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連載小説 星のクラフト 2章 #7

「わかっている範囲だが、さっきも言った通り、地球は0次元から21次元まである。そしてここは21次元だ。0次元で立体に見えていたものは2次元に見える。建物は絵画になってしまっただろう?」
 司令長官はリオが部屋に持ち込み、壁に立て掛けている絵画を指した。
「あれは建物、そのものですか」
「その通り」
「建物を描いたもの、ではなくて?」
「ここでは絵画のように見えてしまっているだけだ。あれは事実として、君たちが存在していた建物だ。今ではもう、誰もいないが。ラン隊長の手腕で全員をこちらに押し出してくれた。実のところ、行きたくない、ここに残ると言って残り、あの絵画の中に閉じ込められてしまう人が数人は出るだろうと考えていた。ところが、一人ずつ船体室に呼び、一人ずつ階段を上らせるというアイデアで、恐怖心を感じることなくこちらに連れてくることができたのだ」
「お褒め頂き、光栄です。では、あのオブジェはなんでしょうか」
 ランは絵画の横に置いてあるオブジェを指した。
「あれは、建物に附属しているもの、だ」
「附属? 僕たちが作業をしていた建物の横には公衆トイレがありました。それのことでしょうか?」
 ランは質問したが、尋ねるまでもなく、オブジェは近くにあった公衆トイレだと思っていた。
「違うね」
 司令長官はにやりとする。「もしも、具体的な公衆トイレの建物が共に次元移動したのであれば、それだって絵画になっているはずだ。二次元の平面的な」
「そう言えば、そうですね。じゃあ、あれは――」
「特定の物体ではない。とある、箱だ」
「箱?」
 オブジェは屋根付きの家に見える。
「その箱はあらゆる場所にあり、あのような家の形をしている。そういう記号的な形のものだ」
「長官、なぞなぞですか」
 ランは早く答えが聞きたかった。
「なぞなぞみたいなものだな」
 腹を揺らしながら笑う。「まあ、もう少し、自分で考えてみたまえ」
「今いる地球21次元の意味もまだよくわかりませんが――」
 ランが首を傾げていると、
「あの、そろそろ長官の部屋に移動して、オブジェをX線に掛けてみませんか。私の鍵がこの中に閉じ込められているのかもしれないと思うと、居ても立っても居られません」
 しばらく黙っていたリオは痺れを切らして申し出た。
「そう言えばそうだった。次元の説明は後日に譲るとして、この後はオブジェを探索することにしよう」
 長官もランも、グラスに残ったワインを飲み干し、立ち上がった。リオはすでにオブジェを抱えて玄関先に立ち、二人を待っていた。

 司令長官の部屋はランの部屋と同じ階の角にある。二面に硝子窓があり、カーテンを開け放つと外に居るかのように思えた。
 司令長官はランをソファに座らせると、リオには飲み物を運ばせるようにと言った。
「さて、透過するための道具だが、地球0次元で見たものとはかなり異なっているだろう」
 長官はそう言いながら、シャワーヘッドに似たものを持ち出した。「これだよ。この線をパソコンにつなぐだけ」
「それをどうするのです?」
「このヘッドでオブジェをスキャンすれば、内部までが映し出される。まあ、ファイバースコープみたいなものだ。持ち運び簡単な使用でね。他にも無線のものもあるが、一般人には使わせないことになっている。なぜかわかるだろう? そう、盗撮に使う輩が続出するからだ」
 得意気にそこら中をスキャンする仕草をしている。
「長官、さっそく、オブジェをスキャンしてみましょう」
 ランの言葉に、司令長官は大きくうなずいた。

つづく。

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