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解読 ボウヤ書店の使命 ㉕-17

 長編小説『路地裏の花屋』読み直し。
 続きから。

【中西のサロン潜入に関するメモ ①】
四月七日 蓮二朗より連絡。明日の午後五時に例のアロマセラピストのサロンに行くようにと指示あり。「花屋の職員である木花蓮二朗が腰痛のため治療を望んでいる」として予約したらしい。なぜかこの件を扱う時には僕は木花蓮二朗となる。まあよいか。腰よりはどちらかといえば歩きすぎて足が疲れているのだけれど――。二回目以降は自分で予約してくださいってさ。成功した時に頂く額が大きいのでありますから文句は言えないですね、はい。
  
【中西のサロン潜入に関するメモ ⓶】
 四月八日 アロマセラピーサロンはフラミンゴビル五階。施術用のベッドが一台、受付用のソファがひとつ。ベッドはシングルサイズよりも小さく、こげ茶色のタオルケットで覆われている。部屋に入るとラベンダーの香りが充満している。こんなベッドの下に油絵を入れたままにしておくかな。見たところ部屋には一枚も絵はなし。ハーブ農園の写真が入ったカレンダーのみ。セラピストは髪を真っ赤に染めて化粧も濃いけれど、なかなか頭がいい。次回から花屋の店員以外に数学を教えているとでも言うかな。そんなことでは恋愛って気分にはならないけれど、あのタイプなら知的会話に持っていき親しくなるか。でも、絵を見せてもらうのは無理だろうな。髪の色から判断すると軽そうに見えるけど、そういう女じゃなさそう。
  
【中西のサロン潜入に関するメモ ⓷】
 四月九日 アロマセラピストの父親の店は銀座の外れ、フクロウビルの一階。小さいけれど一点ものらしき家具や雑貨の取り扱い。

【中西のサロン潜入に関するメモ ④】
 四月二十日 父親は休日には麻雀屋に入り浸り。わたくしのお得意科目なのでこっちにも潜入してみるとしますか。大学時代によくお勉強しましたねー。なんと、わたしのかつてのお知り合いのお店でもありました。どういう縁? 一応、雀荘のジンには「しばらくは木花蓮二朗という名前だからよろしく」と耳打ちしておこう。
  
【中西のサロン潜入に関するメモ ⑤】
 四月三十日 父親もまじめか。御召し物は古いが高級品ばかり。たまに、こういう根っからの坊ちゃん一族というのがいるなあ。一生涯困ることのない資産を持っていながら、生活は地味。オヤジ曰く「それがホントの金持ちなり。金の力で面倒なことをやらずに済むのが彼らの特権であるから、贅沢などという面倒なことを好むのは、やっと小金を手にした俄か成金なり」だろうかね。そういや雀荘のジンに頼んで赤い發を取り寄せてもらいました。明日受け取り。恋愛もどきの 小道具に使います。うまくいくかな~。


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