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連載小説 星のクラフト 2章 #5
ランがリオの部屋を訪れた時、すでに司令長官がソファに座っていた。
「ラン、今回の出奔成功おめでとう」
司令長官自ら立ち上がって握手を求めてきた。
ランは少し戸惑いながらも、笑顔で握手を受け止めた。
「君なら大丈夫だと信じてはいたが、我々としても初めてのことだったので心配したよ」
「長官、初めてとは、どういうことでしょうか」
「建物ごと次元移動し、中に居る人全員をこちらに運び込むことだ。これまでとは全く違う」
司令長官は目を輝かせてランを見つめた。
「パーツ製作員の家族もこちらに居るそうですね」
「そうだよ。そういうことになっている」
ややバツの悪そうな表情をした。
「そういうことになっている、とは――」
「実際にはそうではないということだ。それについてはおいおい説明する。それより、乾杯しよう。もう食事も届いている」
テーブルにはワインクーラーに入ったワイン、オードブル、チキンのグリル、サラダ、スープなど所狭しと並べられている。
リオがワインの栓を抜き、グラスに注ぎ始めた。
「しかし、そういうことになっているって――」
ランはさきほどの司令長官の言葉が気になっていた。
「まずは問題については何も考えずに、乾杯しよう。どう考えても、君の成し遂げた功績は大きいのだから」
長官はご機嫌だった。
「私の鍵のことも、後にします」
リオは恥ずかしそうに微笑む。「本当なら、今すぐにでもオブジェをX線に通して確認したいのだけど」耳打ちする。
「グリルは私が切り分けよう」
司令長官自らがナイフを持ったので、
「長官、それはさすがに――」
ランが代ろうとしたが、
「いいんだ、今はとにかく客のままでいなさい。それが私からの命令だ。長官命令には何があっても従わなければいけない。そうだったな」
司令長官は決して譲ろうとはしなかった。
乾杯を済ませた後は、それぞれがオードブルを皿に取り分けながら、打ち解けていく。ランにとって司令長官は以前からずっと上司ではあったが、こんなに近くで食事を共にしたことはなかった。リオとも、あの絵画へと変化してしまった建物の中に居た頃、わずかに言葉を交わしたことはあったが、食事を共にすることはなかった。
「まずは、リオの鍵の件からだ」
数ある問題の中で真っ先に選ばれた。
「鍵についてはリオから聞いているだろうが、ランには改めて説明しておくと、彼女にはその鍵を使って次元間飛行してもらっている。円盤のこともあるし、そうでない場合もある。もっと言えば、鍵さえあれば、なんでもがその次元間飛行のツールとなり得る」
司令長官は自身で切り分けたチキンを口に放り込んだ。
「では、建物にあるあの船体に使う鍵と同じでしょうか」
「まあ、似たようなものだ」
肉を噛み切りながら言う。「でもあの鍵は、あの船専用だ」
ランはうなずいた。
「その鍵はどうした。船体室の箱の中に置いて来ただろうな」
司令長官はランを睨みつつワイングラスを口に運ぶ。
「あ、はい。それは、もちろん」
ランは静かな笑顔を見せた。
「本当か?」
ワイングラスを片手に、長官がランに顔を近付ける。
「もちろんです」
もっと上等の笑顔を作ろうと頬を丸くした。
「嘘なんだろう?」
「いいえ」
ランは首を横に振る。
しかし、おそらく見抜かれているのだろう。
実のところ、鍵はランの鞄の底に入っていた。長老のキムを含めた五人が階段を上り終え、残りの人を一人ずつ部屋に招き入れる直前に箱から取り出し鞄に入れた。もしも何かあった場合にはすぐにでも船体を動かす必要があるだろうと考えたのだ。ランが司令長官の命令に逆らったのは、これが初めてのことだった。
「ならばいい。ランが嘘をつくことはないだろうから。で、リオの鍵がどんな形をしていたのか、写真を見せてくれるのだったね」
今度はリオの方に体を向けた。
つづく。
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