星のクラフト 2章(全体つなぎ・肉付け)最後尾にあらすじ掲載
ついさっきまで中に居た建物が、目の前で一瞬にして崩壊し、一枚の絵画と木製のオブジェへと化してしまった。
「これは一体どういうことだ」
ナツが拾い上げたオブジェを持ったまま、すっかり肩を落としている。
「僕にもわからない」
突然のことで受け入れられない。これまでに体験したこともない。呆然としてしまって、身体をぴくりとも動かすこともできなかった。
たった今、階段を上ってこちら側に到着したばかりのパーツ製作員たちの間でも、一瞬どよめきが生じ、その後はすっかり沈黙してしまった。そんな中、ひとりの製作員が連れ出した小鳥の激しい囀りだけが響き渡っていた。
「鳥、大丈夫か」
ランは大事そうに鳥籠を抱きしめている製作員のところに駆け寄った。こんな事態が発生し、たった一羽の鳥の心配をしているどころではないのかもしれないが、籠の中にいる白い小鳥があまりにも甲高い声で鳴き続けるので無視できない。
「大丈夫です。興奮しているだけです。この囀りは元気な時の音階ですから、むしろ機嫌がいい方に入るかもしれません」
「機嫌がいい?」
「さっきまでは狭い建物の中に居たものですからね。僕の家では一部屋、この子に明け渡しています。それよりも、あんなことになってしまって、僕たちは自宅に帰れますか」
建物が崩壊し、消えてしまった辺りを見ている。
「こんなことは初めてでね。はっきりしたことはわからない。今はまだ、僕にもここがどこかもまだわからない。これまでの任務で着陸した接続ポイントのステーションとは趣が全く異なる。こんなに辺りは殺風景ではなかった。しかし、司令長官の話では間違いなくホテルはある。どういう采配かはわからないが、どの人の家族や友人もホテルの方で待機しているらしいから、その点はご安心を」
ついさっきまで居た司令長官から聞いたことを、そっくりそのまま告げた。
「ラン、ちょっと、来て」
ナツの声だ。ランは鳥籠の持ち主のそばを離れ、ナツのところに戻った。
「どうかしたか」
「困ったね。把握できる範囲の知り合いが全てホテルにいるそうだよ」
「僕も司令長官から聞いたよ。だったら、わざわざマヤさん達をあの建物に連れて来なくてもよかったな。余計なことをしてすまなかった」
ランは自身の出しゃばり過ぎた行為を反省していた。
「それはいいんだ。それよりも、僕の、アレも、ホテルに居るのかな」
ナツは小指を立てる。
なるほど。それにしても本人がやると驚くほどに卑猥な仕草だ。焦っている表情から推察すると、どうやらナツは愛人とマヤさんの鉢合わせを恐れているらしい。
「そこまでは知らない」
その件に関してはランの責任ではないだろう。「これを機にナツも真面目になればどうか」
「真面目だよ。全部、真面目なんだから」
いじいじと髭を指でこねくり回している。よほど戸惑っているのだろう。
「君の得意な占星術かタロットでもやって、どうにかうまく逃げればいいじゃないか。あるいは博愛と割り切る? 君ならなんとでもうまくやり抜けるだろう」
妻を娶ったことのないランには、こういう場合のいいアイデアなどどこにもなかった。
「それから、もうひとつ問題が起きた。あそこで地面にへたり込んでいる女の子がいるだろう? あの子も建物からこちらに来たんだ」
ナツはホテル前に植えられた樹木を指していた。
「彼女のことは知っているよ。もともと司令部から派遣されていた子だ。パーツの装飾を担当していた。まさか彼女とも恋人じゃないだろうな」
ランはじろりと睨みつけた。
「まさか。そんなことじゃなく、あの子が、建物の中に鍵を置いてきてしまったと言って、困り果てている」
「鍵?」
「大事な鍵らしいんだ。しかし、どうせ、もう建物は絵画とオブジェになってしまって戻れないし、その鍵を使う場所もないとは思うのだがね」
ナツは弱り果てた表情に、わずかな微笑みを浮かべた。
「オブジェの中に、その鍵はないのか? 絵画の中に描かれている、とか」
「どうかな」
ランとナツは絵画とオブジェの前に立ち、隅々までを確かめた。
「ないね」
顔を見合わせる。
ランとナツは、樹木にもたれかかって座り込んでいる女の子に近付いていった。
「ナツから鍵のことを聞いたよ。リュックの中は調べたのか」
ランはしゃがみこんで彼女の顔を見た。もともとの色白がもっと蒼ざめて見える。唇も血色が失われ、かなり困惑していることがひと目でわかった。
「調べました。でも、ありません」
「最後に見たのは?」
「階段を上がる前です。先に上がっていった人が下りてきた様子はなかったから、ひとたび上がったら、もう建物には戻れないな、と思っていました。実際、司令部から派遣される時に、そんなことをほのめかされていました。今回はいつもと違う出奔になると」
「誰から?」
「上部からです」
小柄だからといって、女の子のことは十代前半だと思っていたが、こうして話してみると、もっと大人なのだと気付いた。
「階段を上がる前に、どんな風に鍵を見たの?」
「リュックにきちんと入っているかどうか、確かめようと思って、底に入れてあるのを取り出して確認しました。それだけです」
「確認し、それで?」
「また、リュックに仕舞いました。私の記憶が間違っていなければ、ですけれど」
下唇を噛んで、眉尻を下げる。
「自信ないの?」
「いいえ。記憶としてそうだとの自信はあります。でも、もしもあの時すでに、建物全体がこちら側の磁場に入り込んでいて、充満する粒子の状態が、こちら側の次元規則に準じていたのだとしたら、私の記憶と事実の間にズレが生じても不思議ではありません」
「つまり?」
「リュックから取り出した時に、どこかに失われてしまった」
少女は泣きそうになっている。
「ちなみに、それ、何に使う鍵?」
ナツが立ったままで言う。段々とめんどくさいやつめと思い始めているのがありありと分かる顔つきだ。
「飛行です」
「飛行機?」
「まあ、そうとも言うでしょうか」
「そうとも言うって、――」
ナツはランの顔を見た。ナツは指で自身の頭を押さえている。つまり、この女の子は意思疎通の難しい相手なのではないかと言いたいのだろう。
――失礼なやつめ。
「もしも、あなたの言う通り、鍵がこちらの次元規則に準じて失われたのだとしたら――」
ランはナツに主導権を握らせると、彼女の気分を害するに違いないと考え、慌てて自身が手綱を握った。
「疑っているの?」
少女は蒼ざめたままで、強く睨む。
「いいえ。私も何度か次元間移動したことはありますから、物理規則の変化による常識の破れについてはある程度理解しています。最後まで聞いてください」
意識して滑舌よく話すと、少女は黙ってうなずいた。
「多くの場合、鍵はこの星に落ちていることになります。この星の次元規則に準じて失われたものが、かつての場所に落ちているとは思えません。事実、探そうとしても、あの建物はもう二次元の絵画になってしまったわけですから。絵の中に鍵らしい図などなかったのでしょう?」
「そうです。でも、オブジェは?」
少女は目にうっすらと涙を浮かべつつも、強い語調で言った。それほど大切な鍵だったのか。
「オブジェは、ひょっとしたら建物が絵画になる直前の三次元タイプの残像が焼き付けられたものかもしれないし、それ以外の4次元的なものがディセンションしたものかもしれない。まだ断言はできないが、あの中に鍵があったとして、もう、小さくなって使えないと思いますよ」
「あのオブジェ、解体してもいいかしら」
「それはどうかな。少なくとも、X線を当てて確認することぐらいはできるでしょう。司令長官に頼んでみますよ」
ランが言うと、少女の顔にはわずかにではあるが、希望の色が広がった。
「名前は、なんだったか」
ランはひとりひとりの名前を憶えていない。
「リオです」
「リオさん、よろしく。ご存知と思いますが、僕はラン。そして相棒のナツだ」
三人は握手をし合った。
ランは司令長官から指示された通り、ナツとその家族、鍵を失くしたと訴えたリオ、そして共に移動してきたパーツ製作員たちを引き連れてホテルのロビーへと向かった。
「大きなホテルだなあ」
ナツは青空に向かってそびえ立つ建物を仰いだ。
「周辺は殺風景だったが、ホテルは立派だな」
ランも想定外の展開に驚かされた。
これまでの接続ポイントでは民宿風のロッジか、カプセルホテル程度のものばかりだった。それなのに、今回と言えば、巨大なラグジュアリーホテルさながらの建前を堂々と披露している。
「噴水と彫刻まであるぞ」
噴水のある池の周囲には花壇があり、薔薇や芍薬、ヒイラギなどが植えられていた。
玄関先には制服を着た数人の番人が背筋を伸ばして立ち、ランが真っ先に到着すると恭しく敬礼をした。ランとしてはこういった場合にどうすればいいかをよく知らなくて戸惑い、とりあえず軽くお辞儀をしてやり過ごした。
「早くこのオブジェの解析をしてほしい」
リオは絵画とオブジェを抱えてランの横を歩き、失くした鍵のことを絶えず考えているようだった。
「今晩休む部屋に、ここにいる全員が入ることができたら、すぐにでもX線検査を頼んでみよう。リオにはホテルで待っている家族や、離れたくない人はいる?」
ランにしてみると、中身は大人でも見た目は小柄な少女でしかないリオがたった一人で歩いているのが不思議だった。
「いません。そもそも、私は司令塔から派遣された者だから」
「そういう場合は家族はいないの?」
ナツが肩をすくめる。
「いません。でも、次元移動を援助するように育てられた人々全員が家族だともいえる」
鍵を失くしたことに気付いた直後は落ち込んで感情のある様子を見せていたが、今では理性的な目をしていた。次元移動では何が起こるかわからない。だから感情を剥き出しにしないように訓練されているのだろう。
「僕は地球で育ったけれど、立場としてはリオと同じだから、わかりますよ」
ランにも個人的な家族はなかった。同じ仕事をする同志が家族のようなものだ。いや、本当の家族を知らないから、実際にはそれが家族と呼べるのかもわからない。
ロビーには司令塔から来た世話人が居て、ツアーコンダクターのように声を張り上げていた。
「おあつまりください」
赤い三角の旗を振っている。
全員が揃うと、今夜はオリエンテーションなど行わないので、それぞれに割り振られた部屋に入り、好きな時間にレストランに行って食事を取るようにと伝えている。「翌朝、改めて大広間に集合することになるが、その詳細は各部屋にあるネット機器に送られるはずなので確認しておくように」
その後、集まった人は順番に身分証と顔などを確認され、決められた部屋へと入っていった。
「これなら、アレと鉢合わせる心配はなさそうだ。たぶん、だけど」
ナツがランの横に忍び寄ってひそやかに言い、小指を立てる。
「知らないよ」
ランはつくづく呆れてしまった。「それについては関わり合いたくない。とはいえ、問題が起きない方がいいのは確かだ」
ナツが家族と共に、割り当てられた部屋に向かってしまうと、ランとリオが最後に残された。
「派遣されてきたリオもこちらの人々と同じように、ホテルの部屋に入るのかな」
「そのようですね」
リオはまだ絵画とオブジェをひしと抱えている。
「僕も一人だから、よかったら、夕食の時、レストランには一緒に行きましょうか」
ランは鍵についてもう少し聞いてみたいこともあった。
リオは頷き、
「この絵とオブジェも持って出ます。それから、鍵の写真もリュックの中から探して、お見せします」
ランの要望を察知しているらしかった。
たった一人で使うにも関わらず、ランの部屋は異様に広かった。バスルーム以外に、寝室、応接室、キッチン付きリビングの三つも部屋が用意されている。
「こんなに広くても使わないなあ」
リビングに荷物を置き、ふかふかし過ぎているソファに身を投げ出した。天井からはシャンデリアが垂れ下がっていた。
「なんだこれは」
豪華すぎて居心地が悪いほどだ。
リビングの横には広いテラスもあり、そこにもテーブルとチェアが一組ある。空は夕暮れとも朝焼けともとれる不思議な虹色に染まっている。地球を出奔してきたはずなのだが、この中継ポイントとしての星は地球にそっくりだった。
ランがテラスに向かう重い窓を開けると、涼やかな風が部屋に入り込み、ふわりと潮の香りがした。
「海もあるのか」
何もかも地球と似ている。
――いったいここはどこなのだろう。
ここで行う任務については、この後指示されることになっている。
今回より以前に行われた船での移動では、意識体と個体の間にある配線の混乱状態を解く仕事がほとんどだった。
ランたちの間では地球のもっとも最小限の個体のことを、人間ではなく投影体と呼び、複数の個体間における混乱状態を放置すると問題が起きる。
いや、ほとんどが混乱状態だ。混線といってもいい。
本人の業績や能力とはそれほど関係のない意識からの投影を受けて、必要のないものまで抱えて四苦八苦している。不要な罪悪感、羞恥、怒り、嫉妬。
それだけれはない。成り済ましの個体と、本来の中身を持っている本体を入れ替えるための暴力、ある存在を消すために、わざと意識を混線させて自死に追いやるといった凶悪なものもある。
だから、事実に即した接続のみを残し、互いに地上の距離が接近しているがゆえに混同してしまっている線を丁寧に剥がしていくのがランの主な仕事だった。植え付けられてしまった誤りである過去の消去についても取り扱う。
それ以外には、異次元からの侵入で持ち去られてしまった鉱物や種子、生物の卵などを調査し、追跡し、奪還することもある。
「今回は、何だろうなあ」
徐々に暮れていく空を眺めて、これから始まる仕事についての想像を巡らした。肚からふつふつとエネルギーが沸き起こるのを感じる。ランは仕事が嫌いではない。むしろ愛していると言っていい。
部屋の電話が鳴った。
「リオです」
「僕だよ。ラン。部屋の居心地はどうですか」
リオの部屋はちょうど二階下だった。おそらく、広さも部屋数も同じだろう。彼女も、他のパーツ製作員とは違う扱いになっているのだろう。
「広すぎますね。豪華すぎるし」
ランと同じ感想を持ったらしい。
「そろそろレストランに行きますか」
「それですが、司令長官から連絡が入り、私の部屋でラン隊長を読んでルームサービスを取ろうとの話が」
やはりリオは特別なのだ。
「僕はそれでもいいですが、リオさんはそれでもいいのでしょうか」
女性の部屋に押し掛けるのは気が引ける。ランは自分の部屋でもいいと考えていた。
「私の部屋で構いません。ラン隊長の部屋よりも、突然やってくる訪問者の可能性がありませんから。司令長官もそう考えていらっしゃるのではないかと」
またしても内心を読まれたようだ。ナツがしばしの間でも家族と離れたがって、ウィスキーを片手に突然現れるのは充分に予測できる。ナツを外す必要はないが、司令長官の提案ならば仕方がない。
「後でそちらに行きます」
「もうすぐにでも来て頂いて構いませんから。お待ちしています」
そう言うと、リオは電話を切った。
ランがリオの部屋を訪れた時、すでに司令長官がソファに座っていた。
「ラン、今回の出奔成功おめでとう」
司令長官自ら立ち上がって握手を求めてきた。
ランは少し戸惑いながらも、笑顔で握手を受け止めた。
「君なら大丈夫だと信じてはいたが、我々としても初めてのことだったので心配したよ」
「長官、初めてとは、どういうことでしょうか」
「建物ごと次元移動し、中に居る人全員をこちらに運び込むことだ。これまでの次元間移動とは全く違う」
司令長官は目を輝かせてランを見つめた。
「パーツ製作員の家族もこちらに居るそうですね」
「そうだよ。そういうことになっている」
ややバツの悪そうな表情をした。
「そういうことになっている、とは――」
「実際にはそうではないということだ。それについてはおいおい説明する。それより、乾杯しよう。もう食事も届いている」
テーブルにはワインクーラーに入ったワイン、オードブル、チキンのグリル、サラダ、スープなど所狭しと並べられている。
リオがワインの栓を抜き、グラスに注ぎ始めた。
「しかし、そういうことになっているって――」
ランはさきほどの司令長官の言葉が気になっていた。
「まずは問題については何も考えずに、乾杯しよう。どう考えても、君の成し遂げた功績は大きいのだから」
長官はご機嫌だった。
「私の鍵のことも、後にします」
リオは恥ずかしそうに微笑む。「本当なら、今すぐにでもオブジェをX線に通して確認したいのだけど」耳打ちする。
「グリルは私が切り分けよう」
司令長官自らがナイフを持ったので、
「長官、それはさすがに――」
ランが代ろうとしたが、
「いいんだ、今はとにかく客のままでいなさい。それが私からの命令だ。長官命令には何があっても従わなければいけない。そうだったな」
司令長官は決して譲ろうとはしなかった。
乾杯を済ませた後は、それぞれがオードブルを皿に取り分けながら、打ち解けていく。ランにとって司令長官は以前からずっと上司ではあったが、こんなに近くで食事を共にしたことはなかった。リオとも、あの絵画へと変化してしまった建物の中に居た頃、わずかに言葉を交わしたことはあったが、食事を共にすることはなかった。
「まずは、リオの鍵の件からだ」
数ある問題の中で真っ先に選ばれた。
「鍵についてはリオから聞いているだろうが、ランには改めて説明しておくと、彼女にはその鍵を使って次元間飛行してもらっている。円盤のこともあるし、そうでない場合もある。もっと言えば、鍵さえあれば、なんでもがその次元間飛行のツールとなり得る」
司令長官は自身で切り分けたチキンを口に放り込んだ。
「では、建物にあるあの船体に使う鍵と同じでしょうか」
「まあ、似たようなものだ」
肉を噛み切りながら言う。「でもあの鍵は、あの船専用だ」
ランはうなずいた。
「その鍵はどうした。船体室の箱の中に置いて来ただろうな」
司令長官はランを睨みつつワイングラスを口に運ぶ。
「あ、はい。それは、もちろん。長官からの命令ですから」
ランは静かな笑顔を見せた。
「本当か?」
ワイングラスを片手に、長官がランに顔を近付ける。
「もちろんです」
もっと上等の笑顔を作ろうと頬を丸くした。
「嘘なんだろう?」
「いいえ」
ランは首を横に振る。
しかし、おそらく見抜かれているのだろう。
実のところ、鍵はランの鞄の底に入っていた。長老のキムを含めた五人が階段を上り終え、残りの人を一人ずつ部屋に招き入れる直前に箱から取り出し鞄に入れた。もしも何かあった場合にはすぐにでも船体を動かす必要があるだろうと考えたのだ。ランが司令長官の命令に逆らったのは、これが初めてのことだった。
「ならばいい。ランが嘘をつくことはないだろうから。で、リオの鍵がどんな形をしていたのか、写真を見せてくれるのだったね」
今度はリオの方に体を向けた。
リオは自身のパソコンを立ち上げ、鍵の写真が保存されているファイルを探し始めた。
「あらゆる角度から撮影して保存してあります」
忙しくキーボードを叩いている。「おかしいわ。ファイルもない」
「どういうことだ」
司令長官が手に持っていたワイングラスをテーブルに置き、リオのパソコン前に立った。ランも従う。
「写真を整理しているフォルダーはあるけど、鍵の写真のファイルはない」
どこかに紛れ込んでいないか、隅々まで探し始めた。
「印刷していないのか」
「それは自宅に置いたままになっています。今回の任務には持ち込まなかったから」
「ならば仕方がない」
司令長官は再びテーブルに着き、ワインを飲み始めた。
「司令長官もご存知ないのですか」
「私は鍵担当じゃないのでね」
そんな担当があったなんて知らなかった。
「どんな形なのか、だいたいでいいので絵に描いてくれる?」
ランは鞄の中からノートを一冊取り出し、ペンと共にリオに渡した。ひょっとして、密かに持ち出した船体の鍵と同じなのではないか。
リオはうなずき、絵を描き始めた。
鍵は六つの角がある星型で、植物とフェニックスの飾りが施してあるらしい。
「フェニックスの中央にコバルトブルーの宝石が施されている」
その部分をペンで丸く塗り潰した。
絵を見て、ランはほっとした。
――僕の持っている鍵とは全く違っている。
「これをどうやれば、次元間飛行できるの」
ランのものと異なっているどころか、鍵にさえ見えなかった。
「この六角形を乗り物の上に置いた後、蓋になっている青いところを開けて、中にある小さなボタンをペンシルの先で押すのよ」
「押した後は?」
「すぐに剥がしてポケットに仕舞う」
次元間飛行するなどという危険な行為のわりに、なんとも簡単過ぎる方法に思えた。
「お気楽すぎる鍵だと思ったでしょう」
リオはランを睨んだ。
「まあ、そうだけど」
「実際、そうなの。失くしても設計があれば復元できるからといって、取り扱いが杜撰になりがちなのよ。だけど、私はそんな杜撰な扱いはしない。しないはずだったのに――」
唇をかみしめる。
「君が落としたとは思えない。だって、パソコン内のファイルにもないのだから、何者かが侵入してわざと盗んだか、あるいは、なにか次元間移動中のシステム上の誤作動で起きた不可抗力だよ」
慰めたわけではなかった。実際、ファイルの写真が失われているのだとしたら、そうとしか思えない。
「よし、ああだこうだと思案しても仕方がない。さっさと食事を済ませて、私の部屋に行こう。オブジェのX線調査ができる。リオはそれをいち早くやってほしそうだからね」
司令長官は皿に残っていたチキンにフォークを突き刺し、勢いよく食べ始めた。「食べながら、今回の出奔の経緯について説明しておこう。急ぐこともないが、食べながらとしよう。遠慮せず、食べながら聞いてくれ」
ランとリオもテーブルに戻り、料理を食べ始めた。
「まず、大事な事を話すと、ここは地球だ」
「地球?」
ランはパンを喉に詰めそうになった。「地球から出てきたのではないのでしょうか」
「それはそうだ。地球0から出て地球21に到達したのだ」
司令長官はオードブルのカナッペをひとつ口に入れた。
「知らなかったの?」
リオはランをちらりと見ながらスープ皿にスプーンを差し込んでいる。
「それは、知りませんでした。いつもは、地球と地球外の往来でしたから」
「今まで、ランが地球外だと思っていたものも、実は別の地球だったんだよ」
司令長官がにやりとする。
「はあ」
つい、間の抜けた声を出してしまう。
「実は地球は0から21まである。タロットの大アルカナみたいなものだ。知ってるか、タロット」
「いえ、ナツが詳しいようですが、僕は全く」
あんなものは遊びだと思ってきた。
「タロットみたいなものだと言っただけだよ。数が同じなだけ。詳しい図は後で私の部屋で見せることにするが、とにかく今回は、地球0から地球21 と次元移動した」
「そのたくさんある地球番号ごとに次元が異なるのですか」
「その通り。地球0は0次元だっただろう?」
「0次元? きちんと三次元、四次元、あったと思いますが」
「その辺りの定義に関しては論争するつもりはない。とにかく、これまで主に住んで居た地球は0次元だった。閉鎖的な点みたいなものだった。一般人は他の宇宙との往来はほぼ不可能だっただろう? 計算上可能、とか、ファンタジーとして可能、とか、そういう感じだったはず」
ワインの酔いが回り始めたのか、司令長官は饒舌だった。
「仰る通りです、長官」
ランは否定しなかった。一般の人にとって、地球外の星との往来は、計算上可能でも時間が掛かり過ぎるとして、人間には不可能と思われていた。
「しかし、0から1に移動することができることは、君たちなら知っている。それように訓練されているからな」
空になった長官のグラスにリオがワインを注いでいる。
「僕は地球外に出ていると思っていました。でも、それは別の地球であり、地球の外に出たわけではなかったのですね」
ランが言うと、司令長官とリオが大きくうなずいた。
「わかっている範囲だが、さっきも言った通り、地球は0次元から21次元まである。そしてここは21次元だ。初めて観測されたことだが、研究者に問い合わせたところ、0次元で立体に見えていたものは2次元に見える。建物は絵画になってしまっただろう?」
司令長官はリオが部屋に持ち込み、壁に立て掛けている絵画を指した。
「では、あれは建物、そのものですか」
「そう言ってもいいだろう」
「建物を描いたもの、ではなくて?」
「研究者たちの言う事には、ここでは絵画のように見えてしまっているだけだ。あれは事実として、君たちが存在していた建物だ。今ではもう中に誰もいないが。ラン隊長の手腕で全員をこちらに押し出してくれた。実のところ、私達の間では、数人はきっと行きたくないと駄々をこねて残るだろうと考えていた。つまり、結果から言えることだが、そうすると、あの絵画の中に閉じ込められてしまったはずなのだ。ところが、君の”一人ずつ船体室に呼び、一人ずつ階段を上らせる”という素晴らしいアイデアで、恐怖心を感じることなく全員をこちらに連れてくることができたのだ」
「お褒め頂き光栄です。では、あのオブジェはなんでしょうか」
ランは絵画の横に置いてあるオブジェを指した。
「あれは、建物に附属しているもの、だ」
「附属? 僕たちが作業をしていた建物の横には公衆トイレがありました。それのことでしょうか?」
ランは質問したが、附属していると言うのなら、尋ねるまでもなく、オブジェは近くにあった公衆トイレだと思っていた。
「違うね」
司令長官はにやりとする。「もしも、具体的な公衆トイレの建物が共に次元移動したのであれば、それだって絵画になっているはずだ。二次元の平面的な」
「そう言えば、そうですね。じゃあ、あれは――」
「特定の物体ではない。とある、箱だ」
「箱?」
オブジェは屋根付きの家に見える。
「その箱はあらゆる場所にあり、あのような家の形をしている。そういう記号的な形のものだ」
「長官、なぞなぞですか」
ランは早く答えが聞きたかった。
「なぞなぞみたいなものだな」
腹を揺らしながら笑う。「まあ、もう少し、自分で考えてみたまえ。私だって明確に知っているわけではないのだから」
「今いる地球21次元の意味もまだよくわかりませんが――」
ランが首を傾げていると、
「あの、そろそろ長官の部屋に移動して、オブジェをX線に掛けてみませんか。私の鍵がこの中に閉じ込められているのかもしれないと思うと、居ても立っても居られません」
しばらく黙っていたリオは痺れを切らして申し出た。
「そう言えばそうだった。次元の説明は後日に譲るとして、この後はオブジェを探索することにしよう」
長官もランも、グラスに残ったワインを飲み干し、立ち上がった。リオはすでにオブジェを抱えて玄関先に立ち、二人を待っていた。
司令長官の部屋はランの部屋と同じ階の角にある。二面に硝子窓があり、カーテンを開け放つと外に居るかのように思えた。
司令長官はランをソファに座らせると、リオには冷蔵庫から三人分の飲み物を取り出すようにと言った。
「さて、透過するための道具だが、地球0次元で見たものとはかなり異なっているだろう」
長官はそう言いながら、シャワーヘッドに似たものを持ち出した。「これだよ。この線をパソコンにつなぐだけ」
「それをどうするのです?」
「このヘッドでオブジェをスキャンすれば、内部までが映し出される。まあ、ファイバースコープみたいなものだ。持ち運び簡単な使用でね。他にも無線のものもあるが、一般人には使わせないことになっている。なぜかわかるだろう? そう、盗撮に使う輩が続出するからだ」
得意気にそこら中をスキャンする仕草をしている。
「長官、さっそく、オブジェをスキャンしてみましょう」
ランの言葉に、司令長官は大きくうなずいた。
司令長官はリオからオブジェを受け取った。
オブジェは白い屋根の平屋で、窓や出入口らしきデザインが施されているものの、内部を肉眼で覗く方法はない。
「肉眼で中の状態を見るためには壊すしかないが、次元間移動によって形態が変化した物質を意図的に壊すことは非常に危険だ。この21次元地球上では単なるダウン-ディメンション化した美術作品のように見えるが、侮って気軽に破壊すると、0次元地球でこれに接続している概念に紐付いている個別の物体が破壊されてしまうこともある。もちろん、この目前のオブジェを解体すること自体に危険性がないとも言えない」
慎重にテーブルの上に置いた。
「スキャンなら大丈夫でしょうか」
「まずは危険性がないかどうかを確かめるモードで全体に光を当てる。これがその切替装置だ」
長官に差し出されたシャワー型X線機のグリップ上にあるモード変更レバーを、ランとリオは確認する。
「絵画へとダウン-ディメンション化して見える建物は、まだあの場所にあるのでしょうか」
ランは残してきた建物のことが気になっていた。
「もちろんそう。あの建物は経年変化で朽ちるまであの場所にある、いや、たぶんだ。ないかもしれない。後で高次元遠隔望遠鏡で確認するように指示しておくよ」
長官が言った。
「では、この表象的オブジェが示しているものは、あの建物にとって一体なんだったのか。近くにあった公衆トイレはこれではないそうですし」
ランはオブジェが結局何を意味するのかがわからなければ、リオの鍵がその中にあるかどうかを調べる意味もわからないと思い始めていた。
「それはそうだな。実を言うと、建物がダウン・ディメンション化して絵画になるだろうとは予想していたが、それにオブジェが着いてくることは想定外だった。短い時間だったが、中央司令部と意見を交わしたところ、おそらく百葉箱だろうとの話になった」
「百葉箱?」
「次元移動用施設にはかつて百葉箱を使って管理していたようなことを、別の方法で行っているのでね」
「なんでしょう、それは」
「あまり大っぴらにしていないが、波動観測システムを導入している」
「大っぴらにしていない理由があるのでしょうか」
ランはこれまでに波動観測システムについては聞いたことがなく、少なからず不快感を覚えた。
「気を悪くしないでくれ。0次元内にあるほとんどの建築物にはこのシステムが導入されている。事故的に、野放図に次元移動が起きたら困るから監視しているのだ。もちろん事件の場合もあるしね」
「形質としては百葉箱みたいな物体はないのでしょうね。ダウン・ディメンション化した時に立体のオブジェとなり視覚化されたのでだから」
ランが言うと、長官は頷いた。
「あの波動観測システムが、まるで百葉箱みたいな形になるのには、私自身想定していなかった。もちろん、まだ、これが波動観測システムを表象するものだと決まったわけではないのだが。他の何か、かもしれない」
「いずれにしても、そのオブジェの中にリオの鍵があるとは思えません」
ランはきちんとした物体だったはずの鍵が、概念としてのオブジェの中にあるとは考えられなかった。
「そういえば、そうね」
リオも残念そうだ。
「まだそうと決まったわけではないよ。やってみれば、なにかがわかるかもしれない」
司令長官はそう言って、パソコンにX線機のコードを挿入し、まずはオブジェをスキャンしても安全かどうかを確認し始めた。
パソコン画面上の青いランプが点滅する。
「大丈夫そうだ。それでは、内部を透過してみよう」
透過モードに切り替え、屋根の辺りからゆっくりとX線機を当てていく。
「真っ暗だ。何もない」
屋根から壁、底からと順にスキャンしたが、何も映らなかった。
「これはある種の異常事態だ」
司令長官は蒼ざめ、表情は引きつっている。
「どういうことですか」
「物体をスキャンした場合に、何も映らないなんてことは、ない」
「ということは、ひょっとして――」
リオは青ざめていた。
「ひょっとして?」
ランはリオの目を見る。リオは怯えたように目を動かす。
「ブラックホール、じゃないですか。私の鍵も、そのブラックホールに吸い込まれたのではないかしら」
「それは、確かに!」
司令官は声を張り上げた。そっとオブジェをテーブルに戻す。
「もしもそうだとすると、たぶん、それはまずい、ですね」
「たぶんではなく、本当にまずい。万が一、これが破壊された時には、何が起きるかわからないからな。だが、次元移動の副産物として、ブラックホールがダウン・ディメンションして視覚化されたのは、大きな功績ともいえる。次元移動の時、ブラックホールが生じていることがわかったのだから」
思いも寄らない結果に、三人はしばらく黙り込んだ。
「ブラックホールが一体どういったものなのか、実のところ、この21次元地球でも明確にはなっていない」
司令長官がぽつりと言う。
「この次元まで来てもわからないのであれば、仕方がないですね」
ランはオブジェをじっと見た。「もちろん、まだ、これがブラックホールだと決まったわけではありませんが」
「長官、それよりも、お伺いしたいことがあります」
リオは神妙な顔つきをした。「私達はどうして絵画になってしまわなかったのでしょう」
「確かに、そうだな」
ランも同意した。三次元立体の建物が絵画になったのだとしたら、肉体も絵画になってしまっても仕方がないだろう。
「あの階段を通ったから」
長官は二人の目を交互に見た。「建物自体は階段を通ったりしない。じゃあ、どうして、我々が全員こちら側に上ってきた後、建物は目の前で消え失せ、絵画になったのか。気になるだろう?」
二人は同時にうなずく。
「絵画はあの建物を知っている人々にとって、記憶の抽象化されたものだ。はっきりと記憶したものではなくても、潜在意識の中にちらりとでも残る全てだ。21次元までくれば、そういった脳内記憶は絵画イメージになる。建物に附属し、なんらかの機能を果たしていたものはこちらにひとつも持ち込まれていないはずだ。もしも持ち込まれていた場合、その機能が物質化する可能性は考えられなくもないが、誰かが何かを持ち出したなどという報告はないしね」
司令長官の言葉に、ランはドキッとした。船体室に保管されていた箱から鍵を抜き取ったのだが、もちろん、建物の中には監視カメラが装着されていることぐらい知っている。だから、わからないように、船体の最終確認をするふりをして、素早く抜き取ったのだが、見られていたかもしれない。あるいは、その行為がこのオブジェを創出してしまったのか。
「そうですね」
ランは葛藤しながらも、何食わぬ顔を装って同意するふりをした。持ち出した鍵はまだリュックの中にあるはずだ。リオが自身の鍵を失くしてしまったと訴えた時、さりげなく自分の鞄の中を調べたら、確実にランの持ち出した船体の鍵はあった。
「X線チェックの結果から考えると、今のところ、やはりブラックホールと考えるのが正しいだろう。その中に、リオの鍵が投げ込まれてしまったのだとしたら、もう戻ってはこないだろう。ブラックホールには出口があるのではないかとの仮説もあるが、実証されてはいない」
「私、どうすれば?」
リオは泣き出しそうだった。
「早急に新しいものを作らせよう。第一、この21次元に渡ってきた人全員に、個別に作って渡す予定なのだから、そのタイミングで新調すればよい」
司令長官が言うと、リオは少し晴れやかな顔つきになった。
「ひとまず、このオブジェは私が預かっておこう。絵画はリオの部屋に置いたままになっているが、ひとまず預かっておいてくれ。後程、どちらも中央司令部の検査室へと持ち込み、精密検査を行う事にしよう」
そう言って、会合は終わった。翌朝、広間で全体会議があり、そこで、今後の任務についての話があるらしい。
ランは部屋に戻り、さっそく、リュックの中に入れた鍵を確認した。鍵は鉄製で長さが三十センチほど、T字型の持ち手がある。先には簡単な突起物もあるが、形が問題というよりは船体の電気系統と反応してエンジンが掛かる仕組みになっている。形状はシンプルで、相手が船体でなければ、どうにもならないだろう。
「置いてくればよかったな」
最後に階段に上る前に、箱に仕舞っておけばよかった。その時はすっかり忘れていて、再び建物に戻ってきた時に箱に入れ直すつもりだった。
ランが何気なく、その鍵をたった今座っているソファに置いたその時だった。
「うわっ、と」
ソファが激しく揺れて、ランはソファごと天井に向かって浮かび上がった。
「なんだっ」
ランはソファにしがみつく。
ソファはガタガタと揺れ、天井からぶら下がっているシャンデリアを壊した。
「何が起きたんだ」
見ると、鍵はソファに突き刺さっている。
なるほど、このソファが船体様を帯びたのか。
運が良いのか悪いのか、ランはソファにランの荷物を全て載せていた。それらが落ちないようにしがみつく。
どうすればいいかと迷う暇もなく、あっという間にホテルのガラス窓を突き破って、ソファごと外に飛び出した。
強い風が吹き、身体が流されそうになる、ランは必死でしがみついた。
「なんだこりゃ」
一瞬気を失い、目が覚めた後、ランは暗闇の中に居た。
「ここはどこだ」
手探りで床を這い、扉らしきものにゴツンと当たり、扉が開いた。
外はほのかな明かりがあった。ふかふかしたカーペットのような手触りのする床。
「あっ、これは!」
ずるずると這い出した。どうやら、もとのホテルの部屋らしい。しかし、ランの部屋ではない。角部屋――。
「あっ」
ここは司令長官の部屋じゃないか? 服が脱ぎ散らかされ、どうやら長官はシャワー室に入っているらしい。
そっと明かりを点けると、テーブル上に置かれたオブジェが目に入り。見ると、わずかに扉が壊れていた。その傍に、ランの持ち物が放り出されている。
「ひょっとして、僕はここから飛び出したのか?」
ランはオブジェの扉に触れた。それから手のひらで自身の身体を確認した。身体はどうもなっていない。散らかった荷物を急いで取り上げ、長官がシャワー室から出てくる前に、そっと部屋を出た。
心臓の鼓動が止まらない。
驚いた。これが21次元なのか?
部屋に戻ると、ソファに鍵が突き刺さったままになっていた。窓は何事もなかったかのように壊れてはいなかった。
「どうやら、船体の鍵とオブジェはリンクしている」
ランはひとり呟いた。「暗闇だったが、ブラックホールではない」
ランはソファに刺さった鍵の持ち手にそっと触れた。
――これ、抜いても大丈夫だろうか。
不安ではあるが、抜かないわけにはいかない。誰かが部屋に来た場合、大いに目立ってしまう。
ランは思い切って引き抜いた。
何も起こらない。
急いで鍵をリュックの奥に仕舞い込んだ。直観的に、リュックの中はこの21次元地球からの影響を受けにくいだろうと考えたのだ。鍵の上にタオルを入れ、滅多なことでは手に触れないようにした。
念のため、しばらくはリュックをじっと見ていたが、何も起こらないのでようやく安心し、寝室の金庫にしまうと、なんとか気を落ち着かせようとシャワーを浴びた。
熱い湯を浴びていると、司令長官が0次元といった地球からあの建物の階段を上ってくる時の緊迫した思いや、その後の奇想天外な出来事が嘘のようだった。自身の身体は、いつも通りの身体だ。それにしても、あれからまだ数時間しか経っていないだなんて。
ホテルの部屋着に着替え、寝室のベッドに横たわった。そこでやっと疲労感に襲われ、一瞬で深い眠りに落ちた。
目が覚めると、ナツからスマホに連絡が入っていた。
《これからそっちに行ってもいいか。》
見ると、二時間前。気付かず眠っていた。
《すまない。今、目が覚めた。》
もう眠っているだろうと思いつつ、返信した。
《俺も今起きた。》
素早い返信だ。
《今なら来ても大丈夫だよ。食べ物も飲み物もないが。》
《持って行くよ。ではすぐに行きます。》
数分後、ナツは寝癖の着いた頭のままでやって来た。ミネラルウォーターと菓子パンをいくつか持っている。
「これしかないが、昨日、夕飯のビュッフェで貰っておいた」
得意気に髭を指でつまむ。「それはそうとだ」
ナツはソファに座った。
「早朝に寝癖のまま登場してでも話すほど重要なことなのか」
来てもいいと言ったのはラン自身だったが、そんなにすぐに来るとは考えていなかった。
「昨日、奇妙なものを見てね」
「どこで?」
「レストランのビュッフェで食べ物を皿に取っていた時に、窓硝子の向こうを眺めると、眩しく光るものが空に飛んでいたんだよ」
「UFOか? 我々が船体で飛んでいた時も眩しく光っていたが」
ランはナツと何度も船体で宇宙空間に飛び出した日々を思い出した。あの船も、この世界では絵画の中に閉じ込められてしまった。
「そんな感じじゃなかった。なんだかフカフカした、ちょうど、このソファみたいなものだった」
ナツの言葉にぎくりとする。
「ソ、ソファが飛ぶなんてことはないだろう」
「そうなんだ。だけど、なんだか、そんな感じのものが流れ星の速さで飛んで――」
ナツは眉を寄せて不安そうな表情を見せた。
「それで?」
「ホテルの上階へと向かった」
ランは言葉を失った。恐らく、ナツが見たのはランが誤ってソファに鍵を差し入れて飛び、司令長官の部屋に突入し、あのオブジェから出てきた状況の一部だろう。
「そういう現象もあるだろう。でも、事故の報告はない」
知らないふりをした。
「そうかな」
ナツはランの顔を眺めまわした。
「何か言いたいことがあるのか」
「あるよ。あるから来た」
「なんだ」
「昨日、レストランに来なかったけど、どうしたんだ」
「疲れてしまってね」
ナツはひとまずソファの背にもたれ、ほお、と言う。
「そうか、ならいいんだ。空で光っていたソファ用のものの動きが、なんだか俺たちが乗っていた船体の動きに似ていたからさ」
ナツは身体中の緊張感を緩めていた。「それとは話は変わるが――」
「何?」
「俺のこれ」
小指を立てて見せた。
「それか。どこかに居たの?」
「居たんだよ。驚いたことに、とあるパーツ製作員の妻だった」
「マジか?」
問題を起こさなければいいが。「話したの?」
「いや、目が合うと、向こうから目を逸らした。経験上、別れましょうの合図だ」
「は、経験豊富なナツさんなので、まるで職人の直観ですね」
思いっきり嫌味を言ってやった。
「褒めてくれてありがとう」
ナツは顔を歪めて笑う。
「どういたしまして」
二人はかつてのように、声を上げて笑った。
「結局、リオの鍵は見つかったのか」
ナツはソファの上で胡坐をかいた。
「いや。オブジェにX線を当ててみたが、オブジェは暗闇で何も映らなかった。司令長官の部屋でね」
この話は伝えてもいいだろう。
「ブラックホールか」
「勘がいいね。司令長官もそう言ってた。まだ断定はできないけど。つまり、リオの鍵はブラックホールの中に消え去ったのではないかと」
「どうしてそんなことが? もしも次元間移動の為に通常よりも強めの電磁波を当てた場合、ブラックホールが生まれるとでもいうのか」
「そうかもね」
「でも、じゃあ、どうして、リオの鍵だけ消え去ったの。他のものだって、吸い込まれてもよかっただろうに」
「鋭いね」
ランもそれは気になっていた。「だから、僕はブラックホールじゃないと思っているよ」
「ひょっとしたら、鍵を回収するためのものなんじゃないか。リオはこちら側から派遣させていた装飾担当員で、他の人とは違う。リオが持っていた鍵とやらはもう不要になったので、そのブラックホールが吸い取ってしまう」
ナツは顎髭を親指と人差し指でなんどもつまんだ。
「リオは混乱していたけどね」
「意図的ではないにしろ、次元間移動を通過した鍵が誤作動する可能性もないとは言えないから、システムとして回収するのかもしれない」
ナツはいろいろと推理を始めた。
「そういうシステムなのだったら、最初からそう教えてやればいいのに。リオはあんなに困っていたのに」
「彼女、どうして、そんなに困っていたのかな」
今度はリオを疑い始めた。ナツは女性問題に関しては迂闊に何人とも交際をしたりするが、他のことに関しては徹底的に可能性を洗い出して検討するところがある。
「鍵を使って飛行して、行きたいところでもあったのでは?」
「新しい鍵を作って貰えばいいじゃないか」
「司令長官は早急に中央司令部に依頼して、リオの新しい鍵を作ると言ってたよ」
「じゃあ、問題解決?」
「どうかな」
ランはリオの蒼ざめた表情を思い出していた。「新しい鍵を作ればリオはまた飛行できる。ただ、もしも、古い鍵を拾った人間が居たとしたら、困ったことになる、と思ったのではないか」
「実際、困ったことになるのかね」
「わからない」
リオの鍵についてああでもないこうでもないとの推理は、すっかり太陽が昇って外が明るくなるまで続いた。
「さてと、一旦戻るよ。妻と子供たちがナツとうさんがいないと寂しがるからね」
自慢げに言う。
「それがいいよ。おとうさま」
慇懃に嫌味を言ってやった。
「それにしても、船体の鍵はどうなったかな。あれもブラックホールに消えたのかな」
ナツはやはり侮れない。
「さあね」
ランはごまかした。
ナツはランに顔を近付け
「なにか嘘ついてないだろうな」
顔を隅から隅まで眺め尽くす。「嘘ついてるのでは?」
「さあね」
ランは精一杯の作り笑いをした。
ナツが帰って行くと、ランは窓を開けてテラスに出た。
テラスからは地平線が見える。その手前には樹木が固まって生えている森、屋根のある一軒家が密集している高台、農作物の植えられている畑、牛が長閑に草を食んでいる牧場など、用途によってはっきりと区画されている土地が拡がっていた。
ランはこんなにはっきりと区画されている土地を見たことはなかったが、そうは言っても、いつも通りの地球だった。
――これのどこが21次元?
司令長官の言葉を思い出していた。
――今までが0次元だったなんて。
癪に障る気がする。それでも、目の前で建物が崩れて絵画になり、司令長官が言うところの「概念」がオブジェ化したのを目の当たりにしたからには、やはりこれまで通りの法則とは異なる場所に居ることは否定できなかった。
―-昨夜、ここを飛んだのだし。
リュックの中に仕舞い込んでいる船体の鍵を思い出していた。こちら側に持ち込んでも大した問題になるとは考えていなかったのに、大袈裟なことになりそうだ。
――それにしても、どうして昨日、僕はあのオブジェの中に入ったのだろう。
不慮の事故ながらソファに鍵が刺さり、ランの身体ごと時空を飛んで、その後、ランの身体だけがオブジェの中に吸い込まれたのだ。
――理屈がわからない。
たまたま司令長官の部屋の中であり、しかも、たまたま司令長官がシャワーをしていたから見つからなかったものの、もしもリオの部屋にオブジェが置いたままになっていたとしたら、行先はリオの部屋になっていたのだろうか。
――ということは、ひょっとして、あのオブジェはこの肉体の帰る場所?
ランはこの旅が始まったばかりのことを思い出していた。
いかなる旅においても、その旅の目的は帰還することだがスローガンだった。故郷へ帰ること。これまで、船体で飛び出した時にも、一度も失敗したことはない。いつでも、最後はもといた地球に帰ることができた。ランとナツは船体で飛び出して任務を果たし、あのオブジェが意味する「ところ」へと帰っていった。
今、その帰る場所がオブジェと化した。つまり、もう帰ることはできない。あの船体の鍵を使っても、帰る場所はブラックホールさながらの暗闇なのだ。今まで、帰る場所とは土地や建物や、町のことだと思っていたが、そういった物質的なものではなかったのだ。もっと概念的なもの。
――あの場所に流れていた時間。その連続。
懐かしく思える。だけど、それほど、0地球に未練はない。次元間移動要員として育ったランは、0地球に両親も兄弟姉妹もいない。町に存在していた店や公園、歩道に対しての思い入れが全くないわけではなかったが、町は執着する余裕も与えないほど速やかに変更されていた。常に壊され、常に新しく作られている。
――我々の移動の後、あの町はどうなったのだろう。
司令長官の言うことが本当なのだとしたら、今はこの21次元地球にまで到達してしまい、0次元地球への帰り道などわからない。遠いとか近いといった距離に関する壁でさえない。
今回、もとの部屋に残してきたものはひとつもない。ほとんどは処分し、必要なものだけをリュックに入れて出発したのだった。
――勘がよかったな。
新しい旅立ちになると聞いてはいたが、まさか帰還さえできなくなるとは思わなかった。それでも、何か、最後の日、さっぱりとした気持ちで部屋を出たのを思い出す。今も、特に帰還したい思いもない。
ランはテラスから部屋に入り、硝子戸を閉めた。
そろそろ朝食の時間だ。
その後、司令長官が新しい任務について話すために、全員が広間に集められるだろう。
顔を洗い、髭を剃り、任務用の制服に着替えた。
大広間には、ラン、ナツ、リオ、パーツ製作員たち、そしてその家族たちが集められた。
司令長官と、そのアシスタントらしき女性が壇上に立ち、それぞれがマイクで、ここへ来るまでのねぎらいの言葉と、これからも協力し合って任務を成し遂げるようにとの念押しをした。
「これからの任務について話す前に、ひとつ残念なことをお伝えしなくてはならない」
司令長官は壇上で深々と頭を下げた。「もうわかっていると思うが、これまで作って来たパーツのことだ」
そこまで言うと、聴衆がざわめいた。
「静かに。そう、おそらくお察しだと思うが、パーツはこちらに持ち込めなかった」
壇上に置いてあったらしい絵画を高く掲げた。アシスタントに指示をして、プロジェクターでスクリーンに絵画を映し出した。
「まさか、建物がこうなるとは思っていなかったね」
光を放つポインターでスクリーンを指す。
「作っていたパーツで何を作ろうとしていたか、まだ知らされていなかったと思うが、今、ここで話そう」
聴衆をゆっくりと見渡した。「実は、あれで、新しい星を作ろうとしていた」
再び、聴衆がざわめいた。
「どうか、お静かに。どうしてパーツが失われたか、装飾担当として派遣されていたリオから話がある」
さきほどまでランの横に立っていたリオは、気付くと壇の傍まで行き、アシスタントからマイクを受け取ろうとしているところだった。
「鍵のことかな」
ナツがランの耳元で囁く。
「そうかもね」
ランは小さくうなずいた。
「パーツ製作員のみなさん、ここへ来るまで、共にパーツ作りをしてくださってどうもありがとうございました。私はこれまで、みなさんから完成品をお預かりし、その完成品に装飾をほどこす作業を担当していました。みなさまには装飾をほどこした後のものをまだお見せしたことがありません」
リオは涙ぐんでいるのか、言葉を詰まらせた。「こちらに来て、組み立てる段階でお見せしようと考えていたのです。そして、装飾ができたものは、中央司令部から預かっていた保管箱の中に入れていました。全ての作業が終わった後、蓋を閉めて、次元間移動のタイミングで同期を取る布でくるんで、最終段階に入る前にダウンサイズ化しました。そして鍵を掛けました」
リオは両手で持ち上げることができる大きさの箱を大きく掲げた。
さらに、アシスタントがスクリーンに映し出す。
「あるじゃないか」
ナツがランに耳打ちする。
「たぶん、鍵が開けられなくなったんじゃないかな」
ランが言うと、
「なるほどね」
ナツは腕組みをしてうなずいた。
「ところが、その鍵が見当たらない。この箱に掛けた鍵を、次元間移動の途中で無くししまったのです」
深々と頭を下げた。
そこで司令長官が前に出て、
「あの絵画の中に、鍵は閉じ込められてしまった。あるいは、誰かが盗んだり拾ったりしていないかな。誰か、リオさんの鍵を知らないか」
聴衆に向かって言った。「鍵は、こういうものだ」
アシスタントに指示をして、写真をスクリーンに映し出した。星型に鳥と植物のレリーフがあり、中央に青い石が嵌め込んである。
「ほお、写真、見つかったのか」
ランはつぶやく。
「なにか知ってるの?」
「昨日、司令長官と三人で探した時には、写真もパソコン上から消えていたはずだったが」
「長官が中央司令部から取り寄せたのだろう。あそこにはなんだって、ファイリングしてあるからね」
ナツはいかがわしいものだと言わんばかりに舌なめずりをした。
「もしも、この鍵の行方を知っているものが居たら、私のところに持って来てくれ」
司令長官は聴衆を見渡した。「そして、この鍵が無くても、どうにかしてあの箱を解錠し、リサイズして、パーツを組み立て、新しい星の製作に入りたいと考えてはいる。もしもそれが不可能だとわかった場合、申し訳ないが、改めて作り直すことになる。
「司令長官!」
会場に居た一人が手を挙げた。アシスタントからマイクを受け取り、話始めた。
「新しい星とはどういう意味でしょう。ここが21次元地球だと仰いましたが、新しい星は地球ではないのでしょうか」
「21次元地球は最終地球という意味だ。すなわち、新しい星は地球ではない」
「火星ですか?」
「火星でも木星でも金星でもない。全く新しい星だ。地球人が住めるように作る。そして、そこから時空間を飛行して火星とか木星にも行けるようにする。他の星では、そこを歩くことができるスーツを着てね」
「中継のための星、ということですか」
「そうだ。各星との距離を縮めるための操作を行うプラットフォームだ。実は、すでにひとつ似たような星はある。青実星と呼ばれていて、そこでしか成ることのない青い実があるため、そのような名前で呼ばれている。そして、それは我々の祖先が中継ポイント用に製作した星であることがわかっている。しかし、近頃、古くなってきたのか、そこから地球に派遣された者が行方不明になったり、長く従順に地球探索をしていた者が反乱を起こしたりするようになった。だから、新しく、中継ポイントとなる星を作らなければならなくなったのだ」
「よくわかりました。でも、作ってきた部品を入れた箱を開けることができなくなってしまったと、そういうことですね」
質問者は納得したようだ。
「その通り。ついでに言ってしまうと、我々の任務は、その中継ポイント用の新星を製作することだ。パーツを入れた箱を開けることができないか、もうしばらく待って欲しい。この辺りは21次元とは言え、湖や森があり、地球のもっとも美しい場所が踏襲されている。ご家族と共に、散策などして楽しみながら待っていてほしい。食べ物や衣類は要望書を出せば、全てその通りに支給される。もちろん、レストランも使える。何か問題や質問があれば、ホテルのフロントを通して、私の方に伝達するように。次に私が招集をかけるまで、君たちは自由だ。ただし、このホテルの中で、ということになるが、プール付きのジムもあるし、ゲームセンター、図書室など、なんでもある。ヘアサロン、マッサージルーム、なんでもだ。どうか、旅の疲れを癒し、次の指示があるまで、楽しんで過ごすように。私からは以上だ」
司令長官は言い終わると、マイクをアシスタントに渡し、前方の扉から出て行ってしまった。
(『星のクラフト』第二章 了)
《あらすじ》
建物から階段を上って外に出た後、建物は崩壊し、絵画とオブジェだけが残された。ランとナツは呆然とする。
また、建物から上がって来た人々以外の家族や友人も、ホテルに集められて、みんなを待っていると司令長官は言う。ナツは再び愛人が妻のマヤと接触するのではないかと怯えた。
鳥籠を持って上がってきた男の鳥が激しく鳴き、ランは大丈夫かと声を掛けた。男が言う事には、この鳴き方は機嫌がいい方だとか。
ナツが樹下で鍵を失くしたと泣いている女の子リオを発見する。ランも駆け寄り話を聞くと、次元移動の途中で無くしたのだとか。リオはその鍵を使って飛行するのだと言う。諦めた方がいいとランは言ったが、オブジェの中に混入していないかどうか、後で調べたいと言うのだった。
パーツ製作員共々、豪華なホテルに宿泊することになり、各部屋に割り振られた後、ランはリオの部屋で司令長官と三人で会うことになった。成功を祝うと共に、リオの鍵を探すために司令長官の部屋にあるスキャンシステムでオブジェにX線を当ててみることに。
鍵はやはりない。ないどころか、オブジェは真っ暗で、中に何もなかった。これはブラックホールではないかと三人は仮説を立てた。
実は、ランは建物の船体室から船体の鍵を持ち出していた。何かあった時に船で外に出ようと考えてリュックに入れ、そのままになっている。司令長官からは持ち出すなと言われていたので、持ち出していないと嘘をついていた。
自室に戻ったランが、これをどうしようかと鍵を眺めていると、鍵がソファに突き刺さり、ソファごとランはガラスを突き破って外に飛び出してしまった。飛行し、気付くと暗闇の中に。なんとかして這い出ると、それは司令長官の部屋だった。シャワー中で見つからず助かる。そして、その暗闇とはオブジェの中だったことに気付く。ダウンサイジングし、這い出ると元に戻ったのだ。
驚いて再び自室に戻り、この鍵はリオのものと同じように、ラン自身を飛行させるためのものではないかと考える。これまで、船体は甲冑だったのだと。
翌朝早く、ナツが部屋に来て、昨晩UFOを見たと言う。ソファ型で光っていたと。おそらく、ランが飛行した瞬間を見たのだろう。しかし、ランは内緒にしておいた。リオの鍵を探すためにオブジェを透過してみたこと、そしてブラックホールかもしれないとの仮説を立てたことを伝えた。
その日、司令長官の命令で全員が広間に集められ、製作したパーツはダウンサイジングした箱の中に入れて鍵を掛けたが、鍵が見つからないことが伝えられた。リオの鍵だ。どうにかしてリ・サイジングし、箱を開けることができるまで待つようにとのお達しだった。
《登場人物》
ラン
ナツ
鳥籠を持った男
リオ
司令長官
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