見出し画像

PCRとプラザ合意とマリオは同い年【JOCV Day294】

厚生労働省がPCRの検査技師を募っていることを先日このnoteで取り上げた。DNAの特定領域を増幅する技術の一つがPCRというもので、医学や生命科学の分野では広く使われている技術である。私は学生時代は植物の研究をしていたわけだが、植物から抽出したDNAを用いて月に1回以上はPCRを行っていた。

今や医療や生命科学研究の現場では欠かすことのできないPCRだが、どれくらい昔に開発されたのか気になったので調べてみた。

PCR法を開発したのは「キャリー・マリス(Kary B. Mullis)」というアメリカの生化学者である。シータス社というバイオテクノロジー企業の研究員時代にPCR法を開発している。この功績により、1993年にノーベル化学賞を受賞している。

In 1985, Kary Mullis invented the process known as polymerase chain reaction (PCR)... .

ノーベル財団のホームページによればキャリーは1985年にPCR法を開発したとある。このページには該当する原著論文が紹介されていなかったので少しばかり調べてみた。

1985年にScience誌に投稿されたこちらの論文がおそらく最初の報告だろう。Google Scholarによれば1万回以上の引用がされている。

Enzymatic amplification of beta-globin genomic sequences and restriction site analysis for diagnosis of sickle cell anemia
RK Saiki, S Scharf, F Faloona, KB Mullis, GT Horn, HA Erlich, N Arnheim
Science 20 Dec 1985: Vol. 230, Issue 4732, pp. 1350-1354
拙訳:鎌状赤血球貧血の診断のためのベータグロブリン遺伝子配列の酵素的増幅と制限酵素箇所の分析

これから3年後には好熱性の細菌由来の酵素を用いたPCR法を報告しており、現在行われているPCRの基礎となっている。

Primer-directed enzymatic amplification of DNA with a thermostable DNA polymerase
RK Saiki, DH Gelfand, S Stoffel, SJ Scharf, R Higuchi, GT Horn, KB Mullis, HA Erlich
Science 29 Jan 1988: Vol. 239, Issue 4839, pp. 487-491
拙訳:耐熱性のDNAポリメラーゼを用いたプライマー特異的なDNAの酵素的増幅


PCR法が最初に報告された1985年に起きていたことをWikipediaを参照して洗い出してみた。

・プラザ合意が締結される
・男女雇用機会均等法が成立する
・「スーパーマリオブラザーズ」が発売される
・日本電信電話公社がNTTに民営化される
・コーセーが「雪肌精」を発売する
・羽生善治が史上3人目の中学生プロ棋士となる

他にも多くの出来事があり読んでいるだけでも面白かったが、プラザ合意や男女雇用機会均等法など、学校の教科書に登場する出来事が1985年に起きていた。マリオとPCRは実は同い年だった。いずれも今の日本と世界に大きな影響を与えている。


PCR法を開発したキャリー・マリスは1944年に生まれ、昨年の2019年の8月に亡くなった。

74歳。死因は肺炎による心臓・呼吸器不全だったそうだ。今人類にとってまさに必要不可欠である技術を発明した功績を称え、ご冥福をお祈りする。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?