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『決戦は日曜日』の感想書く

あらすじ

とある地方都市。谷村勉はこの地に強い地盤を持ち当選を続ける衆議院議員・川島昌平の私設秘書。秘書として経験も積み中堅となり、仕事に特別熱い思いはないが暮らしていくには満足な仕事と思っていた。
ところがある日、川島が病に倒れてしまう。そんなタイミングで衆議院が解散。後継候補として白羽の矢が立ったのは、川島の娘・有美。谷村は有美の補佐役として業務にあたることになったが、自由奔放、世間知らず、だけど謎の熱意だけはある有美に振り回される日々…。
でもまあ、父・川島の地盤は盤石。よほどのことがない限り当選は確実…だったのだが、政界に蔓延る古くからの慣習に納得できない有美はある行動を起こす――それは選挙に落ちること!
前代未聞の選挙戦の行方は?(公式サイトより)
https://kessen-movie.com/

はじめに

めちゃめちゃ面白かった。この映画が今年自分の観た最初の映画なのだが(公開初日の1月7日に観た)、新年1発目から面白い作品を観ることができたなと新年早々少し嬉しくなったものだ。

この作品は政治、特に選挙というものを取り扱った作品である。残念ながら自分はそちらの方面に関してはサッパリなので、あくまでここでは素人目線で話をしていきたいと思う。

決戦は何曜日?

全然関係ない話なのだが、このタイトルを聞いて初めに思い浮かべたのはドリカムの『決戦は金曜日』という楽曲だった。とはいえ何かが具体的にリンクしているということもなく、ただタイトルの参考にしたという程度だろう。
この記事を書くにあたって少し調べたのだがこの『決戦は金曜日』という楽曲、自分が生まれるより前にリリースされたものだった。時代を感じる。

ポリティカルコメディ

公式サイトによればこの映画のジャンルは「ポリティカルコメディ」となるらしい。政治を扱ったコメディ、なるほど確かにその通りだ。この映画を表すのにこれ以上相応しい言葉も無いだろう。

ポリティカルを抜きにしても、純粋にコメディとして非常にレベルが高い作品であった。それは映像作り、脚本の双方に当てはまる。
具体例を挙げだすとキリが無いのでやめておくが、純粋なギャグやブラックジョーク等が常に入り交じるカオスで楽しい作品だったと言える。視聴2回目に際しても、終始ニヤニヤしっぱなしだったことからもそれが伝わるだろうか。(ジョークの例で言うと、序盤の『出産しない女性は怠慢』という発言に賛同するアカウントの多くが国旗アイコンだった、というのが特に印象深い)

主演の2人

この作品の評価が高い要因に大きく貢献しているのがやはり主演の2人だろう。破天荒な新人候補である川島有美を演じた宮沢りえ、それを支える秘書谷村勉を演じた窪田正孝。この2人がまさにドハマリだった。

まず川島有美の方だが、破天荒でワガママで常識が無くてプライドが高くてキレやすいバカという、なんとも属性過多なキャラとなっている。(しかも未成年との飲酒や、ホストにハマった過去すらある)
こういう役を下手に演じようとすると悪い意味で滑ってしまい、その登場人物が作品の中で浮いてしまう可能性がある。だが今作では全くそんなことはなく、寧ろ「いやこういう人ホントにいそう!」となるくらいに説得力のある人物となっていた。

一方の谷村勉。こちらはどこか達観したところのある、逆に掴みどころのない人物だった。そんな彼は、有美とその他有力者達の間で板挟みとなってしまう、言わば苦労人の役回りだった。そんな苦労をしつつも飄々としており、それでいてなんとなく圧のある役回りが非常に上手く表現されていたと思う。

勿論主演の2人もそうなのだが、その他事務所の人々も皆役にハマっていたと思う。(個人的に仮面ライダービルドの万丈龍我役で知った赤楚衛二をまた見ることができて嬉しかった)

選挙とは

さて本題。今作品は選挙というある程度身近な物がリアリティをもって描かれているため、やはり考えさせられることが多い。

あらすじにもある通り、この作品は最終的に「地盤がガチガチに固まっている中で落選を本気で目指しに行く」という方向に向かう。結果的に落選には失敗してしまうのだが、その要因として一番大きいものが「投票率の低さ」であった。「投票率が低いから、組織票で持っていけちゃう」という発言が作中でもあったのだが、恐らく実際それはそうなのだろう。実際2019年の衆議院議員総選挙の投票率は48.80%だったそうだ。
(投票率5割として、30人の集団であれば実際に投票するのが15人しかいないので、8人の意志が全体の意志になってしまう、というのはよく聞く例え話だ)

劇中で有美は「政治家に向いている」と言われていたが、それがどういう事を意味するのか自分には分からない。
ただ、いち有権者目線として有美という人物は、積極的に投票したいという人物では無かった。(というか2年前に「未成年と飲酒たのしー☆」とか言ってる時点で色々とアウトだろう)
そんな人物があそこまでアッサリと当選してしまうのには、やはり恐怖を覚える部分があった。そもそも落選せんと奮闘した谷村本人が「こうなることは分かってましたけどね」と言ってのけている。結局最初から最後まで出来レースだったのだろう。
選挙というものが大きなドロドロとした意志の元に動かされており、候補者本人程度がどう足掻いても結果なんて変わりやしない、そういうやるせなさを味わった。

この場で日本の投票率の低さがどうのと議論する気は一切無い。ただ作中の状況を打破できるものがあるとしたら、それは大きなドロドロとした意志に対抗できるだけの別の大きな意志だろう。つまりそれこそ多くの人の投票だったのではないだろうか。

コメディであるがゆえに

この作品は選挙という物についてある程度深く切り込んでいる。
ただそれ以前に、コメディとして非常にレベルの高いものに仕上がっているのも確かだ。だからこそこの作品は、扱うテーマに反して非常にとっつきやすい物となっていると思う。選挙や政治に殆ど興味が無かったとしても、この作品は十分に楽しむことが出来る。

こういう作品を足がかりに選挙のことを考える機会に触れ、普段投票に行かないような人が「今回の選挙は投票してみるかー」と少しでも思うようになれば素敵だなと思った。

変えるのは自分か世界か

今回の候補者であった川島有美は「こんな政治は間違っている! おかしい!」というスタンスであった。

確かに作中で描かれていたのは余りにもドロドロとした世界であった。候補者が有権者の家を訪問するのは当たり前。当然のように建設会社のお偉いさんに袖の下は渡しているし、なんなら自分達の不祥事を塗りつぶしてくれる北朝鮮のミサイル発射に大喜びする有様だった。

そんな世界を一般人目線の川島有美が「おかしい、変えるべきだ」と思うのは当然だろうし、観ている我々の多くも同じように思うだろう。

一方で作中のとある人物は「政治がこうやって動いてるんだから、それに順応しない方がおかしい」という旨の発言をしていた。なるほどこれも立派な処世術だろう。というか寧ろこちらの方が世間、特に日本で受け入れられやすい人材ではないだろうか。

この2つのスタンス。どちらも「こんなのおかしい」と思ってはいるが、そこからのアプローチが全く異なっている。おかしい物を直すか、はたまた自分もおかしくなるか。

おそらくこの問題にはきっと、正解も間違いもないのだろう。ただ前者の進む道が険しいのは言うまでもない。ただ谷村達は最後、その道を進んで行く事を決心していた。
大きな大きな波に呑まれ打ちひしがれた直後にも関わらず、それでも歪んだ政治の世界を変えていこうと決心した二人には尊敬の念を覚える。

この物語は選挙の結果が出た直後の場面で終わりを迎える。ただ自分はそこから先の物語も非常に気になった。この川村ゆみという人なら何かをしてくれるのではないか、何かを変えてくれるのではないか。その様子を見てみたいと思った。
そんな風に思わせてくれるからこそ彼女は「政治家に向いている」のかもしれない。

幸せ

谷村の娘は私立の小学校に通っていた。それに対し川島昌平から「親は確かに将来の事も考えて私立に行かせたがる。ただそれで本当に娘は幸せなのか、親が子供を言いなりにしたいだけなのではないか」という話があった。

この問題にも答えは無いのだと思う。結局何が良かったのかなんて人生を終えるまで分からないのだし、なんなら死んでから評価される人だっている。
私立の小学校に通って、いい中学高校を経て名門大学に入り、いい職に就いて高給取りになる。
一方でそれなりの学歴を経て、それなりに暮らしていく人生もあるだろう。

ではどちらの人生が幸せなのだろうか。それは結局、本人が決める事なのだろう。
川島昌平はこう続けた。「もし娘さんが私立を辞めたいと言ったら受け入れてやれよ」と。本人が幸せなのが、親にとっての一番の幸せなのだと。

勿論何十年も長く生きている親だからこそ分かる事、言いたい事はあるだろう。それでも最後は、自分で出さなきゃならない答えもある。そんな事を改めて考えさせられた。

まとめ

改めて言っておくが、この作品はコメディである。文句無しに面白かったし(いや文句はあるけど)、笑いどころもたくさんあった。それと同時に選挙のこと、人生のこと、考えさせられる事も多くあった。

面白いだけという訳でもなく、説教臭いだけと言う訳でもなく。非常に良いバランスでこれらが両立されている作品だったと思う。

とても面白く、かつ色々な事を考えさせられる映画だった。個人的にはかなりお気に入りの作品となった。

最後にひとつ。作中で選挙が行われたのが2019年の12月だったのだが、その時テレビにて「中国で新型肺炎が確認された」と言うニュースが流れていた。なるほどそういう演出もあるのかと感心する反面、急に現実を見せつけられたような気分にもなった。谷村達も苦難の時期を迎えるのだろうか。

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