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連載小説 星のクラフト 5章 #5

 私はとある星にある大きな施設の中で生まれた。そこには同じ年齢の子供ばかりを集められた建物があり、そこで食事などの生活と、学校生活が同時に行われた。
 誰にも特定される親がいなかった。この点はローモンドと同じだ。でもローモンドには専用の乳母が居て生活の世話をしてくれたそうだが、私にはそんな人はいない。自分たちよりも少し年長の子供の指導で食事を用意したり洗濯をしたりした。
 それに、湖と城を往来するといったのどかな時間もほとんどなかった。初めから「地球という星を探索するために生まれてきた」と明示され、その為の教育だけが与えられた。
 他の人がどう感じていたのかはわからないが、私にとっては辛い生活ではなかった。世話をしてくれる上級生は優しかったし、地球を探索するための勉強が好きだったからかもしれない。生まれたその星に比べて、地球にはありとあらゆる歴史があり、地理がある。豊かな自然や海、見た事のない動物たちが生きているのだという。その時はそれが事実かどうかわからなかったが、それを学ぶこと自体が楽しかった。実際、地球探索要員に選抜されたら、そこへ向かうことができる。考えようによっては、これから向かう旅先について学んでいるようなものだから、楽しくないわけがない。
 もちろん、地球の地理や歴史や自然について学ぶ以外に、数学と、それから記号情報学を学んだ。
 記号情報学では、地球は宇宙の情報系統の末端にあるとされていた。なので、高次元で設定されたものが、地球に至ると複雑化したり、固形的物質化したりすると考えれていた。なので、それらの現象と、高次元の設定の相関について、その確率を計算するのだった。簡単に言えばそのような学問だったが、文学、天文学、易占い、考古学など、あらゆる分野に関して、網羅的に学ばなくてはいけない。
 私は記号情報学は苦手だったが、ほとんどの人が苦手どころか理解不能で脱落したので、最終的に地球探索要員として選べばれることになった。
 来る日も来る日も、勉強だけの毎日だった。それが私の子供時代だ。今から思えば、音楽もない、絵画鑑賞もない。そういった、地球で芸術と呼ばれているものに関しても、記号情報学としての現象的相関について考察するための材料でしかなかったのだ。

つづく。

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