 ランの希望を察知しているらしかった。

つづく。
 

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