#3 麺のコシについての解説
コシ=しなやかな弾力
コシとは麺の魅力の最も重要な要素である。噛み始めはしなやかに、しかし噛み進めるほどに弾力が増す魅力的な食感である。
いわゆる「硬い麺」を「コシのある麺」と勘違いしている人もいるかもしれないが、麺のコシとは本来は、小麦のグルテンとデンプンのバランスが生み出す、しなやかな弾力の食感のことである。
このコシは専門的には「麺の外側と中心の水分吸収率の差=水分勾配」と説明される。
水分勾配の原理
小麦粉で作られた麺は、グルテン網の中にデンプンが入っている構成となっている。
この麺を高温湯で茹でると、デンプンが湯中に溶け出すと共に、デンプンが吸水されていく。そして吸水した外側のデンプンはグルテン網に捉えられたまま、内部のデンプンにも吸水が浸透していく。
この「外側は加水高く、内側が加水低い」状態が、麺にコシが出てきている状態といえる。
麺の外側はしなやかでつややかでありながら、噛むほどに麺の硬さが増していく弾力を実現している。
1.理想的なコシ麺
下記は、理想的なコシ麺の、破断応力のイメージ図である。噛み進めると応力が高くなるコシ勾配(しなやかな弾力)を示す。
2.ポクポク沖縄そば
茹ですぎると、麺の中心部分も充分加水が進み、水分勾配がない柔らかなフニャフニャなコシのない麺となる。
その一例は、沖縄そばで、麺を一旦茹でたあと油をまぶして冷ます過程をとる。このため水分勾配が解消されて、コシ勾配のないポクポク食感となっている。
3.高加水手揉み硬い麺
圧延強く踏みしめられた密度の高い麺については、麺表面のデンプンが湯中に溶け出しにくく、水分勾配が形成されづらい。
加水高めでありながら、強い圧延と充分な脱気時間を取った麺を、更に茹でる直前に強く手揉みしている場合などによくありがちなケースだ。
4.ワシワシ二郎麺
同じ圧延強めでも、低加水太麺の二郎系麺については、加水が低い分、麺表面のデンプンは吸水がされやすいため、水分勾配が形成されやすく、硬めでありながらワシワシというコシの食感を生み出している。
5.パッツン低加水細麺
九州ラーメンのような低加水細麺は、水分勾配はあまり形成されず、いわゆる「パッツン麺」という食感となる。
低加水麺は吸水性が高い。同じ低加水麺でも二郎系麺のように太麺なら時間をかけて茹でることで水分勾配を形成できるが、細麺はあっと言う間に吸水が進んでしまう。
このため低加水パッツン麺については、茹で時間が短く食べている間に吸水が進む食べ方が好まれる。
低加水パッツン麺は、口に頬張った細麺を「プチプチプチ」と噛み切る食感が「しなやかな弾力コシ」とは異なる魅力を持つ。
6.しなやか高加水細麺
最近は細麺でも加水高めの麺も増えて来ている。元祖は佐野氏の支那そばやと考えられる。
この麺は加水が高い分、圧延を強くすることで細麺形状を実現している。圧延と加水のバランスがとられている場合は、細麺であるにも関わらず、しなやかな弾力のコシが実現されており、魅力的な食感を生み出している。
7.讃岐うどんのコシ
ちなみに中華麺ではないが、讃岐うどんは、グルテンの弱めの小麦粉(中力粉など)を、かん水(アルカリ)を使わないため、グルテン網は中華麺に比べると弱いため、一般に太麺形状で、破断応力も中華麺よりは低めだが、しかし水分勾配はしっかり形成されているため、コシの食感が魅力的な麺である。
8.アルデンテスパゲッティ
またスパゲッティなど乾麺パスタについてもデュラムセモリナという非常にグルテンの強い小麦粉で作られているため、細麺形状であっても、しっかりした水分勾配のコシを実現している。
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