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山本さんは身を乗り出し、ナカガワさんの胸ぐらを掴んだ。そして、四方に振り回しながら、叫んだ。 「報告していないことがあるだろう!」 「ちょっと何するんですか、やめて下さい!」 同じ営業でも山本さんは3D広告の営業で、ナカガワさんは2D広告の営業。広告媒体やスポンサーが違うので仕事の接点はないはずである。 「一体僕が何をしたんです?僕が山本さんに報告しなかったことが今までありますか?」 山本さんは無言でナカガワさんを振り回していた。明らかに正気ではなかった。
ナカガワさんは急いで山本さんのほうへ向かい、二人は立ち話しを始めた。僕は2人のほうを向けなくて、目の前のMacを見ながら聞き耳をたてていた。 「何か報告することがないか?」 「いや、これといってないです。」 山本さんがナカガワさんに尋ねている。なにかトラブルだろうか?二人の声のトーンが小さくなった気がして、右耳に全神経を集中した。しかし、声が小さくて、何を話しているのかわからない。すると、ドカーン!ともの凄い音がした。 「これが大人の世界じゃー!!!」 山本さ
オフィスに戻ると、営業のナカガワさんがすでに出社してきた。ナカガワさんは去年入社なので、僕の1年先輩。誰が見ても人が良さそうで、いつもニコニコしている。営業にもかかわらず、頭にはひどい寝癖がついていたり、口に歯磨き粉がついていたりして、かなりのマイペースさをかもし出している。ちなみに、スーツはなぜかいつもテカテカである。彼と話したことはなかったが、席が近いこともあり、挨拶程度の会話はしたことがあった。だから、オフィスに彼を見かけてすごく嬉しかった。 こんなに早い時間に二
入社して1週間が経った。 同じ時期に入社した中途採用のイシヅカさんは5日で辞め、今週からは新人は僕一人になっていた。新人は朝一番に出社して、1階の鍵置き場で鍵を取ってから、オフィスのある12階に上がり、鍵を開けるのが日課だ。だが、この日は鍵がもうすでになかったので、「あれ、誰かもう来ているんだ。」と思って上にあがった。エレベータで12階にあがると、廊下の向こうから営業主任の山本さんがこっちに向かって歩いてきた。 山本さんは今年3年目の独身男性で、髪型はセンター分けで
1998年のはなし。つまり想い出である。 大阪にアソシという会社があった。大学を卒業した僕が新卒で入った会社で、一言でいうとブラック企業である。入社前は広告代理店と聞いていたが、実際は15人ぐらいの小さい制作会社でした。 みんなが出社してくるのは10時30分ぐらい。一応、9時から仕事なんだけど、みんな全然来ない。入社前はフレックスだと聞いていたが、とんでもない。単なる遅刻である。勿論、タイムカードによってしっかり給料から引かれている。時間にルーズな僕はその波に何度も