地割れを埋める

「震災の後の記録」III

 ところで皆さま、6トンの山砂、しかも少し湿った砂を5時間ほどで動かしたことがありますか。
 梅雨が本格的に始まる前に西原村の家の周りの地割れを埋めておかなければと、ずっと気になっていました。やってまいりました。汗と根性出し切ってきました。
 1トンはこの後に雨で締まった後に補充するために残したので、実質5トンほどですが、これはなっかなかの重労働です。ふだん主に机に向かって仕事をする者には、英語でいわゆるover the topでした。
 砂を4トン車と2トン車で持ってきてくれたお兄さんたちは、「え、一人でなさるんですか?正気ですか?」という感じで、はじめ少し加勢してくれながらこつを伝授していってくれました。巧みなスコップ使いに見惚れました。
 炎天下で一人「そりゃぁっ」とか「うぉーっ」と叫びながら砂と格闘していると、さすがに眩暈を覚えました。水は2リットル飲みました。野良猫がやってきては、ミュウミュウと応援してくれますので、「ミャオウミャー(お前も食べ物だいじょうぶか)?」などと返すと、また「ミャー(おれは何とかやってる)」などと返事をしてきます。
 4トンほどやってあらかた埋めて目鼻がついたところで、「もうさすがにだめだな。明日講義2つに会議1つできなくなる。出直そう」と思った矢先、お隣りのYさんご夫婦が「手伝いますよー」と笑顔でスコップを持って来てくださり、そうなると「あの、いま切り上げるところでした」とは言い出せないものです。
 しかし、一緒にやって頂くとぜんぜん違います。また、ふだんあんまりおしゃべりなさらないご主人が「たいへんな目に遭うたのうぅ」と繰り返し仰ってくださって、汗と涙が混じりました。ご自身の家だってうちと変わらないのに。「水を通すのも手伝うてやるけん、タケウチさん、帰ってこんね」。これは心に刺さりました。いつか必ず帰ってきたいと思いました。
 きれいに勾配をつけて砂を均(なら)し収め、雨樋を少し修繕し、Yさんご夫婦にお礼を言って、細い月を時折見遣りながらさきほど帰宅しました。心身がそれなりに健康で、仲良く助け合えれば、何だってできるのではないか。

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